2025年4月15日、アメリカ大豆輸出協会(以下、USSEC)主催の「USSEC サステナビリティ シンポジウム2025」が開催された。近年、世界的な環境問題や食料安全保障の課題が深刻化し、持続可能な農業と食料供給の重要性がより一層高まっている。そうした背景を踏まえ、本シンポジウムでは、さまざまな立場の登壇者が、最新の食や農業トレンドの研究成果を交えながら日本の大豆事情と安定したサプライチェーン構築の重要性について議論し、持続可能な大豆の生産と利用について深く掘り下げた。


冒頭、USSECのロズ・リーク氏は、「今私たちは、サステナビリティと食文化の交差点、未来に向けた重要な岐路に立っています」と言及。「世界的な環境問題や食料安全保障の課題が深刻化する中、持続可能な農業と食料供給の実現は急務であり、なかでも、食用大豆の約7割をアメリカから輸入している日本とのパートナーシップはこれまで以上に重要になります」とし、「大豆のグローバルフードシステムにおける重要な役割に焦点を当てた本シンポジウムを、知見の共有やネットワーキングの機会としてほしい」と述べた。
ロズ・リーク氏の話を受けて、「サステナブルな大豆生産の基盤となるのが、農業技術のイノベーションであり、そこに日米両国間の協力は不可欠です」と語った在日米国大使館のジーン・ベイリー氏。さらに、アメリカ大豆輸出協会が東京に拠点を設けてから2026年で70周年を迎えることについて、「この年月が日本と米国のパートナーシップの証であり、日本のコミットメントに心より感謝いたします」と話し、挨拶を終えた。




25年4月11日に閣議決定された、令和6年改正の食料・農業・農村基本法に基づく初の「食料・農業・農村基本計画」の中から、大豆にかかわる施策の方向性について農林水産省の花田耕介氏が解説した。
基本法では、国民に対する食料の安定的な供給について、国内の農業生産の増大を基本に、安定的な輸入および備蓄の確保を図ることとされている。これを前提に、「日本の食糧供給における大豆の需要は23年度が356万トンで、その内の26万トンを国産が占めています。今後は、国産大豆を使用した商品開発を推進し、付加価値やブランド価値の醸成を図り、国産のさらなる利用拡大を促進して、30年に39万トンを目指します」と花田氏。
一方、輸入大豆については、「現在、混乱する世界情勢などの影響により、価格は高止まりの状況で調達リスクもあります。米国をはじめとする輸入相手国関係者との対話による良好な信頼関係の維持・強化、日本の輸入事業社が相手国に有する調達網への投資促進などを通じて、輸入の安定を図ることとしています」と述べた。
また、食品産業における環境負荷低減の促進については、「持続可能性に配慮した輸入原材料調達を含む環境、人権、栄養などの課題について国際的なルール形成への積極的な参画と共に、対応策の検討や知見の横展開を図る官民連携の場の構築などを通じて、企業の取り組みを推進することとしています」。さらに消費者の行動変容の取り組みとして、「環境負荷低減の取り組みをラベル表示する見える化や、栄養や健康の観点で消費者の選択に資する情報提供など、食品事業社による消費者の理解醸成を図る取り組みを推進することとしています」と語った。
最後に花田氏は、「今回の基本計画において、輸入と国産のバランスのとれた大豆供給を目指していくことが示されました。食料安全保障上、米国との関係はますます重要ですので、引き続き関係者の方々には、日本への高品質な大豆の安定供給に努めていただけますようお願い申し上げます」と述べ、講演を終えた。
続いては、日本において大豆の安定供給に欠かせないアメリカ大豆の生産者を招いたパネルディスカッションを実施。パネラーとして、ミシガン州大豆生産者のジャナ・フリッツ氏と、サウスダコタ州大豆生産者のトッド・ハンテン氏が登場、ロズ・リーク氏がモデレーターを務めた。
最初の質問は、「生産者にとってサステナビリティとは何か。また、サステナビリティに対してどのような取り組みを行っているのか」。
ジャナ・フリッツ氏は、「私にとってのサステナビリティはロンジェビティ(長寿)です。私の農場は私で6代目、100年以上農業を続けていますが、長く続けるためには農場の長寿性も重要でイノベーションも欠かせません。私たちは、テクノロジーを駆使した可変施肥、不耕起栽培や5種類の作物の輪作などを行い、土壌の健康を保つことに注力しています。一方で気候変動に応じた対応策を取り入れ、安定的な大豆生産を行っています」と語った。




トッド・ハンテン氏は、「私が考えるサステナビリティとは、大豆の健康と1873年から受け継がれている農場をより良い状態で次世代に手渡すことです。サステナビリティに通じる最善の取り組み、例えばカバークロップ(被覆作物)や精密農業技術などを積極的に取り入れ、土壌を守りながら質の高い大豆生産を目指しています」と述べた。
次に「長期的なパートナーである日本に対し、米国の大豆生産者としての思いと今後のアクションについて」という質問に対しては、「私たちは、日本との継続的かつ長期的なパートナーシップにコミットしています。信頼されるサプライヤーであり続けるためのアクションを続けていきます」とジャナ・フリッツ氏。また、トッド・ハンテン氏も「課題や変化に柔軟に対応しながら、みなさんが望む品質の大豆を生産し続けます」と述べた。
最後に、「サステナブルなビジネスこそが、サステナビリティの定義だと思います」とロズ・リーク氏がまとめ、セッションを閉じた。
休憩を挟んだシンポジウムの後半は、大阪大学名誉教授の吉森保氏による「オートファジー」についての講演からスタート。「オートファジーとは、人間の体を構成している細胞内部の新陳代謝と恒常性(健康)を維持するシステムのこと。その働きが、認知症、がん、感染症、生活習慣病など多くの病気や、老化を防いでいることが分かっています。しかし、年齢を重ねるとオートファジーは低下します。そこで私たちは、細胞再活性化によるビヨンドエイジングを目指した研究を進めており、現在分かっているのは、オートファジーを活性化させる成分の一つであるスペルミジンが、大豆を発酵させた納豆に多く含まれているということです」と述べた。




次に吉森氏と日経BP 総合研究所の西沢邦浩によるディスカッションが行われた。始めに西沢から、大豆と長寿に関する最新情報のまとめとして、若い頃から豆を多く食した方が長寿であるという調査結果や、大豆の発酵食品の摂取が循環器疾患やがんによる死亡率、高血圧のリスクを下げるという研究データ、長寿のまちとして知られる京丹後市で大豆を中心とした豆製品をとっている人の腸の中に長寿菌の一種といわれている酪酸菌が増えていることなどが伝えられた。
一方、吉沢氏は、大豆を食することとオートファジーの活性化の関係性について、「まだ分かっていないことが多いですが、大豆を筆頭にオートファジーを活性化させる食品や生活習慣は、昔から体にいいと言われてきたものばかりです。こうした言い伝えに科学的根拠が追いついてきたというわけです」と語った。
最後に西沢は「大豆は、イソフラボンのようなポリフェノールや、食物繊維、良質なたんぱく質も豊富です。良い成分がたくさん含まれる大豆をおいしく食べることで、未知の可能性も期待できるというわけですね」とまとめた。
続いての講演では冒頭にニューラルCEOの夫馬賢治氏がオンラインで登壇し、大豆とサステナビリティの動向について解説した。大豆市場は、加工、食用、飼料のすべてで需要と供給が増加傾向にあること、また、大豆を取り巻く国際社会の変化として、自然資本(生物多様性)でのセクターガイダンスが進んでいることを指摘。「24年6月策定の自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)『食料・農業セクターガイダンス』では、森林破壊を伴わないこと、水の希少性の高い地域では極力水を使わないこと、食品廃棄物の利活用の3つの視点が示されています。また、24年10月策定の国連責任銀行原則(PRB)『自然のためのセクター行動ガイダンス』や、生物多様性条約『COP16』でも、大豆が注目されています」と話した。


一方、農林水産省地球温暖化対策計画では、初めて畜産も対象になったと夫馬氏。「温室効果ガスの排出削減に資する飼料などの利用推進が示されており、今後日本でも畜産飼料にスポットライトが当たり、政策が進められていきます」と語った。


続くセッションでは、アメリカ大豆輸出協会のトム・ダルフォンソ氏と、日清丸紅飼料の宇野剛氏が登場。トム・ダルフォンソ氏は、アメリカ大豆の飼料としての可能性について言及。「サステナビリティの実現が収益につながることは、畜産においても言えます。飼料としてのアメリカ大豆ミールは、最適な栄養価、低ダメージ、安定性により、総コストが抑えられた優れた家畜成績を実現します。その背景にあるのが、大豆生産者による持続可能な生産、収穫、およびサプライチェーンシステムであり、これらが、アメリカ大豆を栄養成分と価値において優れたものにしています。今、畜産農家の方々は、持続可能性に関する学びに意欲的です。私たちは、彼らとの関係や協力の機会を大切にしていきたいと考えています」と語った。
続いてロズ・リーク氏が加わり、ディスカッションを実施。まず2人に、飼料がもたらす環境インパクトの計算方法についてたずねた。
宇野氏は「日本においては30年にCO2の排出量を現状の半分に、50年に実質ゼロにしようという目標を掲げていますが、飼料産業におけるサステナビリティプロジェクトはまだ立ち上がったばかりで、その計算方法や低減方法は検討中です」と回答。トム・ダルフォンソ氏は、「グローバル フィード インダストリーの指標で算出しています。畜産におけるアメリカ大豆ミールの使用がCO2のフットプリント削減にどのくらい寄与しているのかをドキュメント化し、消費者や株主に示すことが重要であると考えています」と述べた。
続いて、ロズ・リーク氏はトム・ダルフォンソ氏に、大豆のクオリティの一貫性をどのように実現し、サステナビリティに発展させているのかと質問。「土壌に対する肥料の配合において、無駄を省きながら一貫性を保っています。結果、豆の栄養価が均一になり、その品質が信頼性にもつながっています」と回答した。
また、ロズ・リーク氏が宇野氏に投げた質問は、飼料のサステナビリティ要求に対する日本の業界全体の対応について。宇野氏は「今後フォーカスされるのは、生産者から排出されるCO2の削減です。原材料調達においてUSSECがサステナブルな取り組みに注力されていることを後押しに、業界全体で足並みを揃えて解決していかなければならないと考えています」と述べた。


シンポジウム最後のセッションの冒頭で、アメリカ大豆がサステナブルな農法で生産・管理された大豆であることを認証するシステムである『SSAP認証』の最新動向についてUSSEC日本副代表の立石雅子氏が説明。「SSAP認証は、日本において、その基準に整合性があるという支持をいただいていており、日本向けアメリカ大豆輸出に占めるSSAP認証大豆の割合は9割を超えています。また、SSAP認証は世界にも広がっています。アメリカ大豆の輸出の7割がSSAP認証付きで、20カ国126企業の1125製品にSSAP認証マークが使用されています。アメリカ大豆が30年までに目指す持続可能な目標は、土地利用の影響を10%低減、土壌浸食を25%低減、エネルギー使用を10%削減、温室効果ガスを5%削減です。USSECはSSAP認証マークを通じてこうした取り組みを見える化し、意識することが、未来を変えることができると考えています」と述べた。


続いて、SSAP認証のアメリカ大豆を使用した製品づくりを進めるアサヒコ、マルキン食品、太子食品工業、セブン&アイ・ホールディングスの4社が登場し、それぞれの取り組みについて語った。
1972年創業のアサヒコは、20年に発売した「豆腐バー」の開発をきっかけに、サステナブルや自社の存在意義についてより深く考えるようになったと、代表取締役の池田氏。「豆腐製造の老舗企業として、持続可能な植物性たんぱく質を世界に広げていきたいと考えています。豆腐バーのパッケージにはSSAP認証マークを、また豆腐や油揚げのパッケージには、SSAP認証を受けたアメリカ大豆を使用していることを消費期限の近くに打刻して、消費者にアピールしています」


熊本で110年の歴史を持つマルキン食品の代表取締役社長CEO吉良扶佐子氏はアメリカ大豆について、「SSAP認証大豆の安全性やサステナビリティの取り組みに共感し、多様な商品にアメリカ大豆を使用しています」と述べた。また、新たなヘルシー事業として展開中の「B-GENKi」ブランドについて、「大豆の健康に対する素材的優位性を生かすために、賞味期限を長く保てる商品で日本の伝統食の海外展開を行っています」と紹介した。


1940年創業の太子食品工業で代表取締役副社長を務める工藤裕平氏は、「当社独自製法で実現した湯ぬき不要で切らずにそのまま使える『じゅわっとやわらか油あげ』が、23年8月にサンフランシスコで行われたソイコネクストで、SSAPアワードを受賞しました。今後も利便性や簡便性の高い商品にSSAP認証大豆を使用し、若い世代の消費者に訴求していきたいと思います」と考えを述べた。さらに、海外向けブランド「モットーフ」の展開も広げていくと話した。


セブン&アイ・ホールディングスではサステナブル経営の取り組みとして、環境宣言「グリーンチャレンジ2050」を展開中であると芳賀正延氏。「当社オリジナル商品で使用する食品原材料に持続可能性が担保された材料を使用することを掲げ、30年までに50%、50年までに100%とすることを目指しています」。また、消費者とのコミュニケーションとして、「店舗で、SSAP認証マーク付き商品の試食イベントを行い、マークの説明をしながら持続可能な商品の価値を紹介する取り組みを行いました」と話した。




各社のプレゼンテーションが行われたのちに、モデレーターとして日経BP 総合研究所の藤井省吾が加わり、植物性たんぱく質である大豆への期待と、原材料の見える化による信頼性の向上、アメリカ大豆製品の未来について、パネルディスカッションが行われた。
「現状、日本の豆腐市場は年々シュリンクしています。パッケージにSSAP認証を付けているのは、原材料の違いを見える化することで買い分けしていただきたいという思いから。その効果は出ており、お客様センターに問い合わせが入ることがあります」とアサヒコの池田氏。
また、セブン&アイ・ホールディングスの芳賀氏は、「SSAP認証の認知度を高めるべく、店頭イベント実施し、認証マーク付き豆腐が安心であることを訴求することが小売りの役割だと考えています」と述べた。
続いてマルキン食品の「B-GENKi」の海外での反響について、大豆製品の未来像という観点でたずねると吉良氏は、「日本の納豆を伝統食ではなく、未来の健康を支える食として再定義し、展開中です。外国人の食習慣、米国のヘルスレボリューションに火をつけたいと思っています」と語った。
また藤井氏は、グローバル展開という観点で太子食品工業の「モットーフ」について質問。工藤氏は、「日本の豆腐の素晴らしさをどう伝えていくかを追求するために、モットーフというブランドをつくりました。豆腐未開の地であるヨーロッパに展開していきたい」と語った。また、日本と米国との関係について「サステナブルであることが重要です。大豆は食用だけでなく飼料やバイオディーゼルなどの新しい可能性もありますので、日本におけるアメリカ大豆のポテンシャルを私たちもますます発信していきたいと思います」と述べた。
最後に「食料安全保障という観点でも米国とは今後も盤石な関係性を保ち、ビジネスロンジェビティを期待します」と藤井が述べ、パネルディスカッションは終了した。
クロージングに登壇したのは大豆生産者のトッド・ハンテン氏。「サステナブルなアメリカ大豆が日米の関係を密にし、パートナーシップを通じて持続可能な未来に向かうことができると考えています。長きにわたる友人である日本のみなさまに感謝を申し上げます」と述べ、USSEC サステナビリティ シンポジウム2025は幕を閉じた。