柴崎栄太郎、木村知郎、中山淳雄

「共創」で変革する 『まちづくり×エンタメ』の最前線

鉄道を中心にまちづくりに取り組む東急は、渋谷の文化づくりに貢献してきた企業でもある。
現在、同社は新ブランド「東急エンタメイト」を立ち上げ、
「まちづくり×エンタメ」によるエンタメシティづくりを強化している。
渋谷での取り組みについて、エンタメ社会学者の中山淳雄氏が東急のキーパーソン2人に話を聞いた。

ストリートから世界へ
渋谷独自のエンタメ戦略

中山淳雄

エンタメ社会学者
Re entertainment
代表取締役社長

中山淳雄

中山 御社が鉄道事業を核に都市開発や生活サービスなどの多様な事業を手掛けられてきたことは多くの人が知るところです。そうした中、エンターテインメント領域ではこれまでどのようなことに取り組まれてきましたか。

木村 当社は鉄道をつくり沿線にまちをつくって、人が移動することで様々なビジネスを行ってきました。その移動を促す大きなモチベーションとして、エンターテインメントが担う役割は大切であると考えてきました。創業初期、文化の中心地といえば銀座でしたが、当社が本拠地を置く渋谷にもカルチャーを生み、多くの人を集めたいとの想いで、1950年代以降、映画館やホールを整備しました。また、短い期間でしたが渋谷駅前にケーブルカーを設置するなど、様々な取り組みを実施してきました。

中山 東急の拠点といえば渋谷のイメージですが、新宿でも取り組みを展開されていますね。

木村知郎

東急
常務執行役員

木村知郎

木村 実は渋谷ヒカリエの前身である東急文化会館と東急歌舞伎町タワーの前身である新宿東急文化会館は同じ1956年に開業しました。渋谷でも新宿でも、まちの皆様と共創しながらにぎわいを生み出し発展に尽くすというのが東急のDNAだと思っています。

中山 そんなDNAを受け継ぐ形で、エンターテインメントの新たなまちづくりを進められているとお聞きしました。特に注目を集めているのが音楽ライブを中心に据えた取り組みです。どのようなきっかけがあったのでしょう。

木村 私は2017年から4年間、SHIBUYA109エンタテイメントの社長を務めましたが、この時にSHIBUYA109の事業理念「Making You SHINE ! ~新しい世代の“今”を輝かせ、夢や願いを叶える~」を具現化する取り組みとして「109路上LIVE」を実施しました。この取り組みはコロナ禍で中止を余儀なくされましたが、2023年の東急歌舞伎町タワーオープン後は、「109路上LIVE」の経験を生かし、タワーの周辺で「Kabukicho Street Live」をスタートさせました。こうした実績やノウハウが現在の取り組みにも生かされています。

柴崎栄太郎

東急
文化・エンターテインメント事業部
エンターテインメント戦略グループ
エグゼクティブプロデューサー

柴崎栄太郎

中山 渋谷ではストリートライブを後押しする「Shibuya Street Live」を展開されています。こちらについて教えてください。

柴崎 アーティストの活動を裾野から支援する「FROM STREET PROJECT」の一環として始まった公認ストリートライブが「Shibuya Street Live」です。渋谷はアーティストにとってのヒノキ舞台ではありますが、同時に若いアーティストやファンを育てるまちでありたいという想いからスタートしました。普段ライブに行かない人もまちのあちらこちらで自然と音楽に触れ、それがやがてストリートとライブハウスの循環を生み、渋谷の音楽文化がより大きく育っていく、そんな願いが込められています。

中山 インディーズからメジャーを目指す若いアーティストにとって、街頭で安心してライブができる場があるのは重要ですね。プロモーションの支援などもされているのですか。

「音楽なら、渋谷」へ、リアル×デジタルで挑む

「アーティストの活動を裾野から支援する『FROM STREET PROJECT』では、インディーズ音楽のプラットフォーム『Eggs』と公認ストリートライブプロジェクト『Shibuya Street Live』を連携させ、アーティストの才能の発掘から、育成、飛躍までをリアルとデジタルの両輪で一気通貫支援する独自プロセスの構築を目指しています」(柴崎氏)

柴崎 私はもともとインディーズ音楽を支援するエッグスという会社を運営していましたが、東急とは渋谷でのライブイベントで音楽の裾野を広げるという同じ想いの下、パートナーとして取り組んできました。2026年3月にエッグスが運営していたインディーズ音楽プラットフォーム「Eggs」、ライブ情報プラットフォーム「GIGGS」を東急が事業承継し、私自身も現在は東急でエンターテインメント戦略に携わっています。楽曲やMV制作の支援といったこれまでのノウハウを東急の新たな強みとするとともに、次世代アーティストを発掘・プロデュースする「SCRAMBLE AUDITION」では、渋谷のストリートから世界へ発信するプロセスそのものを楽しめる場を提供していきたいと考えています。

中山 デジタルプラットフォームなら全国に広げることもできますし、渋谷にリアルの舞台があれば、若いアーティストが渋谷を目指す成長ストーリーも描きやすくなりますね。ところで、「まちづくり×エンタメ」を推進するブランドアクションとして「東急エンタメイト」を新たに立ち上げられたと伺っています。こちらの戦略や今後目指すところなどを教えてください。

共創する「まちづくり」目指す「東急エンタメイト」

アーティストやファンと共創 東急エンタメイトのABC戦略
「エンタメの価値を多様なメイト(仲間)と共創する事業ブランド『東急エンタメイト』は、アーティスト(A)とコンシューマー(C)のつながりを黒子的にビジネス(B)で支えるABC戦略を展開しています。この戦略を「まちづくり」に生かしつつ、アーティストの成長ストーリーをファンとともに支援する仕組みを構築していきたいと考えています」(木村氏)

木村 「好き」という想いこそがまちづくりの原点であるという考えから、コンセプトは「まちも、人も、好きが動かす。」としました。現在続けられている渋谷の再開発事業はまだまだ途上です。アーティストとファンをつなぐ場を提供するだけでなく、10年後の渋谷の姿も見据えながら、ビジネスとして多様なメイトとともに新しい価値を共創し、世界に発信していけるブランドになれたらと思っています。

中山 かつてのまちづくりは施設をつくってそこに集客するのがゴールでしたが、アーティストやクリエイター、さらにはファンも巻き込んでともに成長していく新たなプロセスを目指されていることがよく分かりました。10年後もインディーズの聖地として息づく渋谷の姿を楽しみにしています。

取材後記

「お話を伺って印象的だったのがプロセスを重視されている点です。UGC(User Generated Content)の時代ですから、アーティストの成長を後押しするのはファンにとっても共感が大きいと思います。渋谷は様々なカルチャーを生んできたまちですし、グローバルな発信力も高い。今後の東急の取り組みが世界に向けた発火点になっていくと感じました」(中山氏)
ロゴ:東急エンタメイト