近年では、海外でモノを売ることの難度がますます上がっている。単に性能や機能が優れているだけでなく、各国・地域の環境や人権に関する法令を順守した製品であるかどうかが厳しく審査され、それをクリアしなければ成約に至らないケースが増えている。調達・購買部門だけでなく、法務部門やサステナビリティ部門など様々な部門の了承を得なければ決まらないことが当たり前になっている。
「直接の交渉相手であるバイヤーだけでなく、顧客企業のより幅広い部門に自社のブランドを認知してもらい、信頼を勝ち取ることの重要性が高まっていると言えます」
そう語るのは、世界最大級のプロフェッショナルネットワークであるLinkedInを展開するリンクトイン・ジャパン 執行役員、広告事業本部長としてマーケティング・ソリューションを統括する堀 モニカ氏だ。
リンクトイン・ジャパン
執行役員 広告事業本部長
マーケティング・ソリューションズ
堀 モニカ氏
製造業のBtoBマーケティングにおけるもう1つの課題として、堀氏が挙げるのがバイヤーの「世代交代」だ。LinkedInを活用するビジネスの意思決定者は68%がGenZと呼ばれる45歳以下の世代になってきているという(LinkedIn調べ)。
「SNSやAIといった最新テクノロジーを活用するデジタルネイティブ世代への交代によって、バイヤーとのコミュニケーション手段にも変化が表れています。従来からのコミュニケーション手段で自社のブランドや製品をアピールしても、期待するほどの反応が得られないというケースが増えているようです」(堀氏)
一方、時代の流れに乗ってイノベーティブなコミュニケーション手段を活用できれば、ブランドへの信頼度の向上や販売の拡大につながる。世界の製造業のマーケティング担当者は今、どのような課題や機会に直面しているのか? それを調査したのが、LinkedInが欧州、アジア太平洋、米国およびブラジルの1767社のBtoB製造業の購買担当者(バイヤー)を対象に、2024年第4四半期に実施した「LinkedIn B2B Manufacturing Buyer Research 2025」である。
「LinkedIn B2B Manufacturing Buyer Research 2025」では、以前よりも購買プロセスに関する意思決定グループの規模が拡大し、上級経営層も関与するようになったことが明らかになっている。上級経営層が購買の意思決定に「非常に影響を及ぼしている」との回答は、全体の53%に上った
出典:LinkedIn「LinkedIn B2B Manufacturing Buyer Research 2025」
調査結果から見えてきたのは、世界のBtoB製造業の購買行動における、以下の5つのトレンドである。
①イノベーションによる将来への備え
②厳しい競争を勝つため、Thought Leadership(専門知識)で信頼を築く
③複雑化する購買需要への対応
④創造性、市場での存在感、透明性によるバイヤーへの訴求
⑤ソーシャルメディアを起点とするコミュニケーション
このうち②については、多くのバイヤーが競争優位性を得るため、業界に関する専門知識を強く求めていることを示す。つまり、Thought Leadership(ソートリーダーシップ)が求められているのだ。
ソートリーダーシップとは、特定の分野において、革新的なアイデアや解決策をいち早く発見し、示すことでその分野における主導者(リーダー)としての役割を発揮することである。単に製品を供給するだけでなく、いかに有益な専門知識を提供できるかが、サプライヤーとしての機会創出につながると言えそうだ。
「調査によると、86%のバイヤーが『業界の技術リーダー』として認識されることを望んでいる半面、53%が『業界の技術変化に追い付いていくのに苦労している』と回答しています。その課題を解決できる業界の専門知識を持っているかどうかが、サプライヤー選定のポイントになっています」(堀氏)
この調査結果を興味深く見ているのが、ヘルスケア、住宅、マテリアルの3領域で多角的に事業を展開する旭化成だ。
「世界のBtoB製造業のバイヤーが、単なる製品供給者ではなく、自分たちのイノベーションを支えるパートナーとしての役割をサプライヤーに期待していることが分かりました。我々も、そうした『イノベーションパートナー』でありたいと常々思っていますし、その役割が担える存在であることを、しっかり発信していかなければならないと、改めて認識しました」
旭化成で広報等を所管する上席執行役員の山口伸浩氏はこのように語る。
旭化成
上席執行役員
総務・法務・広報担当
コーポレートコミュニケーション担当補佐
リスク・コンプライアンス担当
山口 伸浩氏
2024年には海外売上高比率が55%に上り、従業員の4割以上が海外で働く旭化成にとって、エクスターナル(社外)、インターナル(社内)双方へのグローバルな情報発信は、広報やマーケティング、人事戦略等における重要な取り組みだ。その発信力を高めるための有効な手段として、2019年からLinkedInを活用している。
「旭化成は当社調べで、日本で9割以上のビジネスパーソンから認知されていますが、海外での認知度はまだ高くありません。BtoB事業の多い当社では、海外で日本のようにマス広告を打つことは効率的でないため、LinkedInのように、狙ったターゲットに対し効果的に情報発信できる手段が有効です。そして、特定の製品に関する発信だけでなく、多様なケイパビリティを持つ企業としての信頼を積み上げる手段としても期待しています」(山口氏)
旭化成はLinkedInの本格運用から6年足らずで日系素材メーカーで最大級となる11万人超のフォロワー数を持つに至った。現在は主に3つの施策でLinkedInを活用している。
1つ目は、社内外へのコーポレートブランディングの強化。トップのメッセージや、経営計画、事業のニュース、社会貢献活動などを掲載している。顧客企業の購買プロセスに関与する意思決定グループは広がっており、ブランドへの信頼をいかに高めるかがビジネスの成否に大きく影響する。そのための重要な情報発信である。
2つ目は、事業部門によるマーケティング施策。LinkedInの広告プラットフォームを活用し、製品やマーケットに関する情報を発信することで、海外の見込み顧客を獲得する取り組みである。2024年から事業とコーポレートの両方から同じオーディエンスにそれぞれの広告を発信することで、双方への相乗効果を生む施策も開始した。
3つ目の施策は、海外でのリクルーティングだ。世界約200ヵ国、12億人以上のビジネスパーソンが実名でメンバー登録しているLinkedInの特徴を生かし、優秀な人材を募集するために活用している。
「2つ目の事業のマーケティング施策、3つ目のリクルーティング施策は、1つ目のコーポレートブランディングで推進する旭化成という会社の認知や、理解、信頼が土台となって効果を発揮するものです。そのため、これら3つの施策は密接に関わり合っており、各事業部門と連携しながら、今後も積極的に活用していきたい」と山口氏は説明する。
そして今後、旭化成が強化したいと考えているのは、“ソートリーダーシップ”につながる情報発信だ。
LinkedInの調査でも明らかになったように、BtoB製造業のバイヤーは『業界の技術リーダー』となるため、将来を見据えた革新的な技術やノウハウを求めている。その提供者となって、顧客企業からさらなる信頼を獲得したいと考えているのだ。
「ソートリーダーシップを発揮して、企業としての信頼やブランドを強化することは、製造業における世界的なトレンドです。企業のトップや技術の専門家がソートリーダーとなり、知見や研究成果をLinkedIn上で発表することで、顧客企業の興味や関心はますます高まるのです」(堀氏)
実際、世界のCEOによるLinkedInでの情報発信は、2024年に前年比52%も増加。フォーチュン500企業でソーシャルメディアを使っているCEOは7割に達し、98%がLinkedInで情報発信を行っているという(LinkedIn調べ)。
「日本には優れた技術を持つ企業がたくさんあります。その価値を広く世界に伝え、ブランド力や信頼を高めるためにも、ぜひLinkedInをご活用いただきたい」(堀氏)
