日経 xTECH元年 特別トップインタビュー

マキシム・ジャパン

自動運転に向けたデジタル×アナログの協業

アーキテクチャーの
スケーラビリティーで
AIによる産業革命に適応

エヌビディア
日本代表 兼 米国本社副社長

大崎 真孝

マキシム・ジャパン
代表取締役社長 兼 米国本社マネージングディレクター

林 孝浩

GPU(グラフィックス プロセッシング ユニット)でゲーム機市場を席巻し、HPC(高性能コンピューティング)へ土壌を広げ、近年ではAIで注目されているNVIDIA(以下、エヌビディア)。そしてパワーマネージメントICやSerDes(シリアライザー/デシリアライザー)製品など、高集積・高性能なアナログ半導体を牽引するMaxim Integrated(以下、マキシム)。デジタル×アナログ半導体の組み合わせで大きく成長している両社の日本法人を代表する2人が、今後の成長戦略を語った。

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両社それぞれの2018年を総括してください。

 2018年は非常に良い年でした。マキシム全社で特に車載向けビジネスの伸びが著しく、過去5年で車載関係の売り上げは3倍に伸びました。直近の第1四半期(2018年7~9月)の全社売り上げは前年同期比11%増、車載向けビジネスは前年同期比15%の伸びを示しました。

 日本においても、車載向け製品は売り上げの約50%を占めるようになりました。車載市場をリードしてきた製品はパワーマネージメントICと、GMSL(ギガビットマルチメディアシリアルリンク)というSerDes製品です。GMSLは高速のデータ転送に使われますが、日本では、カーナビゲーションやリアシートエンターテインメントシステムにおけるビデオ転送など、車載向けインフォテインメント分野が好調です。さらに、2018年はADAS(先進運転支援システム)向けなどたくさんの開発プロジェクトに機能安全規格(ISO26262)ASILの安全要件をサポートしているパワーマネージメント製品やサラウンドビューやフロントカメラからの大量のデータをクルマの頭脳となるエヌビディアなどのチップへ高速で遅延なく、かつ堅牢に伝送する最新の次世代GMSL製品などが新規に採用決定された年でもありました。

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大崎 エヌビディアにとっても非常に良い年でした。元はグラフィックスの企業として認識されてきましたが、現在はAIが戦略領域です。今やAIは産業をまたぐように破壊的に拡大しており、金融にも、ゲームにも、自動車にも、ロボットにも活用されています。

 これまでAI市場の中心はデータセンターやスーパーコンピューターなどでしたが、それに加え2018年はエッジでの採用が大きく伸びました。つまり、従来の学習フェーズから実行フェーズへと進んだ、あらゆる産業でようやくエンドツーエンドでAIの導入が始まったと実感する年でした。自動運転を代表例に、日本では今や、ロボットからファクトリーオートメーション、医療画像の分野でのエッジコンピューティングにもAIが採り入れられています。

 学習側にあるデータセンターにおいても、AIが広がれば広がるほど、大量のデータを高精度で処理できる必要性が増えていきます。このデマンドはまだ尽きることはないでしょう。実行側のエッジでは、主に自動運転において、GMSLやパワーマネージメントICなどでマキシムにはお世話になりました。AIでは信号伝送における品質が重要なカギとなりますので、マキシムとのパートナーシップは欠かせません。

デジタル×アナログによる飛躍

両社はお互いにうまく相補関係ができていますね。

 カーナビゲーションなどインフォテインメントシステム向けがデータ転送の中心であったものが、今後はADASや自動運転向けのカメラやセンサーなどから入力される大量のデータの高速転送需要に広がっていき、未来のクルマは『車輪のついたデータセンター』と呼んでも過言ではないくらい膨大な量のデータを常に転送し処理することが必要になります。車内における高速データ転送の需要は爆発的に伸びていくと考えています。

 それらのデータについて、クルマの中でいかに堅牢、高速かつ高品質なアナログ信号処理をマキシムが担うかという点で、エヌビディアとはWin-Winの関係にあります。

大崎 マキシムはパワーマネージメントICもGMSLも車載用に対応しています。GPUはAIコンピューターとしてのデジタル処理であり、その周辺のアナログはプロのマキシムに提供してもらい、最適なチューンアップをしてもらうことになります。センサーからクリティカルなデータを入力するため、スピードと精度が重要です。エヌビディアのAIコンピューターは超高速で走っており、マキシムのような高性能なアナログ製品は必須です。

 光栄です。エヌビディア向けパワーマネージメントICは十数チャンネルもの電圧レールがあり、立ち上がり立ち下がりのシーケンスなどきめ細かな管理を行っており、複雑な制御を必要とし電源設計に非常に大きなリソースが必要となります。そこでマキシムはエヌビディアと協業して、お客様が最小限のアナログ設計のみで、ほぼそのまま製品に実装できるようなプラットフォームデザインを構築しています。私たちがプラットフォームデザインを用意することで、お客様が一から設計するという開発負担を大きく減らし、お客様は自社のコアビジネスにリソースを割くことができます。

大崎 AIも同様ですが、コンピューティング処理はデジタルであっても、我々の周りの実世界はアナログです。アナログなデータをいかに制御してデジタル信号を作り出すか、そしてデジタル処理した後のデジタル信号をいかにしてアナログ信号に戻すかという点で、必須のパートナーシップと言えます。そしてAIによってデジタル処理が増えれば増えるほど、アナログの精度が求められます。

 マキシムは35年間アナログとミックスドシグナルを追求してきた経験が強みとなっています。パワーマネージメントICで30年以上、GMSLにおいても15年以上の経験と技術を蓄積しています。また、電動化向け製品開発で培ってきた経験も役立っています。私自身も2009年から2014年の間San Joseの本社に勤務し車載向けバッテリーマネージメントIC開発グループのビジネスマネージャーとして実際に開発に携わりましたが、機能安全規格のISO26262がまだ一般的ではなかった当時からASILをどのようにICレベルとしてサポートしていくかを認証機関と一緒に取り組んできました。当時開発した製品及び派生製品は、現在日産自動車の新型リーフ、日立オートモティブシステムズ社のバッテリーマネージメントシステムなど多くのお客様のシステムに搭載されてます。

 これらの積み重ねてきた経験や技術を生かして開発された製品がエヌビディア向けソリューションに組み込まれています。

今後の自動運転ではGPUはどのように進んでいきますか。

大崎 皆さんご存知の通り、レベル1からレベル5までのうち、レベル5に近づくほど、クルマは自律的に動くようになります。ただし、すべてのクルマがすぐにレベル5を目指すわけではありません。商用車といったMaaS(Mobility as a Service)ではレベル5が必要ですが、それまでに人を主体としたレベル2や3の段階のニーズはたくさんあります。

 エヌビディアが手掛けているレベル2からレベル5は、自律動作のSoCである「Xavier」という同一のプラットフォームで対応します。これを使えばレベル2で開発した製品にスケーラビリティーを持たせて、レベル5までソフトウエアの変更だけで対応できます。レベルごとにその必要な性能は違ったとしても、課題としては同一です。ハードウエアに互換性のあるソフトウエアを載せてスケーラビリティーで対応できるのは、オープンコンピューティングであるGPUにしかできないことです。我々の自動運転システムは、学習側のデータセンターと実行側のクルマに搭載されているGPUが同一アーキテクチャーです。このシステムのループによりディープラーニング技術を使った自動運転を確立しています。

 今後もGPUで、スーパーコンピューターからロボット、自動車、すべて同一のアーキテクチャーを使って、それぞれの産業ごとに最適なプラットフォームを開発していきます。オープンプラットフォームであり、ディープラーニングに特化したアクセラレーター。この鉄則がエヌビディアの開発思想を貫くものです。

他方で、全産業にAIが及ぶことになるとすれば、それらをカバーするいくつかのプラットフォームを用意することになるのでしょうか。

大崎 原理原則はOneアーキテクチャーです。それを全産業に拡張すると、形状や性能は違ってきます。医療用、ロボット用、監視カメラ用、クルマ用など様々出てくるわけです。しかし、ソフトウエアエンジニアは全機種に対応できる。これはあらゆる産業を貫くAIそのものの発想と同じですよね。

 マキシムも同様にエヌビディアのプラットフォームに合わせて拡張性を持たせています。例えばXavier プラットフォームで使用されているパワーマネージメントICは前世代のプラットフォームと同じベースのICを使用することができます。カメラ向けGMSLでは現行GMSL製品と次世代GMSL製品のバックワードコンパチビリティーを確保しております。さらにシステム全体としてASIL-AやBからさらに厳しいASIL-CやDの要件を満たす必要が出てきた場合も同じプラットフォームに電源システム監視ICを追加することにより要件をサポートすることができます。

 これらによりユーザーは余分なハードウエア設計を考えることなく、用途に応じてスケーラビリティーを確保することができます。