企業が新商品やサービスをローンチするためには、需要の見極めやプロモーション、初期の販売実績づくりなど、さまざまなハードルがある。こうした課題を解決し、一般販売へつなげる手段として、応援購入サービス「Makuake(マクアケ)」を活用する企業が増えているという。Makuakeが注目を集める理由は何か。日経トレンディ元編集長の能勢剛氏が、マクアケの松岡宏治氏と、Makuakeで商品を展開するカドーの金崎泰真氏に話を聞いた。
大手も悩む
「初期ローンチの壁」を
どう突破するか
能勢 私はクラウドファンディング(以下、クラファン)をよく利用しており、先日もクラファンでタブレット用のタッチペンを購入したばかりです。「Makuake」はクラファンとしての認知が高いかと思いますが、改めてどのようなプラットフォームなのでしょうか。
松岡 Makuakeは、単なるクラファンではなく、購入型のクラファンの仕組みを活用した「応援購入」サービスです。事業者の方は、ローンチ前の新商品やサービスなどを、プレローンチのような形でMakuakeにプロジェクトとして掲載することができます。それに興味を示したMakuakeのユーザーは、サポーターとなって「応援購入」し、リターンとしてその商品やサービスをいち早く受け取れる仕組みです。現在Makuakeでは、月間440件以上のプロジェクトが公開されており、四半期で1100万人以上のユニークユーザーが集まるプラットフォームになっています。
能勢 事業者は、どのような目的でMakuakeを利用することが多いのでしょうか。
松岡 新商品・サービスを市場に投入する際、事業者の方には多くのハードルが存在します。例えば、最初の認知拡大をはじめ、前例や実績のない商品を作るうえでの資金確保は容易ではありません。その点、Makuakeをご活用いただければ、一般販売前のプロモーションから資金調達、テストマーケティングなどを、在庫リスクを抑えながら、一般販売の量産前に一気通貫で行えるため、ローンチ前の初期の課題解決につながります。この仕組みに魅力を感じていただき、ご活用される事業者の方が多いですね。
能勢 Makuakeのプロジェクトを見ると、ここで限定的に販売して終わりではなく、その後に一般市場で本格的に展開するケースが多いですよね。その裏側では、ここで得られたさまざまなデータを基に、マーケティング戦略が練られているわけですね。実際にどのような企業がMakuakeを利用しているのでしょうか。
松岡 大手企業からスタートアップまで、幅広い企業にご活用いただいています。グローバルでビジネスを展開する海外企業が、日本市場に初めて商品・サービスを投入する際にご活用いただくケースもよく見られますね。
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これまでに数々の商品がMakuakeからヒットしてきた。「CIOケルベロス(①)」は、デスク周りのケーブルを収納する仕組みが話題に。「Rokid スマートAIグラス(②)」は、知りたい情報が視界で完結する新体験を提示し、日常からビジネスまで作業を効率化する先進性が注目された。岩谷産業の炊飯器「PROGOHAN(③)」は、炊飯器の熱源にカセットガスを使う新発想で人気を集め、「ケルヒャーハンディエア(④)」は、高圧洗浄機を手軽に持ち運べるサイズにしたことで新たな需要を開拓した
能勢 スタートアップが積極的に活用しているイメージはありましたが、大手企業も多数利用しているというのは初耳ですね。
松岡 新規事業を行う際、初期のハードルが高いのは大手企業も同様です。さらに、今までにない斬新なコンセプトの商品を投入する場合、どのジャンルの売り場でその商品を展開すれば良いのかなど、迷うこともあるかと思います。革新的な商品ほど、既存のカテゴリーに当てはまらないケースもあるでしょう。その点、Makuakeのご活用はマーケティング戦略にも生かせます。
例えば、Makuakeで商品・サービスを展開すれば、それに対して「これだけ熱量の高いユーザーが購入し、こういう価値を感じている」といったような、定量だけでなく定性的な面も含めた具体的な実績をつくることができます。このようなローンチ前のデータが得られることで、どのようなユーザーの反応が良いかなども見えてきます。
能勢 企業はブランド調査やイメージ調査を行っていますが、それだけではどうしても消費者の細部にある潜在ニーズなどを捉えきれない面があります。Makuakeは、そういった課題の打ち手になりそうですね。Makuakeで商品を応援購入するユーザーはどのような方が多いのでしょうか。
松岡 幅広い方が利用していますが、中でも、一般的なECサイトでは見つけられないような、最先端のモノを求める方や情報感度の高い方が数多く利用しています。他にも、購買目的はなくとも「何か面白いモノはないか」と、新しいモノとの出会いを求めて訪れる方もいらっしゃいます。
能勢 今までのお話を総合すると、Makuakeは、マーケティングにおける“キャズム(深い溝)”を埋める機能があるのではないでしょうか。マーケティングの領域でよく語られるイノベーター理論では、新商品が普及するプロセスとして、イノベーター、アーリーアダプターという「初期市場」と、その後のアーリーマジョリティ以降の「メインストリーム市場」の間にキャズムがあるとされています。このキャズムを乗り越えることが、商品を普及させるうえで重要とされてきました。
Makuakeには、常に斬新な新商品が並び、訪れるユーザーもアーリーアダプターが多い。それにより、キャズムを埋め、一般市場へ商品を普及させる“橋渡し機能”を担っていると感じますね。
「Makuakeで終わらせない」
一般販売への活用と持続的なブランド成長の実現
能勢 空調家電などを展開するブランド「cado」も、これまでにMakuakeで多数の商品を発表していますよね。
金崎 当社は2011年に設立し、「空気をデザインする」をコンセプトに、空気清浄機や加湿器などの空調家電を展開しています。私たちが言う「空気」とは、物質的なモノだけでなく、心地よい空間から生まれる 、その場の雰囲気や人々の心身までを含む、“美しい空気”を意味します。
能勢 どのようなきっかけで、Makuakeを利用し始めたのでしょうか。
金崎 一般市場に投入する前のテストマーケティングとして活用できないか、と検討し始めたのがきっかけです。私たちは、cadoの商品を通じて「毎日の生活が豊かになった」と実感していただけるような“体験価値”を提供したいと考えていますが、そのためには、商品に込めた思いや細部にまでわたる技術のこだわりなどを、しっかりとエンドユーザーに届けることが重要です。しかし、オフラインの店舗を持たない私たちにとって、それらを伝える手段が多くないことが課題としてありました。
初めてMakuakeに出品したのは、23年9月のワンタッチふとん乾燥機「FOEHN 001」です。当時としては斬新な形状だったため、本当に生活者に受け入れられるか不安もあり、多くの新商品が集まるMakuakeをデビューの場として選びました。結果として、応援購入総額1億5830万円を集め、大きな反響を得られました。
能勢 Makuakeでのプロジェクト成功は、その後の一般販売にどのような好影響をもたらしましたか。
金崎 FOEHN 001を初めて出品した際は、ポジティブな反応が多く非常にうれしかったことを覚えています。「手軽に使えるコンパクトな布団乾燥機を探していた 」「自分用と家族用/プレゼント用で複数購入した 」など、私たちが望んだ体験価値がしっかり届けられていることを実感することができ、自信を持って一般販売へつなげることができました。
また、サポーターから寄せられた「音が気になる」というフィードバックは、次機種での静音モード追加という改良に直接生かされています。Makuakeは単なる販売の場ではなく、ユーザーの皆様と一緒に商品を育てていける特別な場所だと実感しています。
能勢 すでに高い認知度を持つ御社が、今もなおMakuakeを新商品展開の場として活用し続ける理由は何でしょうか。
金崎 一番は、商品に込めた熱量を余すことなく伝えきれる点です。Makuakeで商品を出品する際、事業者側は、商品やサービスの詳細だけでなく、開発背景やストーリーをプロジェクトページに記載する必要があるのですが、この仕組みのおかげで、商品に込めた熱量を余すことなく伝えきることができます。
加えて、従来のインテリアや住環境にこだわりのあるユーザーだけでなく、新しい体験を積極的に求めるアーリーアダプター層にも届き、Makuakeのプロジェクト終了後もプラットフォーム外で認知が広がっている手応えを感じています。
能勢 cadoのオートクリーン加湿器「STEM500H」も、Makuakeで展開した商品の一つですよね。
金崎 これも一般的な加湿器にはない、「1シーズン手入れ不要」という新たなコンセプトを打ち出した商品でした。こちらもありがたいことに好意的なお声が多くてうれしかったですね。特に印象的だったのは、「家族や友人に贈りたい」「理想の加湿器に出会えた」というコメントをいただけたことです。
ワンタッチふとん乾燥機「FOEHN」と1シーズンお手入れ不要のオートクリーン加湿器「STEM 500H」。高いデザイン性と機能性を兼ね備えた両商品は、一般販売に先立ちMakuakeで先行展開され大きな注目を集めた
松岡 Makuakeサポーターの中には、ご自身で購入した商品を気に入って、他の方へのギフトにと、もう1つ購入されるケースはよく見られます。
能勢 一般的なECサイトの口コミを見ると、商品が減点方式で評価されやすく、みんなで良さを伝え合う“共感”が広がりにくい。反対に、まだ世に出ていない新しい商品・サービスを、深く理解したうえで、「応援」という形で購入するMakuakeの仕組みは、ポジティブな感想からリアルな体験談も含め、共感が伝播しやすく、その点も事業者にとって大きな魅力の一つですね。
金崎 今は買い物をするにも、検索すればたくさんの商品情報が出てきますし、AIに商品選定を任せることも可能です。非常に効率的で便利な半面、かつてのような、オフライン店舗にわざわざ足を運び、自分に合うモノを吟味して選ぶ買い物のワクワク感であったり、そのプロセスを経て実際に購入した商品を使う喜びや感動体験などの、購買時の特別な体験価値が希薄になってきているとも感じています。そうした中で、Makuakeは、商品を通じて事業者が伝えたい体験価値を提供できる稀有な場であり、私たちのような店舗を持たないメーカーにとっては、非常にありがたい場所だと感じています。
リアルの場へ進出――
オフラインで創出する
新たな「セレンディピティ」
能勢 今後について、何か計画していることはありますか。
金崎 cadoでは、引き続きMakuakeを通じて暮らしに新たな価値提案をしていきたいと考えています。私たちの商品を通じて、より多くの感動体験を届けていきたいですね。
松岡 Makuakeとしても、今後は“体験価値”を重視した活動を増やしていく方針です。その一つがポップアップストアの出店です。
これまでMakuakeは、オンラインに閉じてきましたが、新しいモノが多いからこそ「実物を見てみたい」という声が多く聞かれました。そこでポップアップストアなどのオフライン施策を増やし、商品と実際に出会えるMakuakeならではの「セレンディピティ」の機会を創出していきたいと考えています。
能勢 Makuakeのポップアップストアは面白いアイデアですね。Makuakeに並ぶモノは、今までにないコンセプトの商品ばかりですから、実物を実際に見てみたいというニーズは多いはずです。ユーザーにとっても事業者にとっても、双方にとっての貴重な体験が得られる場になるのではないでしょうか。
今日のお話を聞いて興味深かったのは、一般的なECサイトとは異なる、Makuake独自の価値です。大手ECサイトは、品物の点数が膨大で、ユーザーにとって便利ではある一方で、一商品の魅力が埋もれてしまいやすい側面があると思います。一方、Makuakeには、商品やサービスの一つ一つに、開発ストーリーやこだわりが色濃く紹介されており、各々が設計した体験価値を提供できる。人は、新しいモノや感動した体験は“共感してもらいたい”と感じますよね。この“共感の輪”が広がる仕組みこそが、ECサイトとは異なるMakuakeならではの独自性であり、オンライン上で新たな購買体験を届ける役割を果たしていく存在であると感じました。
日時:2026年9月19日(土)〜9月30日(水)
場所:渋谷サクラステージ ブルームゲート
9月19〜30日の間、渋谷サクラステージ ブルームゲートでMakuakeのポップアップを開催する。約30品ほどの展示を予定しており、cadoも出展予定だという。Makuakeで展開されている商品を実際に手に取り体験できる、新たな商品とのリアルな出会いの場を提供することで、オンラインでは届かない体験価値と魅力を伝える狙いだ