SYNC Design & Innovation in SITE 2026 2026.06.26 パラゴンホール

Event Review

イベント後記

オンライン時代に、なぜ直接会うのか アジアで「SYNC」が生まれた理由

 2026年6月、タイ・バンコクで「SYNC Design & Innovation in SITE 2026」を開催した。日経BPが主催、フォーデジット、タイ国家イノベーション庁(NIA)が共催し、日本とアジアのデザイナー、経営者、行政・教育関係者らが集まった。

 今回は、初めての開催だった。構想を始めた段階では、登壇者もパートナーも決まっておらず、イベントの形も見えていなかった。そこからさまざまな人に会い、企画の意図を説明し、意見を聞きながら少しずつ形にしていった。

 開催を終えて最も強く感じているのは、オンラインで世界中とつながれる時代だからこそ、直接足を運ぶことや会うことには大きな意味があるということだ。それはイベントだけでなく普段のミーティングにおいても同じことが言える。

初めてのイベントを、対話から形にする

 新しい企画を実現するには、内容の良さだけでは足りない。行政、企業、教育機関、デザイン会社など、立場の異なる人たちに趣旨を理解してもらい、「自分も一緒に取り組みたい」と思ってもらう必要がある。そのためには、企画書を送るだけではなく、直接会い、互いの考えを知る時間が欠かせなかった。

 そうして登壇者やパートナーとの対話を重ねながら、コンテンツも運営体制も少しずつ形にしていった。

 当初は独自のイベントとして構想していたが、NIAとの対話をきっかけに、「SITE2026」の中で開催することになった。計画を改めて組み直す必要はあったが、その結果、デザイン業界だけでなく、行政、企業、教育機関、スタートアップなど、より幅広い人たちと接点を持つことができた。

 SYNCという場を一方的につくり、参加者を集めたわけではない。さまざまな人との対話を通じて、企画自体が変化しながら生まれたイベントだった。

3日間を通じて、出会いの場をつくる

 NIAが主催するサイアム・パラゴンでの「SITE2026」の3日間と別に、「SYNC Design&Innovation」は別の意味での3日間があった。大使公邸でのレセプション、SYNC当日、そしてデザイン会社交流会。この3日間を通じて、立場や国籍の異なるさまざまな人たちが互いに出会う場となった。

 それぞれの企画で目的や参加者は異なるが、一貫して目指したのは、デザインとイノベーションを起点に新しい関係が生まれることだった。まず互いを知り、考えを共有し、次の対話へつなげる。イベント当日だけで完結させず、その前後も含めて一つの体験として設計した。

 SYNC当日は、AI、気候変動、医療、教育、ファイナンス、ブランディングなど、幅広いテーマについて議論した。登壇者もデザイナーだけではない。経営者、行政関係者、研究者など、それぞれ異なる領域で活動する実践者が集まった。

 ライブステージも単なる余興ではなく、ライブコーディング、生成AI、身体拡張技術、日本とタイの音楽カルチャーなど、テクノロジーや創造性を実際に体験するプログラムとして構成した。知識を「聞く」だけでなく、体験を通じて「感じる」。参加者の頭と心の両方が動く場所にしたかった。

 また、日経グループやタイのメディアによる取材、J-WAVEの現地生放送などを通じて、会場で交わされた議論を外へ広げた。イベントをその場限りのものにせず、より多くの人がデザインとイノベーションについて考えるきっかけにつなげることも、今回の取り組みの一部だった。

数字にも表れた関心の広がり

 SITE2026全体には、3日間で4万2000人が来場した。オンラインでは325万リーチ、25万エンゲージメントを記録し、13カ国から606の企業・団体が参加した。

 「SYNC Design & Innovation」が開催された2日目だけで1万4000人が参加し、多くの方々が交差する場所となった。イベントサイトは、開催前約2カ月の期間で7万8816セッションを獲得した。新規ユーザーは全体の約93%を占め、流入の約65%がSNS経由だった。

 SITE2026の中で開催したこともあり、デザインを専門とする人だけでなく、スタートアップ、投資家、行政、教育機関など、幅広い参加者に「SYNC Design & Innovation」のセッションや展示を体験してもらうことができた。

 今回の情報発信では、出演アーティストを前面に押し出すのではなく、「デザインとビジネスが交差するイベント」というコンセプトを中心に据えた。それでも多くの人に関心を持ってもらえたことから、デザインをビジネスや社会の文脈で捉え直す機会への期待を感じた。

 一方で、今回の成果を数字だけで捉えることはできないとも思っている。

直接会ったから、物事が動いた

 タイで企画を進めるにあたり、実際に相手のもとへ足を運び、自分たちが何を目指しているのかを説明する。相手の考えにも耳を傾け、時間をかけて対話を重ねる。そうした過程を通じて、少しずつ関係を築いていった。

 タイのデザイン会社には、それぞれ明確な個性と思想がある。単に規模の大きなイベントへ参加したいわけではなく、自分たちが関わる意味を持てるかどうかを重視している。

 政府関係者にも、通常であれば簡単には会えない人が多い。それでも人伝に頼み、実際に会って話し、互いの問題意識を知ることで、今回の構想に共感してもらうことができた。その積み重ねがあったからこそ、立場の異なる人や組織を巻き込み、イベントを形にできたのだと思う。

 効率的な情報交換はオンラインでできる。既に信頼関係がある相手との仕事なら、オンラインだけで進められることも多い。一方、まだ形のない構想、新しい関係を始める場面では、合理性だけでは越えられない壁がある。相手が何を大切にしているのか。なぜ、この企画に取り組みたいのか。困難があっても一緒に進められるのか。そうしたことは、資料や画面越しの会話だけでは伝わり切らない。

 直接会うことは、オンラインを否定することではない。オンラインで効率的につながれる時代だからこそ、対面で過ごす時間を何のために使うのかが、より重要になっている。

違いを持ったまま、同じ問いを共有する

 イベント名の「SYNC」には、異なる人や組織が同期するという意味を込めている。ただ、全員が同じ考えになることが同期ではない。

 国や文化、言語、職種が異なれば、課題の見え方もデザインに対する考え方も違う。その違いをなくすのではなく、違いを持ったまま同じ問いを共有する。そこから、これまでになかった発想や協働が生まれる。

 今回のSYNCを通じて、日本とタイ、そして東南アジアで活動する多くの人たちが直接出会った。すぐに具体的なプロジェクトへ発展する関係もあれば、まず互いを知るところから始まった関係もある。重要なのは、その最初の接点が生まれたことだと思う。

 イベントに参加した人や、情報発信を通じて関心を持ってくれた人たちが、デザインの可能性をそれぞれの現場へ持ち帰る。そこで新しい対話や実践が始まり、さらに別の人や組織へ広がっていく。イベントの成果は、開催した時点で完結するものではなく、その後に生まれる変化によって少しずつ見えてくるものだと思う。

 オンラインで世界中とつながれる時代に、なぜ直接会うのか。

 タイ・バンコクで開催された「SYNC Design&Innovation」は、その問いに対する一つの実践である。特に、国境を越えて会場に足を運んだ人たちは、直接会うことの意味を実感したのではないだろうか。そこで生まれた関係が、次に何を動かしていくのか。これからも楽しみにしていきたい。

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