画像技術が切り拓く未来

富士急ハイランドで始まった顔パス

顔認証技術で、
次世代のアミューズメント体験を

伊藤秀樹

POINT-研究員の眼

日経BP総研クリーンテックラボ 所長 河井 保博氏

  • 顔認証の用途は様々ですが、富士急ハイランドの利用例における最大の特徴はチケットレス化です。さらには、顔認証と同時に来園者の属性まで見極め、客層に合わせたサービスを提供することで、ホスピタリティ向上も図れます。この小さな小さな「都市」には、様々な応用の芽が隠れています。

2018年7月、富士急ハイランドは大きな変貌を遂げた。「入園無料化」に舵を切ったのにあわせて、入退園ゲートおよび全39アトラクションの乗車ゲートにおいて、顔認証技術を活用した入退場システムを採用したのだ。「世界一安全・安心な遊園地」の実現とともに「富士急ハイランドのアミューズメントシティ化」を目指す同園に対して、今回導入されたパナソニックの「顔認証入退場システム」はどのようなメリットをもたらしたのか。

入園無料化に踏み切った富士急ハイランドを
世界一のアミューズメントシティへ

富士の裾野にあるアミューズメントパークとして“世界一”のアトラクションを多く備え、一方ではテーマパーク「トーマスランド」「リサとガスパール タウン」も展開、老若男女を問わず楽しめる遊園地「富士急ハイランド」。同園は2018年7月14日より、入園料無料化を実施した。その背景には、富士急ハイランドの入園者数増加に弾みを加えると共に、富士山エリアの「ハブ」として富士急ハイランドを世界一のアミューズメントシティへと進化させる、といった構想があった。

“世界一”のアトラクションを多く備える「富士急ハイランド」

富士急行の斉藤隆憲氏は「富士山エリアには年間3,600万人以上の観光客が訪れます。一方、富士急ハイランドの入園者数はその1割未満であることから、まだまだ増加の余地があると考えていました。また、経営課題として、少子高齢化の問題や富士山エリアにおける海外からの旅行者増といった環境変化への対応や、富士急ハイランドをアミューズメントシティとして進化させるとともに、富士山エリアにおいて各観光拠点の「ハブ」にしていくこと、そのためにも地域社会および他企業とのコラボレーションによる共創を進めていくことが求められており、これらの課題解決に向けた取り組みの1つが入園無料化でした」と説明する。無料化の実施から約4カ月が経過しているが効果は早くも現れており、入園者数が増えただけでなく、アトラクションの利用者も増加したことで売上拡大に繋がっているという。

富士急行株式会社
執行役員 企画部部長(IR担当)
斉藤 隆憲氏

園内の安全性強化と入園者の利便性向上を目指し
顔認証入退場システムを導入

今回、入園無料化と同時に実施されたのが顔認証入退場システムの導入である。入退園ゲート、および全39アトラクションの乗車ゲートにおいて顔認証技術を活用した入退場システムを設置。顔認証を用いた入退園管理やアトラクションの乗車等を実現している。

入園ゲートに設置された顔認証入退場システム

同システムの導入の背景について斉藤氏は、「無料化に伴う入園者増加に対して、園内セキュリティを強化し、世界一安全・安心な遊園地を実現することが目的です。同時に、チケットレス化、すなわち、顔パス乗車を可能にすることで、入園者の利便性向上に繋げていきたいと考えました」と説明する。

顔認証によって得られる入園者データをマーケティングに活用していくことも目的の1つだ。富士急ハイランドの岩田大昌氏は、「これまでアンケート調査も行ってきましたが、入園者の属性や滞在時間、利用アトラクションなどを正確に把握することが困難でした。対して、顔認証入退場システムの導入により、それらの正確な情報の入手とデータベース化が可能になり、今後のよりきめ細かい商品開発やサービスの向上に繋げられると期待しました」と話す。

株式会社富士急ハイランド
代表取締役社長
岩田 大昌氏

世界最高水準の認証性能と実績を評価し
パナソニックの顔認証入退場システムを選択

顔認証入退場システム構築のパートナーとして選択されたのが、パナソニックだ。複数のメーカーを比較検討した中で、同社のシステムが世界最高水準の顔認証性能を有していたこと、また、アミューズメント施設のほか、空港、行政や公共機関における多数の導入実績、そして企業としての大きな信頼性が決め手となった。

また、斉藤氏は、「パナソニックの顔認証システムは、一度登録しておけば、次回の認証は顔を差し出すだけで行えます。通常は1対1認証ですが、パナソニックは1対N認証が行えるため、まさに顔パスとも言える認証システムが期待できました」と補足する。

パナソニックの協力のもと、入園無料化が開始される7月14日に向け、タイトなスケジュールの中で顔認証入退場システムの検証と導入作業が進められた。現場でのテスト運用にまで漕ぎつけたのは入園無料化の2日前だったという。

「入園無料化に伴い、さらに多くの来園者を迎えることが予想される中、数秒で顔認証や登録が本当にできるのか不安もありました。しかし、それは杞憂に終わり、パナソニックの手厚いサポートもあって、テスト運用や入園無料開始日において、スムーズな顔認証を実現。不安視していたトラブルは発生せず、以来、順調に稼働しています」(岩田氏)

最先端の顔認証技術を
ディープラーニングでさらに進化

今回の顔認証入退場システムの実現に向けて、パナソニック側ではどのような取り組みを進めていったのか。パナソニック コネクティッドソリューションズ社の石原健氏は、「今回は屋外での利用に加え、大規模1対N認証の実施という初の取り組みを進めて行くにあたり、現地での調査や検証を行いながら、来園者様の利便性を損なうことのない顔認証の実現に取り組んでいきました」と振り返る。

パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社
イノベーションセンター システム統括部
新規事業推進/グローバルSE担当 課長
石原 健氏

事実、1対Nによる認証を行う場合、その分だけ登録する画像、およびマッチング処理が増えることとなり、他人と間違える可能性もN倍に増加することになる。更に富士急ハイランドでは登録人数Nが2万人を超える日もある。このような大規模1対Nという条件下で正しく顔認証を行うためには、ディープラーニングを用いた顔認証の性能向上が不可欠であり、より多くのデータを揃えるとともに、様々なチューニングや改善を施し、その性能を極限まで向上させていったという。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社の田村一氏は、「複数のディープラーニング構造を組み合わせ、認証に必要となる顔の特徴をさまざまな側面から抽出して性能改善を図りました。例えば、今回は屋外での利用となりますが、日照等の影響により顔のある部分の特徴を抽出するのが困難になるケースがあります。それを複数のディープラーニングを用い、顔の別の部分から抽出した特徴で相互に補完しあうような仕組みを実装しました」と説明する。

パナソニック株式会社 コネクティッドソリューションズ社
イノベーションセンター センシング事業統括部
画像技術開発部 開発1課 係長
田村 一氏

「ディープラーニングの性能改善に加え、現場目線での性能改善も非常に重要になります。富士急ハイランド様のご協力を頂きながら現場でフィールドテストを何度も行い、運用の側面からも性能改善に取り組みました」(石原氏)

実際にディープラーニングの基本性能改善に取り組む一方、カメラの設置場所や照明の配備、撮影する際の来園者のベストな立ち位置の決定といった、運用の側面からも画像認識の精度を高める取り組みを富士急ハイランドの協力のもと、進められていったという。

石原氏は、「来園者様の利便性をできる限り向上できるよう、富士急ハイランド様とは議論を重ねながら、顔認証入退場システムの性能向上に取り組みました。まさに富士急ハイランド様とパナソニックの“共創”によって、今回の顔認証入退場システムの精度向上を実現できたと考えています」と語る。

アトラクションが顔パスで乗車可能に
マーケティングへの活用にも大きな期待

今回の顔認証入退場システムであるが、入園ゲートで顔写真を登録して入園するほか、事前にWebサイトでチケットを購入すると共に顔写真を登録しておけば、優先ゲートからそのまま顔認証のみで入園できる。さらに「フリーパス」を購入すれば、アトラクションの利用に際してもチケットの提示が不要となり、顔認証のみで乗車できる。ストレスなくアトラクションを楽しめるのが特徴だ。「顔認証は2、3秒で行えるため、アトラクションに乗車する際のスムーズさに来園者の皆さまは驚かれています」と岩田氏は述べる。

顔認証入退場システムは入園ゲートで顔写真を登録して入園する

顔認証入退場システムの導入は、園内業務の効率化にも貢献しているという。「これまでは入園券をはじめ、回数券やフリーパスが混在しており、アトラクションの利用に際して、都度、係員が券種をチェックしなければなりませんでした。それが顔認証の導入によって、顔パスでフリーパスの判別ができるようになったので、現場業務の煩雑さも解消されています」と岩田氏は評価する。

(動画)富士急ハイランドが導入した顔認証入退場システム

今後のマーケティングへの活用についても、大きな期待を寄せている。斉藤氏は、「顔認証により入園者の詳細なデータが蓄積できれば、その属性に応じたきめ細かいサービスを展開できるようになります。例えばシニア層の入園者が増えているのであれば、そうした世代向けに飲食メニューを拡充させる、といった施策が打てるようになるわけです。さらにリピーターへの特典付与や、顔認証と決済システムの連動といった施策も展開していきたいですね」と展望を述べる。

富士急ハイランドが導入した顔認証入退場システムは今後、どのような広がりを見せていくのだろうか。岩田氏は、「顔認証により、自由に園内外を行き来できるようになったことで、近隣のホテルや温泉、美術館など他施設の利用数増といった波及効果も期待できます。それらの施設でも顔認証が可能になれば、さらに来訪者の利便性も向上させられ、富士急ハイランドのアミューズメントシティ化に、また一歩近づけます」と期待を寄せる。

斉藤氏も「今後、地域の企業や社会、関連企業ともコラボレーションを進め、“点”で行っている施策を“線”として繋げ、最終的には“面”に広げて富士山エリアのアミューズメントパーク化を実現していきたいと考えています。そうした“面”での展開に向けて、パナソニックには引き続き手厚い支援を期待しています」と構想を語った。

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