Review

ゲーム開発の未来-Future of game creation-/エンタメ業界のCVC投資戦略 in TOKYO GAME SHOW 2024

日時
2024年9月26日(木)15:00~17:00
場所
幕張メッセ 国際会議場 301会議室
聴講者
東京ゲームショウ2024 ビジネスデイ来場者対象の無料セミナー「TGSフォーラム2024」にて開催
配信
ライブ配信、アーカイブ配信(9月26日~10月11日)/ビジネスデイ登録システム「enable」

EYストラテジー・アンド・コンサルティングが協賛したTGSフォーラム2024「ゲーム開発の未来-Future of game creation-/エンタメ業界のCVC投資戦略」は、東京ゲームショウ2024のビジネスデイ来場者を対象にした無料セミナー。
第1部では「ゲーム開発の未来」をテーマに、業界で注目されているライブサービス型ゲームへの移行における諸課題やそれらの課題の解決方向性について議論が行われた。
第2部「エンタメ業界のCVC投資戦略」ではゲーム業界における最新のVCによる投資動向の紹介に加え、国内屈指のCVCであるSony Innovation Fundの目線でエンタメ業界における投資先の選定方法などが語られた。

ライブサービスは制作と経営によるしっかりとした議論が必要

写真1:満席近くまで埋まった講演会場

写真1:満席近くまで埋まった講演会場

オープニングの基調講演を飾るのは「ゲーム開発の未来-Future of game creation-」をテーマに、アニプレックス フォワードワークスルーム 代表、ソニー・ミュージックエンタテインメント・シニアアドバイザーの橋本真司氏(写真2)。「40年前のゲーム業界とは大きく時代が変わった。これまで成功してきた仕事のやり方は通用しない、と考えて取り組まなければならない」と話す。

何が大きく変わったというのか。「パッケージ販売型のゲーム制作は販売開始すればゴールだが、ライブサービス型ゲームはリリースしてからが本番だ。ライブサービスは初期投資に加えて、リリース後の運営にも多くの費用がかかる。毎週、毎月、プレイヤーからお金を頂戴しながら、費用を回収する長い旅をすることになる」と橋本氏は話す。

写真2:株式会社アニプレックス フォワードワークスルーム 代表 株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント シニアアドバイザー 橋本 真司 氏

写真2:株式会社アニプレックス フォワードワークスルーム 代表
株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント シニアアドバイザー
橋本 真司

大学卒業後バンダイへ入社。「橋本名人」としてテレビでも活躍。1995年旧株式会社スクウェアへ入社後『ファイナルファンタジー』シリーズなどの制作に携わり、ブランドマネージャーなどを歴任。株式会社スクウェア・エニックス専務取締役、株式会社スクウェア・エニックスホールディングス理事を歴任後、現職

ライブサービス型のゲーム制作はコスト増となることから、マーケットを日本国内だけでなく、海外も視野に入れる必要が出てくる。「ゲーム開発の初期段階から、収支構造が変化していることについて、制作側と経営側がしっかりと議論して、綿密な収支計画を立てなければならない」(橋本氏)と、これまで以上の経営側の深いコミットメントの必要性を説く。

「ライブサービスに挑むのか、パッケージ型にするのか、グローバルマーケットに出ていく出ていかないのかを選ぶのは自由。しかし、日本のコンテンツを待っている人たちが世界中にいることは確か」(橋本氏)。ゲームの開発環境、ビジネス状況は大きく様変わりしている。「その変化に合わせて、世界で待っている人たちに日本のコンテンツを届けられるよう、自分たちも変わっていかなければならないと考えている」と橋本氏は締めくくった。

不具合によるサービス停止が致命傷になることも

写真3:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー 今市 拓郎 氏

写真3:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー
今市 拓郎

メディア・エンターテイメント業界を中心に、事業企画、GTM(Go-to-Market)、組織・人材マネジメント、オペレーション改革などの構想策定から実行支援の経験を豊富に有する。
近年は先進テクノロジーを用いたエンタメ事業企画を数多く手掛けている。

基調講演に続いて、EYストラテジー・アンド・コンサルティング(以下、EYSC)、パートナーの今市拓郎氏(写真3)がモデレータ役となり、ライブサービスゲーム開発の課題についてパネルディスカッションが行われた。その先駆けとして、今市氏は「これまでのゲーム開発は2~3年で完了するが、ライブサービスゲームは開発から5年以上の開発態勢を維持して、追加コンテンツを定期的に投入するなどの運営が重要になる」と、リリース後まで含めた長期間の開発・運営態勢の必要性を訴えかけた。

EYSCが紹介した500以上のゲームスタジオに対して実施された調査の結果によると、国内外のゲームスタジオの95%がライブサービス市場に参入、または参入を検討していると回答。ただし、「ライブサービスの有力スタジオが持つ経営指標を比べてみると、開発期間やデプロイ(サーバーへの設置・公開)頻度、見積もりの確度などの生産性について、明らかな差があった」と今市氏は紹介(図1)。国内スタジオの準備不足を指摘した。

続けて、同社シニアコンサルタントの笹山隼大氏(写真4)は、十分な開発態勢を整えずに、ライブサービスゲーム事業に踏み込んだ時の”難しさ”を、調査結果から説明した。ライブサービスゲームの不具合やサービス停止によって、3~5%のプレイヤーが離脱したとアンケートに回答したスタジオが過半数を超えたという。「さらにプレイヤーの10%以上が離脱すると答えた企業が一定数存在したことは注目に値する。開発体制の未成熟に起因する不具合やサービスの停止が、ゲーム企業の経営に対して大きなインパクトを与えてしまうことがわかってきた」と笹山氏は警笛を鳴らす(図2)。

写真4:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 シニアコンサルタント 笹山 隼大 氏

写真4:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 シニアコンサルタント
笹山 隼大

国内大手エンタメ企業・コンサルティングファームを経て現職。エンターテインメント業界においてはコンソール・モバイルゲーム開発、3DCG・映像制作などに関する幅広いプロジェクトの経験を持つ。

せっかくリリースしても、わずかなミスによってプレイヤー数が減少し、結果として売り上げが減少し、資金回収の道筋を険しくしてしまう。そうしたリスクを回避するために、問題が発生したときにすぐに修正ができる設計、人員の配置、プレイヤーを飽きさせないための新しいコンテンツを投入できるサイクルなど、開発アーキテクチャの変更・修正を速める必要があるというのだ。

図1:ライブサービス優良企業(黄文字)と一般企業との差異についてまとめた調査結果 出典:Game Development Report 2023, Rendered VC & Griffin Gaming Partners

図1:ライブサービス優良企業(黄文字)と一般企業との差異についてまとめた調査結果
出典:Game Development Report 2023, Rendered VC & Griffin Gaming Partners

図2:サービス停止に伴うユーザー離脱率アンケート結果 出典:Game Development Report 2023, Rendered VC & Griffin Gaming Partners

図2:サービス停止に伴うユーザー離脱率アンケート結果
出典:Game Development Report 2023, Rendered VC & Griffin Gaming Partners

24時間365日継続するライブサービスへの対策がカギ

「開発のサイクルが1度きりの売り切り型ゲームとは違い、ライブサービスは毎日・毎週と新しい開発が積み重なり、その結果を反映させて、さらにその先へと開発を進めないといけない。日々、集まるプレイヤーの膨大なデータを活用して、次の開発へ動ける”データ分析型”の開発態勢が求められている」と笹山氏は解説する。

しかし、図3にある通り、プレイヤーの行動データ分析の重要性は理解していても、「データ活用が困難」だったり、「データ活用のカルチャーが社内にない」という障害によって、トラブルシューティングや次の開発へ生かすことができない企業はいる。データ分析を重視する企業と比べて、経営面で差が出てくることは必然だ。

「そうしたライブサービスに必要なスキルを持った人材は世界的にニーズが高く、雇用するのは簡単でない。つまり、人件費がかさみ、損益分岐点が上がる。人事面でも、365日24時間サービスにともなう就業規則の見直しなど、組織運営の仕組みも変えなければならない」と、会社組織の見直すべきポイントについても橋本氏は意見を述べた。

「ライブサービスをどうせやるなら、勝率を高めてほしい。3~5年かけて新タイトルを開発しておいて、チート問題で一瞬でダメになるのはもったいない。知見を持つ優良なパートナーを見つけて、一緒に開発することを勧めたい」(橋本氏)と、後進の日本のゲームスタジオへ向けた期待とアドバイスを添えて、第1部のセッションを終えた。

図3:プレイヤーのデータ分析・活用が進まない理由をアンケート結果 出典:Game Development Report 2023, Rendered VC & Griffin Gaming Partners

図3:プレイヤーのデータ分析・活用が進まない理由に関するアンケート結果
出典:Game Development Report 2023, Rendered VC & Griffin Gaming Partners

VCからの注目集めるゲーム業界、欧米で大型ファンド続々

写真5:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 マネージャー 四元 美緑 氏

写真5:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 マネージャー
四元 美緑

メディア・エンターテイメント業界を中心に、中計策定、新規事業戦略、IP戦略、北米・東南アジア展開、アニメ・映像制作、人事組織開発などの幅広い経験を有する

第2部のテーマは「エンタメ業界のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)投資戦略」だ。モデレータ役を務めたEYストラテジー・アンド・コンサルティング、マネージャーの四元美緑氏(写真5)はベンチャー投資のマクロ動向を紹介した。2021年に急拡大したベンチャー投資額は、その後元の水準に戻っている。(図4)ゲーム業界も基本的には他産業と同じ傾向だが、米国Konvoy Venturesの最新記事より、直近は拡大傾向にあるという。(図5)

「特にゲーム業界は、大規模かつ成長市場であること、高いリターンを追求できること、低いCAC(顧客獲得コスト)など、ベンチャー投資としての魅力が多い産業として見られている」と四元氏は解説する。

例えば『黒神話:悟空(Black Myth: Wukong)』(開発:中Game Science)は、2024年8月のリリース後、VG Insightsの最新情報によると9億7500万ドル(1500億円以上)を売り上げた。「開発コストは非公表ながら業界関係者の情報を集めると、7500万ドル前後」(四元氏)と見られ、投資に対するリターンは非常に高い。これは極端な例だが、他マーケットと比べて魅力的と見たVCが、ゲーム業界向けの大型ファンドを立ち上げている。最近ではAndreessen Horowitz(米)は6億ドルのゲームファンド組成や、BITKRAFT(独)の2億7500万ドルのゲームファンド組成など、ゲーム産業へのベンチャー投資に対しポジティブな動きが見られることを紹介。

グローバル全体での動きに対し、日本のゲーム会社は、海外投資家や日本のグローバル企業とのネットワーキングを更に強化する必要性があると意見を述べた。

図4:グローバルでのベンチャー投資額推移 出典:crunchbase

図4:グローバルでのベンチャー投資額推移
出典:crunchbase

図5:ゲームVC 資金調達額・投資件数推移 出典:Konvoy ventures

図5:ゲームVC 資金調達額・投資件数推移
出典:Konvoy ventures

手触り感を持ってスタートアップを評価

写真6:ソニーベンチャーズ株式会社 代表取締役社長 波多野 和人 氏

写真6:ソニーベンチャーズ株式会社 代表取締役社長
波多野 和人

1997年ソニー入社。ワイヤレス通信やネットワーク通信に関する事業部門、およびソニーの金融サービス事業において豊富な財務経験を有し、中長期の経営戦略立案や実行計画の策定、M&A、戦略的パートナーシップ、投資管理などの経験多数。現職に加え、ソニーの関連会社数社でCFO、取締役ならびに執行役員を務める。

エンタメ業界向けのVCで、着実に成功を収めているソニーベンチャーズ代表取締役社長の波多野和人氏(写真6)とインベストメントダイレクターの松島弘氏(写真7)が登壇し、同社の投資案件の見分け方などについて解説した。「ソニーベンチャーズは日本以外でアメリカ、ヨーロッパ、イスラエル、ケニア、インドで活動し、直近では外部投資家を集めるなどした約5億ドル(650億円)のファンドを使って、エンタメ業界に投資をしている」(波多野氏)。

ソニーの資本を中核に置きながらも、それに依存しないファンドを作っている理由は、投資の方針や継続性などの独立性を維持しやすくしているからだと波多野氏は説明する。約3万社のスクリーニング(調査)して、投資数は約180社。IPO等を経て、アクティブなベンチャーは150社に及ぶ。「我々は、普通のポートフォリオ分析をして、資金の配分を適切に行っている。そして投資したベンチャーの4割以上は、ソニー本体とのコラボレーションを実現させている」と波多野氏は話す。

投資すべきベンチャー企業の見分け方について、松島氏は「キャピタルリターンがあることは必須で、その上で、業界の課題を解決できているか、技術的など何かしら優位性があるか、などのポイントを整理して投資先を決めている」と話す。ゲーム業界向けのソリューション企業へ投資している例として、anzu社(イスラエル)は、ゲーム内のオブジェクトに広告を設置しインプレッションも計測するソリューションを持つ。また、既に上場しているmonoAI technology社(日本)にも投資しており、同社はメタバース事業を展開する企業でノード当たりの同時接続数に対して技術的な優位性を持つ。

写真7:ソニーベンチャーズ株式会社 インベストメントダイレクター 松島 弘 氏

写真7:ソニーベンチャーズ株式会社 インベストメントダイレクター
松島 弘

2007年ソニー入社。コーポレート人事を経て、Sony Interactive Entertainmentに異動。ゲームの制作/ローカライズや、PS Storeの企画など約10年の実務経験を有する。その後、Sony Innovation Fundに参画し、ゲームを含めるEntertainment TechやSports Tech分野で国内外のスタートアップ投資を担当。

ゲーム業界向け技術を持つベンチャー以外で、コンテンツ企業についても投資をしている。「コンテンツの場合、必ず儲かることはあり得ない。だからデモ版などで評価することはとても重要」と松島氏は話す。デモ版を触ることができれば、ゲームデザインの考え方やこれまでの経験についても聞けるし、そこから推し量れることも増える。また、ソニーのエンタメ系関連会社(ゲーム、映画、音楽など)にも広くフィードバックを聞いている。そうして投資を獲得したスタジオの1つに、米GENPOP INTERACTIVE社がある。「CEOやプロデューサーがしっかりとしたゲームのグランドデザイン(企画、デモ、メディアミックスやインフルエンサー活用など)を作り、そのプランに沿って開発を実行していた点を評価した」と松島氏は語る。

ソニーベンチャーズでは、今後はゲーム以外のジャンルを含めたエンタメ業界への投資を加速していく方針だ。