SYNC Design & Innovation in SITE 2026 2026.06.26 パラゴンホール

Event Review

AI × デザイン / 川田 十夢 × フォーデジット

AIで広がる創造性、デザインの役割は変わるのか

グローバル・ステージでの「AI、クリエイティブ、共創と拡張」と題したセッションでは、株式会社フォーデジット代表取締役CEOの田口亮氏と、開発者の川田十夢氏が対談した。田口氏はUXデザインコンサルティングとサービスデザインを軸に、タイの6大学に教育プログラムを提供。川田氏はデジタルでエンターテインメントの領域を拡張する活動を続け、近年は生成AIを使った映像・音楽制作に取り組む。生成AIを使った映像制作の舞台裏や、体験デザイン教育の実践、デザインの枠を超えた社会実装の可能性を語り合った。

AIで生まれたオープニング映像の舞台裏

川田 十夢氏(右)

開発者。10年間のメーカー勤務で特許開発に従事したあと、2009年から開発ユニットAR三兄弟の長男として活動。芸能から芸術、ひみつ道具から学研の科学、プラネタリウムから美術館、六本木ヒルズから乃木坂46に至るまであらゆる領域を拡張。WIREDにて巻末連載、J-WAVE『SYNCREATE』が放送中。近年では、映像と音楽をひとりで作り、鉱脈や水脈などの作品がバズっている。

フォーデジット
代表取締役 CEO
田口 亮氏(左)

2000年代から大手企業Webサイトを中心にディレクション・クリエイションを数多く手がけ、その後デジタルデザインの業界にいち早くリサーチを取り入れUXデザインを推進。リサーチサービスを提供する子会社を設立しSaaS企業としてプライム上場企業へ子会社化、現在も兼務で取締役。ユーザー中心のサービスデザインに注力し、東南アジア各国へ展開。沖縄のシングルマザー支援、タイでのデザイン教育など、社会課題に対する活動も行う。UXデザインエキスパート。HCD-net評議委員。一般社団法人Every Star Story理事。

 冒頭では、来タイ5日目だという川田氏がスーパーで目にしたトイレットペーパーのパッケージにまつわるエピソードが披露され、笑いが起きる和やかな雰囲気で対談は始まった。

 対談はまず、会場で流れた川田氏が音楽と映像を一人で手がけたオープニング映像の制作過程から始まった。川田氏は「日本とタイという2つの文化の違いを1つの音でまとめようとした」と話し、タイの映像は日本へ、東京の映像はタイへ向かう構図をルールとして設定したと明かした。さらに「タイのシーンではタイの楽器を使う、日本のシーンでは日本の楽器を使うというルールを決めて、それをプロンプトにした」と説明し、音と映像を同時に作り上げる感覚で制作を進めたという。

 音楽制作の手順についても具体的に語った。まず口笛で主旋律を固め、そこに楽器を当てはめたものを生成AIに渡してアレンジを加えてもらい、違和感のある部分を間引いていくという。映像の画風については、以前手がけた楽曲で使ったピンクを基調とした世界観に、タイのフレーバーを重ねて統一感を持たせたことも紹介。映像の細部についても、蓮台や街を飛ぶ鳥の動きに至るまで川田氏自身がすべて指定し、ブラッシュアップを重ねて完成させたことを紹介した。田口氏から「映像をもっと長くしてほしい」と要望を受け、本来22秒だった曲を伸ばしたという裏話も披露され、会場を和ませた。

「問いを問う力」を育てる体験デザイン教育

 続いて話題は、田口氏がタイの大学で展開する教育プログラムに移った。田口氏は、完成物を前提に「これを作ってほしい」という発注型のデザインではなく、ユーザーの生活や課題を深く理解した上で必要なものを見出していく「体験デザイン」への転換を、大きな変化として位置づけている。国際標準規格のデザインプロセスを土台としながら、ユーザーとの対話やリサーチを通じて課題を発見し、解決策を提案するプロセスを重視しているという。

 田口氏は「課題に対して、自分たちではこうだと思っていても、本当にそうなのかという、問いを問う力が大事になる」と述べ、AI時代だからこそこの力が一層重要になると指摘した。何かを尋ねれば答えが返ってくるAIの時代は、平均的な答えに流されやすいからこそ、問いを立てる側の姿勢が問われるというのだ。

[画像のクリックで拡大表示]

タイで進める体験デザイン教育

フォーデジットはタイの大学と連携してデザインに関する実践型教育プログラムを展開している

 これに対し川田氏は、生成AIの役割を「経験のバッファ」という言葉で表現した。「AIは時間をかけたらいずれ分かることを、すぐに分かるようにしてくれる。ただし、すぐ分かるということが分かっていないと、時間をかけても結局は分からない」とし、AIを使いこなす前提として本質を見抜く経験や感覚の重要性を強調した。デザインやプログラミングを長く突き詰めた人間だけが得られる「何でもできる」という万能感を、大学教育の段階から学生に持たせたいという田口氏の思いにも、川田氏は深く共感を示した。

デザインの枠を超え、日タイ共創へ

 対談後半では、両氏がデザインという従来の概念を超えた活動について語り合った。田口氏は「Design Beyond」というテーマのもと、デジタル以外の領域を巻き込んだデザインコミュニティづくりや、沖縄のシングルマザー支援といった社会課題解決のデザイン、マレーシアのスタートアップへのアクセラレーション型のデザイン支援、国のデータを地域に還元する防災の取り組みなどを紹介した。川田氏はこうした活動に共感を示し、「価値が何かに触れる体験が増幅した、という伝わり方になるから、頼む方もそういう頼み方になる」と、自身が「拡張する」という言い方にこだわる理由を語った。

 話題はタイの交通渋滞問題にも及んだ。川田氏は子どもの頃、集合住宅のエレベーターの利用パターンを観察していた経験を引き合いに出した。人びとの生活パターンから、時間帯ごとの利用傾向がある程度読めることに気づき、管理人にその活用を提案した思い出を語った。同じ発想はリアルタイムのデータや曜日・時間帯ごとの混雑傾向にも応用できるとし、信号ごとの制御に反映させる可能性を提案した。田口氏も「人の行動パターンや感情も、その体験づくりに影響してくる」と応じ、気持ちよく移動できる体験を目指すこと自体もデザインの領域だとの認識を共有した。

 「AR三兄弟」や「開発者」といった自らの肩書きについて問われた川田氏は「もうただの天才ですと言って、天才なら何でも頼んでくださいということにしちゃった」と笑いを誘いつつ、職業を一言で語ろうとすると活動の幅が狭まってしまうという実感を明かした。田口氏も、デザイン会社という言葉だけでは自分たちの活動を捉えきれない難しさに共感を示し、肩書きにとらわれず多様な役割を担う姿勢の大切さで意見が一致した。

 最後に両氏は、来年に日タイ国交140周年を控える中で、交流をさらに深めたいとの意向を示した。田口氏は「タイにいると可能性を感じる。活気があるし、日本との関係も深い。もっといろんなことが一緒にできたらいい」と述べ、来年の節目に向けて新たな機会をつくりたいと語った。川田氏が「交通渋滞に我々が取り組む」と実験的な挑戦を提案すると、田口氏もスマートシティ関連のプロジェクトをバンコクで生かす可能性に触れ、今後の協働に期待を寄せて対談を終えた。

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川田十夢 公式サイト
https://ar3.ai/

フォーデジット
https://www.4digit.com/