
個人データに関する規制が厳しくなるなか、3rd Party Cookieや広告IDに依存しない、1st Partyデータへの回帰が進んでいる。
だが、そこにデータマーケティングの限界を感じている企業は少なくない。
1st Partyデータからは既存顧客のことしかわからず、事業成長にはつながりにくい。
これを解決するのが、あらゆるデータをシームレスにつなぎ、
事業成長に貢献する次世代マーケティングモデル「Marketing For Growth」である。
クッキーレス時代に、新たな「顧客を創る」独自の仕組みと戦略はどこにあるのか。
dentsu Japanでデータマーケティングの最前線を率いる2人のリーダーに、日経クロストレンド発行人・佐藤央明が聞く。
聞き手 日経クロストレンド発行人 佐藤央明

「Marketing For Growth」は、国内電通グループ約150社からなるdentsu Japanが総力を挙げて構築した次世代マーケティングモデルだ。その特長は、市場分析から価値創造、体験設計、効果検証までのデータとマーケティングのプロセスをシームレスにつなぎ、「高速循環」をさせることにある。
循環をつかさどるのは、動脈である「Data Infrastructure(データ・インフラストラクチャー)」と、静脈の「Marketing Consulting(マーケティングコンサルティング)」。約1000人もの電通のストラテジー領域全体で、この動脈と静脈を機能させている。その中で、濱口洋史氏率いるデータ・テクノロジーセンターは主に動脈を、篭島俊亮氏がリードするデータマーケティング局は主に静脈を担当しており、2チームが表裏一体となって「Marketing For Growth」を牽引している。

動脈・静脈の2本の血流が4つのマーケティングプロセスを高速循環することで、
マーケティングROIを高め、企業の事業成長に貢献する
「レストランに例えると、データ・テクノロジーセンターの仕事は農家や牧場から材料を仕入れ、使える状態にすること。その素材をおいしく料理してお客様に提供するのが、データマーケティング局の役目となります」(濱口氏)
ここで仕入れる素材は、かなりraw(生)に近いものだ。それをクライアントに合わせて加工できるのも、両チームが密接な関係にあってこそ。「こういう料理(課題)がトレンドだから、それに合った材料を探してきて」「いい素材(データ)が入ったから、使ってみて」といったやりとりが、2人の間では日々行われているようだ。
では、いま旬のマーケティング課題とは何か。それは多くの企業が感じている「1st Partyデータの限界」であると、篭島氏はいう。
「クッキー規制により、あらためて1st Partyデータに注目する企業は増えています。いわば自分たちのお客様を見つめ直すという、マーケティングの原点回帰が起きているのです。ただ、1st Partyデータでわかるのは既存顧客のことだけで、新しい顧客の創出にはつながらない。そこに行き詰まりを感じているという声をよく聞きます」(篭島氏)
「1st Partyデータの中に必要な素材が入っていないケースもある」というのは濱口氏だ。「例えば、消費財メーカーが欲しい購買データの多くは、流通にあります。そうなると、企業や業界の枠を超えたデータの連携も必要となってくるのです」(濱口氏)

電通
データ・テクノロジーセンター長
濱口 洋史 氏
「Marketing For Growth」では、その限界や枠を超えて、マーケティングに必要なデータをつなぐことができる。それは、クライアント企業の1st Partyデータを、電通オリジナルの大規模なアスキングデータや、dentsu Japanが連携しているさまざまなプラットフォーマーのデータと自在かつセキュアに掛け合わせられるからだ。
「扱えるデータ範囲の広さに加え、それを使いこなせる豊富な人材と経験を備えていることが、『Marketing For Growth』の大きな差別化ポイントといえるでしょう」と篭島氏。これにより、新しい顧客を創ることが可能となり、「既存/顕在顧客」と「新規/潜在顧客」の双方で、マーケティングをより本質的・重層的に行うことができるのである。

「Marketing For Growth」を活用したマーケティング支援は、クライアント企業の事業や課題に合わせてカスタムメードで設計、実施される。これをプラットフォーマーのデータ特性で分類し、代表的なパターンを3つ挙げてもらった。
1つは、日用消費財から耐久財、デジタルサービスまで「幅広い商材」に活用可能な、検索行動データを軸にしたパターンだ。これは、検索サイトなどプラットフォームの実行動データをもとに戦略ターゲットを選定し、広告配信と効果検証を繰り返していくというもの。
「プラットフォーマーのIDを活用してターゲットに直接メッセージを届けられ、かつその後のアクションも追跡できるので、戦略が正しかったか否かの判断がスピーディーに行えます。その結果をもとに、ターゲットと打ち手をアップデートし続けるPDCA基盤の構築へとつなげていくのが狙いです」(篭島氏)
デジタルマーケティングの王道ともいえるこの手法は、クライアント企業がもっとも知りたい、「トリガーモーメント」(購入への引き金)の発見にも役立つという。
「例えば、保険などの金融商品や大型の耐久財などは、一度購入・契約したあと、次の買い替えや再契約までに10年近く間が空くケースもあります。その間、顧客の意識やライフステージにどんな変化があったかは、1st Partyデータだけではたどれません。それを日々の検索行動から推測することで、その商材の検討期に入った人を見極め、先んじてアプローチするというマーケティングも可能となります」(篭島氏)

電通
データマーケティング局長
篭島 俊亮 氏
続く2つ目は、位置情報を利用した「来店型商材」のパターン。外食産業やアパレル、自動車ディーラーなどがこれにあたる。「Marketing For Growth」では、各種アスキングの意識価値観調査をプラットフォーマーの持つ位置情報データと掛け合わせることで、顧客構造を戦略的に整理。施策実施後にターゲットがどれだけ来店・購入したかの分析や効果の可視化までを行っていく。
「位置情報データと組み合わせられるのは、アスキングベースの1st Partyデータからdentsu Japanが蓄積する大規模調査パネルまでのあらゆるデータ。きちんと生活者の皆様に許諾を得た上で、これらを目的や状況に応じて使い分けています」(濱口氏)
3つ目は、ソーシャルデータを活用したマーケティング。このパターンと相性がいいのは、ゲームをはじめとする「嗜好型商材」だ。「ゲームなどのエンタメ商材は、ソーシャル上の発話量が売り上げと相関しています。この発話データをもとにターゲット策定と施策を実施することで、購買や興味喚起をより促進するPDCAを実行していきます」(篭島氏)。
ここで肝となるのは、市場や商材に応じたプラットフォーマーデータの選定やクラスターの切り分け。ここを誤ってしまうと、マーケティングの効果を最大限発揮できない。その点、dentsu Japanは連携できるプラットフォーマーが多彩で、それぞれの特長も熟知しているため、高い成果が期待できるという。
検索サイトなどプラットフォームの実行動データから、戦略ターゲットを選定。そのターゲットに直接広告を配信する。結果をもとにターゲットと打ち手をアップデートし続けるPDCA基盤を構築。
位置情報データ×アスキングの意識価値観調査で、マーケティングすべき顧客構造を整理。広告の接触者のうち、誰がどれだけ来店・購入したかを分析し、効果を可視化する。
ゲームなど嗜好性の強い商材は「ソーシャルデータ」と相関が高いので、ソーシャルデータを使って顧客構造整理やPDCAを行う。
もちろん、この3パターン以外にもさまざまなアプローチ手法を駆使し、それらを柔軟に組み合わせたマーケティングを提供できるのも、「Marketing For Growth」の特長だ。クライアント企業の業種や特性に合わせて、多数の選択肢の中から最適な外部データを活用し、1st Partyデータとの掛け算による効果的な施策を実施、検証、改善していく。このサイクルを繰り返すことで、マーケティングROIの向上を実現しているのである。

「Marketing For Growth」は、なぜ豊富なデータにアクセスでき、それらを有機的に結合したマーケティングを実現できるのか。その理由は、dentsu Japan独自の立ち位置によるところが大きい。
「dentsu Japanは、グローバルエージェンシーとして世界中のデジタルプラットフォーマーとのお付き合いがあり、新しいソリューションも優先的に仕入れることができます。また日本国内での広告実績はトップレベルであり、多くのクライアント企業やプラットフォーマーからの信頼も頂いています。こうしたポジティブな関係にある国内外のさまざまなプラットフォーマーと組むことで、カバレッジが広く高速なデータマーケティングをご提供できるのです」(濱口氏)

さらに、この多様なIDデータをセキュアに統合して、「既存顧客・潜在顧客」の効果的なマーケティングアプローチを実践できるのも、dentsu Japanならではの強みだ。これを実現するのが、2023年の1年間で1000件以上の分析実績を誇るデータクリーンルームと、その運用を一元管理する統合システム基盤「TOBIRAS」である。
dentsu Japanでは、データクリーンルームに特化した専門スキルや法的知見を有する人材を、「認定アナリスト」として育成。すでに400人以上の認定アナリストたちが、電通のマーケティングディレクター・コンサルタント約1000人らと共に、クライアント企業のマーケティング変革を支援しているという。
「マーケティングディレクターとコンサルタントとデータアナリストが三位一体で動くからこそ、データからプランへの変換もスピーディーで、プロセスを高速循環させることが可能となります。そのサイクルをお客様と伴走しながら回していくことで、ROI向上を実感いただける事例を増やしていきたいと考えています」(篭島氏)

データはあくまでも手段に過ぎない。これを分析し、活用することによって人の行動が変わり、クライアントと社会双方の利益につなげていく。「Marketing For Growth」には、そこまでやり切るというdentsu Japan の覚悟が込められている。そして、これを実現する鍵は「生活者起点のサイクルを創る」ことにあると、濱口氏はいう。
「データを提供することで、自分や世の中にいいことが起きる。生活者の皆様にそう思ってもらえるような顧客体験を提供していくことが、データマーケティングの好循環につながります。その結果、ROIが向上するということは、皆様にご満足いただけていることの証しであり、生活者の皆様の幸せが高いこととROIが高いことは関連すると思っています。社会全体がハッピーになるポジティブな循環を、クライアント企業の皆様と一緒に創造していきたいと願っています」(濱口氏)
dentsu Japanは、より広い領域からクライアント企業の事業グロースをサポートし、社会全体の成長に貢献する「Integrated Growth Partner(IGP)」となることを目指している。「Marketing For Growth」の好循環が、その原動力となるだろう。

「Marketing For Growth」の要は、あらゆるデータをつないで循環を生み出す、動脈と静脈にある。前回、深田さんがおっしゃっていたことの重みが、今日お二人の話をうかがって理解できました。2本の血流が相互に連携し、めぐる全てのプロセスや課題をディレクター、コンサルタント、データアナリストの三位一体で解決していく。そこにグローバルエージェンシーとしてのネットワークと人材、ツール、そして経験値を豊富に持つdentsu Japanの強みがあると感じました。「生活者」を起点に、企業と社会の成長サイクルを回していく「Marketing For Growth」の今後に期待したいと思います。
日経クロストレンド発行人佐藤 央明