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10分で理解するデジタルの「旬」
FinTech&InsurTech
あらゆる業界を巻き込むFinTechと
保険業界を革新するInsurTech
 最近では毎日のようにさまざまなメディアで取り上げられるようになった「FinTech(フィンテック)」—。金融を意味するファイナンス(Finance)と技術を意味するテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語だ。

 なぜ、ここまでFinTechの注目度が高まっているのか。それは最新のITを活用することで、今までにない金融商品・サービスの提供が可能になるからだ。規制緩和の流れと相まって、金融とは縁のなかった他業種の企業やスタートアップ企業にもビジネスチャンスが広がっていることも大きな要因だ。その意味でFinTechは、金融サービスのオープン化といえるだろう。

 新規参入企業に刺激を受けた既存金融機関との相乗効果によって、革新的な金融商品・サービスが次々と生み出されていく。それが金融市場の活性化を促し、産業全体の発展につながるものと期待されている。

問い合わせ対応や投資相談にAIを活用するサービスが次々に登場

 革新的な金融サービスはすでに着々と生まれつつある。その1つが、人とコンピュータが短文で会話する「チャットボット」である。多様で複雑な金融商品・サービスの問い合わせ対応やセールスに活用するケースが相次いでいる。顧客がPCやスマートフォンからテキスト情報を入力したり、音声で話しかけたりするとコンピュータが回答する。

 チャットボット自体は以前からあったが、従来の仕組みはあらかじめ用意した文例を組み合わせて返答するというもの。検索サービスに近いものだが、今のチャットボットは機械学習をはじめとするAIを実装している点が特徴だ。蓄積した顧客からの多数の質問と回答のパターンを機械学習し、より自然で適切な回答力を身に付けていく。顧客からの回答に対してさらに追加の質問を繰り返し、顧客の潜在的な要求を掘り下げることも可能だ。

 これを資産運用に特化させたのが「ロボアドバイザー」である。AIを利用して資産管理や資産運用のアドバイスを行う。資産規模やリスク許容度を自動判定し、分散投資などに関する情報を提供するサービスもある。

 チャットボットやロボアドバイザーを活用すれば、24時間の顧客対応が可能になり、金融機関にとっても、利用者にとってもメリットが大きい。金融機関は煩雑な顧客対応に要する人員を必要最小限に抑え、より専門性の高い業務に人を従事させることができる。

 これらの技術を積極的に活用している1社が、SBI証券だ。2016年12月に、チャットボットを活用した「SBI証券 カスタマーサポート」を開設した。口座の開設方法などに関する問い合わせをAIが自動で回答する。さらに同社のグループ会社であるSBIリクイディティ・マーケットとSBI FXトレードは、個人顧客を対象にFX(外国為替証拠金)取引の問い合わせに自動応答する多言語対応サービスを2017年4月から開始。FXの定着していないアジア地域での取引拡大を図るのが狙いだ。将来的には顧客の口座情報や取引状況、行動傾向などを分析し、より高度なアドバイザリーサービスの提供をめざすという。

金融機能の「分離」と「再結合」が加速していく

 FinTechは金融業界自体をも大きく変えようとしている。その象徴が金融機能の「アンバンドリング」と「リバンドリング」だ。金融機能は独立した単一機能ではなく、いくつかの機能がバンドリングされて成り立っている。例えば、銀行は「預金」「融資」「決済」「資産管理」「リスク管理」といった機能の複合体だ。金融ビッグバン以前の金融機関はこの結び付きが強固で、護送船団方式による規制・保護のもとで、堅実なビジネスを展開してきた。

 しかし、時代の変化に伴って、バンドリングされた機能を一旦すべて分離(アンバンドリング)し、利用者の視点で再結合(リバンドリング)することが不可避となりつつある。伝統的な金融サービスを分離し、顧客志向の新たなサービス提供の必要性が高まっているのだ。銀行店舗の窓口で投資信託や保険商品などを販売する「銀行窓販」はすでに一般化しているが、これもアンバンドリング/リバンドリングの一環によるものだ。

 海外ではこの動きが特に活発だ。例えば、クレジットカード決済会社の米Square(スクエア)は従来の常識を覆すサービスを提供している。「個人同士の売買にクレジットカード決済を使いたい」というニーズに対応し、これまではクレジットカード会社の承認を得られた特定の企業・団体だけが利用できたクレジットカード決済を、誰でも利用できるようにした。

 米国ボストンの地域金融機関であるRadius Bank(ラディウス・バンク)は同行が持つ信用力、決済、認証などの機能を切り出し、FinTech企業と提携して金融サービスの機能分化に舵を切った。デビットカードのネットワークと連携した手数料無料の決済サービス、モバイルデバイスによるワンストップでの口座開設など利便性の高いサービスを次々と打ち出している。デジタル化を推進することで、物理的な店舗は最小限で済むため、同行ではなんと6店舗のうち5店舗を閉鎖。銀行にとって重要なのは店舗という箱ではなく、「サービス」であるという明確な戦略遂行の表れだ。

 この流れに勝機を見出す異業種企業も増えつつある。タクシー配車アプリでタクシー業界にイノベーションを巻き起こしたUber(ウーバー)は、FinTech企業と連携し、リース契約で車を提供するサービスを開始した。さまざまな事情で銀行口座を持てないドライバー向けに、モバイルの銀行口座も提供する。売上金が翌日には振り込まれるなど利便性が高く、好評だという。

 アンバンドリング/リバンドリングを進めるためには、ビジネスプロセスのモジュール化とシステムの標準化が欠かせない。多くの金融機関がこの取り組みに着手し始めている。今後日本でも画期的な金融サービスが次々と生まれてくるだろう。

保険業界に迫るInsurTechの波

 変革を迫られるのは銀行や証券業界だけではない。保険業界でも保険版FinTechとも言うべき「InsurTech(インシュアテック)」が始まっている。

 これは保険を意味するインシュアランス(Insurance)と技術を意味するテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、FinTechによるビジネスモデルの革新を保険業界にも適用しようという一連の試みのこと。FinTechに少し遅れる形で立ちあがってきたテーマだ。

 最新テクノロジーを活用することで、これまでにない保険商品・サービスなどの開発が可能になる。欧米では、すでにさまざまなサービスが登場している。米損保会社のレモネードは、保険をかけた商品の被害状況の画像をスマートフォンで送ると、最短3秒で保険金を支払う保険商品を提供。不正請求の見極めはAIが判断し、顧客とのやりとりはチャットボットで行う。人手を極力排除し、正確かつスピーディな査定とコスト圧縮を実現したことが、新サービスの提供を可能にした。

 スタートアップ企業も負けてはいない。オンラインで個人向け医療保険を提供している米Oscarはその1つだ。Oscarの特徴は、商品体系のシンプルさと手続きの簡便さにある。顧客が加入手続きに要する時間は約5分。まず郵便番号や年齢といった必要事項を入力し、見積もりを依頼。その後、Oscarが提示する複数のプランから1つを選択すれば、 購入が完結する。すべての手続きがオンラインで完結する利便性の高さが人気を集めている。

国内でも新しい保険商品・サービスが次々登場

 一方、日本でInsurTechに先鞭をつけたのは、生保大手の第一生命保険だ。2015年にビッグデータやAIなど最新テクノロジーの活用によるイノベーション推進の取り組みを提唱して以降、業界内で一気に盛り上がりを見せている。矢野経済研究所によれば、2016年度の国内InsurTechの市場規模は460億円だが、2020年度には1100億円に拡大する見込みだ。

 実際、国内でも新しい保険商品・サービスが次々登場している。2017年8月から国内提供を開始した家電保険の「Warrantee Now(ワランティ・ナウ)」はその1つだ。ITベンチャーのWarranteeと、損保大手の東京海上日動火災保険などとの“タッグ”で実現した。デジカメ、テレビ、デジタルレコーダー、冷蔵庫、洗濯機、エアコンなど保険をかけたい家電をスマートフォンで選び、1日単位で加入できる。

 モノ(動産)に対する保険は以前からあったが、従来の動産総合保険は契約期間が1年など長期で、保険料も数千円の一括支払いが一般的。新サービスはデジカメなどのデジタル家電は1日(24時間)当たり39円から、冷蔵庫などの生活家電は同19円からと劇的に加入しやすくなった。製品が故障した場合は加入者がメーカーに修理を依頼する。修理代金はWarranteeと組む損保会社がメーカーに支払う仕組みだ。

 住友生命保険はソフトバンクと南アフリカの金融サービス会社ディスカバリーと組んで新たな保険商品「Japan Vitality Project」の提供を2016年7月から始めた。IoT機器やスマホアプリを使って禁煙活動や日々の運動など健康増進活動の成果を総合的に評価し、保険料の割り引きなどさまざまな特典を受けられる。

 ただし、保険商品は、テクノロジーを前面に押し出したサービスが成功するとは限らない。複雑な商品であるだけに、人の介在が一定程度ある方が結果としてInsurTechが根付くという声もある。事実、住友生命とソフトバンクは、 窓口となる営業職員が介在する点では従来の保険サービスと変わらない。オンライン取引と対面取引のいいとこ取りを狙うのが、今後のInsurTechの重要なポイントだと言えるだろう。

 金融業界から端を発し、あらゆる業界・業種に大きなインパクトをもたらすFinTech。今後、InsurTechのように、各業界に形を変えて、大きな革新を迫るはずだ。その時に問われるのは、デジタル技術を使って、いかに真の顧客サービスを追求していくか。その企業姿勢なのかもしれない。
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