NIKKEI FORUMメディニ・ジョホール2025 Review
サービスデザインがけん引するデジタル金融革命
マレーシア発・成長するアジア市場の最前線
2025年6月18日と19日の2日間、マレーシア南部のジョホール州の都市開発エリアであるメディニで「NIKKEI FORUMメディニ・ジョホール2025」が開催され、Day1の最後のセッションでは「金融デジタルの新たな震源地」というタイトルでパネルディスカッションが行われた。早稲田大学大学院経営管理研究科教授の入山章栄氏がモデレーターを務め、フォーデジット取締役COOの末成武大氏も登壇。金融デジタルにおけるサービスデザインの重要性を語った。
金融包摂を目指して。マイクロファイナンスのスタートアップへの出資
2025年1月、マレーシアとシンガポールはジョホール・シンガポール経済特区設置に関する協定に署名し、ジョホールでは金融やデジタル経済、テクノロジーなどの分野における新たな展開が期待されている。そこで開催された「NIKKEI FORUMメディニ・ジョホール2025」でも金融とデジタルはキーワードの一つだ。
モデレーターとして登壇した早稲田大学大学院経営管理研究科教授の入山章栄氏は「金融のデジタル化は日本及びマレーシアにおいて大きな可能性を秘めています。今何が起きているかを理解する必要があります」とパネルディスカッションの狙いを語り、4人のパネリストを紹介した。
登壇したのは、NTT DATA Payment Services取締役の西川新一朗氏、ペイメンツ・ネットワーク・マレーシアのシニアダイレクターのアズリーナ・イドリス氏、タタ・コンサルタンシー・サービシズのペイメンツ・トランスフォーメーション責任者のD. ビジャイバスカル氏、そしてフォーデジット取締役COOの末成武大氏だ。
西川氏はグローバル売上300億米ドル、従業員数20万人という規模を誇るNTTデータグループの全体像を紹介し、「データセンターの売り上げは世界第3位。ここジョホールにも新たにデータセンターを造ります」と現地との関わりに触れた。
「私自身はフィンテックや決済システムを専門として、2011年からグローバルペイメントに携わってきました。積極的にM&Aも行っており、マレーシアでは株主としてだけでなく、ADAPTISというペイメントサービスの会社を設立し、国ベースで10年間サービスを展開してきました」と西川氏は語る。
NTT DATA Payment Services 取締役
西川 新一朗 氏
西川氏はデジタル金融における課題として、認知度、法的な規制、セキュリティー対策を挙げ、「今日は決済領域におけるプロのメンバーと会えるので、楽しみにしていました」とパネルディスカッションへの期待を語った。実際にペイメンツ・ネットワーク・マレーシアともデータセンターや決済インフラ利用などいくつかの分野で協力関係にあるという。
続いて末成氏がフォーデジットについてプレゼンテーションを行い、本拠地である東京以外にマレーシア、タイ、ベトナムにも拠点があり、東南アジア諸国連合(ASEAN)での経験が豊富であることを強調し、「サービスデザインの領域で日々のアプリの体験やペイメントのコンテクストで体験を設計することを得意としています」と自社の強みを語った。
フォーデジット 取締役COO
末成 武大 氏
同社ではよりスムーズな体験を実現するために多くのリサーチを実施し、国や地域ごとのビヘイビアやコンテクストを理解した上で、どのような形であればユーザーがスムーズに、そして安心して利用できるかを考慮し、ユーザー体験に落とし込んでいるという。
また、最近ではマイクロファイナンスのスタートアップとしてマレーシアで事業を展開するBEE INFORMATICA(ビー・インフォマティカ)に出資したことを紹介した。末成氏は「スモールビジネスがお金を調達したいというニーズに対応する活動に共感して、一緒に伸ばしていきたいと考えています」とデザイン会社が出資した理由を説明した。
他のパネリストからは、デジタル化が進む中でユーザーが自ら課題を解決しながらアプリを操作するためには、ユーザーの肩を押すという意味も込めて、ユーザーインターフェイス(UI)を通じた経験の重要性を指摘する意見も出た。ビジャイバスカル氏は「デジタル化ではラストワンマイルこそが重要です」と指摘した。
タタ・コンサルタンシー・サービシズ
ペイメンツ・トランスフォーメーション責任者
D. ビジャイバスカル 氏
末成氏は「機能を通して快適な体験を提供できることはデジタル金融にとって大変重要なことだと考えています」と述べた。利用者が自分の操作に迷うことなく、自信を持ってサービスを利用できることが、デジタル金融を広げ、金融包摂を実現することにつながる。その推進役としてデザインの力が果たす役割は大きい。
QRコード決済で生まれる経済成長の循環サイクル
マレーシアではQRコードの利用が広がっている。パネルディスカッションで紹介されたペイメンツ・ネットワーク・マレーシアのビデオ映像では屋台の商人がQRコード決済を利用する様子が紹介された。イドリス氏は「この実験プログラムに参加してから2週間で他国との取引が大きく伸び、実績が評価されたことで銀行によるサービス提供が可能になりました」と意義を語った。
ペイメンツ・ネットワーク・マレーシア
シニアダイレクター/ストラテジー&ESG責任者
アズリーナ・イドリス 氏
QRコードの広がりは起業のハードルを大きく下げる効果もある。クレジットカード決済のための機器が不要になり、個人を識別するためのコストも大幅に低下した。その結果、起業にかかる費用も大幅に抑えられている。こうした変化は経済の活性化を促すことになる。
西川氏は「私が関わるようになってから10年でASEANでは大きな変化が起きています。クレジットカード決済で越境の取引を行うのは難しいのですが、QRコード決済であれば簡単です。マレーシアはスマートフォンが普及しているので、デジタルで金融を加速させることが実現されています」とビジネスでの影響を語った。
入山氏は「マレーシアではレガシーなシステムがないことも大きいと思います。足かせになるものがないので、より大きく一歩を踏み出すことができるのではないでしょうか」と指摘する。レガシーがないことで、新しい仕組みの導入時にも即断即決が可能となり、スピーディーに対応できるのも強みだろう。
スマホをPOSとしてQRコードを活用してお金をやりとりすることは、取引履歴の記録を蓄積するという意味もある。取引履歴が蓄積されて信用力が高まれば、マイクロファイナンスがより利用しやすくなる。資金調達がしやすくなれば、さらにビジネスの成長につながる。
末成氏は「私たちがサポートしているマイクロファイナンスの先には小規模な事業者がいて、その方々がグローバルにビジネスを展開できる機会が生まれ、さらにそこで収益を得ることで経済的に潤うというサイクルが成立しています。こうした一連の流れまで含めてデザインされているところが素晴らしいと思います」とマレーシアの状況を称賛する。
日本でも地方に行けばまだまだグローバル化できていないのが現状だ。入山氏は「世界のどこにでもつながることができる金融システムを通じて、ビジネスが世界に広がっていくという好循環こそが重要です」と話す。前出のビデオ映像にあった実験プログラムの名称である「ペイメントチャンバー」はつながって拡大するという意味も持っているという。
西川氏は「こうした変革を広げていくのは銀行だけでは難しいと思います。決済、支払いという経済のデジタル化にはテクノロジーの力だけでなく、プロセス変革も必要になります。そこでもNTTデータグループが培ってきたノウハウを活かすことができます。こうした変革も含めてグループ全体で支援していきます」と語った。
末成氏は「私たちは仕組みを人に届けていくところを担当しています。誰もが簡単にアクセスできるようにするためには、まずローカルの生活を知るところからスタートし、最適な体験を届けていく必要があります。そうした取り組みも、皆さんと一緒に広げていければと考えています」と述べた。
今、新しい金融デジタル化の震源地、マレーシアが大きく動き出そうとしている。
モデレーター
早稲田大学 大学院経営管理研究科 教授
入山 章栄 氏