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Event Review

ファイナンス × デザイン / アユタヤ銀行

日タイ共創が生む新たな可能性

日本の技術や品質をそのまま海外へ持ち込むだけでは、現地で選ばれる事業にはなりにくい。必要なのは、タイの創造性や発信力、市場への理解と掛け合わせることだ。アユタヤ銀行のスーブシット・サーンティサート氏は、不動産、交通開発、食品、環境技術などの事例から、日タイ企業が互いの強みを生かして新たな市場をつくる方法を語った。

日本とタイの強みを掛け合わせる

アユタヤ銀行
グローバルビジネスシナジー担当ディレクター
スーブシット・サーンティサート氏

10年以上の多文化マネジメント経験を持つ、受賞歴のある国際ビジネス開発の専門家であり、特に「ASEANビジネスアワード」や「日タイ大使賞」を受賞したことで知られています。東京大学で国際協力学の修士号を取得。政府機関やフォーチュン500企業から、中小企業、スタートアップまで、700以上の組織のリーダーにアドバイスを提供し、10カ国以上で数十億ドル規模の取引やグローバル展開を支援してきました。現在、アユタヤ銀行 PCL(世界最大級の金融グループであるMUFGのグループ企業)にて、グローバルビジネスシナジー部のディレクターを務めています。日本とASEANの投資に関する専門知識を活かし、同地域最大のスタートアップ向けビジネスマッチングプラットフォームである「日ASEANスタートアップビジネスマッチングフェア」を共同創設し、主催しています。

 アユタヤ銀行は、タイ市場への深い知見を持つローカル銀行であると同時に、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の一員でもある。スーブシット・サーンティサート氏は、同行を「タイのローカルな専門性と、MUFGのグローバルネットワークを融合した共創の成功例」と表現する。

 日本への留学経験を持つスーブシット氏は、これまで500社以上の日本企業や政府機関に対し、タイやASEANへの進出を支援してきた。日本とタイの関係は長く、タイには多くの日本人や日本企業が集まり、日本食も広く浸透している。一方、近年ではタイ企業による日本への投資や、ホテル、飲食事業などの進出も増えている。一方向の投資先ではなく、互いに市場へ参入する関係へ変わりつつあるのだ。

 日本企業の海外展開をけん引する産業も、自動車、家電、食品、アニメや漫画などのコンテンツへと広がってきた。現在は、スタートアップや新技術を軸とする「イノベーション」の段階に入っているという。

 ただし、日本の技術や商品をそのままタイへ移せば成功するわけではない。スーブシット氏が挙げた日本の強みは、標準化、改善、品質管理、技術力である。対するタイには、SNSを活用した発信力、ASEAN市場への展開力、柔軟で創造的な発想がある。

 「日本のイノベーションと、タイのクリエイティビティを掛け合わせることで、強い相乗効果が生まれます」

 どちらか一方の方法へ統一するのではなく、異なる強みを補完させることが共創の出発点になる。

技術を現地の課題へつなげる

 アユタヤ銀行は、過去10年間で3000組以上の日本企業とタイ企業のマッチングを支援してきた。

 日本の技術をタイの課題解決へつなげた例の一つが、不動産分野である。限られた面積を有効活用する日本の住宅技術や空間設計を取り入れ、タイの不動産開発会社との合弁事業につなげた。鉄道駅を中心に街を開発するTODの領域では、日本が持つ駅構内、地下街、高架下の商業開発ノウハウが、タイの交通インフラ整備に活用されている。

 ESG分野でも、日本の環境技術をタイの工場へ導入し、二酸化炭素の削減やクリーンな生産環境の構築を進める事例が生まれている。

 これらに共通するのは、技術の紹介自体を目的にしていないことだ。不動産、交通、環境など、タイ企業が抱える具体的な課題に、日本の技術を結び付けている。

 一方、日本の商品やサービスをタイで広げるためには、現地に合わせた再設計が欠かせない。日本の飲食店がタイへ進出した際、麺の太さや味付けが現地の嗜好に合わず、苦戦した例があった。そこで、タイらしいスパイスやトッピングを取り入れると、人気商品へと変わった。抹茶を使った飲料でも、タイのココナッツウォーターと組み合わせることで、新しい市場を生み出した事例がある。

 高齢者施設では、日本式のサービスをそのまま導入するのではなく、リゾートホテルのような空間やアクティビティを取り入れ、タイの利用者が快適に過ごせる体験へと転換した。ローカライズとは、言語や味を調整するだけではない。誰が利用し、何を心地よいと感じ、どのような生活文化を持つのかを理解し、商品、空間、サービス全体を再設計することである。日本の品質を守りながら、タイの感覚を取り込む。その過程で、元の商品にはなかった新しい価値が生まれる。

共創を成功させる5つの条件

 スーブシット氏は、日タイ共創を成功させる条件として5つのポイントを示した。

 一つ目は、グローバルな視点を持ちながら、現地のニーズに合わせて行動する「グローカル」の姿勢である。

 二つ目は、市場と消費者の変化を継続的に把握すること。過去の成功体験や古い市場情報に頼れば、現在のニーズを見誤る。

 三つ目は、信頼できるパートナーと組むことだ。海外市場では、制度や商習慣、顧客との関係を一社だけで理解するのは難しい。単なる取引先ではなく、互いの強みを生かして長期的に成長できる相手が必要になる。

 四つ目は、異なる文化や価値観を理解する多文化マネジメント。五つ目は、商品やサービスを現地の文化と暮らしに合わせて最適化するローカライズである。

 アユタヤ銀行とMUFGは、市場参入の支援、新規事業の共創、信頼できるパートナーとのマッチング、世界各地のネットワークへの接続を通じて、企業同士の協業を支えている。銀行の役割は、融資や決済だけではない。企業の技術や課題を理解し、互いに補完できる相手を結び付け、新しい事業が生まれる環境を整えることにもある。

 「一社だけで進むことには限界があります。信頼できるパートナーと互いの強みを掛け合わせることで、より遠くへ成長できます」

 アユタヤ銀行自身も、タイ市場への理解とMUFGの国際的な基盤を組み合わせることで成長してきた。日本の技術や品質に、タイの創造性や柔軟性を重ねる。違いを障壁ではなく、新しい価値をつくる材料として生かすことが共創の本質だ。

 日本のイノベーションとタイのクリエイティビティが出合うとき、一方通行の海外進出ではなく、両国から新しい事業を生み出す関係が始まるのである。

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