アスリートの課題を“技術と知恵”で解決
Athlete-Port-Dが目指す新地平とは 2018年9月12日、アスリートによるスポーツイノベーション創出プロジェクト「Athlete Port-D(アスリート・ポート・ディー)」がスタートした。為末大氏が代表を務めるDeportare Partners(以下、デポルターレ)、NTTドコモ、NTTドコモ・ベンチャーズが中心となった画期的な取り組みの全容を、関係者の言葉から明らかにしていく。
 2018年9月12日、アスリートによるスポーツイノベーション創出プロジェクト「Athlete Port-D(アスリート・ポート・ディー)」がスタートした。為末大氏が代表を務めるDeportare Partners(以下、デポルターレ)、NTTドコモ、NTTドコモ・ベンチャーズが中心となった画期的な取り組みの全容を、関係者の言葉から明らかにしていく。

アスリートとビジネス、両者の言語がわかることが重要

 Athlete Port-Dは、現役アスリートやコーチ、スポーツ科学の研究者らをゲストに迎えたトークセッションを通じて、アスリートが抱える課題解決を目的とするプロジェクトだ。セッションは2018年9月~2019年3月までの約半年間にわたり毎月2回(水曜日)開催され、全14回を予定。今のところテーマは、7回が「アスリートのためのスマートスタジアム」、7回が「アスリート×異業界の第一人者」を想定している。

Athlete Port-D
http://athlete-port-d.com/

Athlete Port-Dのページに掲げられたビジョン

 プロジェクトはデポルターレ、NTTドコモ、NTTドコモ・ベンチャーズの3社が牽引する。デポルターレは元プロ陸上競技選手の為末大氏が代表取締役を務める企業で、「Sports×Technology」に関する事業を中心に据えている。今回の取り組みではデポルターレがアスリートやスポーツ人脈との橋渡し役となり、NTTドコモは技術を活かした豊富なアセットを提供、NTTドコモ・ベンチャーズはスタートアップ企業を紹介して課題解決の糸口を探る。

プロジェクトの中心を成すメンバー。左からDeportare Partners代表取締役 為末大氏、NTTドコモ・ベンチャーズ代表取締役社長 稲川尚之氏、NTTドコモ スマートライフ推進部 スポーツ&ライブビジネス推進室長 馬場浩史氏

 肝は“現場にいるアスリート”が登壇する点である。選手たちが日頃から何を課題として感じているのか――リアルな意見を収集しながら最新テクノロジーや各業界の知見を持ち寄る場は、これまでありそうでなかったものだ。こうしたやり取りの積み重ねが、スポーツ分野におけるイノベーション創出、さらには新規ビジネスの“種”となる可能性は十分にある。

 9月12日に開催された、Athlete Port-Dローンチセッションでは、東洋大学 法学部企業法学科 生体医工学研究センター 工業技術研究所教授 土江寛裕氏(陸上)、東京大学 西薗良太氏(自転車)、NTTコミュニケーションズシャイニングアークス キャプテン 金正奎氏(ラグビー)が登壇し、課題を話し合った。「陸上はチームを応援するのではなく、基本は個人の競技を見ているだけ。選手に感情移入しやすいようなアプリがあればもっと観戦の楽しみが広がる」(土江氏)、「ラグビーで装着するGPS装置は重くて選手にも負担がかかる」(金氏)、「自転車競技は持続可能な収益モデルの確立が急務」(西薗氏)といった意見は、アスリートならではの本音と言えるだろう。

左から土江氏(陸上)、西薗氏(自転車)、金氏(ラグビー)が登壇したローンチセッション。モデレートは為末氏が担当


 では、Athlete Port-Dの先に目指す地平はどんな場所なのか。最初に今回のプロジェクトのキーパーソンである為末氏のインタビューをお届けしよう。

――為末さんがAthlete Port-Dを手掛けようと思ったきっかけを教えてください。

為末氏:僕は現役のときから、アスリートとテクノロジー、またはビジネスの間に“谷”のようなものを感じていました。これまでビジネスに関して一生懸命取り組んできた自負はありますが、まだ弱い部分もあります。そこで改めて「スポーツとビジネスやテクノロジー領域のギャップを埋められないか」と思ったのが大きな動機です。

 最近では昔に比べて、スポーツと交わる領域のカンファレンスが増えてきました。しかしゲストとして毎回、僕のような人間が持ち回りで出ているのが現状です(笑)。現役アスリートをはじめ、「スポーツの中の人」がなかなか出てきません。僕は目利きとして選手を連れてきて、アスリートと企業の両者をつなげたい。よくよく話を聞くと、アスリートの間で取り上げられる課題が、いとも簡単に企業の既存技術で解決できるものもあったりするからです。それが本格的なビジネスにつながっていけばなお良いなとの思いもあります。

取り組みについて話す為末氏。引っ越したばかりのデポルターレ新事務所にて

――確かにAthlete Port-Dでは、アスリート自身の声から課題の種を拾うことが重要になってきます。

為末氏:だからこそ、目利きの要素が大事になってくるんです。アスリートは誰に声をかけられるかどうかで来る・来ないが変わってくるので、普段話しているメンバーに「こういうイベントがあるから来てよ」と声がけしようと考えています。

 どうしてもスポーツの社会はムラ社会になりがちですからね。ただ誤解しないでほしいのはスポーツの場合、視野が狭いことが有利に働くこともあるということ。ハードルのことばかりを考えていればハードルが上手くなるし、バッティングにしたってそう。なので、違う世界の人たちに触れる機会が著しく少なくなることが現実としてあります。

 そのことも影響してか、アスリートは外部から触れてはいけない神聖な存在だと思われている側面もあります。もっと会議室でフランクに話し合ったり、一緒にランチをしたり、そういった自然な出会いが成立していません。でも僕は意識して両側に立とうと努力しています。もちろんかなりアスリートに寄ってはいますが、両方の言語がわかることが大事なのです。

――そう思うきっかけがあったのでしょうか。

為末氏:僕自身の中で最もブレイクスルーだった出来事は、義足を作るプロジェクトです。これは義足開発ベンチャーの「Xiborg(サイボーグ)」との共同プロジェクトで、そこで初めてエンジニアとアスリートの間に立って、アスリートからの要望を通訳しながらエンジニアにわかるように伝えていました。だって「何となく思いっきりやってます」では伝わらないじゃないですか? そこにはアスリートとして培った勘どころを言語化する能力が必要になります。そのとき、これこそが自分の使命ではないかと感じました。

 一方で、アスリートにも意識の変化が必要です。自分たちは特別なんだという意識を捨てて、もう少し社会との接点を作っていくべきでしょう。僕は出発点がセカンドキャリアだったため、余計そうした思いが強いのかもしれませんが。

アスリートは積極的に社会との接点を持つべきだと語る

――今回、NTTドコモ、NTTドコモ・ベンチャーズと3社共同での取り組みとなります。為末さんご自身、新たな接点だと思いますが、この3社だからこそ生まれる化学反応はどんなものだとお考えですか。

為末氏:いろんな考えの人たちが集まれば、何かしらの反応は生まれるはずです。以前、原宿の3LDKのマンションに事務所を構えていたんですが、僕らはその場所を「スポーツトキワ荘」と呼んでいました。スポーツのスタートアップがいたり、アスリートがいたり、オリンピアンが理事を務める社団法人があったり、予防医学の権威がいたり。そんなごちゃごちゃした環境で学習したのは、必ず何かしらのアイデアが生まれるということです。

 ただ、個性がある人たちって話してふわっと形になると満足してしまう傾向があって(笑)。だからこそ周りにいる人がアイデアを拾って、きちんとスタート地点まで持っていくことが非常に大事になってきます。

 今回のプロジェクトではNTTドコモやNTTドコモ・ベンチャーズがしっかり支える側に立っていますから、セッションに来たアスリートが「また来たい」と思うような関係性が育めるといいですね。それとAthlete Port-Dで新たな出会いが生まれ、僕たち主催者が知らないところで勝手に始まるプロジェクトがあってもいいのではないでしょうか。

――センサーやデバイス、通信技術の発達などもあり、スポーツテックが注目されていますよね。データ分析や体の動きの数値化・可視化によって、成績が伸びることも証明されています。今後、スポーツにとってデータを活用することは必須なのでしょうか。

為末氏:データの良さは再現性があること。その事実だけでも、データを取る価値はあります。強くなっている国は根本にデータがあり、それに基づいてトレーニングを重ねていますから。

 例えば僕はハードルを飛ぶときに自分の体の上下動が気になっていたため、大きなデバイスを腰につけてデータを取っていました。でも体が動くだけでそのデバイス自体が動いてしまい、デバイスが揺れている上下動なのか、自分の体の上下動なのかがよくわからなくて機能しませんでした。

 それが最近のデバイスはペタッと貼る形状で、簡単にデータを計測できるんです。しかも精度は当時僕が使っていた重たいデバイスとほぼ同じぐらい。選手の体に無理なく装着していろんなデータが取れることで、相当わかることが増えると期待しています。

 結局、道具はシンプルであればあるほうがいい。やはり、現場で使われてナンボなのです。すごく高精度であってもセッティングに手間がかかって、練習中に装着できないのであれば意味がありません。

――なるほど。実にアスリート的な視点です。

為末氏:逆にスポーツテックで生まれた技術をスポーツに特化して利用するのはもったいない。非常にハードで高負荷な環境で必要とされる技術は、その他の領域に転用したときにも十分機能するのではないかと思うんです。これはF1の世界で生まれた技術が乗用車の世界に応用されるのと同じ理屈で、そこに大きなマーケットが広がっているはずです。

――2019年ラグビーW杯や2020年東京オリンピック・パラリンピックなど、日本を舞台としたスポーツの大イベントが続きます。こうした機会を通じて、5年後、10年後のスポーツ界、そしてアスリートはどのように変わっていくと思いますか。

為末氏:日本がスポーツで最も貢献できる分野はヘルスケアじゃないかと思います。高齢化社会とスポーツから得られる知見が融合すれば、これから人類が抱える課題を解決するインパクトのあるソリューションが生まれるのではないでしょうか。

為末氏は、メンタルはデータ解析とは別物だという

 ただいずれにしろ、テクノロジーを駆使してもメンタルまでは解析できないでしょうね。プロ野球の野村監督や落合監督が判断していることは、恐らくデータを取っても正解に近いことをやっているのではないかと思います。ただ、落合監督の考えをデータだけでなぞれるかというと、それは非現実的です。生まれながら持っている、ある意味で天才的な感性の世界には踏み込めない。やはりそこはブラックボックス、聖域だと思います。

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