製造現場のデジタル化を官民学一体で進めるドイツの国家プロジェクト「インダストリー4.0(Industrie 4.0)」。IoTやロボットなどを活用して世界的に進む製造業のデジタル化だが、そんな流れに先鞭をつけた取り組みとしても知られている。しかし、日本にいるとその実態を知る機会はなかなかない。
そこで、元半導体製造装置のエンジニアで、モノづくりをテーマとした作品も手掛ける漫画家、見ル野栄司氏が、ドイツに本社のある世界的産業機器メーカーの生産拠点に潜入取材!
帰国後、インダストリー4.0を実践する工場の様子やドイツの働き方などについて語ってもらった。

見ル野栄司氏 見ル野栄司氏

見ル野栄司

漫画家。10月13日生まれ。日本工学院専門学校メカトロニクス科卒業。半導体製造装置、アミューズメントゲーム機などの設計開発の企業に10年勤務。代表作に理工系ものづくりの人々の姿を描いたコミックエッセイ「シブすぎ技術に男泣き!」「鳥男(シリーズ)」など。

歴史と経験の積み重ねがエラーフリーへとつながる。これがインダストリー4.0の現場だ!

「これまで取材などでいろいろな工場を訪れましたが、行く先々でドイツ製の装置を見かけます。それで、現場の方になぜドイツ製の
装置を使うのかと聞くと『この装置しかない』もしくは『これが一番優れている』という。しかも、ドイツでは日本と違って残業は少ないらしいということで『なぜドイツという国は効率のよい働き方を実現しながら優れたものを作れるのか?』ということに元々興味がありました」

 かねてから抱いていたドイツのモノづくりの印象についてこのように語る見ル野氏が、今年4月に訪れたのは、ドイツ中西部の都市、ブロンベルクにあるフエニックス・コンタクト社の本社や生産拠点。同社は1923年創業の老舗で、コネクタや端子台などの接続機器やインターフェース製品の世界的メーカー。特にネジを使わずに簡単、安全に配線を接続できるPush-in(プッシュイン)方式が採用された端子台やコネクタはよく知られたプロダクトである。

フエニックス・コンタクト本社工場

「『とにかくきれい!』というのが工場に入った第一印象。清潔だし、製造装置の配線や配管も整然としていて、日本の製造現場とはまったくイメージが違います。全自動化された薄型リレーの製造ラインを見学しましたが、稼働エラーがほとんどないんですね。現場にいる人は、1人か2人で日本に比べると本当に少ない。それができるのも、エラーが少なく信頼できるシステムがあるからこそなのでしょう」とは、工場見学についての見ル野氏の感想だ。

Ferdinand Hasse氏

 しかし、デジタル技術を活用しているとはいえ、まったくエラーがない状況をつくるのは簡単なことではない。

 なぜそれが実現できるのだろうか?

「現地でフエニックス・コンタクトのシニアコンサルタントで、過去50年間にわたりドイツ本社および全世界の同社の生産・設備全般を統括してきたFerdinand Hasseさんにインタビューしたのですが、その疑問に対しては『製造業に携わってきた長い歴史と経験の賜物』だと答えてくれました。また、製品設計と生産(製造)担当の連携が密で、問題解決や改善がスムーズに行える体制を構築できていることも要因の1つのようです。そもそも第2次世界大戦後のドイツでは労働人口が激減し、また同社が工場を移転した地域では地場産業が異なっていたため新規雇用か自動化かの判断が必要でしたが、同社の経営者は製造装置の自動化へ踏み切った。そんな歴史的な背景も『現在のインダストリー4.0の推進につながっている』ということでした。」(見ル野氏)

Ferdinand Hasse氏

Ferdinand Hasse氏

 なお、同社では製造設備の97%は自前で設計、製造しているとのことで、このような点も稼働エラーの少なさに貢献しているのだろう。

 また、見ル野氏が驚いたのが、徹底した垂直統合型のモノづくり。プラスチック成型の型からネジ1本に至るまで、あらゆる部品を自社で作っているというが、この点について、同社の日本法人であるフエニックス・コンタクト株式会社 営業推進本部 営業企画部 パブリックリレーションズコミュニケーション 主任の横井真理子氏は次のように説明する。

「確かに設備投資などのコストはかかりますが、完全内製にすることで、市場に左右されず、製品を供給できる体制が整っています。品質管理もしやすく、このポリシーは何よりお客様の信頼を得るためには、必要不可欠なことなのです」

ハノーバー・メッセで目の当たりにした製造現場の未来の姿とは? ハノーバー・メッセで目の当たりにした製造現場の未来の姿とは?

世界最大級の産業見本市「ハノーバー・メッセ」のフエニックス・コンタクトのブースの一部 世界最大級の産業見本市「ハノーバー・メッセ」のフエニックス・コンタクトのブースの一部

世界最大級の産業見本市「ハノーバー・メッセ」の
フエニックス・コンタクトのブースの一部

 今回、見ル野氏はフエニックス・コンタクトの本社や生産拠点だけでなく、4月23日~27日にハノーバーで開催された世界最大級の産業見本市「ハノーバー・メッセ」に同社が出展した展示ブースも見学。こちらでは新製品のほか、EV(電気自動車)や発電所、化学工場など、産業別の課題を解決する先進的なソリューションの紹介を通じて、自社だけでなく、さまざまな現場のデジタル化を後押しする技術開発を行っていることをアピールしていたという。

  • 製品データが取り込まれた設計データをもとに、DINレール上に端子台を組み込むことが可能

    製品データが取り込まれた設計データをもとに、
    DINレール上に端子台を組み込むことが可能

  • 合同ブース「Smart Engineering and Production 4.0」(フエニックス・コンタクト, Rittal, Eplan)

    合同ブース「Smart Engineering and Production 4.0」
    (フエニックス・コンタクト, Rittal, Eplan)

 特に複数のプログラミング環境で作成された要素を1つの完全なシステムに統合できる画期的なPLCプラットフォーム「PLCnext」は、製造現場のオートメーションシステム──つまりインダストリー4.0を実現する環境を、より効率的、かつ柔軟に構築する技術ということで、大きな注目を浴びていたようだ。

 なお、見ル野氏が個人的に印象に残っているのが、CADで図面を作成すれば、自動的に制御盤が作られるシステム。

「CADのソフトウエアメーカーと制御盤メーカー、そしてフエニックス・コンタクトが合同で出展していたシステムでした。実用化はまだ少し先のようですが、製造現場の未来の姿を目の当たりにした感じですね」と振り返る。

 今回の視察旅行を通じて見ル野氏は、「ドイツのモノづくりの強さは、日本とは異なる“働き方”に対する考え方にあるのではないか?」と推察する。

Ferdinand Hasse氏

「繰り返しになりますが、あちら(ドイツ)では、残業はほとんどないんですね。残業が当たり前になっている日本の働き方をHasseさんに伝えると『よいものを作るためだろうと、プライベートな時間を犠牲にすることがあってはいけない。労働時間を無視してモノづくりに明け暮れる必要があるのなら、その原因を見つけ出し、考えて、時間内でもっとよいものを作って解決するという信念を持つことが必要だ』というんです。逆転の発想ですよね。だからこそ、イノベーションも生まれる。そもそも働く人に時間的、精神的な余裕がなければよいものは作れません。また、日本に比べると働く人たちの自己責任感が強いように感じます。それはどうやら、上司も部下もなくお互いを信頼するという企業文化が醸成されてきた結果のようですが、これが高い品質を維持し続ける秘訣なのではないでしょうか?」とのことだ。

 さて、以上のような生産体制から生まれる品質の高さを強みにグローバルな展開を見せるフエニックス・コンタクトだが、その戦略は“Think Global, Act Local(グローバルに考え、ローカルで行動する)”という考えの元で進めていると横井氏。

是非多くの方に読んでもらいたいですね

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 そして「日本でも少子高齢化に伴う働き手不足などがこれからますます顕著になっていくが、今後もさまざまなテクノロジーや機器をご提案しながら、お客様と共に持続的に発展していきたい」と日本における展望を説明する。

 ドイツの優れたモノづくりのDNAをベースに、日本のビジネスに合わせた製品やサービスを提供していることが、実際に日本での売り上げを伸ばしている理由なのだろう。今後、同社が日本企業のデジタル化を後押しし、成長を促す存在になることに期待したい。

 なお、フエニックス・コンタクトのWebサイトでは、今回の視察旅行をテーマに見ル野氏が書き下ろしたマンガ「フエニックス・コンタクトに男泣き! ハノーバー・メッセ編」を公開中! 現地で見ル野氏が感動したエピソードが満載だが、その中に日本のモノづくりにも活かせるヒントがあるような気がしてならない。ぜひご覧いただきたい。

今なら漫画で読める!「フエニックス・コンタクトに男泣き!ハノーバ・メッセ編」こちらからご覧ください
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