Village ソーシャル・アントレプレナーでは、NPO法人 ETIC.(エティック)が運営する「社会起業塾イニシアティブ」を通じて社会起業家支援を行っている。2002年から始まった「社会起業塾イニシアティブ」はソーシャルイノベーション(革新的な社会課題解決方法)の創出を目的として、これまで教育・子育て、人材育成・自立支援、ヘルスケアなど多岐にわたる社会課題解決型の団体・企業を輩出。社会起業家を目指す者たちにとって、登竜門として認知されている。
本プロジェクトでは起業家を支援する企業を「オフィシャル・パートナー」として募っており、2016年度からはNTTドコモとNTTドコモ・ベンチャーズが参加。第一期生として、発達に障がいや特性を持つ子どもたちが健やかに成長していける環境づくりを目指す「Kidsサポートデザイン」、高齢者の看取りに向き合った事業を展開する「エンドオブライフ・ケア協会」が選ばれた。
二期目となる2017年度は“祭りの力で人と町を元気に”をモットーとする「マツリズム」、新時代のメンタルヘルスサービスを提供する「インターナショナルメディカル」が選抜され、約半年にわたって「学びと実践」の両面からプログラムを展開してきた。
今回、二期目を振り返るタイミングで関係者に話を聞いた。まずはサポート側であるNTTドコモ関係者のインタビューから紹介しよう。NTTドコモ CSR部長 相沢そのみ氏とNTTドコモ・ベンチャーズ 取締役副社長 稲川尚之氏にお答えいただいた。
――改めて、NTTドコモが社会起業家支援に臨む意義を教えてください。
相沢氏 企業が社会課題の解決に向けて取り組んでいるつもりでも、若い社会起業家たちと接していると、まだまだ課題があることに気づかされます。要するに社会の中で“困りごと”があるから行動を起こしているわけです。
そこにある課題を解決したい意気込みや、前に進む勇気は素晴らしいものです。そしていろんな活動やテーマを見るにつけ、ハッとすることも多い。そういう人たちを見て、私たちが今後、社会課題解決に向けてどのような関わり方をしていくべきか。どこまで、どんな形で支援していくか――こうした思いから参加しています。
NTTドコモ CSR部長 相沢そのみ氏
社会起業家の皆さんを支援する側面から、「新しい価値」を協創し社会課題を解決する。これはドコモの事業活動として、利潤を追求するだけではなく、持続可能な社会の実現に寄与していく姿勢を現しています。さまざまな社会課題の解決に向けて、熱意を持った社会起業家の皆さんと一緒に「新しい価値」を提供し続けていくことは、ドコモグループのCSR方針でめざす「あんしん・安全かつ快適で豊かに暮らすことができる持続可能な社会」の実現につながることとして大きな意味があります。
稲川氏 NTTドコモ・ベンチャーズは、ベンチャー企業とNTTドコモを結ぶ架け橋的な存在です。そしてすべてのベンチャー企業の社長同様、社会起業家は必ず自分の課題意識を持っています。
社会起業家たちに顕著なのは“世の中の非効率な部分を改善していく熱意”です。昔は企業に入るのが一般的でしたが、最近では自分たちで自主的に起業する流れが増えてきています。大企業に入るよりも、ベンチャーや社団法人などを起業して活動するほうが自分のやりたいことをできるのではないかとの思いからです。昨年からVillage ソーシャル・アントレプレナーに取り組んできて、こうした思いが広がっていることをひしひしと実感しています。
――支援する中で印象的だったことはありますか。
相沢氏 非常に信念が強いということです。いろんな報告を見たり聞いたりしていると、自分だったら「これ大丈夫?」と不安に思うようなこともあったりします。しかし、「必ずやり遂げます」という強さが活動の随所に感じられます。彼らは本当にリーダーであり、自分の思いを実現するために自分が引っ張っていく資質があります。
稲川氏 NTTドコモには今でも公共性の強い部分が残っています。例えば山間部の集落でも携帯電話の基地局を建設するのが当たり前、という企業姿勢です。そこには、広くあまねくサービスを提供するという企業理念があります。
我々が支援している社会起業家もこの理念に通じる考え方を持っている人たちです。例えばマツリズムは、全国の伝統的な祭りの担い手が少なくなる現状を放っておけないところからスタートしています。インターナショナルメディカルは、「うつ病を抱えているのに、なぜカウンセリングに行かない人が多いのか」という点に着目している。
彼らは、社会のエコシステムの中でスタックしているボトルネックの部分を何とか解消できないかと考えています。真摯に向き合って問題点を取り除き、新たに組み直してスムーズに流れるようにする――我々が支援している団体・企業は社会課題に対して真っ向から取り組んでいます。ベンチャーキャピタルの立場から見ても、そんな彼らを支えていくのは非常に面白いですね。
――二期目に入り、昨年から変わったことは?
稲川氏 自分の求めていることを模索しているにもかかわらず、成果発表の段階では体裁を整えた「やりましたリスト」を出してきてしまうこともありました。「それは本当にやりたいことだったんですか、それで私たちを含めて満足させられますか?」と質問すると「うーん」と悩んでしまう。
NTTドコモ・ベンチャーズ 取締役副社長 稲川尚之氏
要するにまだまだ彼らも変わっている途中であり、日々、自問自答を繰り返しているのです。こうした社会課題解決型のビジネスに対し、日本ではこれまで誰に相談すればよいかわからない風潮がありました。ですから我々は、積極的に彼らに問いかけながら相談に乗っています。
相沢氏 一年目は「とにかく自分がこれをやってみよう」と思ったことを発表して、第三者の意見を募る時期だと思います。そして周囲のいろんなアドバイスを聞いて、現実的な経済活動も視野に入れながら徐々に成長している印象を受けます。結局、資金がなければ理念を広める活動もできなくなってきますから。
――おっしゃる通り、理想だけでは活動できない現実もあります。その壁を乗り越えるためにどんな手を差し伸べているのでしょうか。
稲川氏 今までは銀行融資しか選択肢がありませんでしたが、最近では我々を始めとしてベンチャー投資のカテゴリーが多様化してきました。投資を元手にファンドレイジングし続けて組織を大きくできることも、理解されてきています。
ですから我々は、社団法人であれNPOであれ、経済活動をしながら自走できる形に持っていくにはどうすればいいかを一緒に考えています。なぜならこういうプロセスを体験することでこちらも勉強になりますし、その中からきっと次の時代を作るサービスが新たに生まれてくるはずだからです。
最近ではモノばかりではなく、情報や体験の価値がお金を生み出すケースも増えていますから、それらをマネタイズする手段を見つければ自走できるようになる。そうした観点から支援を行っています。
例えば先日、マツリズムとインバウンドを手がける企業とをマッチングしてイベントを開催しました。どちらもフットワークが軽く、すぐに企画が成立したのです。マツリズムにとってはそれが本来やりたかったことかどうかは別としても、頭で考えているだけでは何も始まりません。ならば行動してみようと、こちらから背中を押してあげることも大事になってきます。
ベンチャー同士の掛け算は動きが早くてテンポがいいため、すぐに協業を生み出せる場合も多い。大企業に働きかけて事業を作るステップとは別に、今回のように小回りの利く環境で事業創造を試してみると、意外と動き出したりします。ですから、ここからムーブメントを作るきっかけになったらいいなと考えています。
――今後に対する期待を教えてください。
相沢氏 社会起業家の皆さんの実績やビジネス展開が積み重なれば、私たちはそれをドコモのブランド価値とあわせて多角的に発信するなど、パートナーとして協創していくことができます。それこそが、社会起業家たちがNTTドコモのCSRに求める期待の1つだと思っています。
今はなるべく多くの人の目に触れるようにサポートしていきたいです。そして、今後活動と経験を重ね、社会課題を本当に解決していく立場まで成長してほしいと期待しています。将来、ドコモの+dの取り組みを進化させるパートナーとなって、一緒に社会のさらなる豊かさの創出に関われるようになれたらいいですね。
稲川氏 ドコモ・イノベーションビレッジですから、使命感を持ってイノベーティブなことに取り組み、その結果、エコシステムをきちんと理解して、非効率な部分を変えていってほしいなと。使命感、イノベーション、エコシステム。この3つのキーワードをきちんと頭に入れて回していけるCEOがたくさん出てきてくれたらいいと思います。