SYNC Design & Innovation in SITE 2026 2026.06.26 パラゴンホール

Event Review

経営 × デザイン / JETROバンコク×フォーデジット

交通渋滞さえ変える、体験デザインの可能性

「経営×デザイン」を語るセッションに登壇したのは、JETROバンコク次長の山崎牧子氏と、フォーデジット取締役COOの末成武大氏だ。山崎氏は経済産業省で法改正やヘルスケア、大阪・関西万博などを20年以上担当し、2025年夏からJETROバンコクに出向している。その間、デザインやクリエイティブ領域の人々との交流から多くの刺激を受けてきたという。末成氏は東京のほかバンコク、ハノイ、クアラルンプールに拠点を持つデザイン会社フォーデジットで、国内外の事業を統括している。

JETROバンコク、アジア最古の絆と役割

JETROバンコク
次長
山崎 牧子氏(右)

2003年、経済産業省入省。産業組織課、メディアコンテンツ課、産業再生課、ヘルスケア産業課などを歴任し、法改正、産業政策、万博推進など幅広い分野を担当。商務・サービスグループ ヘルスケア産業課課長補佐として、健康経営の推進やヘルスケア産業の振興に従事。2025年より現職。

フォーデジット
取締役 COO
末成 武大氏(左)

スタートアップ企業やNTTデータグループを経て、2014年にフォーデジットに入社。2021年に取締役COOに就任し、現在は事業統括責任者としてデザインコンサルティングおよびマネジメント業務に従事。タイ・ベトナム・マレーシアを中心とする東南アジアでの事業も管轄。サービスデザインコンサルタントとして、ビジネス・サービスの構想段階からプロジェクトに参画。東南アジアや中国でのリテールプロジェクト、インドネシアでのモール開発・金融プロジェクト、スタートアップ企業のアクセラレーションなどアジアを中心に幅広い活動を展開。iF Design Award、IDEA、A' Design Award、グッドデザイン賞など、国際的な各種デザインアワードを受賞。

 山崎氏はまず、JETRO(日本貿易振興機構)の組織概要を紹介した。戦後、日本企業が世界市場へ進出するための海外市場調査からスタートしたJETROは、国内47都道府県に加え、世界56カ国76事務所のネットワークを持つ(2025年4月1日現在)。中でもJETROバンコクは2024年に70周年を迎え、海外ではニューヨークに次いで2番目に古く、アジアでは最古の事務所だという。

 組織のミッションを「Connecting with the world. Together, we move forward.」と紹介し、イノベーション創出・海外進出支援・農林水産物の振興・調査事業の4本柱で活動していると説明した。

山崎 牧子氏

 続いて末成氏が、フォーデジットの事業概要を説明した。サービスデザインの領域で新規事業創出を支援する同社は、リサーチを重視し、生活者が何を思い、何に課題を感じているかを正しく理解した上で解決策をデザインに落とし込むプロセスを大切にしているという。ビジネス創出、企業のミッション・ビジョン・バリュー策定、従業員体験、消費者向けサービス改善、ブランディングまで幅広く手がけ、金融系アプリなどのデザインを中心に、国際的な賞を80以上受賞していることも紹介した。

感情をAIで可視化、体験デザインの実装例

 対談では、デザイン経営を実践する具体的な事例が紹介された。山崎氏は「デザインというと商品の見せ方や表現力と捉えられがちだが、デザイン経営は経営の最初の段階からデザイナーが伴走し、顧客価値そのものを共に作っていく考え方だ」と説明し、経済産業省が2018年に打ち出した「デザイン経営宣言」にも触れた。

 これを受けて末成氏は、フォーデジットが十数年にわたり蓄積してきた定性調査データを基に、AIでペルソナを生成するプラットフォームを紹介した。個人情報を取り除いた形で人々の感情データを蓄積し、条件を入力すると、その条件に合った人物像が生成され、クレジットカードの好みや買い物の同行者などについて、あたかも本人であるかのように回答するという。「定性的な回答を何百人、何千人分と集約し、定量的に分析できる」のが特徴だと述べた。

末成 武大氏

 さらに、国が提供するオープンデータを活用し、バンコクの繁華街アソーク周辺の街並みをゲームエンジン上に再現し、人の移動をシミュレーションする取り組みも披露した。山崎氏が「これによって、ビジネスで人がどう動くかが分かり、それを前提に顧客体験を設計できる」と指摘すると、末成氏は、出店候補地の人流や、店舗の商品と利用者層のマッチングなどを踏まえて出店可能性を検証し、ショッピングモール全体の最適化にも応用できると付け加えた。このシミュレーションは、店舗という空間の中での人の動きを捉えるレイヤーと、街全体に波及する人の流れを捉えるレイヤーとを重ねる形で構築されており、用途に応じて異なるスケールの検証ができるよう設計されているという。

人の動きを可視化し、街の未来をシミュレーション

交通渋滞を行動変容で抑える

 話題は交通渋滞にも及んだ。末成氏は、日本国内でも渋滞が深刻な地域があるとし、「もし、退勤時間帯にサウナのクーポンがもらえれば、渋滞を避けてサウナで時間を過ごそうという人も出てくる。何もなければ、皆が同じタイミングで帰ってしまう」と、行動変容を促すちょっとした仕掛けの重要性を語った。

 さらに、調査で分かった一例として車内でファストフードを食べながら帰宅する人に「座って食べれば安くなる」と促すような工夫も挙げ、大掛かりな道路改修だけでなく、人の思考特性に合わせた行動変容の設計にもシミュレーションを活用できるとした。

 末成氏は、こうしたプラットフォームの意義を「本来は膨大な投資をしなければ分からない問いを、大幅に低いコストで手軽に検証できる点にある」と位置づけた。従来は統計データを分析しながらExcel上で仮説を立てるなど、デジタルではあるもののどこかアナログなやり方に頼らざるを得なかった部分を、可視化することで誰もが直感的に理解できるようにしたのが今回の取り組みだという。

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AIと都市シミュレーションを組み合わせ、人の行動を可視化

人々の属性・心理・行動に関するデータを基にAIで人物像を生成し、ゲーム空間に反映。都市の中での人の動きをシミュレーションし、出店や人流などの可能性を検証する

 あわせて、シミュレーションとして可視化することで、経営者やチームの目線合わせがしやすくなり、手触り感のある意思決定を後押しできるとし、「これもデザインの力だ」と語った。山崎氏も「見える化された状態で戦略を考えるのと、数値の資料を読み込みながら考えるのとでは、意思決定のハードルがまるで違う」と応じ、東京の事例をもとに、赤信号による停止時間が延びた場合の経済損失や、そこから生まれる新たな機会を可視化する手法をタイ政府にも提案したいとの考えを示した。

 最後に山崎氏は、着任後に感じたタイの人々の高いクリエイティビティに触れ、「経営×デザインという分野は、日本企業とタイの皆さんが比較的低いハードルで一緒に取り組める領域ではないか」と述べた。イノベーションは越境するところで生まれるとの考えを示し、日本とタイの掛け合わせから生まれるものも多いはずだと期待を語った。その上で、日本とタイをつなぐJETROの役割として、協業機会があれば気軽にJETROスタッフに問い合わせてほしいと呼びかけて対談を締めくくった。

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