画像技術が切り拓く未来

航空機に搭乗橋を自動装着

画像認識技術とAIの融合が
スマート空港を実現

野本幹彦

POINT-研究員の眼

日経BP総研クリーンテックラボ 所長 河井 保博氏

  • 普段、飛行機を利用しているときには、わりと簡単に飛行機と搭乗橋をドッキングさせているように感じますが、実は、乗客を待たせないようにするには熟練者のワザが必要になります。「こんなところにもAI(人工知能)が…」。こうした何気ないところでAIを使う例はますます増えていきそうです。

新明和工業は、空港ビルと航空機を繋ぐ搭乗橋(Passenger Boarding Bridge)の自動装着システムを2018年に完成させ、PBBが航空機のドアのわずか10センチ手前まで自動で移動する仕組みを作った。この自動装着システムは世界初の実用化を徳島阿波おどり空港で実現しており、成田国際空港やシンガポール・チャンギ空港にも採用され、成田国際空港では2019年3月から第2旅客ターミナルの64番スポットでトライアルを開始する予定だ。PBBの自動装着に画像認識技術とAIがどのように使われていったかを探っていく。

航空旅客搭乗橋の自動装着システム

PBBの自動装着に向けて
パナソニックの画像技術に注目

空港業界では、2020年に向けて、訪日外国人旅行者の増加への対応に追われている。その一方で、空港は現場スタッフの人材不足や離職率の高さといった課題を抱えており、高水準のサービスを維持しつつ、業務の効率化や自動化を行うことが急務となっている。解決策の1つとしてAIやIoT、ロボティクスといった最新の技術を活用して“空港のスマート化”を行うことが求められており、国土交通省も、CIQ(税関、出入国管理、検疫)・保安・搭乗の手続きや導線の効率化や、地上支援業務の省力化・自動化の推進に乗り出している。

(出典) 国土交通省 「(参考資料)航空イノベーション推進官民連絡会について」

そのような状況の中、2015年頃にある航空会社から空港の効率化・自動化をテーマに取り組んでほしいとの相談を受けたと新明和工業の北野明彦氏は説明する。「我々はPBBを各地の空港に納入しており、PBBを進化させれば、さらなる効率化に貢献できるのではないかと考えました」。

新明和工業株式会社
パーキングシステム事業部 システム本部 副技師長
北野 明彦氏

新明和工業が提供するPBBは、当時から自動で航空機のドアの1メートル手前まで近づけることができ、他社のPBBよりも作業時間を短縮できるものとして定評があった。これを、完全自動装着できるようになれば、作業時間の大幅な短縮が実現し、熟練したオペレーターでなくても簡単に作業でき、人材不足の解消にもつながると考えたのだ。また、当時の新明和工業の社長が「画像認識を搭載してPBBを進化させてみたらどうか」と提案したこともプロジェクト発足のきっかけとなった。

新明和工業の園田義弘氏は、さまざまなメーカーの意見を聞き、どのような技術がプロジェクトにマッチするのかを試行錯誤していったと当時を振り返る。「3Dレーザーでスキャンすることも考えましたが、そのためにはソフトウェアを独自開発する必要があり、コスト的に見合わないとあきらめたこともありました」。その中で、新明和工業が注目し、採用したのがパナソニックの画像技術だ。新明和工業は、パナソニックの画像技術を採用したが、単なる画像認識では、航空機の機種とペイントパターンが限られてしまうため汎用性が低く、プロジェクトは一旦行き詰った。新明和工業が求める精度を達成するために、新たな方法を模索するなかで、パナソニック ソリューションテクノロジーの保有するAIを用いた画像認識技術を採用することとなった。

新明和工業株式会社
パーキングシステム事業部 システム本部 空港施設部 技師
園田 義弘氏

天候条件や機種などの膨大な画像をAIで解析

新明和工業は、2015年10月から徳島阿波おどり空港でPBB自動装着の実証実験を開始した。空港で、前例のない試みとして実物の航空機を対象に実証実験を行うのはハードルが高く、徳島阿波おどり空港の関係者の理解と協力、そして熱意なくしては実行できなかった。

自動装着システムを搭載した航空旅客搭乗橋(徳島阿波おどり空港)

空港施設を運営する徳島空港ビルで、専務取締役を務める露口泰弘氏は次のように話す。「最初に我々の空港でデータを収集させてほしいと依頼があったときには、ぜひ取り組んでほしいと答えました。ただ、初めての試みですし、万が一、航空機に接触するリスクがあることを考えると空港ビル会社、航空会社、地上業務受託会社、新明和工業との合意、監督官庁への届け出が必須になります。当社がPBB所有者でもあることから、関係者との調整にあたりましたが、幸いにも航空会社や官庁などとの調整もスムーズにいきました。これも、この自動化の実証実験に対する先進的な思いが皆さんにもあったおかげだと思います」。

徳島空港ビル株式会社
専務取締役
露口 泰弘氏

万が一の接触のリスクを避けるため、完全な自動装着ではなく、10センチまで近づけることを目指して徳島阿波おどり空港での実証実験は深夜から朝まで繰り返された。しかし、最初の一年間は思うような成果を出せなかったと園田氏は振り返る。「たとえば、B767で成功しても、A320ではうまくいかないというように、機種や機体の大きさ、見る角度で違いが出てきます。また、太陽光によるハレーションや天候によっても左右されることもわかってきました。たとえば、雨の日はエプロンに機体が映り、タイヤが二重に見えてしまいます。そもそも、画像認識は小さな被写体を捉えることを得意としています。大きな飛行機全体を捉えて、どこに停車するかを認識させるのは難しい作業でした」。

新明和工業では、パナソニックからAIを活用する提案を受け、2016年からはパナソニック ソリューションテクノロジーと共同で開発を進めている。徳島阿波おどり空港では、あらゆる条件で多くの機種の画像データが撮影され、現場で撮影をした膨大な実画像データをパナソニックがディープラーニングによる解析を行い、空港の営業外の夜間に駐機している航空機とPBBを使って自動装着の実験が繰り返されていった。「細部の調整には人間の知見を加えた“さじ加減”が必要なのですが、今回担当してくれた技術者にそれに応えてくれる柔軟さがあり、とても前向きだったことも奏功しました。ちょうどAI実用化の事例が出てきた時期と重なり、タイミングも良かったのだと思います」と園田氏は話す。

航空旅客搭乗橋自動装着システム概要(提供:新明和工業)

また、開発担当として携わったパナソニックの島崎繁氏も次のように話す。「単純にAIがあればすべて解決という話ではなく、お客様が求めているゴールに沿ってどのようにAIを使うかを提案することがポイントになってきます。AIにもできることとできないことがあり、決して万能ではありませんので、見極めが大事なのです。今回のPBBの件も同様で、実際にやってみないとわからない部分も多かったため、一緒になって話し合いながら何を達成するかを共有しながら進めていきました」。

パナソニック ソリューションテクノロジー株式会社
AI・アナリティクス部
AIプラットフォーム課
シニアエンジニア
島崎 繁氏

空港のスムーズな運用に大きく貢献

AI搭載PBBは、2018年から徳島阿波おどり空港で本稼働している。「日本には四季があるので、1年半くらいの期間をかけて実用化させていきました。大半は、天候や条件ごとのデータ収集に時間をかけていますね。これらのデータを教師データとして学習させることを地道に積み上げていくことで、本稼働できるまで精度を高めることができました」と島崎氏は振り返る。

本稼働後の効果について園田氏は、「若手だけではなく、ベテランスタッフも喜んでくれています。神経を使う最後の微調整が不要になったわけですから」と話し、露口氏も大きな効果が出ていることを明かしてくれた。「PBBの操作は、熟練者と経験の浅い技術者では装着時間にどうしても差が出てしまいます。そこで遅れることなく定時運航を維持できること、そして信頼できる機能でヒューマンエラーを防げることは非常に大きなメリットになっています。それ以外でも、空港の地上職は本当にハードな仕事です。ますます業務が煩雑化していきますし、資格を取るための研修も受けなければならない。スタッフも高齢化して、今後は労働人口の減少で人を採用することも難しくなってくる。だからこそ今回のように、AIを導入してもっともっと働くスタッフをアシストしてくれるシステムを開発してほしいと思います。高齢者でも女性でも長くたくましく働ける、そんな仕組みが理想ですね」。

また、PBBのオペレーションで実証実験にも協力したエアトラベル徳島 取締役(空港担当) 池田義人氏は次のように話してくれた。「若いスタッフからは、緊張感が緩和され、ヒューマンエラーを起こす心配がなくなったと非常に好意的な感想が寄せられています。あの大きなPBBをカメラとAIが特定の場所寸前まで近づける様子を見たときは、感動しました。どんな天候でも、誰がやっても同じ時間で同じポイントまで持っていけることから、タクトタイム通りの運航が可能となったことが最大の利点ですね」。

株式会社エアトラベル徳島
取締役(空港担当)
池田 義人氏

完全自動化や他空港への横展開にも期待

PBB装着の“ほぼ完全自動化”を実運用する試みは大きく注目されて新聞などでも取り上げられ、成田国際空港やチャンギ空港でも採用することが決定している。実証実験にも立ち会った日本航空の神永直也氏は、「成田国際空港では、第2ターミナルの64番スポットにPBB自動装着システムを導入すると聞いています。ここは、ニューヨーク便などの日本航空の主要路線で使用する重要なスポットです。熟練の技能がなくてもPBBの操作ができるようになることで人的リソースを有効活用でき、サービスの充実や新たな展開が可能となっていくことを期待したいですね」と話す。

日本航空株式会社
徳島空港所
所長
神永 直也氏

成田国際空港では、2018年6月から画像データの収集やディープラーニングを行っており、2019年3月に実装して、その後運用導入する計画となっている。徳島阿波おどり空港とは条件や環境が異なるため、成田国際空港でも画像データを収集分析する必要があるが、導入するケースが増えてくれば、これらの作業も軽減化されていくことが予想される。「空港によって入っている飛行機自体が違うので、ある程度の最適化が必要ですが、それらの違いに対してどのようなデータを取ればよいのかがわかってきているので、それらの無駄を省けば、データ収集の時間は短縮できます。新明和工業と我々は、最初の段階からこのソリューションを横展開し、拡大していきたいという思いがありました。徳島阿波おどり空港の実績をご覧いただき、成田国際空港やチャンギ空港にも新明和工業製の自動装着システムが導入されることになり、そこにパナソニックのAI技術が採用されていることで、世界でも当社の技術が認められたことを実感できました」と島崎氏は話している。

最後に北野氏は、今後のビジョンを次のように話している。「最終的には、PBBの完全自動装着を目指したいですね。安全性確保の問題もあり、当局と話し合いながらですが、2020年頃を目標に完全自動装着を目指していきます。また、PBBを遠隔監視して故障予測を行う計画もあります」。さらに、園田氏は、「航空機を利用されるお客様が第一歩を踏み出すのがPBBで、お帰りになる最後に渡るのもPBBです。AIと画像認識技術を使うことで、素早くスムーズにPBBが装着され、お客様をお待たせしない運用が実現できました。その意味で、我々のPBBは夢のある製品であり、思い出の架け橋であり、その仕事に携われていることが誇りです」。

徳島阿波おどり空港

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