
BtoB領域のマーケティングには、商談前に購買先がほぼ絞り込まれているという特徴がある。
そのため、データを駆使した商談前の接点づくりとコミュニケーションが肝要となる。
dentsu Japanは、グループで提唱する次世代マーケティングモデル「Marketing For Growth」をベースに、
BtoB企業向けに特化した「Marketing For Growth B2B」をリリース。
基盤となるデータやAI技術の活用と多くの専門人財によって、幅広い業界でBtoBマーケティングの支援を行う。
グローバルとも密に連携するdentsu JapanのBtoBマーケティング支援について、
日経クロストレンド発行人・佐藤央明が、3人のキーパーソンに聞いた。
聞き手 日経クロストレンド発行人 佐藤央明
BtoBビジネスの特徴は、複数の部署・人間が購買に関与する、複雑な購入プロセスにある。この意思決定に関与する人たちの行動やニーズを的確に捉えることが、BtoBマーケティングの出発点となる。
ここで注目されるのが、「57%」という数値だ。これは、「認知」から「関心」「検索」「比較検討」「情報提供依頼」「企画提案依頼」「交渉」「購入」に至る購買検討プロセスを100%とした場合、全体の57%にあたる「比較検討」までは顧客自身がインターネットで済ませている、という調査結果※から浮き彫りになったもの。つまり、購入者側は営業が初めて接触する前から、すでに情報を手に入れているというわけだ。※米国のシンクタンクCorporate Executive Boardが2012年に調査

営業担当者が初接触する時点で、顧客はすでに
インターネットで
情報収集・比較検討を済ませている状態
購入者がインターネットで情報を探すのであれば、その行動はデータ化できる。マーケティングオートメーション(MA)が発達してきた背景には、こうした顧客側の変化がまずあった。だが、日本のBtoB企業が本格的にこのようなデジタルマーケティングの重要性を意識し始めたのはコロナ禍以降であると、梅木俊成氏は言う。同氏は、dentsu Japan内でもいち早くこの領域に注目し、横断組織「電通 B2Bイニシアティブ」を立ち上げた、dentsu JapanのBtoBマーケティングの第一人者である。

電通 第8マーケティング局
B2Bマーケティングコンサルティング部
B2Bマーケティングコンサルタント
梅木 俊成 氏
「非対面の営業が増えたことで、デジタルを活用したコミュニケーションやデータ分析の必要性が格段に高まりました。BtoC企業では以前から取り組んでいましたが、そもそも一般消費者に触れにくく、取引先が限定的であるBtoB企業においては、マーケティングそのものがあまり重視されてきませんでした。それが、ここ数年でがらりと変わったのです」(梅木氏)
従来のBtoBビジネスは、営業担当者の勘と経験に頼るところが大きかった。こと製造業においては、製品の機能的価値で勝負するのが主流だったので、BtoCビジネスほど戦略を重視していなかったともいえる。だが、インダストリー4.0(製造業においてIT技術を取り入れ、改革すること)にあるIoTの発展を背景に、機能面だけでの差別化が難しくなってきており、BtoBビジネスにおけるマーケティング戦略の重要性が高まったのだ。
そうした時代の要請に応えて登場したのが、BtoBに特化した次世代マーケティングモデル「Marketing For Growth B2B」である。

基盤となる動脈「Data Infrastructure(データ・インフラストラクチャー)」と静脈「Marketing Consulting(マーケティングコンサルティング)」、そして4つのプロセスからなる「Marketing For Growth」の構造を軸に、“データ活用×「人」の理解”と“企業理解”を加えることで、BtoBビジネスの成長支援に特化したマーケティングモデルを構築
「マーケティングの本質は、『人』を理解すること。一方で、BtoBマーケティングにおいては、顧客の『企業理解』も重要となります。『Marketing For Growth B2B』では、インテントデータ(オンラインやオフラインにおける行動データ)やファーモグラフィックデータ(人数規模や売り上げ等の企業の属性データ)、そして企業を識別する法人番号またはD-U-N-S® Number(ダンズナンバー)をベースに、dentsu Japanが独自に保有する様々なデータを掛け合わせ、精度の高いターゲットセグメントを抽出。自社のサービスに興味関心があり、かつ、取引対象として理想的な企業及びキーマンを絞り込んだ上で、適切なアプローチを仕掛けることができます。」(梅木氏)
「Marketing For Growth B2B」で支援するのは、セールスマーケティングにおけるデマンドジェネレーション(営業案件の創出)や、MOps(マーケティングオペレーション体制の最適化)、RevOps(成果を創出するためのレベニューオペレーション体制の最適化)だけにとどまらない。中長期的な視点で顧客拡大に結びつくプロダクトマーケティングにおけるブランディング活動や、購入後の関係値を維持・拡大するリレーションシップマーケティングに力を入れるのも、特徴の1つだ。さらに国内のみならず、海外で事業展開するBtoB企業のマーケティング支援もカバーしている。dentsu Japanならではの幅広い提供価値について、それぞれの担当者に語ってもらった。
「Marketing For Growth B2B」の提供価値の1つは、顧客に高いマーケティング投資対効果(mROI)をもたらすスキームにある。だが、それは決して短期的な数字だけを狙ったものではない。目指すのは、あくまでも継続的な事業成長だからだ。dentsu Japanではこれを実現するために、強みであるデータ基盤の活用と、BtoCで培った顧客理解力を駆使して、「人の心を動かす」施策をブランド×デマンドの視点から提案していると吉井優氏は語る。

電通 第1マーケティング局
コネクションプランニング2部
マーケティングコンサルタント
吉井 優 氏
「短期的な視点のもとで、顕在化しているお客様を絞り込んで商談につなげていくデマンドジェネレーションと、中長期的な視野をもって、潜在層も含めたお客様との関係をつくっていくブランディング活動。この2つをバランスよく掛け合わせ、両輪で回していくことが重要です」(吉井氏)
今までは製品やサービスの機能・性能といった「機能的価値」が最重要視され、「情緒的価値」を醸成するブランディングは二の次となっていた。しかし、BtoBビジネスが組織購買であることを考えれば、購買決定に関わる複数の人たち、それぞれの立場に応じた価値を訴求する必要がある。
「購入側の現場の方々はその商材を高く評価しているにもかかわらず、なかなか決裁に結びつかないというケースがありました。調査していくうちに、現場では商材の細かい性能まで把握しているものの、決裁者である経営層はその会社も、ましてや商材の性能などの細かい情報は把握していないことが明らかに。そこで、経営層にもその会社を知ってもらい、さらに社会にどのような価値提供をしているのかといった情緒的価値を伝え、それに共感いただくことで購入を後押ししました。現場と経営層の両方に納得してもらうためには、相手に応じて情緒と機能の両面を使い分けるブランド×デマンド戦略が有効だと考えています」(吉井氏)
さらに、dentsu Japanでは、企業のビジネスパートナーのマーケティング活動までも支援するパートナーリレーションシップマネジメント(PRM)、そのPRMを実現するために重要なマーケティングデベロップメントファンド (MDF)といったファイナンス戦略支援や、セールスイネーブルメント(営業力の強化・最適化)支援も行っている。
「BtoBビジネスでは、製造元が直販するのではなく、様々なビジネスパートナーとの協業を経て、最終商材が別の企業の名前の下で販売されることがよくあります。最終商材の売れ行きが製造元の売り上げを大きく左右するので、このビジネスパートナーとの関係を強化したいというBtoB企業のニーズは、年々増えています。リレーションシップマネジメントにもブランド×デマンドの視点を加えることで、より統合的な支援を提供しています」(吉井氏)
BtoB企業の中には、グローバルに事業を展開しているケースも数多くある。そのため、dentsu Japanが提供するマーケティング支援は、全世界を対象としている。それができるのも、電通グループではOne dentsu体制のもと、Japan、Americas(米州)、EMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)、APAC(日本以外のアジア太平洋地域)の4事業地域で約800の企業が有機的に連携し、ビジネスを展開しているからだ。
国内外で多くの経験を積み、現在はB2Bマーケティングコンサルティング部長を務める杉内威允氏は、「今まで以上にクライアントセントリック(顧客中心)な支援をご提供するために、グローバル企業の窓口の一本化やナレッジの共有、AIによる生産性向上など、4事業地域でのシナジー効果をより高めながら、最適なソリューションを提供できる体制の構築を進めています」と説明する。

電通 第8マーケティング局
B2Bマーケティングコンサルティング部長
シニアマーケティングディレクター
杉内 威允 氏
海外市場では、BtoB領域の支援で20年以上の歴史を持つグループ傘下の企業をメインに活動していたが、2024年7月から「dentsu B2B グローバル・プラクティス」チームのもとに活動を一元化。1000人規模の専門コンサルタントが、1つのチームとして国境を越えて顧客を支援する体制を整えた。
特に米国では、B2B企業の顧客創出に欠かせないインテントデータの分析においても高い実績を持つ。人口の約30%にもあたる9000万人規模のIDデータを保有するプラットフォーム「Merkury™」を活用し、精度の高いターゲティングを実現。データ活用の観点では、「ここまでできるのか」と学ぶことが多いと杉内氏は語る。
「例えば、今回の『Marketing For Growth B2B』では、顧客や市場のインサイトを解明するMechanism Resolvingの観点から、企業が既に保有しているターゲットリストの精度向上に貢献できます。さらに、日本の企業が海外に進出する際の大きな課題の一つに、ビジネスパートナー探しがあります。これまでは企業が自前で実施されていたことも、電通グループが保有するデータを活用することで、ご支援できます。事業成長のための『顧客創出』支援には、販売パートナー創出も含まれるとの考え方です」(杉内氏)
「ターゲット分析など、戦略策定におけるAI活用も進んでいます。今後もOne dentsuの旗印のもと、マーケティング、IT、営業の壁を越えた統合的なBtoBソリューションにより、グローバルBtoBビジネスの課題解決に取り組んでまいります」(杉内氏)

米国市場においては、「Merkury™」が保有するデータをはじめ、1stパーティデータなど各種データを統合することで、より精緻なターゲティングに基づいたマーケティング支援を提供している
「米国と比べて、日本のBtoBマーケティングは10年遅れている」という声をよく聞く。これに異を唱えるのが、梅木氏だ。
「米国は国土が広大なため、時差や移動時間の問題を合理的に解決しようという発想から、MAなどのマーケティングツールを活用するセールスマーケティングが発達してきました。一方、国土の狭い日本では、どこでもすぐに飛んで行って商談ができるし、営業には血の通った人間関係も必要です。昨今の人手不足やデジタルシフトを背景に、効率的なマーケティング戦略が脚光を浴びるようになってきたのは事実ですが、日本のやり方が間違っているとは思いません。また、ジョブ型雇用(専門職)を中心とする米国と、メンバーシップ型雇用(総合職)を中心とする日本では社内における連携の考え方も異なるため、分業することが最適解ではないことも多々あります。さらに、BtoBと言ってもSaaS系サービスのような無形商材と製造業のような有形商材に大別すると、戦略や体制のあり方は大きく異なります。その業種や業態、商材の購入検討期間や購入後のサポートの有無など、ビジネス全体を理解したうえで適切な戦略を設計する必要があります」
だが、梅木氏が日本のBtoBマーケティングに課題を感じているのも事実だ。それは、「セールスマーケティングに偏重し過ぎている」という一点においてである。
「BtoBマーケティングでやるべきことは、プロダクトマーケティング、セールスマーケティング、リレーションシップマーケティングの3つ。短期的な成果に重きを置くセールスマーケティングだけではなく、ブランドに紐付いたプロダクトマーケティングで潜在層を掘り起こし、その関係を長く維持するためのリレーションシップマーケティングも、セットで回していかなければなりません」(梅木氏)
「Marketing For Growth B2B」の最大の特徴は、これらを一気通貫で提供できることにある。「我々はセールスマーケティングなど何か1つに特化しているのではなく、俯瞰的に見て『お客様の課題がこうだから、こういう解決策を提案します』という、お客様の課題を起点とした、ソリューションニュートラルな立ち位置で統合的な支援を提供しています。」(梅木氏)
これは、電通グループだからこその強みといえる。
「私たちは、長年BtoCマーケティングに携わってきた経験から、インサイトの発掘や人の心を動かすクリエイティブ開発を得意としています。また、複数の部門が関わる組織購買では、視点や立場の違いから社内の意見が食い違うこともありますが、ここで多くの関係者の間をつないできた経験を活かすことができます。形態に関わらず、ビジネスに関わるのは人に他なりません。だからこそ、人の行動や気持ちを動かしていく営みを、BtoBマーケティングでも最大限活かすことができるのです」(吉井氏)
また、この領域に関わる専門人材の豊富さも、強力な武器となる。国内電通グループ13社から成る「電通B2Bイニシアティブ」では、各社が持つBtoBノウハウを結集し、顧客の事業戦略コンサルティングからマーケティング、ブランディング、各種DXツール導入・運用とそのための組織体制支援までをシームレスに支援。「dentsu B2Bグローバル・プラクティス」チームと日々密に連携して、グローバルな活動を展開している。
「グローバル人材の多彩さには目を見張るものがあり、私自身もミーティングのたびに驚いています。この優秀なスペシャリストたちを、日本のBtoB企業のみなさまにご紹介できる日を心待ちにしています。対象がBtoBでもBtoCでも、『Marketing For Growth』の根幹は『人を理解』し、『どこの市場であっても、その市場に最適なソリューションを提供』することです。技術も事業環境も日々進化していますが、我々の取り組みを通じて過去にない、新たなものを生み出していきたいです」(杉内氏)
BtoCのみならずBtoBへも。そして日本からグローバルへ。2024年1月のローンチから、早くも新たな領域へと拡張した「Marketing For Growth」。本格的なBtoBマーケティング支援を展開することで、より多くのクライアント企業の事業グロースに貢献していくことは間違いない。

BtoB領域においても、ブランドとデマンドの両輪で回していくという発想に、BtoCで強みを発揮してきた電通らしさを感じました。売れる仕組みをつくるだけでなく、プロセスを循環し続けることで、その後の事業グロースにつなげていく「Marketing For Growth」のスキームが、日本のBtoBマーケティングをどう変えていくのか。電通グループが本気で取り組むBtoB領域の未来に注目していきたいと思います。
日経クロストレンド発行人佐藤 央明