日経クロストレンドフォーラム 2025
ウィングリット

ヘアケア製品の売上につながる
「PGC×UGC」の最適解

2024年から大きな転換期を迎えた花王のヘアケア事業。ハイプレミアム商品を立て続けに展開し、マス広告中心だったマーケティング手法を見直してUGC(User Generated Content)を含むデジタル施策へと舵を切った。さらに開発体制や組織のあり方そのものも変革。この変化をリードしたのが、花王ヘアケア事業部と、UGC支援を担ったウィングリットだ。花王の事例をもとにUGC×PGC(Professional Generated Content)の最適解について説明する。

ハイプレミアム市場へ挑む
再起をかけた花王の事業変革

日本で初めてシャンプーを発売した企業として、長らくヘアケア市場のリーダーであった花王。しかし2015年に新興ブランドがハイプレミアム商品を次々と市場に投入したことで、大手マスメーカーは苦戦を強いられており、花王も例外ではなかった。従来のマス型のビジネスモデルを踏襲した結果、顧客のシャープなニーズを捉えられていなかったのだ。

それから10年、ハイプレミアム市場に変化が見えてきた。花王株式会社グローバルコンシューマーケア事業部門ヘアケア事業部 ブランドマネージャーの野原聡氏が言う。
「そのようなハイプレミアム商品の購入者のうち、約4割が使用を控えるようになり、SNSでも品質を疑問視する声が見られるようになったのです。100年のヘアケア研究の歴史を誇る花王なら、真に満足度の高い商品を生み出せるはずと考え、2024年に事業変革に乗り出しました」

2024年2月には新ブランド「melt」を発売。4月に「Essential」をリブランディングし、10月には「THE ANSWER」の発売、「Segreta」のリブランディングと次々に変革を実施した。その結果、9年ぶりに花王は売上シェアがV字回復し、数々のアワード受賞など生活者からも高い評価を得ることに成功した。中でもTHE ANSWERはベストコスメアワードで総合大賞まで受賞している。

花王
グローバルコンシューマーケア事業部門
ヘアケア事業部 ブランドマネージャー

野原 聡

図表

ヘアケア商品として初めてベストコスメアワードを総合受賞したTHE ANSWER

その結果、花王は9年ぶりにシェア拡大に転じることに成功した。それを支えたのが、VUCA時代に即した新しいマーケティングだった。

野原氏が説明する。
「大切なのは、完璧な計画・戦略でなく、アジャイル(臨機応変)にPDCAを回しながら、その時々の最善を作る仕組みです。そこでポイントとなるのが、ブランドとしての一貫性を保ちながら、時代の変化にきめ細かく対応することです」
「一貫性」と「変化への対応」は一見すると相反しているようだが、花王では、これを両立するために「スクラム型の組織」を築き上げたという。

野原氏によれば、従来はマーケティング部門がパッケージ案を提示して担当部門に作ってもらったり、こういう処方のシャンプーが欲しいと研究開発部門に依頼するなど、部門間で受発注するような関係で商品を開発してきたという。いわばバケツリレー型のスタイルだ。

「今回の事業変革では、このバケツリレー型をやめて、まず全員でゴールから決めました。そしてパッケージ・処方・コミュニケーションなどの部門、さらには、代理店・流通関係、インフルエンサーなどの社外の方も含めて、関係者全員がゴールに向かって仕事をする、全員で一気に商品を生み出していくスクラム型のチームに変えたのです」

図表

すべてのクリエイターが一堂に集まるスクラム型のチーム

感情に基づく
ブランドポジショニング

バケツリレー形式からスクラム形式にがらりと変わって、実際にうまく機能するのだろうか。野原氏は、「しっかり機能しました。これまでの体制では、商品販売までに長い時間がかかっていましたが、今回、プロジェクト開始から実際に商品ができるまで、たった半年で実現しました」と語る。

この新体制の下、先ほど挙げた「一貫性」を強化するために、感情に基づくブランドポジショニングという新しい視点を取り入れたと野原氏が説明する。

「ヘアケアにおける感情面のニーズは、ハイエネルギー(解放)かローエネルギー(快適さ)かという方向軸と、個人(社会的な向上)か集団(つながり)かという方向軸があります。例えば、髪が美しくなりたいと思うのは誰しも同じですが、その先には、美しい髪になって友達と楽しくワイワイと過ごしたいという感情もあれば、自宅でお風呂に入って落ち着いた時間を過ごしたいといった感情もあります。前者はハイエネルギーで集団で過ごしたいという感情、後者ならローエネルギーで個人という感情です」

このように、感情の方向性によってブランドを棲み分けることでカニバリゼーションも減り、個性の強い商品を作ることができるわけだ。

図表

特定の感情をゴールにすることで、各々のブランドの個性が際立った

「『melt』というブランドは、ローエネルギーで、やや集団志向の『comfort(やさしさ、安心感)』の感情と位置付け、パッケージデザイン、ブランドサイト、店頭販促物、商品知覚体験・ソリューション、SNSクリエイティブなどをすべてこの感情に合わせて一貫性を引き出すように取り組みました」(野原氏)
まさに先ほど挙げた、関係者全員が一堂に会するスクラム型チームだからこそ、ブランドと感情を共有して参画意識やモチベーションが高くなり、ブランド内で一貫性を生み出すことができるのだ。

変化への対応の鍵は
PGC×UGCの最適化

では、変化への対応についてはどうか。花王が注目したのは、PGC×UGCの組み合わせによるマーケティングコミュニケーションの最適化と、それを実現するために高速でPDCAを実現する組織づくりだという。PGCとは、WEBサイトやTVCM、キービジュアルなど、メーカーが完全にコントロールして制作するクリエイティブ情報のこと。一方、UGCは、SNSのインフルエンサーの投稿や口コミサイトのレビューなどユーザーが生成したコンテンツだ。つまり、花王では、企業側の発信と生活者の発信の双方のコンテンツを組み合わせて最適化しながら、PDCAのサイクルを迅速に回していくという方針を掲げたのだ。

このような判断に至った背景を野原氏が説明する。
「テレビCMなど、マス広告のような従来施策の効率が大きく低下しています。マーケティングはもはやどのメディアがいいかといった発想ではなく、コンテンツファーストの時代です。とりわけヘアケア領域ではオーガニック投稿の口コミ量が重要です。実際、meltブランドのヘアケア商品の場合、オーガニック投稿が増えるのに伴って、シェアも拡大していきました」

かわつよ 代表取締役/
ウィングリット 執行役員 CBO

川上 慶士

花王のヘアケア製品のインフルエンサー・UGC関連業務を手がける株式会社ウィングリットの執行役員CBO、川上慶士氏は、次のように説明する。
「ヘアケア領域ではPGCだけでは効果が出にくいので、UGCを掛け合わせて、いかにオーガニックの発話でブランドに関するポジティブな投稿をしてもらうかということが結果につながっていくと思います。またコンテンツファーストで様々なメディアで横断的に発信していくと、売上と発話量が連動して増えていきます。UGCはリサーチの側面もあり、そこから得られる示唆に基づいて、次のコミュニケーション施策を改善していくのがポイントだと思っています」

図表

コミュニケーション施策の効率化・最大化には、 PGC×UGCの最適化が必須だと川上氏は語る

このリサーチ効果について野原氏が興味深いエピソードを紹介した。
「THE ANSWERというブランドは訴求要素が多く、『世界初』『12倍のヘアケア成分』『花王100年の研究』などいいたいことがたくさんありました。『塗り洗い』という髪に塗り込んで洗う新しいスタイルの訴求も候補に挙がっていたものの、少し難しいと判断して、優先訴求要素から外していたのですが、UGCの発話が多いことに気づき、すぐにクリエイティブの調整をしてPGCに反映しました。THE ANSWERの場合、塗って洗うことで成分が頭にすごく浸透するという合理的な説明が納得感や満足度につながってロイヤリティ形成になっていることがわかってきました。お客様の反応をみながらクリエイティブを調整してPGCとUGCに反映していった事例です」

インフルエンサー・UGC関連を一社に一元化
ブランド間での知見共有とPDCAが加速

これは、変化への対応力が上がった効果といえるだろう。実際、クリエイティブの体制も事業変革で大きく変わっていた。

「これまでは花王の下に代理店があり、その下にPR会社や広告運用会社などがぶら下がる構図でした。これを花王の事業部、販売、社内クリエイティブと並んで外部のインフルエンサーエージェンシーやPRエージェンシーなども一緒に集まって、直接連携しながら作業を進める形に変えました」

以前のインフルエンサー・UGC関連業務は、ブランドごとに前提も戦略も施策もばらばらだったが、今回の事業変革で、インフルエンサー・UGC関連業務は川上氏が所属するウィングリットに事業部横断で集約する体制に大きく変わった。インフルエンサーに対しては、ブランド単位でコミュニケーションを取るよりも、花王という会社単位でコミュニケーションを取ったほうがいいからだ。その結果、一つのブランドで得た知見は即座に他ブランドにも共有され、ブランドごとでのPDCAも加速していった。「この形だと知見が迅速に蓄積されるようになり、他ブランドに波及させる効率もいい」と野原氏はいう。

一連の花王の事業変革のUGC・インフルエンサー領域に関わってきたウィングリットの川上氏は、次のように締め括った。
「時代や担当者が変わっても揺るがない一貫性を保つことが重要です。そして、事業価値の最大化を図るためにはPGCとUGCを組み合わせつつ、高速PDCAに耐えうる社内外を巻き込んだ組織設計が求められます。コミュニケーション施策の効率化・最大化には、PGC×UGCを最適化することが必須で、ヘアケア商品に限らず、様々なカテゴリでUGCの勝ちパターンは存在します。これを生かせるのがウィングリットの強みと自負しています」