─2種類の笠木を使った「小松島市葬斎場」について教えてください。
長谷 ● 小松島市葬斎場は、水田が広がる田園地帯の真ん中にあります。一面の水田は、冬は土が露わですが、春になると鏡面のように水が張られ、夏は緑の絨毯、秋は実りの黄金色に色付きます。設計では、そうした四季の景色を、ふるさとの情景として取り込もうと考えました。
また、小松島市は大地震発生時に津波による浸水が予測されているため、この施設は火葬場と津波避難施設の機能を併せ持つ新しい施設となっています。
─特殊形状のデザイン笠木はどのような箇所で使っているのですか。
長谷 ● 1つは、建物が一段高くなっている西側部分のパラペットです。炉などの主要な設備が入る西側は、建物が高くなるので、大きなコンクリートの壁が現れます。この壁面は、葬斎場へのアプローチ道路に向いているので、会葬者からもよく見えます。
そこで、笠木による水平ラインで、大きな壁面を上下に切り分けてボリューム感を抑えつつ、意匠として表現しました。コンクリートのディテールにもこだわり、造作大工に型枠をつくってもらいました。大工の手によるコンクリートの表現と、アルミの工業製品である笠木とのベストミックスを図ったという意味で、「建築と機能美の融合」だと言えます。
─エービーシー商会の大型飛翔笠木「アルウィトラKATANA」を採用していますね。
長谷 ● 少し遠目に見る壁面なので、意匠性の高い大型の笠木を選びました。アルウィトラKATANAは、張り出しが大きく、シャープなデザインが魅力です。ここでは外壁から225㎜張り出しています。徳島県は台風の通り道ですが、耐風圧の試験データもあり、安心して使えました。
─フラットバー形状の「アーキブレイド」は、どこに使っているのですか。
長谷 ● 小松島市葬斎場の特徴は、最近、増えている家族葬などを考慮して、待合室や告別・拾骨室などを完全分離したユニット型のプランです。葬送の儀式の始まりとお清めの場として、「空の庭」にはふるさとの情景を映す水盤があり、この庭を囲む壁のパラペット天端の一部に、目立たずシャープに陰影を描き出すフラットバー形状の「アーキブレイド」を採用しました。水面に映るしっかりとしたラインデザインを施し、「自然と機能美の融合」を図りました。
─普段の設計のなかで、エービーシー商会の笠木をどのように評価していますか。
長谷 ● 耐風圧や耐久性、施工性といった諸性能の確保は当然として、やはり優れた意匠性が魅力です。「見せる笠木」を追求して、精度の高い工業製品でありながらも、色や温かみのある手づくり感が形に残されています。笠木は、建築をカチッと引き締める建材なので意匠性は重要です。エービーシー商会の営業の方に相談すると、設計の意図を汲んだ製品を提案してくれるので、いつも頼りにしています。