特別トップインタビュー 近未来・元年「2020」気鋭の企業に訊く
アナログ・デバイセズ

モジュールやボードなどプラットフォーム拡大

顧客の変革を加速すべく
高度なアナログ技術で
現実世界と
デジタル世界を結ぶ

アナログ・デバイセズ
代表取締役社長

馬渡 修

デジタル・トランスフォーメーション(DX)の実現において、現実世界とデジタル世界を結ぶ役割を担うのはアナログ技術だ。アナログ半導体ベンダーであるアナログ・デバイセズは、様々なソリューション・プラットフォームを通じて顧客のデジタル化をバックアップしてきた。日本法人の馬渡修氏に詳しく聞いた。(聞き手:日経BP 取締役 技術メディア総局長 望月洋介)

望月 今日はアナログ・デバイセズの取り組みや将来戦略を伺いたいと思います。さて、IoTといった言葉が少し前に注目され、最近ではDX(Digital Transformation)という言葉も登場し、企業や現場のデジタル化がだいぶ進んできているのではないかと感じています。

馬渡 おっしゃるとおりです。お客様とお話をしていても、既存のビジネスの価値を高めるにはやはり徹底したデジタル化しかないとおっしゃっていて、それはすなわちDXに取り組もうということなんですね。DXの言葉の定義は人によって違いはありますが、従来IoTという言葉がそうであったように、その取り組みがより具体的になってきているのだと感じます。

望月 そうした時代に、半導体のビジネスはどう変化していくべきと考えていますか。

馬渡 半導体ベンダーはこれまでは部品を販売して商売をしてきたわけですが、そうした部品を使われるお客様がビジネスを変革しようとしている以上、私たちも売り方を変えていかなければいけません。一般的に新しいビジネスの始め方には、モノで商売する方法と、モノの上のサービスで商売する方法があります。アナログ・デバイセズの取り組みも同様で、機能や性能に優れた部品単体での提供に加えて、回路をワンチップ化したモジュールや動作検証済みのボードなど、いわゆるプラットフォームとしての提供を強化していきます。

 とは言え、当社のソリューションだけでは限りがありますので、音のセンシング技術を持つ米OtoSense社や、モーターや発電機の予知保全を専門とするスペインのTest Motors社を買収しました。産業用途を対象に、センシングに必要なプラットフォームの構築を加速させていこうという取り組みです。

望月 その意味では、アナログ・デバイセズが以前から取り組んできた、スイッチング電源全体をワンパッケージにした「µModule®」などはプラットフォームの先駆けと言えそうですね。モジュール・ビジネスはどういった状況なのでしょうか。

馬渡 部品単体でのビジネスの方が主流ではあるものの、プラットフォーム製品は売上高のかなりの比率を占めるようになってきています。さらに、特定の機能を搭載したボードや、あるいは先ほど挙げたOtoSenseやTest Motorsのソリューションを提供するようなビジネスも増やしていきますから、そういった領域の成長には期待しています。

AIプロセッサの安定動作に
必須な高性能電源

望月 もう一つ避けて通れないキーワードが「AI」だと思うんですね。IoTでエッジ部分にAIを搭載して様々な処理を実行させようというコンセプトも各社から提案されている一方で、まだまだAIは実際のビジネスには結びついていないところもあります。

馬渡 当社は半導体ベンダーですから、AIそのものの研究開発に力を入れているわけではありません。しかし、よく言われる故障予知や予兆保全のように、アルゴリズムにAIを導入することでシステムとして付加価値が出てくるんですよね。OtoSenseやTest Motorsを買収したのもそういう狙いがありますし、いくつかの日本のAIベンダーとも協業を進めています。

 AIには様々な技術課題がありますが、アナログ半導体の観点で見ると一番の課題は消費電力なんですよ。AIプロセッサ1個で数十Wから数百Wを消費しますし、動作電圧はプロセスの微細化によって1.0Vを下回ってきていますから、そうすると100Aを超える電流を安定的に供給できなければならない。技術的に非常に難しいんですね。

望月 なるほど、デジタルが主体のように思えるAIですが、実はアナログ技術が重要だということですね。

馬渡 そうなんです。アナログ・デバイセズでは「Silent Switcher®」というノイズの少ない電源アーキテクチャを提供していますし、先ほども挙がったスイッチング電源回路全体を封止したµModule®を含めて、そういったソリューションが実はAIにとても役に立ってるんですね。

5Gやロボット向けのソリューションを展開

望月 AIに加えてもう一つ伺っておきたいのが「5G」です。自動運転時代のいわゆるV2X(車車間通信/路車間通信)を実現するにも5Gは非常に注目されていますし、われわれのようなメディア側のあり方も変わってくるかもしれないと言われています。どういったアプリケーションに注目されていますか。

馬渡 アナログ・デバイセズでは5Gにいち早く取り組んでいて、RFの信号処理に必要なICやトランシーバなども取り揃えていますし、2014年には100GHzまでのRFテクノロジーを持つHittite Microwave社を買収しました。

 自動運転車に5Gが搭載されるにはもう少し時間がかかると思っていますが、個人的に5Gのアプリケーションとして注目しているのは「ローカル5G」ですね。工場や事業所などの狭いエリアを対象に、キャリアではない一般の事業者が基地局を設置してローカルなネットワークを構築する使い方で、スマート・ファクトリーはもちろん、農場や牧場だとか、あるいは大病院などでビジネスが生まれる可能性があるのではないかと思っています。使用料が安ければ十分に広がるはずです。

望月 馬渡社長がローカル5Gに着目されているのはとても興味深く感じました。5Gのもう一つのアプリケーションとしてロボットもあるかと思います。5Gになるとクラウドとも高速でつながりますので、コミュニケーション・ロボットの機能も向上し、人間との関係が新たな時代に入るのではないかと。

馬渡 ロボットはこれから多様化がどんどん進んでいくでしょうね。コミュニケーション・ロボットももちろんありますし、工場や物流倉庫では省人化を目的にAGV(無人搬送車)がすごい勢いで広まっています。自動走行のためには自分で周囲をセンシングして地図を作らなければいけませんから、周囲状況を検出するレーダーや、位置を推定し、姿勢を制御するIMU(慣性計測ユニット)などが必要になりますし、ROS(ロボットOS)にも対応しなければなりません。アナログ・デバイセズではセンサーやROS対応ソフトウェアなどのソリューションを数多く揃えていますので、お客様からロボット関連でお話をいただく機会も非常に増えてきていますね。

img03