SYNC Design & Innovation in SITE 2026 2026.06.26 パラゴンホール

Event Review

ファイナンス × デザイン / NTTデータ×National ITMX Co., Ltd.×フォーデジット

決済とデザインが拓く、越境の未来

「決済の今後とクロスボーダー」と題したセッションに、NTTデータ グローバルペイメント&サービス事業部事業部長の西川新一朗氏と、National ITMX取締役社長のチャッチャイ・ドゥサーデーノート氏が登壇した。モデレーターはフォーデジット取締役COOの末成武大氏。日本とタイの決済インフラを支える両社が、クロスボーダー決済とシームレスな旅行体験の設計、そしてデザインが果たす役割について語り合った。

国境を越える決済インフラの現在地

National ITMX Co., Ltd.
取締役社長
チャッチャイ・ドゥサーデーノート氏(左)

タイのフィンテックおよび決済インフラの専門家。現在はタイの電子決済ネットワークの中核である National ITMX (NITMX) の取締役社長。即時決済「PromptPay」の拡大やクロスボーダー決済の推進、組み込み型金融(Embedded Finance)の社会実装をリードし、タイのデジタル経済発展に貢献。

NTTデータ
グローバルペイメント&サービス事業部
事業部長
西川 新一朗氏(中央)

28年以上にわたり決済(ペイメント)業界を牽引するエキスパート。グローバルな広い視野と現地のビジネス事情に対する深い理解を強みとし、現在はNTTデータにおける決済事業の海外拡大戦略およびイノベーションを主導している。Eコマースサービスの企画プロジェクトリーダーとしてキャリアをスタートし、2001年にNTTデータに入社。カード&ペイメント事業部にて、EC向け決済ゲートウェイの企画・開発を指揮したほか、Visa/Mastercardと連携した日本国内での「3Dセキュア」の普及推進において中心的な役割を担った。2012年よりグローバル展開チームへ参画し、海外事業に本格的に着手。2014年にシニアディレクターとしてベトナム(VietUnion Online Services Corporation)へ赴任した後、2018年にはマレーシア、インドへと管轄領域を拡大させた。2021年6月に現職に就任し、長年培った国際的なビジネス感覚と強力なリーダーシップで同社の成長を牽引し続けている。

フォーデジット
取締役 COO
末成 武大氏(右)

スタートアップ企業やNTTデータグループを経て、2014年にフォーデジットに入社。2021年に取締役COOに就任し、現在は事業統括責任者としてデザインコンサルティング、およびマネジメント業務に従事。タイ・ベトナム・マレーシアを中心とする東南アジアでの事業も管轄。サービスデザインコンサルタントとして、ビジネス・サービスの構想段階からプロジェクトに参画。タイ・ベトナム・マレーシアや中国でのリテールプロジェクト、インドネシアでのモール開発・金融プロジェクト、スタートアップ企業のアクセラレーションなどアジアを中心に幅広い活動を展開。iF Design Award、IDEA、A' Design Award、グッドデザイン賞など、国際的な各種デザインアワードを受賞。

 セッションはまず、両社の事業概要の紹介から始まった。チャッチャイ氏が率いるNational ITMXは、タイ銀行協会が設立した民間企業で、タイの銀行33行が加盟する電子決済インフラを担う。ATMやモバイルバンキング、インターネットバンキングを横断する共通の決済基盤を提供し、タイのQR決済システム「PromptPay」の開発も手がける。2026年5月時点での取引件数はすでに23億8千万件に達し、クロスボーダー決済は10か国に広がっている。

チャッチャイ・ドゥサーデーノート氏

 一方、西川氏が所属するNTTデータは、1984年から日本でCAFISという決済プラットフォームを提供してきた。2011年頃から海外展開を進め、現在はタイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム、インド、香港で事業を展開する。新ブランド「ADAPTIS」は「アダプト・トゥ・ローカル」という考え方のもと、国ごとに異なる決済事情に合わせたサービスを設計するという発想から生まれたという。西川氏は、ナショナルスイッチングに近いサービスを担ってきた立場から、決済のシステムや商習慣には国ごとに違いがあるとはいえ、テクノロジーとデザインを活用する事で、シームレスな決済システムが構築できる可能性も感じており、そこにおける課題を議論していきたいと述べた。

西川 新一朗氏

 訪日タイ人が増える一方、日本はタイにおけるクロスボーダーQR決済の取引額トップ3(中国・マレーシア・ラオス)に入っていない。両国民のシームレスな旅行体験を設計するうえで何が鍵になるのか。チャッチャイ氏は「外国人がタイに来たとしても、現地人と同じように支払いできる考え方が重要だ」と述べ、相手国の支払い文化を理解し、それをつなぐ役割を担う必要があると語った。西川氏も「決済をする際の習慣はそれぞれ大きく異なる」としたうえで、旅行者が同じようにシームレスに支払えるようにするには、ルールの統一に向けた取り組みを一企業だけでなく国全体で進めるべきだと指摘。日本でも観光地との協力が進みつつあると付け加えた。加えて「テクノロジーをどう活用してこのシームレスな体験を作れるか」も重要だとし、かつて決済端末の相互読み取りという複雑な課題を、QRコードの登場が一気に解決した例を挙げた。

タイの共通化はなぜ実現したか

 タイでは決済規格の共通化が進む一方、日本では企業や団体ごとの取り組みにとどまり、共通化が進みにくいのはなぜか。チャッチャイ氏は「タイ政府のサポートがあった」ことを理由に挙げる。商業銀行も国営銀行も、それぞれの立場から足並みを揃えてPromptPayの普及を後押しした結果、国民が利用を好むようになり、エコシステム自体が拡大していったという。

 導入コストを低く設計し、加盟店が採用しやすい環境を整えたことで、「売り手と買い手が増え、一緒に歩んでいく形の成長につながった」と振り返った。西川氏はこれに同意しつつ、日本の事情を説明する。タイなどでは中央銀行が政策を主導する一方、日本ではリテール決済の管轄が中央銀行の直接の管轄ではなく別の省庁にあるという歴史的経緯があり、国全体としての取り組みが十分にはやりきれていない状況だという。

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PromptPayを支える、3つのデザインゴール

National ITMXが示すPromptPayの「Key Unique Design Goals」。低コスト、決済エコシステム、品質保証を柱に、利用者と加盟店の双方が参加しやすい決済基盤を構築してきた

 「私たちのような会社は、国のスイッチングに近い取り組みを国に対して働きかけるとともに、民間や国外のプレイヤーと同じような仕掛けをデザインできるように推進していきたい」と語った。

 末成氏はこのやり取りを受け、日本とタイを行き来する旅行者の心地よい体験は「NTTデータさん次第ということでしょうか」と問いかけると、西川氏は「以前はできなかったことができるようになっている。それを取り入れることができるのが、決済専門ではなく我々のようなITかつペイメントもやっている会社ならでは」と応じ、他企業との連携をさらに進めていく考えを示した。

末成 武大氏

次世代決済とデザインの役割

 話題は、CBDC(中央銀行デジタル通貨)やステーブルコイン、ISO20022といった次世代の決済技術にも及んだ。チャッチャイ氏は、新技術を語る前にまず「リスク」という観点から差別化を理解する必要があると説く。取引金額が大きければリスクも大きくなるため、投資すべきコストは案件ごとに異なるという。加えて、独自技術だけでは自国内で完結できない時代になっており、「世界基準とどうつなげていくことができるのか」を常に念頭に置くべきだと語った。

 西川氏はB2CとB2Bを分けて考える。B2Cの取引はすでにデジタル化が進んでおり、裏側がCBDCやステーブルコインに置き換わっても「ユーザー体験が著しくよくなるかというと、あまりそういうことはない」との見方を示す一方、B2Bについては、レガシーな取引の透明性を高めコストを下げられる領域があるとし、体験やコスト、リスクが下がる部分から段階的に適用していく流れになるとの見通しを語った。

 末成氏はこれを受け、必要なユースケースや安全性・即時性のメリットが明確になったときに次のステップへ進めるとまとめ、「我々のようなデザイン会社や、この会場にいるデザイナーが体験としてのデザインをフォローできる余地は多分にある」と述べた。セッションの締めくくりに、チャッチャイ氏は「課題は数えきれないほどあるが、どうすれば解決できるのか、どうすれば決済サービスに付加価値をもたらせるのかを常に考えている」と語り、西川氏も「私たちだけではできないことがたくさんある。ここに集う方々やITMXをはじめ各国のプレイヤーと一緒に、より良い顧客体験をつくっていきたい」と結んだ。

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