AI × デザイン / 電通デジタル
広告から都市まで、AIが変えるデザインの未来
「AI×デザイン」のプラチナセッションに登壇したのは、dentsu Japan デピュティ チーフ・AI・オフィサー兼電通デジタル 執行役員 CAIOの山本覚氏だ。タイ訪問はこれで5回目になるという山本氏は、「自分はデザイナーではなく、AIの専門家という立場からデザインとは何かを一緒に考えたい」と切り出し、広告制作からフィジカルな体験、未来予測まで、AIがデザインを拡張する領域を段階的に紹介した。
AIでバナーも動画も。広告デザインの現在地
dentsu Japan
デピュティ チーフ・AI・オフィサー 兼
電通デジタル
執行役員
CAIO
山本 覚氏
東京大学松尾豊教授のもと人工知能を専攻。2013年にデータアーティスト株式会社を設立し、2023年に電通デジタルと合併・参画。AIとビックデータを活用し、広告の自動生成、広告効果の予測、CROやSEOなど、多数のデジタルマーケティングサービスを提供。主な著書『売れるロジックの作り方』(宣伝会議)、『AI×ビックデータマーケティング』(マイナビ出版)など。
電通はアジア最大級の広告会社としてタイにも拠点を構えており、山本氏はセッションを通じて、日タイ双方のビジネスパーソンに向けてAI活用の最前線を伝えた。
最初に取り上げたのは「AI×グラフィックデザイン」だ。電通は広告会社として、AIを活用したクリエイティブ生成から配信後のパフォーマンス予測、改善までを一つのサイクルとして統合し、従来より高い広告効果を狙う取り組みを進めているという。
具体例として紹介したのが、サンフランシスコ発のユニコーン企業Luma AIとの協業だ。ブランドガイドラインやカラーパレット、ロゴをアップロードするだけで商品画像を生成し、季節ごとのバリエーションやSNS投稿、看板、店頭用など多様な形式に展開できるという。山本氏は「これはソロアートではなく、他のクリエイターと一緒にコラボレーションできる」とし、裏側ではクリエイティブの品質を数理的な学習手法でコントロールしていると説明した。
実際のバナー生成プロセスも披露した。白紙のページからAIとの対話でバナーの構成を計画し、複数のバリエーションを生成、AI生成バナーと実際の商品画像を比較しながら精度を高めていくという。「AI生成バナーは時々正確さに欠けることがある」と課題にも触れつつ、静止画だけでなく動画も同様の手法で生成できることを、実際の映像を交えて紹介した。「これは撮影されたものでも、静止画から作られたものでもない。すべてAIによって生成されている」と述べ、映像品質がゲーム映像に迫るレベルに達していることを示した。
リアルの価値高まる、AI×体験デザイン
続いて話題は「AI×体験デザイン」に移った。山本氏は、AIとの対話に多くの時間を費やす人が増える中で、AI自体が新しいメディアになりつつあると指摘する。「人々がAIと話す時間が増えるほど、フィジカルな体験の重要性に気づくようになる。デジタルだけで十分なら、皆さんはここに来ていないはずだ」と語り、リアルの価値が相対的に高まっていくとの見方を示した。
技術的な観点では、フィジカルな世界を検出しデジタルで表現する段階から、メタグラスに代表される半物理・半デジタルの「バーチャルリアリティ」、さらにロボティクスのようにフィジカルな世界へ出力する段階へと、AIが進化していく道筋を説明した。
AWS Summit Londonでロボットと共に登壇した体験を交えながら、フィジカルAIが日常に浸透しつつある現状を伝えた。その際、バッテリー搭載機器であるロボットは発火リスクの観点から航空機への持ち込みが難しく、海外展開には物理的な輸送ハードルが存在することを指摘した。だからこそ、AIという「ソフトウェア(頭脳)」のみ国境を越えて連携し、ハードウェアであるロボット自体は各国で現地生産して稼働させる仕組みや、それを支える新しいサプライチェーン・運輸の構築が、今後のフィジカルAI普及において極めて重要になるとの見通しを示した。
AWSとの協業事例も紹介した。シンガポールのAIイノベーションハブでは、描いたラフスケッチをAIが商品画像に変換したり、センサーを用いて来場者の心拍などの生体情報を検知し、それに応じて店頭のバナーをリアルタイムに変化させたりする取り組みを進めているという。
さらにスポーツ観戦などのライブ体験について、リアルな体験をどこまで楽しめるかという「高さ」、より多くの人と体験を共有できる「広さ」、著名人やキャラクターとの交流をどれだけ記憶に残せるかという「深さ」という3つの軸で拡張を図っていると述べた。すでに多くのテレビ番組がボールの軌道の可視化や観客の感情表現の分析にAIを活用しているが、それはあくまでスタジアムにいる観客向けにとどまるとし、バーチャルリアリティを使ってより多くの人にリアルな体験を共有していく必要があると強調した。
こうした発想はスタジアムだけでなく、都市そのものを体験としてデザインするプロジェクト「Think the Live, Think the City」にもつながっているという。
「意志」が導く、AIと共につくる未来デザイン
最後のテーマは「フューチャーデザイン」だ。山本氏は、未来を考える学問「フューチャロジー」の起源が単なる議論に過ぎなかったことに触れつつ、2018年のGoogle検索アルゴリズムの精度向上を境に、AIが文書の意味を理解し始めたと振り返った。当初のAIは理解するだけだったが、今では対話を通じて「コグニティブ・フォーサイト」、すなわち単なる予測にとどまらない未来の探索が可能になったと説明する。「未来は一つではない。私たちは未来をデザインすることができる」とし、AIの力を使って予測するだけでなく、共に未来を描いていくことの重要性を強調した。
自身もAI関連の学術論文を収集し、AI開発のロードマップや産業・生活への影響を分析するシステムを開発しており、現在論文を執筆中だと明かした。あわせて、そうしたシステムを使うだけでなく、未来のニュースを容易に把握したり、著名な未来学者の思考を模した専門家AIと対話したりすることで、より明確な未来のイメージを持つことができると付け加えた。
講演の締めくくりで山本氏は、「デザインとは、考え方の絵を描くこと、振る舞い方の絵を描くこと、そして未来の絵を描くことだ。AIはそれを実現する力を与えてくれる」とまとめた上で、「しかし最も重要なのは、それを実現したいというあなた自身の意志だ」と語り、「Will to design、未来を変えようとする意志こそが、最も大切なものだ」と会場に呼びかけて講演を終えた。


