日経 xTECH Special

脳の活性化で従業員パフォーマンスを向上。脳科学による“見える化”で働き方改革を実現

KPMGコンサルティング

脳の活性化で従業員パフォーマンスを向上
脳科学による“見える化”で働き方改革を実現

従来の労働時間管理だけでは、目指すべき労働生産性向上や収益改善にはつながらない。コンサルティング大手・KPMGコンサルティングが提唱する脳科学を活用した科学的根拠に基づく次世代型働き方改革のアプローチ法について同社・宮城政憲氏、橋爪謙氏に語ってもらった。

労働時間の管理だけでは生産性向上は達成できない

宮城氏
KPMGコンサルティング
ディレクター
宮城 政憲

 働き方改革への取り組みが広がる一方で、その成果・効果となると道半ばという企業も少なくない。具体的な施策の企画立案、実践・運用をしていく上で改善すべき課題、ボトルネックはどこにあるのか。

 KPMGコンサルティング・ディレクターの宮城政憲氏は、まず大半の企業が残業時間の削減、有給休暇の取得促進など労働時間管理の施策にとどまっている問題を指摘。「従来の時間管理や業務プロセスの効率化だけでは、もはや生産性向上、収益改善を成し遂げることは困難と言っていいでしょう」と語る。

 さらに深刻化する労働力不足、長時間労働に対する規制などの強化も進むなか、フォーカスすべきは付加価値額の増大であり、従業員のパフォーマンス向上への取り組みが必要不可欠と断言。従業員の能力・スキルの向上、健康管理も加味した総合的な施策を実践していくことが大事だという。

 ただし、改革の在り方は企業、職務、部署などによっても異なる。的確な施策を展開するには、企業としてのゴールを見据え、現場の実態を正確に把握するための指標、ツールが必要となる。

 現状、多くの企業では「従業員満足度調査」や「ストレスチェックに関するアンケート調査」などを実施しているものの、「対象者の主観評価に基づいた調査だけでは、人事評価を懸念する従業員が意図的な回答をする可能性など、実態を正確に把握できない弊害が指摘されています。結果、誤った施策を行い、逆効果になってしまうリスクもある」という。

図5
脳の中でも論理的思考や意思決定をつかさどる前頭前野の活性度を脳血流の増減で測定。軽量かつコンパクトなヘッドセットを装着すれば、5〜10分で測定が可能

生産性低下の主な原因はメンタルの不調にある

橋爪氏
KPMGコンサルティング
コンサルタント
橋爪 謙

 そこで、KPMGコンサルティングが提唱するのが脳科学によるアプローチだ。同社では脳科学の研究開発、ソリューション提供に取り組む株式会社NeUと協働し、脳のパフォーマンス(脳活性度)の測定による実態把握の取り組みを展開。企業の組織・人材マネジメントなどのコンサルティングに活用している。

 AI(人工知能)の分野などでは既におなじみの脳科学だが、実は業務変革の場面でも、近年注目を集めている。「脳活性度の低下を伴うメンタルの不調が生産性低下の主原因であることはデータでも明らかにされています」と同社の橋爪謙氏。「脳活性度と企業業績の関係」の統計においても、メンタルヘルス休職者比率が上昇している企業ほど、売上高利益率が低下するという逆相関性が見られるという。

 近年、健康経営の一環として、出社していても心身の不調によりパフォーマンスが発揮できていない状態を指す“プレゼンティーイズム”解消への取り組みを推進する企業も増えているように、「生産性改善の観点からも心理的健康リスク低下への施策のニーズは年々、高まりをみせている」と指摘する。

 だが、プレゼンティーイズムが厄介なのは第三者が外から見ても分からないこと。そこに脳科学が果たす役割がある。

 人間の脳は「脳幹」「大脳辺縁系」「大脳新皮質」の3つの部位に分けられ、論理的思考、計画、意思決定など、ビジネスで必要となる機能をつかさどるのが大脳新皮質の中の前頭前野になる。

 測定法は簡単で、軽量なヘッドセットを頭に装着し、前頭前野の脳血流の増減を計測するだけ。従業員1名当たり5〜10分程度と短時間で完了し、測定環境も選ばない。

 また、「自答式のストレスチェックやアンケートでは把握しにくい抑うつなどの心理状態を科学的根拠に基づき“見える化”できるのが特長です」と橋爪氏。ローパフォーマーが「パフォーマンスが高い層」と誤認され、不適切な改善施策の対象となるようなリスクも低減できる。

改革に向けたビジョン共有、社内の合意形成が必須

 こうして科学的根拠に基づく実態把握を経て、適切な改善施策を実施。脳科学の知見に基づく脳トレーニングやマインドフルネス、食事や職場環境改善などを実践することで、従業員のパフォーマンス向上を目指すというアプローチになる。

 ここで宮城氏が提示したのが、実際にIT企業で脳活性度測定を経て、改善施策を打った前後で、脳活性度を測定した結果だ。これを見ると、非エンジニア層と比較し、脳の疲れや活性度の低下がみられたエンジニア層に施策を実践することで、活性度分布が大きく改善していることが分かる。

 同社では、脳の活性化施策に加え、業務量削減、人事制度、意識改革などを組み合わせ、各企業に合わせた改革支援を提供している。「働き方改革を成功させるためには、大前提として組織内人員でビジョンを共有し、社内の合意形成に向けた丁寧なコミュニケーションが欠かせません」と宮城氏。その観点からも、見えにくい投資効果や成果を視覚化する指標として、脳科学への注目度、期待はさらなる高まりをみせていきそうだ。

図6
IT企業で、エンジニアと非エンジニアの脳活性度を改善施策実施前と実施後で比較。脳活性度の低減がみられたエンジニアも、施策実施後には大幅に改善
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