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東南アジアの日常を支え急成長するGrab
サービスデザインで社会を変革

世界に18社しかない「デカコーン」の1つであるGrabは、配車サービスを提供するだけではなく、今では宅配から金融サービスを提供するまで事業を拡大し、ベトナムではこの11年間で「Grabする」という言葉が日常語になるほど生活の中で浸透している。一方、フォーデジットは、ユーザー中心の体験設計を軸にしたサービスデザインで国内外の多様なプロジェクトを手がけてきた。生活者の視点から現実世界の課題を捉え、解決策を導くという点で両社のアプローチには多くの共通点がある。Grabベトナムのマーケティングディレクター、グエン・タン・アン氏に、同社の成長戦略やサービスデザインの実践について話を聞いた。

生活全般を支援して、「Grabする」が日常語に

田口 Grabはここ11年間で、ベトナム社会になくてはならないサービスを提供する企業に成長しました。社会インフラに位置付けられるまで生活の中に深く浸透した背景は何でしょうか。

タン ベトナム全土でGrabは多くの皆さんから日常生活に不可欠なサービスとして高い評価をいただいています。当初は車を呼ぶアプリでしたが、今では都会から田舎まで幅広く利用され、「Grabする」という動詞が使われるほどです。

 東南アジアでは、多くの人がタクシードライバーの仕事をしています。彼らは飲食店や市場との結びつきも強く、ベトナムだけでも何百万人規模の関係者がいます。

 Grabはそうした自営業者や中小企業などを含む巨大な経済圏のデジタルプラットフォームとして、経済的エンパワーメントや事業成長の機会の創出を使命としています。こうした取り組みが、多くの人々から高く評価され、支持されている理由でもあります。

 私たちの目標は、単なる短期的な収入増ではありません。将来的な所得拡大や生計の改善、そしてデジタル経済への主体的な参加を支援する「エコノミクス・エンパワーメント(Economics Empowerment)」を掲げています。

Grabベトナム マーケティングディレクター グエン・タン・アン 氏
Grabベトナム
マーケティングディレクター
グエン・タン・アン 氏

田口 新しい事業を生み出すメカニズムには、私たちが提供しているサービスデザインにも共通するものがあると感じます。Grabの事業全体は、どのような要素で構成されているのでしょうか。

タン Grabは、3つの要素を軸に社会インフラとしての仕組みを構築しています。

 まず1つ目は、安全で信頼性が高く、便利なデジタルサービスの提供です。特に配車サービスにおいては、渋滞が深刻な都市における交通問題の改善にも貢献しています。

 2つ目は、生計の支援です。ビジネスを通じて、ドライバーや加盟店パートナーに収入機会を創出しています。

 そして3つ目は、ファイナンスのデジタル化です。デジタルによる金融サービスへのアクセスを提供することで、保険へのアクセスの拡大や金融リテラシーの向上、金融サービスへの参加機会の拡充を実現しています。

 これら3つの要素の相乗効果により、人々が利益と機会を得られるスーパーアプリ・エコシステムを構築しています。

ユーザー体験の改善で観光地を変えたダナンの挑戦

田口 Grabはマレーシアでライドシェア事業を開始し、ファイナンス、フードデリバリーへ急速に事業を拡大していますが、その原動力は何でしょうか。

タン Grabは、使命としてベトナム人にデジタルエコノミーの恩恵を届けるということを掲げています。そのためには常に変化が求められます。使命感が組織全体に浸透することで、変化と挑戦を促す文化が育まれています。

田口 先日講演会でお聞きした、ダナンのビーチにベンチを設置するプロジェクトが印象的でした。どのように体験をデザインされたのでしょうか。

タン 私たちの仕事は、まず「Grabというサービス体系の中で何がユーザーにとって困難な状況を招いているか」を特定するところから始まります。定量、定性の両面から状況を把握し、ユーザーにとってどんな障害が存在しているのかを確認していきます。

 ダナンでは、ビーチに多くの人が集まる一方で、正確な乗降場所が分かりにくくキャンセルが多いという課題がありました。原因を調べると、アプリ上で示される地点が曖昧で、地図上に正確な位置をピンポイントで示せていなかったのです。そこで、「ピンポイント」という発想を起点に、解決策を考えました。

 まず、ピンポイントの目印となる250席のベンチをテスト導入し、状況が改善されるかデータで分析・検証しました。さらに、ベンチにはQRコードを設置し、周辺情報を提供することで観光客の利便性を高めました。

 このQRコードをきっかけに、街全体や観光局との連携にもつながり、地域全体の体験価値を向上させる結果となりました。

サービスデザインの本質を体現したビジネス展開

田口 ダナンのような取り組みは、日常的に行われているのでしょうか。

タン ダナンのケースは、ベトナムGrabでプロジェクトの計画中に見出した手法で、シンガポールやマレーシアをはじめ、各拠点でも同様にそれぞれ独自の取り組みを行なっています。

 Grab全体では、予算の管理や、グローバルで横断的にプロジェクトを支援する専門チームがあります。今回のダナンの取り組みは、長い海岸線を持つ他地域にも通用すると考えて横展開を検討しています。QRコードの活用についても同様に展開できると考えており、良いアイデアは積極的にシェアしています。

田口 ダナンのケースでは、サービスデザインのプロセスの要所をきちんと辿りながら、サービス実現まで結びつけている印象があります。定性的・定量的なデータから課題を抽出するまで丁寧に取り組まれている一方で、課題は分かっても解決策の実現が難しいケースも少なくありません。

 日本のプロジェクトでも、大企業の場合は実現フェーズで部門間の調整が難しくなることがよくあります。Grabでは、その点どう対応されていますか。

タン 部門間の壁を乗り越えるために、新規プロダクトやサービスを開発する際は、IT、テクノロジー、プロダクト、ビジネス、マーケティングなど、各分野のメンバーで構成されたチームを最初から編成します。

 現場チームへの権限委譲を重視しており、チームがユーザーインサイトを得た段階で意思決定権を渡すことで、組織の壁を取り払い、ユーザーやパートナーに価値を届けるまでのプロセスを迅速化しています。

収入以外のメリットで強い信頼関係を構築

田口 Grabの場合、ドライバーが常に重要なタッチポイントの役割を担っていますね。新しいプロダクトやサービスが開発されると、使い方やサービス内容の理解など、ドライバーの負荷も増えると思います。人や組織を動かすプロセスはどう進めているのでしょうか。

タン 2つのステップがあります。最初のステップは、何を開発する場合も最初に対象セグメントの代表者に体験してもらい、理解してもらうことです。ここではドライバーですね。実際にテストを実施し、フィードバックをもらいます。

 次のステップでは、全体展開に向けてデジタルコースなどの学習プログラムを用意し、大規模なトレーニングを行います。

田口 その際、インセンティブは用意しているのでしょうか。例えば、新しいことを覚えると報酬がアップするなどはあるのでしょうか。

タン 現物や現金での報酬ではなく、顧客満足度の向上による評価ポイントの増加や、チップ獲得の機会など、収入以外のメリットを提示しています。

田口 そうした仕組みを機能させるには、ドライバーや加盟店との信頼関係が重要になりますね。どのような点に注意して関係を築いているのでしょうか。

タン まず大切なのは、コミュニティを構築することです。ベトナムでは、初期の段階からベストなコミュニティを作ることができました。信頼を築く上で大切なのは「公平性」です。公平さを明確に示すことが必要で、創業時からその姿勢を維持してきました。

 また、収入以外のメリットも重要です。私たちはデジタルとオフラインの両面で、生活の向上につながる機会を提供しています。例えば、パートナーの家族向けプログラムや女性ドライバー向けイベントを毎年開催し、つながりを深めています。

 イベント以外にも、「Wishes Behind the Wheel」という活動も効果的です。困難を抱えるドライバーの夢を支援する取り組みを行い、さらには特定のコミュニティづくりにも力を入れています。例えば、救急チームを作って、参加するドライバー同士が助け合えるようにしています。ドライバー間で取引できるマーケットプレイスの導入も、満足度向上に貢献しています。

 同様のサービスが増え競争が激化する中で、ドライバーや加盟店がGrabを選び続けてくれているのは、私たちへの信頼の証だと感じています。

株式会社フォーデジット 代表取締役 CEO 田口 亮 氏
株式会社フォーデジット
代表取締役 CEO
田口 亮 氏

各国の文化や生活を理解したサービスが鍵に

田口 今後の展望について教えてください。

タン Grabの使命は、生活に不可欠な存在として革新し続けていくことです。そのためには、ローカルのリズムに合わせて変化していくことが大切です。まだ十分にサービスが届いていない人たちや、さらなる改善が必要な領域もあります。ユーザーが何を望んでいるかを把握して、できることをしていきます。

 特に今後は、AIへの投資を強化し、Grabの全従業員がAIを使いこなせるようになることが、持続的な成長の鍵になると考えています。

 並行して、ホーチミンに設置したR&Dセンターを軸に技術開発を進めています。ここでは、エンジニアやデータサイエンスの専門人材を育成し、サービス改善や新規プロダクト開発に活用しています。

 また、政府や金融機関との連携に加え、大学との協働による人材育成など、さまざまな分野でのコラボレーションも拡充します。

田口 私たちもさまざまな国で仕事をする中で、それぞれの文化や生活の違いを強く感じます。Grabはサービスレイヤーでのローカライズにも取り組まれていますが、私たちも各国の文化や生活を理解した上で、適切なサービスを丁寧に提供することを大切にしています。

 そうした観点から、日本企業がGrabのようにサービスデザインを活用していくためには、どのような視点が必要だと思いますか。

タン 重要なのは、地元ユーザーの理解です。ユーザーを理解して初めて、ローカライズやサービスが機能します。私たちもベトナムに進出した当初は、現地を理解するのに必死でした。既存の概念に捉われず、失敗を恐れずに意見を出し合い、良い意見を取り入れる姿勢が必要です。

田口 Grabは自然体でサービスデザインを実現していますが、その本質を理解する人材をどのように採用・育成しているのでしょうか。

タン すべての社員に対してサービスデザインの教育を行っているわけではありませんが、スキルだけでなく、文化や環境への適応力を重視しています。そのうえで、私たちは「4H」という基準で人材を評価しています。Heart(思いやり)、Hunger(達成意欲)、Honor(名誉)、Humility(謙虚さ)の4つです。パフォーマンス評価は年に2回行っています。

田口 Grabが様々な国でローカライズされたサービスを展開していることは、私たちのビジネスにとっても大変参考になります。社内からだけでは見えにくいユーザー像もありますので、ぜひ私たちのような外部の力も活用していただければと思います。ご一緒できることを楽しみにしています。

取材を終えて田口より

フォーデジットでは、ユーザー中心の体験デザインを軸にサービスデザインを提供しています。

当然ながら、モバイルアプリは重要な顧客チャネルであり、実際にさまざまな部門のメンバーが関わっています。顧客から選ばれるサービスとなるためには、商品力を含めて生活の中に自然に浸透し、長く愛されることが重要です。私たちのプロジェクトでも、「いかにユーザーのためにデザインできるか」が常に問われています。

日本から見ると「東南アジア」と一括りにしがちですが、実際には各国ごとに文化や働くことへの価値観、宗教などが大きく異なります。そうした多様な環境の中で、マレーシア・シンガポールを起点に東南アジア各国へ事業を展開し、それぞれの市場で存在感を示すことは決して容易なことではありません。

ダナンの事例から見ても、Grabのサービス構築は高度なデザイン活動であり、市場を見るのではなく、生活している「人」に真剣に向き合い、組織としての意思に基づいて積み上げてきた結果だと感じます。

海外への事業展開は、かつては既存のモノやサービスを「売りに行く」活動と捉えられていましたが、現在ではモノやサービスを通じた「体験」を広めていく活動と定義できます。

組織を横断してチームを編成し、課題解決のスピードを高める取り組みや、顧客の文化や市場に近い距離でコミュニティを形成しながら推進していく事例は、あらゆる企業にとっても参考になると感じます。

左よりグエン・タン・アン 氏、田口 亮 氏
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