なぜAWSは「リテールビジネス」に
強いインフラなのか
AWSのクラウドはあらゆる産業で利用されているが、とりわけ流通・小売業のビジネスとは親和性が高い。アマゾンの原点がEC事業だからだ。
その事業の成長の裏にはシステムの進化がある。ビジネスが成長するに連れ、ペタサイズのデータを保存し、毎秒何百万ものリクエストを処理するようになった。既存システムではビジネスの進化スピードに追随できない。そこですべての業務を細分化/サービス化し、それに合わせてシステムも再構築した。高いアジリティとスケーラビリティを確保し、最先端技術の活用も積極的に進めた(図1)。
図1 AWSクラウドの強み

小売業から生まれたクラウド、それがAWSだ。クラウドサービスのパイオニアとしてコア機能を提供するほか、機械学習やAI、マイクロサービスやサーバーレスなどの最新技術を取り入れ、サービスの革新に努めている
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社
エンタープライズ技術本部
流通小売・消費財グループ
本部長
五十嵐 建平氏
この仕組みを商用化したクラウドサービスがAWSである。アマゾンのビジネスを革新するために開発されたサービスはAWSにフィードバックされ、その後多くの顧客企業のビジネス革新を支えるようになった。その活動は今も続いている。「ビジネスのためのクラウドからスタートしているため、お客様のビジネスを第一に考える企業文化が根付いています」とAWSジャパンの五十嵐 建平氏は強調する。
革新的なサービスやテクノロジーは大きな強みだが、AWSの真の価値はそれだけではないという。「私たちの最大の強みは、流通・小売業の事業特性や直面する課題をよく分かっていること。そこで、業界の知見やノウハウを生かし、ビジネスで結果を出すために伴走支援します」と五十嵐氏は語る。
この姿勢に賛同する多くのパートナー企業がAWSを活用し、業界のイノベーションを牽引している。どのような価値を提供し、それによってビジネスはどう変わるのか。注目のパートナー企業の取り組みを見ていこう。
デジタルチャネルを統合し、
動画マーケティングを変革
流通・小売業のビジネスの重要なテーマの1つが、デジタル体験の向上である。その実現に向け、昨今はSNSを利用した動画マーケティング手法が増えているが、自社サイトとSNSが連動していないケースが多い。これを変革するのが、Fireworkの「統合型ビデオコマース・ソリューション」だ。
Firework Japan株式会社
執行役員
Vice President
田島 一樹氏
SNSやYouTubeなどすべてのチャネルに配信した動画コンテンツをFireworkの基盤上に取り込み、自社サイトと連動させる。「自社サイト内でどのコンテンツを視聴したユーザーが、どれだけサイトを回遊し、商品購入に至ったか。単なる動画再生数ではなく、動画視聴経由のCVR(コンバージョン率)を可視化できます」 とFirework Japanの田島 一樹氏は述べる。ショート動画やライブコマースといった動画配信だけでなく、人やバーチャル店員によるオンライン接客を実現するソリューションもある。これらのソリューションは国内でグローバルで9000サイト以上の導入実績がある。「ソリューションを提供するだけでなく、その導入から運用までサポートします」(田島氏)。
多くの企業がユーザーのデジタル体験とCVRの向上を実現しており、小売企業においては大手ドラッグストアや家電量販店でも導入されている。導入企業ではメーカーとのコラボレーションや自社社員によるライブコマースを新たなマーケティング手法として活用中だ。商品の魅力を伝えるだけでなく、使い方や利用シーンも動画でわかりやすく紹介するテレショップのような臨場感のあるマーケティングは、ユーザーにも非常に好評だという。
“残念な顧客体験”を
“特別な顧客体験”に変える
デジタル体験の向上には「タイミング」と「パーソナライズ化」も欠かせない。これを間違えると“残念な顧客体験”で終わってしまうからだ。「ホテルを予約した直後に宿泊割引クーポンが届く」「お薦めされた商品を購入しようとしたら、在庫切れだった」「同じブランドから1日に何十通もプッシュ通知が来る」といったことはその一例だ。一貫性のない顧客体験やユーザーの都合を無視したアプローチはブランド離れのきっかけになる。
Braze株式会社
マーケティング本部
BDR
網 裕司氏
この課題を解決するために、Brazeが提供しているのが「カスタマーエンゲージメントプラットフォーム」だ。「マルチチャネルを一つの統合プラットフォームで管理し、データの取込みからオムニチャネルでのメッセージ配信まで、一貫性のある顧客体験を実現します」とBrazeの網 裕司氏は説明する。
その特徴の1つは、マルチチャネルのカスタマージャーニーをSQL不要のシンプルなUIで容易に作成できること。施策実行前にAIで仮説検証や最適化を繰り返し、その精度を高めていくことも可能だ。「顧客の行動データをリアルタイムで収集し、要望やニーズに応じて顧客体験をカスタマイズする『ハイパー・パーソナライゼーション』を実現し、顧客中心のマーケティングに転換できます」(網氏)。
こうしたことが評価され、世界で2000社以上に導入されており、60億人以上の顧客体験を支援するほか、国内でもメルカリ、楽天グループ、タイミーなど60社超の企業が利用する。BrazeはAWSとの戦略的パートナーシップを締結しており、そのシナジーによって統合プラットフォームの高度化も支援。これにより顧客データの“鮮度”を生かした、よりタイムリーな施策が可能になるという。
消費行動の「背景」を理解し
次のアクションにつなげる
顧客と長期的な関係性を築き、LTV(顧客生涯価値)の最大化を図ることもデジタルマーケティングの重要な要素である。誰が、いつ、何を買ったか。結果のデータだけでは深い顧客理解は得られない。大切なことはその消費行動の「背景」まで理解することだ。
その実現に向けAmplitude Analyticsが提供するのが、多様なチャネルのデータソースからユーザーの行動データを分析し、セグメント化するソリューションだ。
Amplitude Analytics 合同会社
ソリューション・エンジニアリング
部長
津久井 英樹氏
『誰が何をいつ購入したか』というデータだけでは、顧客を深く理解することはできません。重要なのは、顧客行動の背後にある”文脈”を理解することです。Amplitudeは、複数のチャネルにまたがる多様なデータソースから行動データを分析・セグメント化し、『どのようなセグメントの人々が、どのようなプロセスで購入に至ったか』といったインサイトを導き出すことができ、次のアクションへと導くことができるのです。さらに、A/Bテストをノーコードで簡単に実施できるのも特徴です」と同社の津久井 英樹氏は語る。
すでに Amplitude Analytics は、小売業はもちろん、金融、製造、メディア・通信、ソフトウエア業界など国内外の幅広い分野の企業で利用されている。継続的に機能強化を図っており、Command AIの買収に伴って、近日中にユーザーアシスタントなどの新機能がリリースされる予定だ。
行動特性を基に
販促コンテンツを自動生成
一方、顧客接点はデジタル化しても、顧客理解や様々な施策の企画・設計は人依存のアナログな作業が多い。マーケターは日々データ分析を行って顧客理解に努めているが、優秀なマーケターがいなくなると、顧客理解ができなくなる。その結果、消費者に対して効果的なアプローチが難しくなってしまうわけだ。
富士通株式会社
Consumer Experience事業本部
シニアディレクター
鈴木 飛龍氏
いかに顧客理解のスキルやノウハウを個人ではなく組織で共有するか――。これを実現するのが、富士通の「Personalized Marketing Services」だ。これはPOSやクレジットカードのデータをマーケティングに活用しやすい「行動特性タグ」に自動変換するソリューション。このタグを活用すると、顧客理解の“解像度”が上がり、AIによる将来の行動予測も可能になる。「例えば、『好きな商品ブランドは何か』『離反の前触れとなる行動は何か』など顧客理解を誰でも同一のレベルで行えるようになります」と富士通の鈴木 飛龍氏は語る。
注目したいのは、パーソナライズ化された販促コンテンツも自動生成できる点だ。
Personalized Marketing Servicesによって作成された行動特性タグと生成AIサービス「Amazon Bedrock」を組み合わせることで可能になるという。
例えば、レストランのディナープランを提案する場合、赤ワインが好きな消費者には赤ワインと肉料理を組み合わせた画像イメージを表示。さらに画像にマッチした販促メッセージも自動で生成する。何パターンものコンテンツの制作には多くの時間とコストがかかるが、これを内製で自動化できるのだ。「マーケターの負担を軽減し、スキルやノウハウも平準化できます」と鈴木氏はメリットを述べる。
サプライチェーン全体の可視化と
分析が可能に
流通・小売業のビジネスは、多くの業務や階層からなるサプライチェーンによって支えられている。VUCA時代といわれる昨今は変化が急激に訪れ、先を見通すことが難しい。変化への対応力を高める上でもサプライチェーン最適化の重要性が高まっている。しかし、購買計画、生産計画、需給計画などがバラバラに管理されていると、全体の計画立案が複雑化する。その結果、円滑な商品の生産・供給が難しくなり、機会損失やブランドのイメージ悪化につながる。
これを変革するソリューションが、o9(オーナイン)ソリューションズの「o9デジタルブレイン」である。最大の特徴は「グラフキューブ技術」を用いた多次元データベースを採用していること。多階層にまたがる大量かつ多面的な情報を一元管理し、従来のRDBをはるかに凌ぐ高速なデータ処理を実現する。サプライチェーン全体の情報を統合し、リアルタイムな可視化・分析が可能になる。ここにAI技術を活用し、サプライチェーンの上流から下流までカバーする全体の計画立案と需給調整の自動化・高速化を実現する。
o9ソリューションズ・ジャパン株式会社
プリセールス本部
シニアマネージャー
朝井 由記氏
サプライチェーンのどこに、どんなリスクがあるかも即座に把握可能だ。ビジネス環境の変化や様々なリスクにも機敏に対応できる。「例えば、取引先から大量の追加発注があった場合、『現状の生産体制ならいつまでに供給可能か』『納期を早めるには生産能力をどれだけ高めるべきか』といったこともAIによるシミュレーションで瞬時に判断できます。災害などで通常の輸送ルートが使えない場合も、迂回ルートをシミュレーションし、最適なルートを確保できます」とo9ソリューションズ・ジャパンの朝井 由記氏は話す。
財務やマーケティングなどの計画と連動した統合ビジネス計画の立案・実行・管理も可能だ。経営を支える統合プラットフォームとしても活用できる。
以上で紹介した5つのソリューションはすべてAWSを基盤とするものだ。流通・小売業のバリューチェーン全体をカバーする多様なサービスも数多く利用されている(図2)。AWSは今後も顧客企業のビジネスを支援するポートフォリオ、パートナーエコシステムによるサポート体制をさらに拡充し、流通・小売業のイノベーションに貢献していく考えだ。
図2 バリューチェーン全体を支えるAWS

柔軟性の高いシステムやデータ基盤、リテール事業の5つの領域をカバーするソリューション、さらにプロダクトの開発や製造を支えるソリューションの提供を通じ、バリューチェーン全体のイノベーションに貢献する

当日は出展ブースも設けられ、多くの関係者でにぎわっていた
※当冊子掲載のコンテンツは、日経クロステック Active Specialに2024年12月27日から掲載されたものです。
AWSのリテールイベントで見えた流通・小売業 変革への道筋とは
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