ケーススタディー/スノーピーク

拡大する事業を支える
デジタル変革の最適解とは

デジタル変革を推進し、ビジネスの競争力をさらに高めたい——。このようなビジネス側のニーズにどう対応するか、悩んでいるIT担当者は少なくないはずだ。その一例として参考にしたいのがスノーピークの事例である。同社は、2018年からの中期経営計画に「サービスのデジタル化」を盛り込み、一貫性のある顧客体験でエンゲージメント強化を推進。その基盤を整備するため、基幹システムを刷新した。ここではその取り組みの概要と、製品選定のポイントを紹介したい。

サイロ化したシステムの問題を解決したスノーピーク

 デジタル技術によって顧客体験を高めるとともに、新たなビジネスモデル開拓も可能になると期待されているデジタル変革。日本でも数多くの企業が取り組みを始めている。しかし、大きな壁に直面するケースも少なくない。

 その1つとして挙げられるのが、それまで運用してきたシステムがサイロ化し、新たなシステムとの連携が難しくなる点だ。

 デジタル変革を進めていくには、多様な顧客接点からの情報を収集・一元管理し、それに基づいてエンゲージメント(関係性)を強化するシステムが欠かせない。これは一般に「SoE(Systems of Engagement)」と呼ばれているが、その効果を十二分に引き出すには基幹システムとの連携が必要となる。しかし、既存の基幹システムがサイロ化した状態では、スピーディーな連携は難しい。連携のためのサブシステムを、別途開発する必要が生じるからだ。

 また、サイロ化したシステムを運用し続けると、データが散在していくという問題も生じてくる。例えば1人の顧客に関する情報が、マーケティングシステム、営業システム、コールセンターシステム、契約システム、アフターサービスのシステムと、複数のシステムに格納されているケースは珍しくない。これらを一元管理するには、各システムからデータを抽出・統合するという作業が必要になり、その負担も大きくなってしまう。

 このような問題を、基幹システムの全面的な刷新というアプローチで解決したのが、スノーピークだ。

 同社はオートキャンプブランドとして、アウトドアブームを牽引し続けている企業。現在はアウトドア用品を中心に、アパレル、グランピング、地方創生、アウトドアオフィス事業など、多岐にわたる事業を展開している。商品の永久保証制度や平均0.8日で修理を完了するアフターサービスというユニークな取り組みでも注目されており、国内のみならず海外でも事業を展開。顧客エンゲージメント強化を目的とした施策にも、積極的に取り組んでいる。

「サービスのデジタル化」で顧客体験のさらなる向上へ

株式会社スノーピーク 取締役 執行役員 経営企画管理本部長 リース 能亜
株式会社スノーピーク
取締役 執行役員
経営企画管理本部長
リース 能亜
 スノーピークが顧客エンゲージメントを強く意識するようになったのは1990年代後半。そのきっかけになったのが、数年間にわたる売上減少だ。同社は1986年にビジネス領域を登山用品からキャンプ用品へと拡大し、当時のオートキャンプブームを牽引することで急成長を遂げるものの、ブームの終焉とともに売上高が減少し、2000年にはピーク時の2/3の水準にまで落ち込んでしまうのである。「このころは社内でも売上増大に向け、試行錯誤しましたが、なかなか売上が伸びないという状況でした。そこで『直接お客様の声を聞こう』という取り組みが始まったのです」とスノーピークのリース 能亜氏は語る。

 その1つとして1998年から行われているのが、顧客との関係構築・強化を目的としたキャンプイベント「Snow Peak Way」だ。ここでは焚火を囲みながら、顧客から製品やサービスなどに対する率直な意見やクレームをもらっているという。ここで得られた声は製品開発などに反映されている。

 また、2003年には直営店モデル、2005年以降はインストアモデルも導入し、販売網の強化も推進していった。そして2011年にはブランドの可視化を目指し、店舗・工場・オフィスを一体化し、キャンプ場も併設した「Headquarters」をオープン。キャンプイベントの開催場所や頻度も増やしており、顧客の声を聞く姿勢をさらに強化。現在、キャンプをはじめとするコミュニティイベントへの参加者は、年間1万5000人に上り、これらの取り組みによって、売上高はこの10年間で4.3倍に増大している。

 加えて、SNSなどのデジタルチャネルの活用にも積極的に取り組んでいる。現在のSNSフォロワー数は42万を超えており、2018年3月にリリースしたばかりのモバイルアプリもリリース後3週間で2万1000ダウンロードに達し、順調に増加している。2018〜2020年の中期経営計画でも「サービスのデジタル化」を拡張方針の1つとして掲げており、2020年までにオフラインとオンラインの融合を果たすことで、顧客のさらなる利便性向上を図っていく計画だという。

 急速な事業規模の拡大の裏では、急速な人員増加・顧客管理システム整備が後手に回っていたため、属人的な顧客サポートとなっていたことが課題となっていた。そのため、販売スタッフの個人的な技量や経験に依存する部分が大きく、顧客対応にばらつきが生じていたのだ。この課題を解決し、さらなる成長を目指すには、既存のバリューチェーンのデジタル化はもちろん、新しいデジタル技術を活用した新たな仕組みが必要だと判断。顧客とのあらゆる接点で得られた情報を基に、ニーズやライフスタイルを深掘りし、一貫性のある顧客体験を実現することを目指しているという。

 同社が基幹システムを刷新したのは、そのための基盤を確立するためだったのである。

一貫性を持って必要な機能をそろえられるSAP製品を採用

 この実現に向けて採用されたのが、SAP S/4HANAだ。これはインメモリー処理技術を前提に開発されたインテリジェントERPスイート。すべての処理をメモリー上で行うことで、高速な処理が可能になっている。

 レスポンス時間を短縮するために使われていた中間テーブルを使用する必要がなく、データモデルが極めてシンプル。大企業はもちろんのこと、中堅・中小企業にとっても導入しやすく、顧客データの一元管理や共有、迅速な意思決定の実現が容易になっている。

 しかし、同社がSAPを選択した理由はこれだけではない。SAP S/4HANAを基盤とし、データ分析ソリューションSAP Predictive Analyticsや、オムニチャネルソリューションであるSAP Commerce(旧SAP Hybris Commerce)を組み合わせることで、必要なすべての機能を、一貫性を持って活用できることも重要な選定理由だとリース氏は語る。

 「ITアーキテクチャの観点では、各機能領域(マーケティング・物流・CRM)などのベストインクラスを選択し、接続させる方針を採用するケースが少なくありません。しかし、この手法としては、せっかく集めたデータの活用に手間がかかること、当社のような事業規模の段階では、投資負担が大きい。当社が運用していた以前のシステムも同様の状況だったため、データを活用するには人海戦術が欠かせませんでした。その点、SAPならデータの収集から一元管理、その分析・活用まで、一気通貫で行えます」

 SAPの採用を決定したのは2015年12月。2017年3月にはSAP S/4HANAとSAP Predictive Analyticsを組み合わせたシステムを完成させている。さらに2017年7月にはSAP Commerceも本番稼働を開始している。

 既にECサイトやメールマガジン、イベント会場で発生した情報は、すべてSAP Commerceのデータベースに集約。また、FacebookなどのSNSやモバイルアプリ、店舗からの情報収集も進める方針だ。ここで一元管理された顧客情報は、SAP S/4HANAで実行されるバリューチェーンでシームレスに活用されるほか、SAP Predictive Analyticsによる分析も行われている。この分析結果は、製品開発や販売・マーケティング施策の立案・実施などに生かされているという。

業務生産性が20〜30%向上、エンゲージメント強化にも大きな期待

 それでは、このような環境の整備によって、具体的にどのような効果が得られているのか。

 「ITシステムのベンダーを1社に集約したことで、IT管理コストが低減し、データの一貫性も実現できました」とリース氏は満足感を示す。また、SAP S/4HANAならではのシンプルなデータモデルは、長期的な拡張も容易にすると期待を寄せる。さらに、業務プロセスが上流から下流まで一気通貫で流れるようになったことで、業務現場の生産性も向上。「例えば配送センターでは商品出荷に必要な時間が10%削減され、販売スタッフの生産性も20〜30%向上しています。在庫状況の把握も容易になっており、継続的にベネフィットは、数字に表れてくるはずです」。

 情報が集まるスピードが向上し、その精度も高くなったことから、次にどのようなアクションを採るべきなのか、経営判断につながる議論も行いやすくなった。「特に、売れ筋商品の売上は日次で見えるため、販売ロスが発生しないよう必要に応じて物流を変更する、といった対応も即時に対応できるようになりました。特にアパレルのように、販売期間にシーズン性があるセグメントでは、スピード感は欠かせない要素であり、システムが一気通貫していることによるメリットを出せるのではないでしょうか」とリース氏は話す。

 もちろん顧客エンゲージメントの強化にも、大きな期待が寄せられている。前述のように、現在の同社の事業は多岐にわたっているが、エンゲージメントを強化することで、1人の顧客がこれら複数の事業セグメントを「泳いでいく」状況をつくり出すことが可能になると考えられている。

 「例えば1つの流れとしては、キャンプを体験したお客様が当社のアパレル製品を購入し、グランピングも楽しむ、といったことが考えられます。またそこから、日常生活やオフィス環境に自然を取り入れようと考える人も出てくるでしょう。このように、様々な人生のシーンで、より多くの人々を幸せにするビジネスを、世界レベルで展開したいと考えているのです」(リース氏)

 スノーピークのこのような取り組みは、デジタル変革推進をどのように支援すべきか悩んでいるIT担当者にとって、新たなヒントを与える事例といえる。社内の基幹システムの課題を明確化し、それを長期的な視野を持って解決していくというプロセスを踏んでいるからだ。これによって今後のデジタル変革のスピードも劇的に向上する。こうした取り組みは次の時代の勝者になるために、企業規模や業種・業態を問わず、ますます重要な要素となっていくだろう。
株式会社スノーピーク 取締役 執行役員 経営企画管理本部長 リース 能亜
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