Design Beyond Borders
TOP

Design Beyond――
垣根を越えた先に、イノベーションの可能性が広がる

フォーデジットは「Design Beyond」を掲げ、業界や国境といった垣根を越えながら、サービスデザインを軸に国内外でビジネスを展開してきた。同社の取り組みは、気鋭の経営学者である早稲田大学大学院経営管理研究科教授の入山章栄氏にはどのように映るのか。フォーデジットの田口亮代表取締役CEO(最高経営責任者)と入山教授がAI時代に求められるデザインや人材、越境の価値について対談した。

――フォーデジットの事業内容や標榜していることなどについて改めて教えてください。

田口 フォーデジットは2001年の創業で、当初はWebデザインから事業をスタートしました。その後、世の中にはWeb以外にもユーザーとのさまざまなタッチポイントが生まれ、スマートフォンの普及を契機に、それがさらに加速しました。O2O(Online to Offline:オンラインと店舗などリアル接点をつなぐ施策)、オムニチャネルといった考えも浸透していく中で、「Webサイトだけ作っていても駄目なのではないか」と考えるようになりました。

 そこで、Webにとどまらず、もっとさまざまなことに挑戦していこうと社内で議論を重ねる中で、「デザインとは何か」という話になりました。多くのデザイン会社は、グラフィックデザインやパッケージデザインなど、特定の領域に特化しています。一方で、我々はそうした領域を自分たちで定義するのではなく、デザインの力を使ってさまざまな課題を解決する方向に進もうと考えたのです。今でいうUX(ユーザー体験)やサービスデザインにつながる考え方ですね。

入山 それはいつごろですか。

田口 2010年ごろですね。

入山 それはかなり先見性がありますね。私の認識では、デザイン思考のような概念が盛り上がったのが2015年ごろです。

田口 iPhoneなどデバイスの進化が急速だったので、従来のデザインのカテゴリーにとらわれず、デジタルの領域で幅広く事業を展開していこうと考えました。

 それと同時に、問題意識として持っていたのが、Webデザインのような1つの接点だけを見ていても、顧客の課題は解決できないということです。顧客体験全体を考えるには、より広い領域に踏み込む必要があります。そう考えた結果、デジタルだけでなく、サービス全体や業務の仕組みまで含めて取り組むようになっていきました。

 こうした考え方を基に手掛けた事例として、NTTドコモ様が2021年3月に提供を開始したモバイル通信サービス「ahamo」のプロジェクトがあります。当社はデザインパートナーとして参加し、サービスデザインとWebサイト、アプリの制作に携わりました。

 NTTドコモ様が他社に先駆けて低価格プランに取り組む中で、当社はサービスの構想段階からプロジェクトに参画しました。構想の整理を終えた後も、Webやアプリでどのような体験を提供するかを一緒に考えながら、ahamoの立ち上げに伴走しました。

――国内だけでなく、海外支社を作ってグローバルでも活動されています。その理由は何でしょうか。

田口 海外でビジネスをするようになったきっかけは、顧客企業の海外の開発部隊のサポートでした。それを続けるうちに、現地でサポートしないとうまく進まないケースや、現地の人向けの事業展開を支援する、といった機会が続き、「当社も現地に支社を作ろう」という流れになりました。現在、東南アジアに3つの支社があります。

入山 日本は市場がある程度大きいから海外に出なくてもビジネスが成り立ってしまいます。海外でビジネスをしようとすると、外国語をはじめさまざまなハードルがありますよね。日本発のデザインファームでありながら、海外にいくつも支社を展開しているのはすごいと思います。

早稲田大学大学院経営管理研究科 早稲田大学ビジネススクール 教授 入山章栄 氏
早稲田大学大学院経営管理研究科
早稲田大学ビジネススクール 教授
入山 章栄 氏

コンサルとデザインは課題解決へのスタンスが異なる

——入山先生は、フォーデジットのようにビジネス分野や国の垣根を超えてビジネスを展開することについてどうお考えですか。

入山 とても重要だと考えています。私は2012年に初めての単著である「世界の経営学者はいま何を考えているのか」を書きました。大きな反響をいただけた中で、特に反響があったのがデザイナーの方からでした。本の中で提唱した「両利きの経営」に共感いただいたことが理由でした。

 イノベーションに必要なのは情報の探索と、取り組みを深める深化です。深化は得意とする人が多いですし、中でも日本人は優れた能力を発揮します。しかし一方で、人間は目の前のことに集中し、探索がおろそかになる傾向があります。ですから、探索と深化の両方に取り組もうというのが両利きの経営です。

 もう1つ、デザイナーの方によく反応いただくのが「トランザクティブ・メモリー・システム」という考え方です。これも経営学で重要な考え方で、組織に重要なのは「みんなが同じことを覚えていること」ではなく、「誰が何を知っているかということだけを覚えていること」だという理論です。トランザクティブ・メモリー・システムも両利きの経営と同様に、デザイナーの方が応用しやすい理論だということでした。

 越境して全体感として面白いものを組み合わせていくというアプローチは「デザイン思考」や「広義のデザイン」などといろんな言い方をされています。私はこうした考えがとても重要であり、特に日本においては非常に重要だと考えています。

田口  僕たちもいろいろな活動をする中で、異なる分野や観点を組み合わせることを、ごく自然にやっています。そのため、「デザイン会社」と言いながら、「結局何の会社なのですか?」と聞かれることが少なくありません。僕たちはすべてデザインの実践だと考えているのですが、既存のカテゴリーでは捉えづらい部分があるのかもしれません。

 我々のデザインに対する考えが最も象徴的に表れている取り組みの一つが、沖縄で取り組んでいるシングルマザーの就労支援だと思います。沖縄に行った時に子どもの貧困に触れ、その主な原因の1つにシングルマザーの割合が高いことがあると知りました。現地の方々からお話をうかがう中で、自己肯定感を持てず「自分にはどうせ無理だ」と感じてしまう子どもたちの話を聞き、これは何とかしなければならないと思ったことが、支援を始めるきっかけになりました。

 具体的には、当社の業務の一部を、沖縄に住むシングルマザーの方にリモートで担っていただいています。事業を始めてから6年間、持続可能な事業として成り立たせるため、利益を生み出せるようさまざまな工夫を重ねてきました。

入山 普通なら「何か寄付や援助をしよう」となるところを、「じゃあ、うちの会社から仕事を現地に発注すればいいんだ」という発想に至るところが凄いですね。

 デザイン会社って本来は「問題提起」と「問題解決」の会社ですからね。そのケイパビリティ(能力)さえあれば、何でもできるとは言わないまでも、実は本当に幅広い領域のことが実践できるはずなのです。逆に、今の日本の経営においては、全体感というか、物事を俯瞰して見る力が弱い傾向にありますよね。

——今のお話はデザインで課題を解決しているということだと思うのですが、その場合にデザインという言葉は、ソリューションやコンサルティングと近い意味になるのでしょうか。

田口 課題を解決するという点では近い部分がありますが、アプローチは少し異なります。例えばコンサルティングでは、既存の課題を解決するスキームやメソッドをもとにビジネスモデルを作り、それを提供します。一方でデザインによる課題解決では、解決の方法そのものをお客様と一緒に探っていきます。

 デザインには、あらかじめ決まった正解があるわけではありません。まず大切なのは、頭の中にある曖昧なイメージを形にしていくこと、いわば暗黙知を形式知化することです。そのプロセスを通じて、お客様と一緒に答えを見つけていく。それがデザインの特徴だと考えています。

入山 たしかにコンサルティングは、お客様の悩みがある程度明確になっているところから始まることが多いです。一方で、デザイン会社は、「それは本当に課題なのですか?」というところから、お客様と一緒に考えていくことがあります。そこが大きな違いだと思います。

 今後AIの進化によって、多くの問題が解けるようになると考えられています。だからこそ重要になるのは、「問題を解く力」以上に、「本当に解くべき問題を見つける力」だと私は思っています。

AI時代に最も重要な能力はヒューマンスキル

——フォーデジットは2026年6月にタイの首都バンコクで、デザインとビジネスが融合する祭典「SYNC Design & Innovation in SITE 2026」を開催しました。このイベントを催した経緯を教えてください。

田口 フォーデジットにとって、タイは最初に設立した海外拠点です。タイでは建築や映像、グラフィックデザインなど、個別の分野を突き詰める専門性は非常に高い水準にあります。一方で、「リープフロッグ(カエル跳び)」によって短時間で急激に社会が変化したため、本来であれば成長する過程で培えるはずの経験があまり蓄えられていない、ということを感じてきました。

 それによって生じている課題の1つが、日本では2015年ごろからビジネスサイドに浸透してきたUXデザインやサービスデザインの重要性を実感できている人が少ないということです。ここまでお話した通り、それらはデジタルを扱ううえで重要な概念ですが、今の流れではその重要性が十分に認識されておらず、そうした領域を担える人材も育ちにくい状況にあります。

 これを解決するには、産業側の視点を変えることと、人材を育成することの2つが必要だと考えました。

 人材育成の取り組みとして1年半前に始めたのが、大学でサービスデザインを教える活動です。現在はタイの7つの大学で授業を担当していて、受講生も累計300人を超えました。興味を持って取り組んでくれる学生も多く、この活動には強い手応えを感じています。

 次に、産業側の視点を変える取り組みとして何かできないかと考え、開催を決めたのが「SYNC Design & Innovation in SITE 2026」です。イベントの開催にあたっては、本当に多くの方々にお会いし、ご協力をいただきました。タイ国家イノベーション庁(NIA)の長官にもご賛同いただき、共同開催が実現しました。さらに、タイの政府機関や日本の団体にもご協力いただくことができました。

株式会社フォーデジット 代表取締役 CEO 田口 亮 氏
株式会社フォーデジット
代表取締役 CEO
田口 亮 氏

——ここまで、フォーデジットがさまざまな垣根を超えている、という話をうかがいました。一方で、多くの日本企業は内向きであることに悩んでいると思うのですが、どうすればそういった閉塞を打ち破れるのでしょうか。

入山 学者らしくないシンプルな意見なのですが、好奇心と度胸が必要だと考えています。かつて日本のGDP(国内総生産)がトップに近い順位だった際は、国内で時価総額1位になれば結果的に世界でも有数の企業だと認識されました。でも今の日本はそういった状況ではないので、日本で勝つだけでは駄目です。海外に出ないと時価総額が上がらないことは自明です。

 ではなぜ海外進出ができないかというと、シンプルに英語が苦手だからです。実は世界で広く使われている英語の多くはノンネイティブ同士の英語なので、実際は英語が下手でもどうにかなります。しかし日本人は「下手でも良いから使う」ということも苦手ですね。それこそ度胸の問題なのですが。

——好奇心や度胸を持った人材を、これからどう育てていくべきでしょうか。

入山 先ほど「AIの時代には問題を見つける人が重要だ」ということも話しました。我々がいくら頑張っていろいろなことを記憶しても、AIには勝てません。ですから、これからの教育はAIを前提に内容を大きく変える必要があると感じています。

 そこで重要になるのが、「越境」や「身体知」です。AIは答えのない問いに最終的な判断を下すことはできません。問題を見つけ、その問いにどう向き合うかを最後に決めるのは人間です。その際にも度胸や好奇心は必須といえます。つまり、AI時代に最も重要な能力はヒューマンスキルなのです。

再び人間関係や信頼関係が大切な時代に

——AI時代に必要な能力のお話が出ました。AI時代の経営、組織はどう変わっていくとお考えですか。

田口 経営やビジネスには、ある意味では少し昔に戻るような感覚があると思っています。これまでは「できるだけ属人的にならず、フェアに仕事をする」という考え方が強かったですが、AI時代になるほど、最後は「誰と仕事をするか」という人間関係や信頼関係が、より重要になっていくのではないでしょうか。

 今回のタイのイベントでも、人間関係や信頼関係の大切さを改めて実感しました。入山先生がおっしゃっていたヒューマンスキルにも通じますが、そういった人と人との関わりは、これからますます重要になると思います。

 組織という点では、そのようなヒューマンスキルを持った人を育てる人が重要になると思っていますが、それがすごく難しい。採用段階でそうした素質をどう見極めるかも含めて、大きな課題だと感じています。入山先生はどうお考えですか。

入山 私も全く同じ意見です。採用や育成は本当に考えないといけませんよね。

 僕は最近、日本全国でAIに関する講演をたくさんやっているのですが、その時に必ず「これからの時代、管理職という仕事は終了します」と言っています。管理の業務はAIが代替しますが、チームを引っ張る「ミドルリーダー」の役割は絶対になくなりません。

 一例ですが、ママさんバレーのキャプテンのような人材は重宝されると思います。私が理事をやっている札幌の企業で、パートの女性がものすごいリーダーシップを発揮していたので、社員として採用したのです。すると、その方が大きな成果を出した。

 当時、「なぜ彼女はこれほど優れたピープルマネジメントができるのだろう?」と思って背景を調べたところ、ママさんバレーのキャプテンをやっていました。ママさんバレーの世界というのは、想像を超えるほど複雑なコミュニティだそうです。それを円満にまとめ上げるには、相当なファシリテーション能力とリーダーシップが求められます。

 こうした、人をまとめ、周囲を巻き込みながら目的に向かって進める力は、これからますます価値を発揮すると考えています。

田口 これからのインターローカルな世界において、そういう尖った採用を取り入れると、本当に面白い人材が集まりそうですよね。

入山 これからは、知識の有無はもう評価基準にならないですからね。

これからの成長に向けて

田口 フォーデジットでは、「Design Beyond」というビジョンを掲げています。デザインの力でどこまで何かを超えていけるか、という考え方です。やはり一人ひとりが越境していく意識を持つことが必要だと思っています。ただ、それを全員が実践できるかというとなかなか難しいですね。

入山 そうなれる人と、なれない人の差は何なのでしょうね。

田口 やっぱり素直さとか、「アンラーン」と言われるものなのだろうなと思っています。

入山 なるほど。私が思うのは、若い頃に何らかのマイノリティ側の経験をしているかどうかは大きいということです。そうした経験をすると、良い意味で開き直れるようになるんですよね。

田口 採用面接も時間をかけて行うことが多くて、人生の生い立ちからいろいろ聞いていきます。そこで面白そうなところを深掘りしていくと、「アメリカに留学しましたが、間違えてスラム街に行ってしまって、一度そこに住まないといけなくて大変でした」とか。「それはすごい経験だね」と(笑)。「隣の部屋に危険な人がいて大変でした」と聞いて、「おおー」と(笑)。

入山 そういう経験は大きいですね(笑)。

田口 フォーデジットの役員たちもみんな変わった経歴だったりするので、よくある枠組みから少し外れているところがあるかもしれません。採用における評価や教育の仕組みも、これから大きく変わっていくのだろうなと思います。

入山 今の仕組みの中で歪んでいる部分は、これからどんどん変わっていくのだろうなと思いますね。それこそ、さっき田口さんがおっしゃったように、答えのない状況で試行錯誤した経験や、いろいろな価値観に触れた経験をした人の方が、これからの時代はよほど価値がありますよ。

左より:田口 亮 氏、入山章栄 氏
TOPに戻る