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Event Review

ライフスタイル × デザイン / サイアム髙島屋タイランド

百貨店は暮らしを映す舞台になる

百貨店におけるデザインとは、売場や内装を美しく整えることだけではない。商品、空間、接客を通じて、どのような暮らしを提案するかを考えることである。サイアム高島屋/アイコンサイアム デパートメントストア代表の奥森淳誌氏は、「用の美」「保存と再生」「SLOW OVER FAST」といった考え方から、人を起点に百貨店の体験をつくる方法を語った。

長く愛される美しさとは

サイアム髙島屋タイランド
取締役社長
奥森 淳誌氏

1991年株式会社髙島屋入社。再開発計画室やMD本部、経営戦略部等で多角的な知見を養い、2020年にタイへ赴任。2022年より現職。徹底した顧客視点に基づき、コロナ禍の苦境からサイアム髙島屋の業績回復と収支改善に尽力する。昨年11月に開業7周年を迎え、現在は次なる成長に向けた店舗の付加価値向上に注力。タイと日本の自治体や文化をつなぐ舞台装置としての店舗づくりを目指している。

 百貨店は、商品を並べて販売するだけの場所ではない。空間やサービスを通じて、顧客にどのような暮らしを届けるかを考える場所である。サイアム高島屋/アイコンサイアム デパートメントストア代表の奥森淳誌氏は、セッションのテーマを「暮らしをデザインすること」と表現した。

 高島屋は1831年に京都で創業し、2031年に200周年を迎える。パリ万博への出展や海外商品の紹介を通じて、日本と世界をつなぐ役割を担ってきた。現在はシンガポール、上海、ホーチミン、バンコクなどにも店舗を展開している。

 高島屋とタイの関係を象徴するのが、1950年にタイから日本へ贈られ、高島屋の屋上で親しまれた象のエピソードだ。

 「私がここにいるのも、タイから来た象のおかげです」

 奥森氏はそう語り、サイアム高島屋が長年の交流の先に生まれた店舗であることを紹介した。高島屋が掲げる考え方は、「いつも、人から」と「 ”変わらない” のに、新しい」の二つである。前者は、人や関係性をすべての事業の起点とする姿勢を示す。後者は、守るべき価値を残すために、時代に応じて変化し続けるという考え方だ。

 その思想は、奥森氏が考える「美しさ」にも表れている。目指すのは、派手で豪華な空間ではない。

 「長く愛され、飽きがこない。いつもそばにあって、疲れず、快適で、癒やされる。そうした美しさをつくりたいと考えています」

 訪れた瞬間の驚きだけでなく、自然に長く過ごせることを重視する。百貨店の価値を、目新しさや装飾の豪華さだけで測らない姿勢である。

「用の美」と保存・再生

 奥森氏がもう一つ重視するのが、日本の美意識である「用の美」だ。鑑賞するためだけの美ではなく、日常の中で使われることで増していく美しさを指す。

 服や器、生活雑貨は、売場で美しく見えるだけでは十分ではない。繰り返し使われ、暮らしになじむことで愛着が生まれ、やがて生活や身体の一部のような存在になっていく。

 「愛着を持って日々の暮らしに溶け込む商品やサービスを、お客様と共有したいと思っています」

 サイアム高島屋では、日本のファッションや雑貨、キャラクター商品、寿司やとんかつ、うなぎなどの食文化をタイの顧客へ紹介している。ただ日本の商品を持ち込むのではなく、タイで暮らす人が日常の中で楽しみ、長く愛用できる形で届けることが重要になる。

 既存の価値を読み直し、現代の暮らしにつなげる姿勢は、東京・日本橋高島屋の再生プロジェクトにも表れている。

 歴史ある建物は、天井の高さや耐震性などを考えれば、壊して建て替える方が効率的だった可能性もある。しかし、高島屋は建物を保存しながら新しい機能を加える道を選んだ。既存の意匠を新しい建物にも引き継ぎ、商業施設やオフィスを組み合わせた街の機能をつくった。

 「壊して新しくつくるのではなく、保存して再生する。そこに『伝統と革新』という考え方が残りました」

 老舗企業にとっての革新は、過去を否定することではない。何を残し、何を変えるかを見極め、受け継いだ価値を新しい文脈で生かすことである。

時間と人が店舗を完成させる

 利便性やスピードが重視される小売業に対し、奥森氏は「SLOW OVER FAST」という考え方を提示した。

 「速いことが悪いわけではありません。ただ、速くなくてもよいのではないか。ゆっくり考え、時間を楽しむことも提案したいと思っています」

 ここでいうスローとは、サービスを遅くすることではない。家族と過ごす時間、物や人を愛でる時間、誰かと体験を共有する時間を大切にすることだ。

 オンラインで効率的に買い物ができる時代だからこそ、実店舗には商品を入手する以上の価値が求められる。空間を歩き、商品に触れ、食事や会話を楽しみ、予定していなかったものと出合う。百貨店は、そうした時間を通じて暮らしの豊かさを提案できる。

 ただし、優れたコンセプトや空間だけでは、店舗の体験は完成しない。

 「最後に実現するのは、人の手と人の心です」

 サイアム高島屋のスタッフは、複数の言語で顧客を迎え、日々の接客を担う。マニュアルを実行するだけでなく、店舗の考え方を理解し、自らの行動として表現することが求められる。

 設計者や経営者だけでなく、売場のスタッフや取引先など、関わる人が同じ思いを持って動くことで、初めて空間とサービスが一つの体験になる。

顧客が主役になる舞台

 海外で店舗を運営するうえで、奥森氏が大切にしている姿勢が「Be neutral」である。

 日本の百貨店の方法をそのままタイへ持ち込むのではなく、現地の暮らしや人々の工夫から学ぶ。自分の常識と異なる光景に出合ったときは、すぐに評価せず、一度ニュートラルな位置へ戻り、この場所にふさわしい方法を考える。

 日本らしさを一方的に見せるのではなく、日本とタイ、それぞれの文化が自然に出合える場所をつくる。そのためには、一つの価値観を押し付けない空間が必要になる。奥森氏は、百貨店を白く、何も決めつけていない「ステージ」に例えた。

 「私たちはただの舞台です。お客様や取引先の皆さんが、俳優であり、女優なのです」

 百貨店側が唯一の楽しみ方を決めるのではない。ファッションや料理、映画、音楽、手芸など、多様な関心を持つ人々が、それぞれの方法で時間を楽しめる舞台を整える。

 暮らしをデザインするには、まず自分なりの美しさを定義し、それにふさわしい空間をつくる。そこへ商品や出来事を組み入れ、最後に人が体験として仕立て上げる。

 百貨店におけるデザインとは、内装や商品陳列だけで完結するものではない。何を美しいと考え、どのような時間を届け、誰を主役にするのか。その思想が商品、建築、サービス、接客に一貫して表れることで、百貨店は暮らしを提案する舞台になるのである。

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サイアム髙島屋タイランド
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