日経 xTECH Special

言葉だけの「働き方改革」はいらない、「現実」を変えよう!ITで更なる「最適解」を

働き方改革は、制度設計と意識改革の両輪で

神谷氏
日本航空
人材戦略部
ワークスタイル変革推進グループ
グループ長
神谷 昌克

 まず初めに行われたのは本フォーラムの基調講演。大阪では日本航空 人材戦略部 ワークスタイル変革推進グループ グループ長の神谷昌克氏、東京ではリクルートマーケティングパートナーズ 企画統括室 経営企画部 部長の田中信義氏がそれぞれ登壇した。

 日本航空の神谷氏の講演タイトルは、「社員がイキイキと働ける環境を目指して 日本航空が実践する働き方改革」。2010年の経営破綻から現在に至るまでの取り組みについて語った。

 経営破綻後、日本航空は京セラ・稲盛会長のリーダーシップの下で経営再建を目指すこととなったが、稲盛氏は「人間として何が正しいか」という経営哲学と採算意識を導入。2011年、出身国や「どの会社で採用されたか」という属性に関係なく、能力があればJAL本体でキャリアアップが可能なグループマネジメント制度が導入された。

 その後、人材不足が深刻化したことから、14年に女性活用のためダイバーシティ宣言を行い、翌15年ワークスタイルの変革に着手。間接部門スタッフ4000人を対象に意識改革が進められた。16年には図書館や共用スペースを利用した自宅外勤務が認められ、長期休暇中に緊急の仕事が入っても、テレワークをしながら休暇を続行できる「ワーケーション」の仕組みも導入。「意識改革を進めつつ、形を作らないとなかなか前に進まない。その両輪で取り組みを進めることが重要です。改革によって有給休暇の取得率が上がり、残業時間も減少していますが、一番うれしいのは『今後も働き続けたい』という社員が増えていること。働き方だけでなく仕事の中身も変え、より付加価値の高い仕事にシフトするための取り組みに着手したところです」(神谷氏)。

生産性向上の先の成長ステップを示す

田中氏
リクルートマーケティングパートナーズ
企画統括室
経営企画部
部長
田中 信義

 一方、東京で基調講演を行ったのは、リクルートマーケティングパートナーズの田中信義氏。同社では『ゼクシィ』『カーセンサー』『スタディサプリ』など、ライフイベントに関わる事業を展開しているが、「働き方改革は、経営戦略ど真ん中、全員でやる」ことを前提とし、経営・ミドルマネジメント・現場の三位一体となって、新たな価値創造に向けて改革を進めてきた。

 剣道や茶道の「守・破・離」の精神に倣い、「生産性向上」「学び・刺激の場」「提案・表出の場」の3段階で改革を遂行。「提案・発表の場」の1つである新規事業提案制度では、年々応募数が伸びている。

 「働き方改革の結果、従業員の95%に意識変革、81%に行動変革が起こりました。9割の社員がリモートワークを活用し、深夜残業の55%と休日出勤47%を削減。また、新規事業コンテストへのエントリー数も急増しました」と田中氏は成果を語る。

 「働き方改革推進のポイントは、会社の持続的成長という目的を明確化し、ミドルマネジメントを巻き込み、生産性向上のためのルールとツールを整備して、その先の成長ステップを提示したこと。従業員一人一人の成長が会社の成長につながっていくと考えています」(田中氏)

会社や個人が世界にどんな価値をもたらすのか

グジバチ氏
プロノイア・グループ
代表取締役
モティファイ取締役
チーフサイエンティスト
ピョートル・フェリクス・グジバチ

 本セミナーでは基調講演の他に、大阪・東京合わせて3名のスピーカーによる特別講演も行われた。

 「AI時代を乗り切るリーダーシップと働き方改革」と題して講演を行ったのは、プロノイア・グループ 代表取締役兼モティファイ取締役のピョートル・フェリクス・グジバチ氏。Googleでアジア太平洋の人材開発やグローバル人材戦略を担当した経験を生かし、現在はコンサルティングとAIテクノロジー開発、情報配信など多方面で活躍している。

 「働き方改革というより、ぜひ経営改革をしていただきたい。大事なのは、会社や個人が何のために存在し、どんな価値を世界にもたらすかをしっかり決めること。そこから逆算してビジネスモデル創出や組織改革を行うことが重要です」

 そのように前置きした上で、世界で起こりつつあるイノベーションについて言及した。例えば、民泊のグローバルなプラットフォームを構築したAirbnbやFacebookは、従来にない発想で人々の新しい行動パターンと膨大なコミュニティを創出し、世界最大規模の企業に成長した。

 「未来は予測できないが、未来は発明できる」「同じ仕事をやり続けるのではなく、いかに突然変異をもたらすかが重要です」とグジバチ氏。さらに、「自分が世界に何をもたらしたいかを自己開示し、自己表現すれば、人生が楽しくなる。時代遅れの考え方を忘れて学びほぐし、経営改革、生き方改革をしてほしい」と聴衆に訴えた。

集中のメカニズムを解明し働き方を最適化

田中氏
ジンズ
JINS MEME 事業部
事業統括リーダー
井上 一鷹

 一方、「集中力」にフォーカスして特別講演を行ったのは、ジンズ JINS MEME事業部 事業統括リーダーの井上一鷹氏(講演タイトル「JINS『Think Lab』から考える働き方改革」)。

 JINS MEMEとは、特殊なメガネをスマートフォンと接続し、瞬きや視線移動、姿勢などの変化をモニタリングしながら、環境要因と集中力との関連を明らかにしようという取り組みだ。その結果を分析し、個人の集中力が、曜日や時間帯、場所、気温などの要因にいかに左右されるかが分かれば、働き方改革に役立てることができる、と井上氏は言う。

 「人間は、集中しようと思ってから深い集中に入るまでに平均23分かかります。ところがオフィスにいると、メールを見たり人に話し掛けられたりで、コミュニケーションを優先せざるを得ない。このため、95%の人は、オフィスにいるときが一番集中できないのが実態です」

 そこで、井上氏は、JINS MEMEの分析結果を生かし、“世界で一番集中できる場所”「Think Lab」を都内に開設した。

 「人は1日4時間しか集中できないといわれますが、その有限な資源をいかに重要なタスクに振り分けるかが大事。自分が集中できる時間と場所を見つけて、働き方を最適化し、自分がやりたいことにしっかり取り組めるような生き方を提案したいと考えています」(井上氏)

田中氏
ディー・エヌ・エー
IT戦略部
業務改革推進グループ
グループマネージャー
大脇 智洋

 ところで、働き方改革で注目される取り組みの1つに、生産性向上のためのRPAツール導入がある。このテーマについて自社の導入事例を報告したのが、ディー・エヌ・エー IT戦略部 業務改革推進グループ グループマネージャーの大脇智洋氏だ(講演タイトル「DeNAが挑んだRPA導入と働き方改革」)。

 大脇氏によれば、DeNAでは、社員の自己実現をかなえるため、社員本人の希望による異動や副業を制度化。さらに、クラウドやモバイルを活用し、「場所にかかわらず柔軟に働ける環境」を提供しているという。その上で、働き方改革のための施策を独自に展開。「労働生産性の向上」と「長時間労働の是正」を目指して、業務の効率化・自動化と、コミュニケーションの効率化を実現するべく、RPAツールとビジネスチャット・ツールslackの活用を進めてきたという。

 例えば、「長時間労働の是正」を解決するため、勤怠申請していない社員に対して入力をうながすロボを開発して、従業員の労働時間を把握。さらに、長時間労働者に注意をうながすロボを開発して、長時間労働チェックの工数を削減した。

 「RPA導入のポイントは、対象業務を一覧化し、効果の高い業務から着手すること。ロボ導入後の業務フローを作り、障害時でも人により業務遂行を可能にしておくことが重要です」と大脇氏。講演では、RPAツールの選定ポイントや導入ステップについても詳しく解説され、参加者は熱心に耳を傾けていた。

↑TOP