日経クロストレンドフォーラム 2026
ニューステクノロジー

「サンリオ時間」から考える、
AI時代に選ばれるブランドの顧客接点とは
― 偶然の出会いから共感を生み出す体験設計 ―

AIによってユーザーの検索行動が変化する時代に、ブランドはどのようにセレンディピティ(偶然の出会い)を生み出し、共感や愛着を育んでいくべきか。ニューステクノロジーが考える「可処分時間」とサンリオ独自の非財務指標「サンリオ時間」をもとに、移動時間に癒やしを届けた「はなまるおばけタクシー」の事例を交えながら、これからの顧客接点の在り方を探る。

AI時代だからこそ高まる
「時間」と「リアルな接点」の価値

AIの進化によって、さまざまなデジタルコンテンツは、これまで以上に大量かつ効率的に生み出せるようになった。一方で、ニューステクノロジー三浦氏は、「AIでは増やせない価値」があると指摘する。それが、リアルな「場所」と、人が使える「時間」だ。

「AIによって記事や動画、Webサイトなどのデジタルコンテンツは大量に生み出せるようになりましたが、リアルな場所や時間はそうはいきません。AIが進化しても東京都の面積が広がることはなく、映画館の数が無限に増えるわけでもありません。同様に、人が使える時間も1日24時間のままで、AIは作業効率を高め、空き時間を生み出すことはできても、人が過ごせる時間そのものを増やすことはできません。だからこそ、AI時代には『場所』と『時間』という限られた資源の価値が、これまで以上に高まっていく」と三浦氏は語る。

ニューステクノロジーも、この「時間」を事業の中心に据えている。タクシーサイネージをはじめ、オフィス喫煙所や、タクシー車窓メディア、屋外広告など、人が日常の中で過ごすリアルな時間をメディア化し、その時間の価値を高めるコンテンツを提供している。例えばタクシーでは、1回の乗車時間は平均18分、1台あたり1日約25回利用されるという。ニューステクノロジーは東京都内の約1万1500台のタクシーにサイネージを設置しており、これらを積み上げると年間約3150万時間もの乗車時間を預かっている計算になる。この生活者から預かった時間の中で、広告やコンテンツを届けているのだ。

ニューステクノロジー
代表取締役

三浦 純揮

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ニューステクノロジーが展開するタクシーサイネージ「GROWTH」

AI時代には、人が実際に存在する場所や時間の価値はさらに高まっていくと三浦氏は見る。
「今後は情報そのものがますますコモディティ化し、誰もが容易に手に入れられるようになります。だからこそ、自分自身がその場に身を置き、五感を通じて得た実感や感情といった、生身の体験から得られるものの価値は、相対的に高まっていくのではないでしょうか。ライブ・エンタテインメント市場が過去最高額を更新していることも(※1)、そうした変化の一つだと捉えています。リアルな場所や時間の中で、人が何を感じるか。そこで時間をかけて育まれる愛着や記憶は、AIでは代替できない価値なのではないでしょうか」(三浦氏)

※1 出展:ぴあ総研「集客ライブ・エンタテインメント市場調査」2026年6月

図表

「笑顔」をどう定量化するか
生まれたのが「サンリオ時間」

この考え方に共鳴する企業の一つがサンリオだ。同社は2021年、独自の非財務指標「サンリオ時間」を導入し、2035年までに年間3000億時間の創出を目標にしている。売上や利益だけではなく、「人がサンリオと過ごした時間」を企業価値として捉えるユニークな考え方だ。

サンリオ池内氏は、その背景について「企業理念である『みんななかよく』や、『One World, Connecting Smiles.』というビジョンを実現するためには、情緒的な価値をどう可視化するかが課題だった」と振り返る。

サンリオ時間は、大きく「寄り添い時間」と「夢中時間」の二つで構成される。寄り添い時間とは、キャラクターや商品・サービスが、日常の何気ない時間に寄り添う時間を指す。

例えば仕事中にハローキティの時計を見て気持ちが和らいだり、通勤中にキャラクターグッズに触れて少し前向きな気持ちになったりする。家事や育児、勉強など、暮らしのさまざまな場面で自然に癒やしを届ける時間だ。一方の夢中時間は、キャラクターの世界を積極的に楽しむ時間を意味する。サンリオピューロランドを訪れたり、ショップで買い物をしたり、イベントやゲーム、デジタルコンテンツを楽しんだりと、自ら関わろうとする時間がこれにあたる。

サンリオ
ブランド管理本部 IPマネジメント二部
営業本部 国内IPプロデュース部二部
ゼネラルマネージャー

池内 慎一朗

2025年3月期には、このサンリオ時間が年間1140億時間を突破。当初掲げていた目標を上回るペースで拡大しており、2035年には年間3000億時間の創出を目指している(※2)。

※2 サンリオ時間の算出方法は、寄り添い時間は商品やサービスの流通規模などをもとに推計し、夢中時間はテーマパークやイベント、新規事業などで生まれる体験時間を積み上げて算出している。

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こうした「時間」を企業価値として捉えるサンリオの考え方は、キャラクターへの愛着の育み方にも通じている。

愛着は「生み出すもの」と
「育てるもの」の間にある

AI時代にブランドが競うべきものは、単なる認知ではなく「好き」という感情だ。しかし、その愛着は生み出すものなのか、それとも時間をかけて育てるものなのか。三浦氏の問いに対し、池内氏は「答えはその間にある」と語る。
「これまでのサンリオキャラクターは、デザイナーの思いから生まれました。しかし、それだけでは愛着は育ちません。グッズを手に取り、ピューロランドを訪れ、SNSやイベントで触れ合う。そうしたさまざまな接点を積み重ねることで、お客様との関係性が築かれ、愛着へと変わっていくのです」(池内氏)

実際、シナモロールやポムポムプリンなど1990年代から2000年代に誕生したキャラクターは、一度人気が落ち着いた後も、当時ファンだった子どもたちが大人になって再び応援するようになり、新たな人気を獲得している。
「昔好きだったキャラクターを、大学生や20代になってもう一度好きになる。自分で自由に使える時間やお金が増えたことで、改めてキャラクターとの関係が深まっていく。そうした長い時間をかけた愛着の育ち方も、サンリオらしさの一つだと思っています」(池内氏)

長い時間をかけて育まれる愛着を大切にする一方で、変化の速い時代に合わせて、新たなキャラクターとの出会い方も進化させている。その象徴が、2022年に実施した「NEXT KAWAII PROJECT」だ。社内デザイナーが生み出した100を超えるキャラクター案をはじめとして、ユーザー投票によってデビューキャラクターを決定する参加型プロジェクトである。デザイン投票だけでなく、リアルイベントでの投票や動画コンテンツなど、多様な接点を設けながらファンと一緒にキャラクターを育てていく仕組みを取り入れた。

こうして誕生したのが、「はなまるおばけ」だ。「頑張ったあなたに『ハナマル』をくれる不思議なおばけ」というコンセプトを持ち、結果だけでなく日々のがんばりや努力、過程にも寄り添ってくれるキャラクターとして、多くの共感を集めている。

キャラクターを生み出した後、いかに日常の中で接点をつくり、愛着を育てていくか。そこで重要になるのが、日常の中に新たな出会いをつくることである。

日常の移動時間を
新しい出会いの場へ

AI時代には、自分の興味関心の外側にある情報との偶然の出会いが生まれにくくなっていく。だからこそサンリオが重視しているのが、日常の中で自然にキャラクターと出会う「寄り添い時間」だ。

「これまではサンリオショップやアパレル売り場などで商品を通じて出会っていただくことが多かったのですが、これからは日常時間の中に新しい接点、体験価値をどうつくるかが重要になると考えています」(池内氏)

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その考え方を形にした取り組みが、ニューステクノロジーと共同で実施した「はなまるおばけタクシー」だった。はなまるおばけのメインファン層はGenZ世代(14〜31歳)だが、タクシーの主な利用者は40〜50代。一見するとターゲットは重ならないようにも思える。しかし役職者や決裁者の方々も、日々頑張っている。11月23日の勤労感謝の日に向けて、仕事へ向かう朝や移動中のひとときに、キャラクターがそっと寄り添うことで、忙しい毎日に小さな癒やしや前向きな気持ちを届けられるのではないか。そんな発想から今回のコラボレーションが実現した。

2週間、50台のタクシーを「はなまるおばけ」仕様に装飾して全車にぬいぐるみを設置したほか、限定1台のフルラッピング車両にはシートカバーも施した。あわせて、サイネージを搭載する1万1500台のタクシーでは、移動時間の情報番組「HEADLIGHT」とのコラボ企画として「はなまるおばけ」の冠コーナーを4週間にわたり放映したほか、シートベルト着用を呼びかける映像もキャラクターとコラボするなど、移動時間そのものを「はなまるおばけ」の世界観で包み込んだ。

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2025年11月に走行した「はなまるおばけタクシー」。タクシー配車アプリから指定して呼べる連動企画も実施した

三浦氏自身も「普段の移動時間は仕事のことを考えてしまいがちですが、キャラクターが寄り添ってくれることで、いつもの風景が少し違って見え、時間の質そのものが変わったように感じました。実際にSNSの反響を見ても、移動時間にほっこりしたなどの声が多数届き、移動体験を通してキャラクターを知る・好きになる機会を提供できたのではないかと思います」という。

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池内氏も、「タクシーはまさに寄り添い時間を生み出せる場所だった」と振り返る。AI時代に重要になるのは、人の限られた時間の中でどのように接点をつくり、記憶に残る体験を提供できるか。ニューステクノロジーが考える「可処分時間」と、サンリオが掲げる「サンリオ時間」。両者の対談から、AI時代に選ばれるブランドには、情報を届けるだけでなく、人の時間に寄り添い、偶然の出会いから愛着を育む顧客接点を創出することの重要性が示されていた。