提供: アクセンチュア

“ここまで変わる“モノづくりの未来” 「つながり」から生まれる製品群、果たして日本の製造業の将来は?

河野 真一郎

アクセンチュア株式会社
デジタルコンサルティング本部
インダストリーX.0 日本統括
マネジング・ディレクター

 日本の製造業は大きな岐路に立っている。イノベーティブな製品を創出して市場の覇権を握るか、コモディティ化した製品を作り続けることに止まるか。近日刊行の書籍『モノづくり超革命』(日経BP刊)を上梓する河野真一郎氏(アクセンチュア デジタル コンサルティング本部 インダストリーX.0日本統括マネジング・ディレクター)は、今後のモノづくりにおけるキーワードは「つながり」だと語る。モノづくりのこれからについて、河野氏に聞いた。

急速に競争力を失いつつある日本の製造業

写真:河野 真一郎 氏

河野 真一郎

アクセンチュア株式会社
デジタルコンサルティング本部
インダストリーX.0 日本統括
マネジング・ディレクター

『ものづくり「超」革命』 「プロダクト再発明」で製造業ビッグシフトを勝ち残る(日経BP社刊)

『ものづくり「超」革命』

「プロダクト再発明」で
製造業ビッグシフトを勝ち残る
(日経BP刊)

エリック・シェイファー、
デビッド・ソビー 著
河野真一郎 監訳
山田美明 訳

定価 本体2100円+税

 ソフトウェアやデジタル技術の急速な発展により、仕事や日常生活で使用している製品は今後、劇的に変化し、これまでのような「売って終わり」の製品は徐々に衰退していきます。代わりに台頭してくるのが、AIやさまざまなセンサーを搭載し、インテリジェント化・コネクテッド化された製品です。こうした製品ではハードウェア自体の機能よりもそこに組み込まれたソフトウェアが主役となり、販売後もリモートアップデートによって最新状態が保たれ、長きにわたってユーザー体験を高め続けられます。
 ものづくり企業が今後生き残っていくには、現在の製品ラインナップをただちに見直し、こうした製品に「再発明」していくことが必須です。本書は、協調性や反応性、自律性を備えた製品の世界に、企業が「どのように」入っていけばいいのか、数多くの事例(テスラ、サムスン、キャタピラー、ハイアールなど)を通じて現場の声も紹介しながら、実践的かつ具体的に解説します。
 また、第14章には、日本のものづくりの状況に即して、原書にはない特別章を追加しました。日本企業は製品の再発明がなぜ苦手なのか、どうすれば苦手を克服できるのかを解説しました。

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 「昨今、ミドル・マネジメント層から悲痛な叫びを聞くことが増えています」

 アクセンチュア デジタル コンサルティング本部 インダストリーX.0日本統括の河野真一郎氏はそのように切り出した。
 「業績向上のために『本来やるべきこと』や『改善すべきこと』は山積していますが、経営層あるいは現場層を説得し切れないというミドル・マネジメント層の声が急増しているのです。これまで日本の製造業が積み上げてきた輝かしい成果の裏で、モノづくりのビジネスは根底から崩れ始めています」
 課題は多岐にわたるが、大別すると「環境的課題」と「人的課題」の2つに分類できるという。まず「環境的課題」として、河野氏が挙げるのは次の2点だ。

PoCは多いが、現場への適用例は非常に少ない

 製造現場におけるデジタル技術の活用といったPoC(概念実証)は増えている。しかし海外ではPoCが実施されると、およそ1〜2年後には現場への適用で得られた成果の話が出てくるのだが、日本では成果の話が増えない。アシックス社による「シューズ製造ラインのロボット化による生産効率向上」など個別の事例も若干あるものの、業界全体としては非常に少ない。

工場の老朽化と新工場建設の停滞

 大規模工場を新築する話が減っており、築年数30年や50年、ときには60年といった工場の比率が高まっている。設備のメンテナンスを繰り返しながら長く使うことは日本の美徳ではあるが、フルスクラッチで最新鋭工場を建設する中国企業の生産性には遠く及ばなくなっている。

 機械化より人力作業の生産効率が高いという事象が起きているのであれば、産業革命的には矛盾することになる。職人的従業員の超絶技巧で生産性を維持向上させて、米中欧企業と競争できる水準を維持していると解釈するほかない。
 「プロセス産業では、特許化せず、データも秘匿した社外秘レシピで競争力を保っているケースがあります。これは昨今の半導体材料の輸出規制の件でも証明されています。一方で、アセンブリ産業は事態が深刻で、米中韓企業との競争で不利な状況にあります」

人材確保がますます困難に

 次に「人的課題」としては、人材獲得が重大な局面に入っていることが挙げられる。人口減少を迎えた日本では、すでに「仕事はあっても人がいない」という状況に陥りつつある。

優秀な人材の獲得が困難

 新卒の内定者や採用者は、ほぼ必ず工場などを訪問して見学を行う。その現場が、若者の勤務意欲をかきたてる環境だと胸を張って言える経営者はどれほどいるだろうか。臭いや暑苦しさで快適とは言えず、設備にも昭和の名残りを感じられるものが少なくない。果たして、その雰囲気に心を打たれて働きたいと思う学生がいるかどうか、経営者は考え直す必要があるだろう。

海外の大学などで日本企業の人気が凋落傾向

 これまで日本の大手企業は東南アジアの大学などに寄付講座や実習設備の提供などをしてきた。学生たちが日本語を学び、実際の機器に触れることで、日本企業への就職を進路として考えるきっかけとさせるためだ。しかし昨今、サムスンやファーウェイなどの中韓企業が同様の寄付講座を提供し始めており、日本の設備よりも新しい設備を提供することも増えている。このため優秀な学生の視線が中韓企業へと向き始めている。

 「良いものを保守しながら長く使う日本の特徴は競争力の源泉でした。しかし現代は、モノがコモディティ化する時代です。そうした日本の特徴が足枷となり、生産性の低い設備を維持しても、業績向上に貢献しないという事実に企業は気づき始めています」

製造業の未来で標準となる“2種類のつながり”

 河野氏が翻訳・監修を務める書籍『モノづくり超革命』(日経BP社刊)は、製造業の未来を見通す一冊として、注目の新刊だ。同書では今後起きる大きな変化として、「モノ(製品)がずっとつながっている状態になる」と予測している。河野氏は2種類のつながりが今後の製造ビジネスの潮流になると話す。

第1のつながり

 製品の販売後も「つながり」続ける製品により、メーカー/製品/ユーザーの3者がコネクテッドになる。

 「従来の製造業ではユーザーが製品を購入して所有した時点で、製品とメーカーの関係性は物理的に終了します。しかし今後は、『販売後も恒常的につながり続ける製品』が世界で主流になるでしょう」
  さらに河野氏は続ける。「近年、デバイスのボタン類はソフトウェアで制御されています。某カメラメーカーの製品では、あるボタンが誤操作しやすい位置にあるとユーザーに不評でしたが、ファームウェアをアップデートしてそのボタンを無効化すると、ユーザーは手のひらを返すかのようにメーカーの対応を賞賛しました。また自動車(コネクテッドカー)やスマートフォンは言うに及ばず、あらゆる製品で『販売後もつながり続ける』ことによって、高頻度にアップデートする製品が増加していきます」

 こうしたアップデートは製品の改良・改善だけでなく、新機能の追加・提案といった、さらなる付加価値にも結び付くという。

 「ユーザーがどのような使い方をすると、さらなる利用価値が生じるのか、従来の製品設計とはまったく異なる観点から考えることが求められるようになります。技術としてはIoT、AI、組込みソフトウェア、クラウドなどのネットワークインフラが組み合わされます」と、製品の企画段階からユーザーエクスペリエンスをデザインするデザイナーの参画が増えることを河野氏は予測する。

第2のつながり

 企業同士がエコシステムパートナーとなり、データや部材を含むサプライチェーンのあり方がコネクテッドになる。
 サプライヤーやロジスティクスといったビジネスのエコシステムを構成する企業同士のつながりは、従来の商取引の枠を超えて進化する。先述のデータだけでなく、物流なども含めたバリューチェーン全体が連携することによる付加価値の創出が今後のビジネスにおける“成功のカギ”になると予想されている。

 上記の第2のつながりを実現するうえで有効なのが、AIの活用だ。モノづくりやロジスティクスに関わるモノやヒトの動きはデジタルデータをAIで分析することで可視化できるだけでなく、バリューチェーン全体の最適化も実現できる。
 エコシステムを構成するサプライチェーンの高速化と無駄な在庫の排除のほか、ユーザーが望む商品を希望のタイミングで提供できるパーソナライズも可能にするのが、アクセンチュアの「AI Powered SCM」だ。  

 「AI Poweredのサービス群は業務・システム全体でAIを活用するソリューションです。AI Powered SCMは予測最適化から省人化・無人化までを含めて、製造や物流の現場を改革します」

つながる製品の創出に必要なこと

写真:河野 真一郎

 こうした市場や環境の変化に対して、どのようにしたらつながる製品、つまりコネクテッドな製品を生み出せるのだろうか。ポイントは2つあると河野氏は言う。

  • データは組み合わせることで気づきや示唆を得られる。溜め込むだけでは何も生まれない。
  • 設計・開発・製造のプロセスで同時並行的な検討が必要。組織を超えたコラボレーションで、アジャイル的なモノづくりを実現することが重要。

 「データは大切ですが、価値の本質はデータから得られる“示唆”です。データを秘匿しても何も生まれず、機会損失になります。良質なデータはパートナー企業と適切に共有し、組み合わせることで新しい発見につながります。また組織のサイロ化は、かつての大量生産・大量消費時代においては業務の最適化手段でしたが、コネクテッドの時代においては競争力を低下させる要因になっています」

つながる製品を生み出す新興モノづくり企業

 河野氏が「コネクテッド時代に注目すべき企業」として、新刊書でも触れたのがGROOVE XとVermicular、FOMMなどの日本企業である。また海外企業のSkywayやLightyear Oneも、新時代型のイノベーティブな企業だという。

GROOVE X(グルーブエックス)

 新型の“家族型”ロボット「LOVOT(ラボット)」を開発した新興ロボットメーカー。センサー、IoT、画像解析、顔認証のAIを搭載した2体のロボットが相互学習しながら、家庭内で人に寄り添うロボットとして話題を集めている。

Vermicular(バーミキュラ)

 日本が誇る鋳物技術で作られたホーロー鍋など、良質な製品が高く評価されている調理器具メーカー。ユーザーと継続的につながる独自のレシピサイトを運用するなど、従来の調理器具メーカー以上に“使い方”の提案に力を入れている。

FOMM(フォム)

 世界最小クラスの4人乗り小型電気自動車の設計開発を行う自動車メーカー。「水陸両用の未来のEV」として、すでに東南アジアで実車走行を進めるなど、新たなモビリティの創造に挑戦している企業。

SkyWay(スカイウェイ)

 鉄柱に張ったロープを使って走行するモノレールの一種。既存の自動車道路の上空に設置できるなど、新たな都市交通機関として利用できる。鉄道よりも低コストで敷設でき、高速輸送が可能なため、すでに中東ドバイでの導入が決定しており、公共交通の新たな選択肢を提供している。

Lightyear One(ライトイヤーワン)

 車体の天井に太陽光発電パネルを搭載した電気自動車。停車中はもちろん、走行中も充電するうえ、フル充電で航続距離は725km。相当なロングドライブでない限り、夜間も問題はない。「ガソリンスタンドはもちろん、充電スタンドにも行かない」といった新たなドライブ体験をユーザーにもたらす。

モノづくり企業の新規事業を成功させるには

 河野氏は「GROOVE X、Vermicular、FOMMの創業者は、いずれも日本の大手メーカーから独立起業した方々です。日本の大企業でも環境さえ整えば、ベンチャー企業的な製品を生み出せることの証左です。では、その課題とは何か。日本企業に欠けているものは“人材の才能を解放できていないこと”だと考えています」とし、経営者と技術者、双方のマインドチェンジの必要性を強調する。
 とくに日本の大企業経営者は新規事業に厳しい。PoCを実施し、新規の事業規模を見積もる際に、既存市場の延長線上で分析と予測を行い、数字を立てることが多い。だが経営者の観点では、その数字は小さ過ぎる市場であり、投資価値が低いと判断してしまう。
 しかし、新規市場というのはまだ存在しない。ゆえに、既存市場の統計で新規市場の規模を計測することは不可能だ。では、経営者は何を指標として意思決定するべきか。

 「不確実な世界への投資は、成功か失敗かの予測ができません。しかしディスラプション(創造的破壊)を起こしている企業は、長期にわたって水面下で投資や試験的な取り組みを続けています。短期的な赤字や負債で判断せず、ビジネスが跳ね上がるまで戦略的に根気強く投資しているからこそ、ブレイクスルーに到達したときには、競合他社には追随不可能なほど覇権的な市場独占を可能にしているのです」

 そうした成功の裏にあるのは投資金額だけの問題ではない。「ディスラプティブな企業は、あらゆる手段を使って顧客を観察し、知見を貯めています」と河野氏は言う。
 また可能性が薄くても“賭ける決断”が重要であり、実行においては他社の追随を許さないスピードと規模で投資する。だからこそ指数関数的な成長を達成できるのだが、年間7兆円近い金額を5000件以上の案件に投資しているアメリカと比べ、日本は圧倒的にその規模が小さい。既存のベンチャーキャピタルだけでなく、体力のある大企業によるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)などによって投資額の不足を補うことも期待される。

ITはモノづくりの未来をどう変えるか

 消費者の購買行動やパーソナライズといったエクスペリエンスを起点として、新たなモノづくりを発想することが必要となる未来においては、従来の生産プロセス改善を超えた取り組みが必要となる。
 先述のAI Powered SCMの時代はすでに始まっており、EBOM(設計部品表)とMBOM(製造部品表)間の連携を人が手作業で行うような非効率な現場は、速やかに是正されなければならない。今後は設計データの変更を製造関連データに瞬時に反映・更新するシステムが、現場では不可欠になるという。

 「消費者のニーズを先回りして製造するようなソリューションが重要です。また想定外の使い方をするユーザーの出現を事前に汲み取る“右脳系”のクリエイティブ人材とのコラボレーションも活性化するでしょう。UX(ユーザーエクスペリエンス)を起点とした『つながる製品』の創出が求められているからです」

 イノベーション創出には、新しいユーザー体験をイメージできる「空想力・発想力」が不可欠だ。夢を語れる場所にこそ、優れた人材は集う。ITを手段としつつ、いかに付加価値を生み出すかにこそ、日本の製造業の未来が託されているのである。

写真:河野 真一郎

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