プリン体ゼロ※1、糖質ゼロ※2、甘味料ゼロ※3の「3つのゼロ」を実現しながら、本格的な飲みごたえも両立したアサヒビールの「スタイルフリートリプルゼロ」が好調だ。2026年3月の発売からわずか1カ月で販売本数1000万本を達成し、その後も伸び続けている。2026年10月には酒税改正の最終段階を迎え、ビール類の酒税体系が一本化される。糖質オフ・ゼロ系ビール類の市場はどうなるのか。「スタイルフリートリプルゼロ」が発売後、好調に推移し支持されているのはなぜか。ヒットを支えるマーケティング戦略と商品開発の舞台裏を聞いた。
※1: 100ml当たりプリン体0.5mg未満を「プリン体ゼロ」と表示(以下同様) ※2:食品表示基準による(以下同様) ※3:原材料には糖類を使用(以下同様)
10月の酒税改正後も、
糖質オフ・ゼロ系ビール類の躍進は続くのか?
健康志向が高まる中、糖質やプリン体、カロリーなどに配慮しながらビールを楽しみたいというニーズが増えている。そうした声に応えているのが、糖質オフ・ゼロ系ビール類だ。成熟期を迎えたビール市場において、糖質オフ・ゼロ系ビール類は人気を集め、市場でのシェアを着実に伸ばしている。
この市場を語るうえで欠かせないのが「アサヒ スタイルフリー<生>」の存在だ。日本初の「糖質ゼロ発泡酒」として2007年に誕生。「身体への気遣い」と「おいしさ」の両立が課題とされる中、「スタイルフリー<生>」は糖質ゼロでありながらしっかりとした飲みごたえを実現し、糖質などに配慮しながらもビール類を楽しみたいという飲用者に新たな選択肢を提案した。
その後、「スタイルフリー<生>」は多くのお客様に支持されながら成長を続け、糖質オフ・ゼロ系ビール類市場において確かな存在感を築いてきた。発売から約20年が経過した現在も、高い認知度と信頼を背景に、多くの方に選ばれ続けている。
今年10月、ビール類市場は新たな転機を迎える。
2020年から段階的に進められてきた酒税改正が最終段階となり、ビール類の酒税体系が一本化される。それでも、糖質オフ・ゼロ系ビール類の躍進は続くのだろうか。「酒税改正後も、糖質オフ・ゼロ系ビール類は成長を続けると見ています」と話すのは、「スタイルフリー<生>」のブランドマネージャーを務める西山雅子氏だ。ビールとの価格差が縮小しても、糖質やプリン体などに配慮した商品を求める生活者は減らないという。
確かに、ビールより価格が低いことを理由に糖質オフ・ゼロ系ビール類を選ぶユーザーもいる。しかし同社の市場調査によれば、「スタイルフリー<生>」の購買理由の中心が「価格差」ではなく「健康志向」にあることは明らかだ。糖質やプリン体、カロリーなどに配慮しながらも、おいしさにもこだわる人は、今後も増え続ける。価格環境が変化しても、糖質オフ・ゼロ系ビール類を選ぶユーザーが減少する可能性は低いと西山氏は見ている。
発売1カ月で1000万本突破
「3つのゼロ」と「本格的な飲みごたえ」が拓いた新市場
今年3月、スタイルフリーシリーズの新たな成長ドライバーとして投入したのが、「スタイルフリートリプルゼロ」だ。プリン体ゼロ、糖質ゼロ、甘味料ゼロの「3つのゼロ」を実現しながら、ビールに近い本格的な飲みごたえを追求した。
アサヒビールの独自調査で浮かび上がってきたのが、糖質だけでなくプリン体や甘味料なども幅広くケアしながら、ビールに近い本格的な味わいも楽しみたいという、より多角的な健康配慮のニーズを持つユーザー層の存在だ。アサヒビールはこうしたニーズに着目し、新たな成長機会と捉え、「スタイルフリートリプルゼロ」を開発。3つのゼロで「スタイルフリー<生>」が培ってきた健康性への配慮をさらに進化させるとともに、お客様の選択肢を広げ、新たな飲用層の開拓を図った。
この戦略は当たり、「スタイルフリートリプルゼロ」は発売から約1カ月で販売本数約1000万本を記録。さらに、国際的な食品品評会である「モンドセレクション2026」で優秀品質金賞を受賞し、「International Taste Institute 2026」では優秀味覚賞 1つ星を受賞。「ジャパン・フード・セレクション第97回」の食品・飲料部門では、グランプリを受賞した。「3つの受賞は、とても嬉しい結果。お客様に提供したいとこだわった“おいしさ”を認められたからこそと考えています」(西山氏)
前例のない挑戦に踏み切った理由とは?
「顧客第一主義」が生んだ製法の革新
「しかしその開発は、順風満帆だったわけではありません」と話すのは、「スタイルフリートリプルゼロ」のブランドマネージャーを務める大石彩帆氏だ。健康意識の高いユーザーのニーズに応えるには、いくつもの壁を越える必要があった。最大の壁となったのが、製法をめぐる議論だ。
当初、研究開発部門では、従来商品で培ってきた技術や製造方法を活かしたアプローチを中心に検討していた。糖質ゼロやプリン体ゼロといった価値を維持しながら、ビールと同様の醸造・発酵工程を採用することは技術的なハードルが高く、コスト面も含めて実現性を慎重に見極める必要があったためだ。
一方、マーケティング部門は顧客調査を重ねる中で、健康意識の高いお客様ほど「糖質やプリン体などへの配慮だけでなく、おいしさにも妥協したくない」と考えていることを把握していた。しかし、データだけではその切実なニーズを十分に共有しきれない場面もあった。
そこで、大石氏らは研究所の開発メンバーにも開発初期の試作品を用いたブラインドテストに参加してもらい、実際のお客様の声に触れてもらう機会を設けた。その評価は想定以上に厳しいものだった。試作品は一定の評価を得られると考えられていたが、お客様が求める味わいの水準には遠く及ばず、糖質ゼロやプリン体ゼロといった価値を維持しながら、おいしさも両立させることがいかに難しいかを改めて突きつけられた。
この経験を通じて、マーケティング部門と研究開発部門はお客様が本当に求める価値を共有した。しかし、その価値は従来の延長線上の製法では十分に応えられないことも明らかになった。そこで両部門は何度も議論を重ねた末に、大きな方向転換を決断する。ビールと同様の醸造・発酵工程を採用しておいしさを確保しながら、プリン体ゼロ、糖質ゼロ、甘味料ゼロを同時に実現するという、前例のない挑戦を決意したのだ。
しかし、この挑戦は従来の延長線上では実現できるものではなかった。品質面、製造面、コスト面など多くの課題に直面し、そのたびに試行錯誤を繰り返した。それでも、「身体への気遣いもおいしさもどちらも叶えたい」というお客様起点の考えを軸に、マーケティング部門と研究開発部門は一つひとつ壁を乗り越えていった。
こうして生まれたのが、「スタイルフリートリプルゼロ」だ。従来品の5倍の麦芽を使用し、ビールと同様の醸造・発酵プロセスを採用。プリン体、糖質、甘味料の3つのゼロと本格的な飲みごたえを両立させた。アサヒビールのDNAでもある「顧客第一主義」の下で、マーケティング部門と研究開発部門がそれぞれの専門性を持ち寄り、同じ目標に向かって取り組んだ成果が実を結んだ。
高いリピート率が証明するポテンシャル
今こそ試してほしい「新定番」
発売後の反響は開発陣の期待を大きく超えた。大石氏は「『3つのゼロなのに飲みごたえがある』『おいしくて満足感が高い』といった声を多くいただいています。また、過去の新商品と比較してもリピート率が非常に高いことが分かりました。おいしさにこだわって開発した成果が表れていると感じます」と話す。
「スタイルフリートリプルゼロ」の登場は、糖質オフ・ゼロ系ビール類市場の活性化にもつながっている。これまで糖質ゼロやプリン体ゼロを求めるユーザーの一部は、ハイボールやチューハイへ流れる傾向があった。そこに新たな選択肢が加わったことで、ビール類市場への呼び戻しが進んでいる。また、「スタイルフリートリプルゼロ」の発売によってスタイルフリーブランド全体が底上げされ、シェアの伸長が確認された。
大石氏は開発を振り返り、「マーケティングの原点は、目の前のお客様と真摯に向き合い声を伺うこと。その大切さを、改めて実感しました」と語る。
西山氏も「お客様と向き合うことで、私たち自身の先入観に気づかされました。糖質ゼロやプリン体ゼロなどの健康性への配慮を選ぶお客様も、おいしさへの高いこだわりを持っているという本質を改めて実感しました」と話す。
糖質、プリン体、甘味料をゼロにすることとおいしさは、どちらかを選ぶものではなく、両立すべき価値だと発想を転換したことが「スタイルフリートリプルゼロ」の成功につながった。
一方で、糖質オフ・ゼロ系ビール類の市場には、過去に購入した商品に物足りなさを感じ、ネガティブな印象を持つユーザーが少なくない。大石氏は「『スタイルフリートリプルゼロ』のおいしさには自信があります。まずは1本、試していただくことが重要です」と話す。コンビニエンスストアやスーパーでのサンプリングに加え、割引券やクーポンの提供などで、本商品をトライアル購入してもらう機会を広げていく考えだ。
「スタイルフリー<生>」のおいしさは海外でも評価され始めている。台湾では前年比154%※4の規模で販売を伸ばし、韓国でも好調なスタートを切った。日本以外の国々でも、その価値提供に対する反響が得られていることから、本ブランドの手ごたえを感じている。
※4: 2025年1~7月と2026年1~7月の出荷実績を比較
「『スタイルフリー<生>』は、社内でも『スーパードライ』に次ぐブランドに成長しました。お客様のロイヤルティーも高く、当社の成長を支える重要なブランドとなっています。何よりもお客様に選んでいただいているからこその伸長だと感じています。とても嬉しく思います。今後も満足いただけるモノを提供していきます」(西山氏)
「『スタイルフリートリプルゼロ』は、おいしさと身体への気遣いを同時に実現したいというお客様のニーズに真っすぐ応えるために開発した商品です。健康性への配慮とおいしさを高いレベルで両立した自信作として、さらなるおいしさを追求していきます」(大石氏)