AIが実際の業務やサービスに深く組み込まれるフェーズを迎えている。日経クロストレンドではそのような事例を集めてセミナー「AIトレンドFORUM」を2026年4月23日にオンラインセミナー(Live配信)で開催した。その中の講演の一つ「『空中戦』から『本質的な議論』へ」でミロ・ジャパンの柳沢良一氏は、チームのメンバーで認識をそろえることの重要性を強調、その議論の過程にAIを使うことで競争力を高めることを提案した。

ずれがないレベルまで具体化させてチームで認識合せ

企業組織の中で企画や新規事業開発、マーケティングに携わっている人たちは、日々いろいろなアイデアを考えたり、記事や動画などさまざまな情報を集めたりしている。そのようなものから情報を紡いで何らかの成果物、例えば企画書や次の業務への指示書を作ることに多くの時間や労力を使っている。「そのような業務を的確に進めるためには、できるだけ早い段階でチーム関係者の認識合せがとても大切です」と指摘するのがミロ・ジャパンでMiro AI活用戦略・推進リードを務める柳沢良一氏だ。

業務を先に進める前にチームの関係者で認識を『揃える』ことをあいまいにしてしまうと、「企画の要件解釈にズレが残されたり、認識違いによる手戻りが発生したりします。業務を的確に進めようとするほど、プロジェクトの初期から認識を『揃える』ことが重要になってきます。そのためには、成果物を『綺麗に作る』前のできるだけ早い段階で、チームのそれぞれが考えているアイデアや想像を具体化して『具体で語る』ようにすることです」。具体的に議論し尽くした成果物を次の業務へ渡すことで、認識違いによる無駄な手戻りが発生しなくなるという考え方だ。

「チームにずれがないレベルまで認識を具体化させる過程を実現させるのがMiroです」(柳沢氏)。

Miroは「揃える」領域を担当し、認識違いによる手戻りを防ぐ

Miroは「揃える」領域を担当し、認識違いによる手戻りを防ぐ

Miroの発売は今から15年前の2011年。関係者がオンライン会議を開くときの作業スペース「オンラインホワイトボード」という性格の製品だった。2025年後半に「AIイノベーション ワークスペース」を掲げ、アイデアの段階から成果物の作成までを業務のチームとAIが連携して進めるソリューションに進化している。

毎日の業務にAIが普通に使われ、さまざまなAIの支援によって業務が加速され、生産性が上がっていると感じることも多いだろう。デザインや設計、実装、執筆、分析などのように業務を『進める』過程でAIが効果的に使われている。MiroのAI利用が特徴的な点は、業務を『進める』前にチームで認識を『揃える』段階でAIを使うことだ。「『進める』段階でAIを使うことは普通のことになりつつあり、他社との差別化が難しくなってきます。これからはチームの認識を『揃える』力が企業の差別化の源泉になります」(柳沢氏)

成果物を『綺麗に作る』前のできるだけ早い段階でアイデアを具体化

成果物を『綺麗に作る』前のできるだけ早い段階でアイデアを具体化

アイデア・情報を基にAI作成のたたき台で議論を具体化

Miroが用意するのは、メンバーがそれぞれのパソコン画面に表示する「キャンバス」だ。拡大・縮小ができる「キャンバス」にさまざまな要素を貼り付け、要素相互の関連付けなどを進めていく。

貼り付けるのはアイデアや記事リンク、動画リンク、テーブル(表)など。柳沢氏は、「これらのような散逸したさまざまな情報から何かしらのアウトプットを作ろうとすると、必ず情報の整理が必要です。これを人が頑張ってやると、整理に時間がかかりぼやっとしたままの状態になってしまい、最終的には声の大きい人の意見になびくという結末になってしまいます。取りあえずやってみて、次の業務に渡してしまい、やり直し、手戻りが発生することにつながる」とこれまでのやり方の問題点を挙げる。

「Miroが提案するのは、AIによる『具体で語るための可視化と型化』です」(柳沢氏)。

Miroが作ったたたき台をもとに、メンバーの認識を議論する

Miroが作ったたたき台をもとに、メンバーの認識を議論する

柳沢氏によれば、Miro上のあらゆる情報——断片的なアイデアや多様なフォーマットの情報——はAIが理解すべき『コンテキスト』に変わる。それらを繋ぎ合わせ、LLMを選択してプロンプトを実行すれば、カオスな情報から一瞬で具体的なプロダクトの種が姿を現す。

「AIによって、散逸していた情報が文脈として紡がれ、具体的なたたき台が生まれます。同時にこの過程がキャンバスの上に残るので合意形成の過程が見える。このため具体的に進めやすい。物事が加速し、さらに認識のズレによるやり直しがなくなります」(柳沢氏)。

このようにしてアイデアや情報から、AIに指示してマインドマップ的な図、テーブル、企画書、画像などのアウトプットを作ることができる。どれも人の手で編集が可能だ。そのアウトプットにほかの情報を組み合わせて、新たなプロンプトでAIに指示を出すことで、次のアウトプットを作るという流れができる。「物事の進みが圧倒的に早くなり、 議論の解像度が高くなる」効果があるという。

MiroのAI利用は最終成果物を作ることを目的にしていない。柳沢氏は、「Miroは、Miroが作ったたたき台をもとに、メンバーの認識を議論する場です。議論し尽くすことで、メンバーが考えている正しい意図を次の業務の人たちに伝えることができます。そのための企画書や指示書の内容が具体的になるので、手戻りが防げます。さらにそこまでにかかる時間が短くなります」ということを強調している。

集合知や暗黙知を集め、ノウハウをプロンプトに仕込む

柳沢氏は講演の中で、Miroを活用すると組織として実現できる3つの大切なポイントを挙げた。一つ目は「情報の文脈化」、二つ目は「共創の型」、三つ目は「プロセスの資産化」だ。

一つ目の「情報の文脈化」は、アイデアや集めた情報は基本的にはそれぞれが発散傾向だが、Miroのキャンバスに置いて相互を関連付け、さらにAIとプロンプトでアウトプットを作ることだ。この過程が人とAIの共創によって実現されるということが、二つ目の特徴「共創の型」だ。三つ目の「プロセスの資産化」は、これら2つのプロセスがキャンバス上に残り、AIのプロンプトも残るので、共通の認識を得るまでの議論過程がブラックボックスにならないということだ。プロセスの資産化が進み、次の議論に生かすことができる。

柳沢氏によると、Miroは「ヒトとAIが集って揃える場所」だと言う。

Miroが作ったたたき台をもとに、メンバーの認識を議論する

Miroが作ったたたき台をもとに、メンバーの認識を議論する

「Miroはキャンバスです。そこにはさまざまな情報を載せることができます。企業のみなさんは、集合知や暗黙知の大切さをよく言葉にされます。それらをどんどんとキャンバスの上に置いていく。集合知をキャンバスに置いていく。さらにみなさんのノウハウをプロンプトに仕込んでいく。『Canvas as the Promput』が、Miroが大切にしているメッセージです。Miroはそのようなことを実現する場(ワークスペース)です」(柳沢氏)。