難しい“社会課題解決とビジネス”の関係
大事なのは、一方に偏らないバランス感覚

ドコモ・ベンチャーズは話のわかる先輩

 続いて、支援される側のマツリズム共同創業者 代表の大原 学氏、インターナショナルメディカル ジャパンダイレクターの松本裕三子氏に話を聞いた。

――まずはそれぞれ、どんな活動をしているのかを教えてください。

大原氏 “祭りの力で人と町を元気に”というビジョンを掲げて活動しています。日本全国で、伝統的なものだけでも祭りは30万個ぐらい存在すると言われますが、少子高齢化に伴い、ほとんどの祭りで担い手に苦労しているのが現状です。つまり、祭りを未来に継続していくために、いろんな課題を抱えています。

 端的に言えば、それら祭りの担い手支援を行っています。地方の祭りへの体験型ツーリズムや、祭りの担い手向けのワークショップ、祭りの動画撮影などを組み合わせながら祭りを盛り上げています。

マツリズム共同創業者 代表 大原 学氏

 我々のミッションは祭りの力を最大化して、祭りイズムを世の中に広めるというものです。祭りイズムとはすなわち、祭りに内包されている一体感を作っていく力、達成感を味わう喜び、文化を創造する力などです。それらの価値を再定義し、世の中に広げていきたい。

松本氏 2人の英国人精神科医が作った、「Psynary(サイナリー)」という、うつ病治療支援のオンラインツールを日本で展開すべく活動しています。最初はPsynary を医療機関に使ってもらおうと考えていましたが、今回のプログラムに参加するに当たって、ツールだけではなくサービスやカウンセリングもあわせて提供することで、日本の患者がアクセスしやすいような形で提供していこうと方針を変更しました。NTTドコモやETIC.の支援を受けながら、改めてサービスをデザインしているところです。

 私たちはPsynary を、既に治療を始めたもののあまり効果が出ていない人や、治療に躊躇している人に使ってほしいと考えています。日本は精神医療における診療の時間が短く、2回目以降は大抵5分ぐらいだったりします。すると患者の状況をしっかりと把握するのは難しい。実は最初のうつ病の薬や治療が効いて治る人は3分の1しかいないというデータがあります。継続して自分に合った治療を探すことが大事なのです。

 しかしそこまで時間が取れない人に対しても、Psynary ならオンラインで予備的な問診をすることができます。そこで患者の状況を把握すれば、今の治療が有効かどうかがわかりますので、有効でなければ変えたほうがいい、という結果が得られます。ただ、そこまで定量化するのはなかなか難しい世界ではありますが。

――活動を回していくためのビジネスモデルは? とりわけ、マツリズムは難しいように思えますが。

大原氏 はい。試行錯誤しているのが正直なところです。ビジネスのベースには個人向けの祭り参加ツーリズム企画がありますが、それだけで十分な収益は得られないので、今後はそこで得た知見をパッケージ化してチームビルディングなどに応用し、企業向けの研修に展開していきたいと考えています。もう1つは、交流人口の拡大や地域文化継承を狙っている自治体からの委託です。

 しかしマツリズムの場合、マネタイズに引っ張られすぎると「そもそも何をしたかったのか?」となってしまう。ビジネスにフォーカスすれば、いっそのこと“祭り”というくくりを取り払って、日本の文化発信をしたりだとか、いろんなやり方があると思います。

 でも自分たちが本当にやりたいのは、中小規模で日の目もあまり当たらないけれど、キラッと光る祭りを光らせることなのです。結局、本当にやりたいことと、それを継続していくための間で振り子がずっと振れている感じですね。

松本氏 先ほどもお話したように、当初は医師に使ってもらおうと考えていましたが、診療報酬が入るわけではないのでなかなか導入が進みませんでした 。 医師たちから「私たちが使うメリットは?」と聞かれると返答に困ってしまうこともあります。

 そこでプログラムの参加タイミングも重なって患者向けのサービスも考え始めたのですが、お金の面でも規制の面でも難しさを抱えているというのが本音です。とくに日本では、医師の評判がいいから診てほしいという考えも根強く、ほかの選択肢を考える人は多くありません。仮に考えたとしても、面と向かって医師に要望を言える人も限られています。

インターナショナルメディカル ジャパンダイレクターの松本裕三子氏

 ですから、治療の結果が見えにくいときにPsynary を使ってもらい、システムを使った分だけのお金をいただくのが最もシンプルですが、それでは行動は変えられません。そこでシステムと合わせた医師やカウンセラーなどの治療者によるコーチングをはさみながら、継続中の治療を続けたり、自分の状態を把握できたりする ような形で続けたいですね。

――NTTドコモ、NTTドコモ・ベンチャーズとともに活動することのメリットについては?

大原氏 まずは物理的にシェアスペースを利用させてもらっていることに感謝しています。事実、イベント会場を利用させてもらい、2018年1月27日には、全国の祭りの担い手を集めた「祭りサミット」を開催することができました。実利的な面では、これらのサポートは非常に心強いです。

 プログラムに目を向けると、これだけ深い“問い”をくれるプログラムはほかにはありません。そしてそれを共有している仲間がいることが魅力だと思います。例えばシニアメンターと言われる大御所のアドバイスには、「若いんだから祭りをゼロからつくってしまえばいいじゃないか」などといった、活動の根本を揺るがすようなものもあります。そうした意見は同世代の仲間が集っても出てきませんし、自ら咀嚼して一所懸命考えるきっかけづくりとしても貴重です。

松本氏 問いに関しては同感です。理念、理念と大きな話ばかりしていると、「地に足を着けてビジネスモデルを考えているのか?」と聞かれ、ビジネスの話ばかりしていると、「本当は何をやりたいの?」と聞かれます。どちらも行ったり来たりしていると思いますが、そうこうするうちに、「こういうこともできた」「こんな考え方もあった」ということに気づかされることもありました。

 そのほかにも恩恵があります。NTTドコモではメンタルヘルスのヒアリングをやらせていただきました。「ドコモではこういうことに取り組んでいて、実際にこういうことが起きている、こういう部分はうまく行っていない」など、とても細かくいろんなことを教えてくれました。通常、これだけの大企業だとそこまでオープンに教えてくれませんが、NTTドコモには企業文化として支援の精神があると感じました。

本プログラムには、仲間同士が切磋琢磨する文化もあるという

 一方のドコモ・ベンチャーズからはベンチャー向けの指摘、ビジネスモデルをアドバイスしてもらえます。実はほかのプログラムに入っていたこともあるのですが、それらに比べると非常に親身になって向き合ってくれます。ドライな投資家ではなく、フラットに相談できる――まるで話のわかる先輩、といった印象です。

大原氏 確かに。一定の緊張感がありながらも、和やかな雰囲気ですよね。

――なるほど。では今後に期待することを最後に教えてください。

大原氏 祭りサミットを経験して感じたのが、とにかくコミュニティづくりが大事だということ。祭りの担い手を中心にして、集まってくる人たちがいる。そしてその人たちの熱量はすごいものがあります。そのコミュニティを拡大して全国的につながっていくスキームを作っていきたい。おそらくそれが数年後のマツリズムの事業の核になっていくはずです。

 今回のプログラムでは、そのきっかけを与えてくれたことに感謝しています。一方、我々が取り組む祭りの継承といった難しい課題に対しても、テクノロジーが1つのキーワードになってきます。そういうときに、「ぜひ一緒にやりたいね」とお互いが自然に言えるような関係性を築くのが理想であり目標です。

松本氏 NTTドコモは通信インフラ企業としていろんなサービスを手がけています。その中で医療、ヘルスケアもカバーしており、その分野は今後どんどん大きくなってくるはずです。そのときにぜひ何か一緒にできるように、成長していきたいですね。

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