ライブセッション
なぜビジネスカンファレンスにライブステージが必要だったのか
SYNCが示した、新しいイベントのあり方
ビジネスカンファレンスに音楽ライブを組み込む――。一見すると異色の組み合わせに思える。
2026年6月26日にタイ・バンコクで開催された「SYNC Design & Innovation in SITE 2026」では、デザインやテクノロジー、ビジネスをテーマにしたセッションに加え、日本とタイのアーティストによるライブステージを展開した。一般的なカンファレンスでは、ライブは交流会やクロージングを盛り上げる役割を担うことが多い。一方、SYNCでは、イベント全体のテーマとつながるプログラムとしてライブステージを位置付けていた点が特徴だ。
「テクノロジーを体験する」ライブからスタート
ライブステージのオープニングを飾ったのは、タイ・バンコクを拠点に活動するアーティスト「inmintcondition」だ。
同氏が披露したのは、プログラミングコードをリアルタイムで記述しながら音楽を生成する「ライブコーディング」。ステージ上のスクリーンには、実際に書き換えられていくコードが映し出され、その変化に合わせて音楽が生み出される。ソフトウエア開発と音楽表現が交差するパフォーマンスは、デザインやテクノロジーをテーマとするイベントの幕開けにふさわしい内容だった。
続いて登場した日本のシンガーソングライター、君島大空とタグチハナは、生演奏を中心としたライブを披露。ギターと歌を主体としながらも様々な音で空間を彩り世界観を演出した。デジタルとアナログ、それぞれ異なる表現が続く構成も印象的だった。
生成AIを「語る」のではなく、「見せる」
STEREO DIVE FOUNDATIONと川田十夢氏のステージでは、ライブ後のトークセッションも見どころの一つとなった。
両氏は生成AIを活用した音楽制作について紹介し、『転生したらスライムだった件』の劇中歌制作にも生成AIを活用したことを説明。ステージではAIで制作したミュージックビデオも上映された。AIをテーマとして議論するだけではなく、創作活動へ取り入れた実例を紹介したことで、テクノロジーをより身近に感じられる構成となっていた。
また、日本のアニメ作品と楽曲を組み合わせた演出には、日本とタイ双方のファンが反応。日本のポップカルチャーがタイで根強い人気を持つこともうかがえた。
テクノロジーは、人の表現を広げるためにある
ライブステージの中でも、ひときわ来場者の注目を集めたのが、ALS当事者である武藤将胤氏によるEYE VDJ MASAのパフォーマンスだった。
ステージ冒頭では、東京科学大学(旧東京工業大学)の研究チームが、脳波や眼球運動を映像やロボットの動きへ変換する仕組みを紹介。その後、ロックバンド「androp」の内澤崇仁氏との共演が始まり、研究成果が実際のライブパフォーマンスとして披露された。観客がスマートフォンのライトを掲げて参加する演出もあり、テクノロジーと音楽、そして観客が一体となるステージとなった。
AIやデジタル技術は、ビジネスの現場では効率化や生産性向上の文脈で語られることが多い。一方、このステージでは、テクノロジーが人の表現を支え、新たな創造性を引き出す可能性を示していた。
日本とタイ、それぞれのカルチャーが会場をつないだ
ライブ後半には、タイの人気エレクトロポップバンド「KIKI」と、日本の「水曜日のカンパネラ」が登場した。
ライブ後半には、タイのエレクトロポップバンド「KIKI」が登場。3人のメンバーにサポートミュージシャンを加えた7人編成で、厚みのあるバンドサウンドを披露した。会場にはKIKIのTシャツを着たファンの姿も多く、地元バンドならではの熱量が伝わる。「Baby」「Oyster」「Daisy」などの楽曲が演奏されると、観客はステージ前に集まり、一体となって盛り上がった。
一方、水曜日のカンパネラでは、ボーカルの詩羽が客席後方から登場し、そのまま観客の間を歩いてステージへ向かう演出で会場を沸かせた。そのまま「聖徳太子」へとなだれ込み、会場の熱気は一気に高まる。「エジソン」などを含む全9曲を披露し、ライブステージを締めくくった。
MCでは、ケンモチヒデフミがタイ料理やチャーンビールについて語り、詩羽はタイ語で「LOVE」は何と言うのかを観客に尋ねるなど、現地のファンとの交流も見られた。日本のアーティストが一方的にパフォーマンスを届けるのではなく、タイの観客とのコミュニケーションを楽しむ様子も、SYNCらしい場の雰囲気を感じさせた。
ライブステージも、カンファレンスのコンテンツだった
SYNCのライブステージは、単独で完結するエンターテインメントでありながらイベントのコンセプトを十分に発揮する内容だった。
ライブコーディング、生成AI、身体拡張技術、日本とタイの音楽カルチャー。それぞれ異なるテーマを持ちながらも、「デザイン」「テクノロジー」「創造性」というカンファレンス全体のメッセージとつながる内容で構成されていた。
ビジネスカンファレンスでは、知識や事例を「聞く」ことが中心になりがちだ。一方、SYNC Design&Innovation in SITE 2026では、ライブステージを通じてテクノロジーやクリエイティブを「体験する」機会を提供した。講演とライブを組み合わせることで、心が動く機会をつくり、新しい活動へのモチベーションとなる。イベントの参加者がテーマを頭と心で多面的に受け止められる場をつくろうとしたことが、今回のイベントの特徴の一つと言えるだろう。

