果実感とすっきり飲みやすい味わいが
焼酎初心者にも好評
佐藤 本格焼酎の消費量が年々減少する中、異例のヒットで注目されている「KIRISHIMA No.8」。日経トレンディの「業界別ヒット2024」でも入賞し、その新規性と好調ぶりが話題となりました。
長谷川 「KIRISHIMA No.8」は、マスカットやみかんを思わせる新鮮な果実感をもつ本格芋焼酎です。2023年2月に490ml瓶を首都圏先行販売。24年7月には900ml瓶もラインアップに加えて全国展開したところ、900ml瓶は半年ほどで25万本を売り上げ、490ml瓶を合わせると2年間で累計42万本を突破しました。その好調ぶりから商品力の高さを改めて感じています。
490ml瓶(左)に追加して発売された900ml瓶(右)。2種類のサイズをラインアップし、2年間で累計42万本を突破した
佐藤 好調の理由はどこにあると思われますか。
霧島酒造
企画室 商品開発課 商品開発係 主任
長谷川 裕晃 氏
長谷川 本格焼酎の新たな可能性を提示することで、ユーザーの裾野を広げられたからだと考えています。「KIRISHIMA No.8」は当社主要銘柄と比べて、40代以下の飲用者が占める割合が高く、比較的若い層にもリーチしていることがわかりました。
霧島酒造
企画室 商品開発課 商品開発係 主任
長谷川 裕晃 氏
佐藤 今まで焼酎を飲んでこなかったような人たちをも振り向かせた、というのは大きいですね。そもそも「KIRISHIMA No.8」は、従来の芋焼酎とどこが違うのでしょうか。
長谷川 まず、原料であるさつまいもからして、これまでとはまったく異なります。芋焼酎の味わいは、麹や酵母の変化よりもさつまいもの種類によって大きく変化します。そこで、「焼酎の可能性を広げたい」という思いから、自社で独自品種を開発しようと、16年から研究に着手しました。
佐藤 酒造会社がさつまいもの新品種の開発まで手がけるというのは、あまり聞いたことがありません。
長谷川 焼酎メーカーが自社単独でさつまいもの品種を開発し、焼酎の製造・販売までを一貫して行ったのは、日本で初めて※1となります。
※1:2023年1月霧島酒造調べ
日経トレンディ発行人
佐藤 央明
佐藤 チャレンジに踏み切った背景を教えてください。
日経トレンディ発行人
佐藤 央明
長谷川 焼酎には根強いファンがいる一方で、若者の酒離れ、焼酎離れも加速しています。次代の新規ユーザーを取り込むためにも、「これまでにない芋焼酎」を造ることが必要でした。しかし、当社が使用している既存の品種では、「これまでにない芋焼酎」と言えるほど、味わいを大きく変えるには限界がありました。ならば、自社で新品種を開発しようということで、チャレンジに踏み切りました。
佐藤 作物の品種改良には、相当な時間がかかると思われます。
長谷川 新品種の開発には、約5年を要しました。検討したさつまいもの掛け合わせは37通り。その中から8番目の交配で生まれたのが、「KIRISHIMA No.8」の原料となった「霧島8(キリシマエイト)※2」です。この品種にたどり着いたおかげで、当初の目標であった、“これまでにない芋焼酎”を実現させることができました。
※2:「霧島8」は霧島酒造の登録商標。「霧島8」は品種名「霧N8-1」および、後継品種である「霧N8-2」を含んだ総称。自社単独で育成したのは「霧N8-1」。
フルーティーな香りの中にも
芋焼酎らしさを感じる味わい
佐藤 さつまいもの新品種である「霧島8」と、これを原料とした「KIRISHIMA No.8」の特長を改めてお聞かせください。
長谷川 「霧島8」は、当社の「茜霧島」に用いられる「タマアカネ」と、ブラジル原産の「シモン1号」を掛け合わせて生まれた新品種です。「霧島8」には、焼酎の果実香を高める成分であるモノテルペンアルコールのもととなる成分が豊富に含まれています。これに自社独自開発の「エレガンス酵母※3」を組み合わせることで、新鮮な果実感と華やかな香りを実現しました。
※3:「エレガンス酵母」は霧島酒造独自呼称
佐藤 いわゆる「香り系焼酎」は、今のトレンドでもあります。それもヒットの一因となったのかもしれませんね。
長谷川 追い風にはなったと思います。でも、私たちが狙っているのは、そこではありません。フルーティーな香りの中にも、芋焼酎らしさを大切にしているのが、「KIRISHIMA No.8」の特長です。焼酎の良さは、食事を引き立てる食中酒であることです。今の時代の多様な料理と一緒に楽しめるように、すっきりと飲みやすい味わいにこだわりました。その根底には、「焼酎文化は食文化の基にありき」という当社の思想があります。
「KIRISHIMA No.8」の炭酸割りを試飲する佐藤。「良い香りが最初にフワッと来ます。華やかな香りのインパクトがありつつも、すっきりとしていて飲みやすいですね。香りの余韻を長く感じられます」
佐藤 現代では、食文化も多様化しています。
「KIRISHIMA No.8」の炭酸割りを試飲する佐藤。「良い香りが最初にフワッと来ます。華やかな香りのインパクトがありつつも、すっきりとしていて飲みやすいですね。香りの余韻を長く感じられます」
長谷川 その多様性に応えられるよう、和食だけでなく、洋食にも中華にもエスニックにも合う芋焼酎を目指しました。実際、「KIRISHIMA No.8」は、これまで焼酎とはあまり縁がなかったフレンチやイタリアンのレストランにも採用されています。
佐藤 ボトルの佇まいやラベルデザインにも、焼酎のイメージを覆す斬新さを感じます。これなら、レストランに置かれていても違和感がありませんね。
長谷川 今まで焼酎に馴染みのなかった方にも手にとっていただけるよう、パッケージには和洋のモチーフを採り入れました。商品名を「KIRISHIMA No.8」とアルファベットで表記したのも、当社にとっては大きなチャレンジでした。
「葡萄唐草模様」をベースに、果実やさつまいも、ミヤマキリシマの花を散りばめたラベルデザイン。
中央にはさつまいもの育種番号に由来する「No.8」を配置、下部には霧島山を「源氏香」の図柄で描き、香り高い味わいを表現した
持続可能な焼酎造りを
九州の地から世界へ発信
佐藤 2024年秋には、「KIRISHIMA No.8」の体験イベントを実施されました。その概要と狙いを教えてください。
長谷川 9月から10月にかけて、東京・熊本・福岡・大阪の4都市で、「SHO-CHU BAR No.8」を開催しました。これは、食事とのペアリングを楽しんでいただくことで、「KIRISHIMA No.8」の魅力を訴求するイベントです。まずは「最初の一杯」をベストなかたちで体感いただきたい、という思いから企画しました。
佐藤 参加者の反響はいかがでしたか。
長谷川 4都市合計で6583人もの方々にご来場いただき、どの会場も盛況でした。従来のユーザー層とは異なる30代、40代のお客様も多く、「今まで焼酎を飲んだことはなかったけれど、これなら飲める」「こんな芋焼酎は、はじめて。すっきりしていて飲みやすい」といった嬉しい声を頂戴しています。
イベント参加者からは、「焼酎初心者にとても飲みやすい。おかわりしたい!」「和食だけでなくどんな食事にも合いそう」
「軽くて爽快感がある。最初の一杯に飲みたい焼酎!」などのポジティブな声が数多く寄せられた
佐藤 「KIRISHIMA No.8」は国内だけでなく、海外でも高い評価を得ているそうですね。
長谷川 ありがたいことに、フランスの「Kura Master 2023」(本格焼酎・泡盛:芋焼酎部門)と、アメリカの「サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション 2024」(焼酎部門)で、それぞれ金賞を受賞することができました。今後は、海外展開にも力を入れていきたいと考えています。
佐藤 2024年12月には、日本酒や焼酎、泡盛といった日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録され、世界の関心も高まっています。
長谷川 伝統技術を継承・革新しながら焼酎造りを行ってきた、私たちの営みが認められたことは誇りに思います。とはいえ、焼酎造り、さつまいも作りは生産農家の皆様の協力がなければ成り立ちません。我々が独自開発した「霧島8」を、皆様がここまで育て上げてくれたからこそ、「KIRISHIMA No.8」を全国に届けることができたのです。
佐藤 これまで育ててきた作物を変えるというのは、生産農家にとっても勇気の要ることです。それでも霧島酒造を信じてついてきてくれたのは、長年の酒造りで確かな関係を築いてこられたからでしょう。その結果がヒットにつながったというのは、素晴らしいですね。
長谷川 本当に感謝しています。近年、「サツマイモ基腐病(もとぐされびょう)」という感染症の影響で、原料の安定調達が困難な状況が続いています。そうした中、「霧島8」は黒霧島などに使われるさつまいも「黄金千貫」に比べると病気に強い品種としても注目され、生産農家の皆様にも喜ばれています。また霧島酒造では、健全なさつまいも苗の研究開発を目的とした、「霧島さつまいも種苗生産センター『イモテラス』」を、23年9月に稼働。「イモテラス」でつくった健全なさつまいも苗を提供するなど、生産農家の皆様の力になれる取り組みに努めています。また、14年から「サツマイモ発電事業」に取り組んでいます。焼酎製造工程から排出される焼酎粕や芋くずなどをメタン発酵して取り出したバイオガスは、さつまいも由来の再生可能エネルギーです。製造工程のボイラー燃料や発電に利用し、循環型の焼酎造りを行っています。
佐藤 次世代の焼酎ユーザーを育てるだけでなく、地域の生産基盤をも支えていく。さらに再生可能エネルギーの活用にも取り組む。持続可能なものづくりへの、霧島酒造さんの真摯な姿勢がうかがえました。最後に、「KIRISHIMA No.8」の今後の展望と、読者へのメッセージをお願いします。
長谷川 「KIRISHIMA No.8」は、その成り立ちから味わい、見た目のすべてが、これまでの芋焼酎とは一線を画す商品です。実際に召し上がっていただければ、違いを実感できるはずです。まずは一杯召し上がっていただくことを目標に、「KIRISHIMA No.8」を体験できる機会を増やし、本格焼酎の裾野を広げていきたいです。皆様もぜひお試しください。
取材を終えて
日経トレンディ発行人
佐藤 央明
霧島酒造といえば、焼酎売上高ランキングでトップを誇る老舗焼酎メーカー。その地位に甘んじることなく、果敢なチャレンジに邁進し続けている姿に、№1ブランドとしての矜持を感じました。さつまいもの品種育成に始まる開発や、生産農家との取り組みなど、「KIRISHIMA No.8」の背景には、目に見えない数々のストーリーが詰まっています。それらの集大成がヒットを生み、関わったすべての人々に元気を与えています。こうした営みが、これからも持続可能な焼酎文化を支え、日本の「伝統的酒造り」の価値を更に世界に広める要因となるのでしょう。
私も「最初の一杯」をいただきましたが、本当にすっきりとしていて飲みやすい。焼酎の印象をガラリと変える、貴重な体験となりました。
飲酒は20歳から。飲酒は適量を。飲酒運転は、法律で禁じられています。妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

