「すべてのスモールビジネスが、金融にアクセスできる世界を作る」というミッションのもと、マレーシアでマイクロファイナンス事業を展開するビー・インフォマティカは、2025年4月に自社開発のデジタル融資プラットフォームを正式にローンチした。この取り組みには、デザインの力で社会を変えてきたフォーデジットとの協業があった。
マイクロファイナンスで拓く、誰もが挑戦できる社会へ
——ビー・インフォマティカを立ち上げた経緯や思いを教えてください。
稲田 学生時代から社会的弱者の支援に興味があり、ベトナムやカンボジアでボランティアをしていました。当時はNGOへの就職を希望していたのですが、まず専門性を身につけようと金融業界に進みました。日本銀行やA.T. カーニー、楽天証券で11年ほど経験を積む中で、「やはり自分のライフワークは途上国の社会事業だ」と考えるようになりました。
ちょうどマイクロファイナンスが注目され始めた時期で、「これだ」と思い、NPOでの活動を経てイギリスで修士号を取得し、その後、フィンテックのスタートアップに携わり、金融とテクノロジーを結びつけた事業の立ち上げを決意しました。
マイクロファイナンスの真髄は、お金だけではなく、これからビジネスを成長させようとする人にティップスや仲間を提供することで一緒に成長する仕組みにあります。このコンセプトに感動し、ぜひデジタルで世界中に届けたいと思うようになりました。
ビー・インフォマティカ株式会社
代表取締役社⻑ 兼 CEO
稲田 史子 氏
——なぜ拠点としてマレーシアを選んだのでしょうか
稲田 バングラデシュ出身のCTO(最高技術責任者)とどの国で事業を始めるか検討した結果、アジアのハブであるシンガポールは競争が激しすぎました。一方、マレーシアはスタートアップへの政府の支援が手厚く、デジタルインフラも整備されています。英語が通じ、物価も比較的安く、起業には申し分ない環境でした。マイクロファイナンス企業はいくつか存在していますが、デジタルによる利便性を高めることで、より多くの人へサービスを届けたいと考えました。
“出資”というパートナーシップ。共に目指す成功のかたち
——これまでどんな体制で、どんなことに取り組んできたのでしょうか。
稲田 3段階あるマレーシアの金融セクターの中でも最もリスクと金利が高いセクターで、貸し付けをするまでのスピードと中小企業・小規模企業に特化することで他社と差異化を図り、貸し倒れを防ぐ工夫をすることで、利益を確保してきました。
2024年の4月くらいにシードラウンドでの資金調達の見通しが立ち、チームを作ろうとアドバイザーに相談しました。そこで紹介されたのが現CBO(最高業務責任者)のサイードです。
私が事業や資金調達の戦略を立て、彼がビジネスを実行するという役割分担をして、ずっと支えてもらっています。
サイード 入社後はビジネスデベロップメントやマーケティングを担当しながらチームを作ってきました。2人とも審査は専門外だったので、審査担当のプロを採用し、しばらくは3人で事業を回しました。現在はマーケティング専任も加え、フルタイムメンバーが5人のチームになっています。
ビー・インフォマティカ株式会社
CBO / CPO
サイード・アシフ 氏
——シードラウンドで出資した一社がデザイン会社のフォーデジットですね。どこで接点があったのでしょうか。
横山 2024年7月、マレーシアの日本人商工会議所のイベントで稲田さんと出会ったのがきっかけです。その場を機に出資の話が進みました。
末成 金融包摂という社会課題の解決にデザインが貢献できるならと、投資の意義を感じて決断しました。
稲田 これまでにも投資をされてきた経験があるからだとは思いますが、もうすぐクロージングするというタイミングで私たちのことを知ってもらって、翌週には出資の意思決定をしてもらいました。交渉からすぐにご決断いただき、スピード感に驚きました。
田口 スタートアップは時間も資金も限られています。デザインの一案件として関わるのではなく、出資者として共に社会課題解決を目指したいと考えました。
フォーデジット マレーシア
代表取締役CEO
横山 太志 氏
デジタル×デザインの力で小規模企業に思いを届ける
——フォーデジットが関わったことでどんな変化が起きたのでしょうか。
稲田 それまではマレーシアのデジタル貸金業ライセンス取得を目指すので精一杯で、デザインについてはほぼ考えていませんでした。UIやUXという言葉は知っていましたが、ライセンス取得の要件にデザインは入っていなかったのです。
開発を委託している企業にもデザイナーがいない状況でしたので、なんとなくデザインしていた感じでした。フォーデジットの実績を知り、デザインの持つ可能性に気づきました。彼らと関わる中でデザインへの認識が大きく変わりましたね。
サイード 私たちのターゲットが小規模企業だからこそ、わかりやすくシンプルであることが求められることに気づきました。他社のWebサイトはITリテラシーに関係なく自分ごと化しやすいように、シンプルなキーワードとマレーシアの風景や家族の写真で構成されていました。
横山 トライアンドエラーが大事だと思っていました。いきなり完璧なものは実現できませんから、寄り添って必要な要素を提供するというステップを踏んでいくことが大事だと思っています。
稲田 開発を進めていた会社で実際にシステムをリリースしてみて、初めて気づくことがたくさんありました。システムができていない時はマニュアルで質問に対してインターンが一つ一つ答えてきましたが、リリースされたことでシステム対マスのような形になって、システムでつまずく場面が増えてきました。
せっかくランディングページにきてくれても、それより先に進んでくれなかったり、最後のところで離脱してしまったりしています。何が足りないのかを自分ごととして改めて考えたときに初めて見えてくるものもあります。
末成 こうした試行錯誤のプロセスを通じて、課題や改善点が見えてくるものだと思います。なぜ失敗だったのか、誰に届いていないのかをマーケティングしながら磨き込んでいく。トライアンドエラーを繰り返しながらサービスをより良く育てていくことも私たちの得意としているところです。
株式会社フォーデジット
取締役COO
末成 武大 氏
戦略的パートナーシップで描く成長の新フェーズ
——今後フォーデジットにどんなことを期待していますか。
サイード プロダクトをお客様の手元に届けるというビジネスデベロップメントの立場からすると、ギャップをどう埋めていくかというところでもフォーデジットに期待しています。第一のプロジェクトは終わったもののやるべきことはたくさん見つかりました。
今後、第二のプロジェクトとして、現在持っている課題を解決するために、どのようにデザインを進化させていくのか、というところから話し合っていきたいですね。
稲田 私たちがプロダクトオーナーとして戦略をしっかり立てた上で、その意図をフォーデジットにきちんと伝え、よりよいデザインを実現してもらう「第二フェーズ」に進みたいと考えています。
株式会社フォーデジット
代表取締役CEO
田口 亮 氏
——今後はどんな展開を考えているのでしょうか。
稲田 UI/UXをさらに深掘りすると同時に、ムスリム向けシャリア金融(イスラムの教義に準拠した金融)の認証取得と、インドネシア市場への進出も目指し、そのためのパートナー探しも始めています。これらの課題に1年かけて取り組む予定です。
末成 私たちも協業を通じて事業への解像度がどんどん上がっています。スタートアップとの仕事は、カチカチの計画通りにはいきません。だからこそ、一緒に転ぶことを繰り返しながら、その都度ベストな提案をしていくプロセス自体に価値があると思っています。
田口 私たちはこれまでアジア各国で、ユーザーリサーチを通じてユーザーを理解するプロジェクトを数多く手がけてきました。その経験を活かし、これからもビー・インフォマティカのチャレンジを一緒にやっていければと思います。