日経 xTECH Special

伝統が息づく町、金沢で伝統的な工芸技術に最先端のデジタル技術を掛け合わせた革新的なものづくりを行うsecca。同社のCEOである上町達也氏とCCOの柳井友一氏に話を聞いたインタビューの後編をお届けする。前編では金沢で事業を始めた経緯などが語られたが、今回はものづくりに対する考え方や今後のビジョンなどに話が及んだ。

器の価値は料理を載せることだけに非ず
食にまつわるあらゆる体験を提供

「器づくりを通じて、新たな食体験を提供していくことが、僕たちのこだわりの1つ」だと上町氏は語る。

例えば、ある世界的に活躍するラーメン店の依頼でラーメン鉢を製作した際、「一杯のラーメンを食べ進める中で、プレーンな状態から徐々に具材を追加し味の変化を楽しめる機能をカタチにしたい」という店主からの要望で、追加具材をスープに浸らせずに乗せられる平面部を持った形状を綿密に設計したという。つまり届けたい味や食べ方から器の形状が生まれた訳だ。

また、パーティで使われるシャンパングラスと取り皿を製作した際には、グラスのプレートと取り皿を重ねたまま片手で持てる形状で、割れる心配がなく、社交に集中できるよう樹脂素材を採用。ここでこだわったのは「持つ人の所作が美しくなること」だったという。

これにより「パーティ会場にいる人の所作が美しくなることで、会場の雰囲気全体に品が生まれることを狙ったのです。なので、皿に穴が開いていて指をひっかけるような形状にはしませんでした」(上町氏)という。

このような動作や所作、そして空間まで見据え、食にまつわる体験を提供する、ものづくりを今後も引き続き行っていきたいというが「食す人の行動などをトラッキングして、AIでディープラーニング(深層学習)を行って、例えば料理人が理想的だと考えている食べ方に最も自然に誘導できる器の形状を明らかにしたり、個人個人が最も美味しいと感じる個別最適な器の形状を作り出すなど――例えばそのようなテクノロジーを活用して、新たな価値を創出するということも考えていきたい」と上町氏は付け加える。

今後も3D-CADや3Dプリンターなどに留まらず、活用できる最新技術は積極的に取り入れながら、技術をアップデートしていくのだろう。

(上)事務所(下)作業場の様子。
独創的なデザインはここから生み出されていく。

また、seccaのプロ用の器は大きく2種類に分けられる。1つが、パートナー(依頼主)からの具体的な要望によって生まれるもの。もう一方は「料理人さんがどう盛ってくれるかという挑戦状のようなもの」と上町氏が語る、オーダーなどは一切なく、日々料理人と関わる中で得た経験を基に自ら思いのままに作るものである。

「挑戦状のようなもの」といわれる器について、器を統括する柳井氏は「ランドスケープウエア――風景の器と呼んでいますが、建物を建てる時に土地に合わせて設計するように『器の形や印象から始まる料理があってもいいんじゃないか?』というコンセプトで製作しています。格好をつけた言い方をすると料理人の方とのセッションのような感覚ですね」と説明する。

これも器が提供する食体験の1つに他ならないのは言うまでもない。

ARTICLE ARCHIVE

働き方改革 実践事例ムービー