日経 xTECH Special

食とものづくり――
その両方がある金沢へ

その後、金沢市による工芸の総合的施設「金沢卯辰山工芸工房」に入り、金沢で活動を続けるものの、上町氏はまだこの町にはおらず、柳井氏はこの時「まさか上町と活動を共にするとは夢にも思っていなかった」と当時を振り返る。

では、当時、上町氏は何をしていたかというと、かつての柳井氏と同様に工業デザイナーとして活躍していたというのだ。

株式会社 雪花
代表取締役CEO
上町 達也氏

「当時、東京でカメラメーカーのデザイナーをしていましたが、柳井と同様に、長い時間をかけてデザインした製品が、発売した1年後にはワゴンセールに並んでしまうという現実に漠然と疑問を感じていました」(上町氏)

そして、そんな上町氏を金沢に向かわせるきっかけになったのが、東日本大震災だった。

「震災の後、大勢の人が安全な水を求めた結果、スーパーマーケットから飲料水がなくなったり、人々の意識が急に食の安全性に向いたりと、本当は当たり前のことなのに、地震がないとそういうことに気付けない世の中って何なんだろう?と――。元々持っていた工業デザインへの疑問もあって『人の価値観が希薄になっている』と感じたのです。そして、そんな状況に対して、クリエイターとして何かできないかということを考えるようになりました。すると、人間の生活の基本である食に対する意識が自分の中で強くなって、食とものづくりを掛け合わせたことをしたいという思いが出てきて、まず思いついたのが金沢だった。金沢なら、食とものづくりの両方が存在する――行けばその地に答えはあると思ったのです」(上町氏)

株式会社 雪花
取締役CCO
柳井 友一氏

実は2人にとって、金沢は縁もゆかりもない町ではない。出身地は異なりながらも金沢美術工芸大学の学生として過ごした場所なのだ。そして、学生時代から知り合いだった柳井氏が金沢に来た約1年後、上町氏も移住し、この町で再会することに。

その後、上町氏は、農業などを行い食の事を学びながら、事業の構想を磨き、2013年にsecca inc.を立ち上げる。この時、支援を受けたのが、同社のアドバイザーとして名を連ねる、宮田人司氏だ。株式会社センドの代表取締役である宮田氏は、デザインや3Dアニメーション、アプリ開発、音楽配信事業など、様々な領域で実績を残してきた日本を代表するクリエイターの1人である。

「ある時、金沢に移住しようと検討していた頃に知り合った宮田さんのご支援で、器と料理を同時に提案することを目的とした飲食店をやることになりました。それをきっかけに、会社を立ち上げたのがseccaの始まりでした。この時はまだ柳井は『金沢卯辰山工芸工房』に在籍中だったのですが、店専用の器を作ってもらっていました」と上町氏は当時のことを述懐する。

正式に、柳井氏が参加し、現在のような体制になったのは2015年のこと。それからは「基本的に、器をはじめとするものづくりは柳井に主導権を委ね、僕は人との繋がりを構築したり組織づくりや経営面、を中心に取り組んでいます」(上町氏)とのことだ。

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