SAP|AWS キーパーソン対談 SAPとAWSが連携をさらに深化 そこから生まれる新しい価値とは

デジタル技術を駆使して新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを創造する。持続的な競争優位を獲得する上で「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は不可欠の取り組みである。この実現に向けて、SAPとアマゾン ウェブ サービス(AWS)が連携を強化している。両社のソリューションはどのような価値を提供し、ビジネスにどのようなインパクトをもたらすのか。両社のキーパーソンに話を聞いた(本文内敬称略)。

チャレンジを促す新しいインフラが不可欠に

DXが求められる背景とその重要性をどのように見ていますか。

SAPジャパン株式会社 バイスプレジデント プラットフォーム&テクノロジー事業本部 本部長 チーフイノベーションオフィサー 首藤 聡一郎氏
SAPジャパン株式会社
バイスプレジデント
プラットフォーム&テクノロジー事業本部
本部長
チーフイノベーションオフィサー
首藤 聡一郎

首藤デジタル化の進展により、社会やビジネス構造が大きく変わりつつあります。旧来のビジネスのやり方では、もはや顧客の期待に応えることはできません。モノやサービスを提供するだけでなく、その先にある顧客体験の価値向上を図る。そのために、ビジネスの仕組みそのものを変える仕組みが求められているのです。

岡嵜AIやIoTなどのデジタル技術を前提に考えなければ、ビジネスは成り立たなくなっていることも大きなポイントです。DXを推進するためには、企業文化や組織の変革も必要でしょう。

DXに取り組む企業が増えつつある一方、成功と呼べる成果を上げることは難しいようです。

岡嵜DXがうまく進まない理由は大きく2つあります。1つは企業文化の変革が難しいこと。新しいことにチャレンジするマインドセットや風土がない。これを変えるには経営者が先頭に立ち、変革に向けたメッセージを出すことが大切です。

もう1つは人的リソースの不足。IT部門は既存システムの構築・改修・保守に時間を取られ、新しいことにチャレンジしたくてもできない。2つの課題を放置しておくと、DXを進める企業とそうでない企業のギャップがどんどん広がり、取り返しのつかない状況に陥る恐れがあります。

具体的にどのような取り組みが必要ですか。

岡嵜SoR(System of Record)とSoE(System of Engagement)を一体的に考えることが重要です。

ちょっとした新しいサービスを立ち上げるだけなら、2つを分けて考えていても問題ありません。SoE側で新しいシステムを作ればいい。しかし、既存のビジネスプロセスやビジネスモデルを抜本的に変えるためには、企業の根幹から変えなければ対応できません。フロントのサービスだけ新しくしても、バックエンドのシステムが既存のままでは、せっかく取得したデータも十分に活用できないからです。

フロントもバックエンドのシステムもデジタルに対応し、顧客体験の価値向上を継続的に回していく仕組みを構築する。SoRとSoEを含めたIT全体をいかに速く変革できるかがカギです。実際、SoRとSoEを一体的に変革する手段としてクラウドを選択する企業が増えています。

※SoRは「記録のシステム」といわれ、基幹業務を支えるERPやデータベースなど従来の業務システムのこと。SoEは「顧客とのつながり」を意識した新しいシステムのこと

クラウドビジネスにシフトしたSAPの狙い

DXの基盤として、なぜクラウドが注目されているのですか。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 技術統括本部長 執行役員 岡嵜 禎氏
アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社
技術統括本部長
執行役員
岡嵜 禎

岡嵜イノベーションを起こすチャレンジに失敗はつきものです。でも、7割いけると思ったら早くトライすべきです。そうすれば、他社に先行できるし、仮に失敗してもそこから学びを得られる。早くトライすれば、それだけ多く試行錯誤できるわけです。クラウドならインフラを購入・構築することなく、必要な時に必要なリソースだけ利用できる。素早くチャレンジし、より多くの時間とリソースを試行錯誤に費やすことができます。

AIやIoT、ブロックチェーンをはじめとする最新技術のキャッチアップも早いので、既存システムでは実装が難しい最新技術もサービスとして利用できます。またチャレンジが成功した場合、今度はそれをいかに早く広く世界にスケールするかが重要になります。クラウドならそれも容易に行えます。

SAPも既存のビジネスモデルを変革し、クラウドビジネスに大きく舵を切っていますね。

首藤企業の経営資源といえば「人・モノ・カネ」がすぐに思い浮かびますが、それに加えて外せないのが「時間」です。例えば、新たなチャレンジに取り組む場合、一定時間内で何回試行錯誤できるか。この回数こそが競争優位の源泉になり得ると考えています。

その仕組みを作るためにハードウエアを買って、構築し、半年後にプロジェクトをスタートさせる——。そんなスピード感では変化の激しい世の中には太刀打ちできません。

業務を支えるシステムやデータも多様化しており、ビジネスプロセスの上流から下流まで、すべてERPだけで完結できるケースは少なくなっています。あらゆる業務をエンド・ツー・エンドで支え、データ駆動型ビジネスに転換することが必要です。

データ駆動型ビジネスへの転換を強力に支援するために、クラウドを選択したということでしょうか。

首藤その通りです。現在、SAPは「インテリジェントエンタープライズ」というコンセプトを掲げ、次世代ERPの「SAP S/4HANA」、その基盤であるインメモリデータベース「SAP HANA」などをパブリッククラウドで利用できるサービス提供に踏み切っています。

クラウドサービスを利用すれば、インフラの構築は不要で、その保守運用もクラウドベンダーに任せられる。時間という経営資源を最大化し、IT部門が余力を手に入れ、イノベーションのための戦術や戦略により多くのリソースを費やすことができるでしょう。これこそがSAPのクラウドシフトの真の狙いです。

SAPは世界的なクラウドベンダーと提携し、現在世界10カ所でSAPシステムのクラウドサービスを提供。そのうち7カ所がAWSで稼動しています。

SAP環境を支える高可用・高信頼のインフラ

両社が連携に至った経緯を教えてください。

岡嵜AWSは2006年にクラウドサービスを開始しました。SAPは2008年からお客様企業としてAWSの活用を開始され、そこから両社の連携がスタート(図1)。SAPの開発拠点にAWSのメンバーが常駐し、技術レベルで交流を重ねています。

図1 長年にわたるSAPとAWSの関係

図1 長年にわたるSAPとAWSの関係

SAPが顧客としてAWSの利用を開始した2008年から両社の関係がスタート。10年以上にわたる歴史の中で、SAPシステムの価値を高めるソリューションを数多く開発・提供している

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SAPの開発基盤にもAWSが活用されています。その中でAWSインフラとSAPアプリケーションを密に組み合わせ、共同で開発・検証を推進し、多くの認定も取得しています。2011年にはSAPが認定する世界初のパブリッククラウドベンダーに(※1)、翌2012年には世界初のSAP HANA認定パブリッククラウドに選定されています(※2)。

基幹業務を支えるSAPシステムの基盤となるため、信頼性も非常に重視しています。AWSには「アベイラビリティゾーン(データセンター群)」という考え方があり、例えば、東京では4つのアベイラビリティゾーンを活用し、可用性の高いアーキテクチャを実現しています。

このような特徴を持った「SAP on AWS」を利用しているお客様は、現在グローバルで5000社以上、国内では数百社にのぼります。

首藤SAPにとってもAWSと連携するメリットは大きい。インフラレベルで付加価値の高いサービスを提供してもらえるからです。例えば、AWS向けに提供している「SAP Data Custodian」では、システムのどこにデータが存在し、どんな使われ方をしているかをトレースすることが可能です。データベースの暗号化対応について、自動で判断・アラートする仕組みもあります。SAPシステムはミッションクリティカルな領域で使われるケースが多いため、こうした仕組みを実装していることは非常に心強いわけです。

※1 SAPノート1380654「SAP support in public cloud environment」
※2 SAP HANA One - Now Available for Production Use on AWS (2012/10/16)

SAP HANAをわずか数十分でデプロイ可能に

インテリジェントエンタープライズの実現に向け、SAPはどのようなソリューションを提供していますか。

首藤PaaS型のアプリケーション開発プラットフォーム「SAP Cloud Platform」は、AIやRPAなどの先進テクノロジーを活用したインテリジェントなシステムの開発が可能で、現在AWSの東京リージョンで利用できます。

「SAP HANA Enterprise Cloud」はSAPシステムの運用に特化したマネージドサービスで、お客様のSAP環境の保守・運用までSAPがトータルサポートします。AWS上でSAP HANA Enterprise Cloudを利用すれば、「SAP Cloud Platform on AWS」と「SAP HANA Enterprise Cloud with AWS」を統合的に運用することが可能になり、プラットフォームとしてのシナジーが大幅に向上します。

AWSもSAPシステムの価値を高めるソリューションを豊富に提供していますね。

岡嵜AWSは「SAP“360度”戦略」を推進しています(図2)。既存ERPのクラウド化はもちろん、SAP S/4HANAをはじめとするSAPの先進ソリューションのクラウド化、先進テクノロジーを活用したイノベーション創出のフレームワーク「SAP Leonardo」への対応も可能です。

図2 AWSの「SAP“360度”戦略」のイメージ

図2 AWSの「SAP“360度”戦略」のイメージ

既存ERPやSAP S/4HANAのクラウド化はもちろん、その機能を拡張するSAP SaaSソリューション、AWSパートナーによるSAPソリューションも提供。お客様のニーズに全方位的に対応する

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高度な分析機能でクラウド上での意思決定を可能にする「SAP Data Warehouse Cloud」、ビジネスユーザー向けの分析サービス「SAP Analytics Cloud」など、AWS上で構築しているソリューションも提供可能です。

AWSの多様なサービスともシームレスに連携できます。例えば「AWS Service Broker」を活用すれば、SAP Cloud Platformの開発プロセスの中に、AWSのサービスを1つのアプリケーションとして組み込むことが可能です。SAPとのAPIを抽象化し、管理画面から選択するだけで、直接AWSのサービスを呼び出せる仕組みです。

SAP HANAをスピーディーにデプロイするサービスも提供しています。「AWS クイックスタート」はその1つです。SAP HANAをオンプレミスのアプライアンスで調達する場合は、通常数カ月程度かかりますが、これを活用すれば、インフラを含めた構築がわずか数十分で完了し、すぐにデータベースを使えるようになります。SAP Cloud Platform上で提供されるSAP HANAをPaaSサービスとして利用可能にする「SAP HANA as a Service」というサービスもあります。

SAP S/4HANA on AWSが最大48TBまでメモリをサポート

インメモリデータベースのSAP HANA、それを基盤とするSAP S/4HANAをシームレスに動かすためには大容量のメモリが必要になります。クラウド上で動かすのは簡単ではないように思えるのですが、その点はどうなのでしょうか。

岡嵜大容量メモリが求められるシステムをいかにシームレスにクラウド上で動かすか。これはAWSにとっても1つのチャレンジでしたが、SAPと協力し、大規模メモリを搭載した「Amazon EC2」を開発し、1インスタンスで最大で24TBまで拡張可能になりました。SAP S4/HANAにおいてスケールアウト方式も含めると48TBまでの拡張に対応します。また、Amazon S3やAmazon RedshiftなどのAWSサービスと連携することで、テラバイト単位からペタバイト単位、さらにその上のエクサバイト単位まで、お客様のニーズに応じたデータレイクの構築も可能です。

なぜ大規模なデータレイクが必要なのでしょうか。

首藤従来の情報活用はバランスシートを見て何が起きているか見る形でした。受注や受注見込みぐらいのデータはERPに入っていますが、それだけでは「なぜそうなのか」「ボトルネックは何なのか」までは分からない。データ駆動型ビジネスで大切なことは「What」ではなく「Why」、すなわち「ビジネスプロセスのどこで、何が起きているのか」を知ることです。しかし、データの種類が限られていたり、サマライズされたりしていると、明細レベルまでドリルダウンすることができない。これを解消するためには、できるだけ多くの生のデータを保持し、これを即座に利活用できる仕組みが必要です。

SAPがクラウド化を推進し、大規模なデータレイクを必要とするのも、こうした理由によるものです。多様なデータをリアルタイムに分析できれば、どこで何が起きているかが即座に分かり、改善のための仮説も立てやすくなる。クラウドなら、その仮説に機械学習などを取り入れ、インテリジェント化できるし、試行錯誤のサイクルも高速に回していけます。

多種多様なデータを取得するためには、IoTの活用も欠かせませんね。

岡嵜AWSはIoTの活用を支援する様々なプラットフォームサービスを提供しています。「AWS IoT Greengrass」はその1つ。多種多様なIoTデバイスの接続に対応し、クラウドの機能をIoTデバイスに拡張するエッジコンピューティングの機能も実装しています。

首藤SAPが提供する「SAP Leonardo Internet of Things(IoT)」はIoTデータをERPのコアプロセスに組み込み、機械学習などの先進テクノロジーを活用することで、インテリジェントエンタープライズの実現を支援します。

こちらはIoTデータをビジネスプロセスや意思決定に役立てる機能が強み。エッジ領域にAWS IoT Greengrassを活用すれば、あらゆるIoTデバイスのデータ取得が可能になります。2つのIoTプラットフォームは補完関係にあり、シームレスな連携が可能です。組み合わせることで、IoTデータを含めたデータ駆動型ビジネスが大きく加速します(図3)。

図3 AWS IoTとSAP Leonardo IoT相互接続

図3 AWS IoTとSAP Leonardo IoT相互接続

多様なIoTデバイスの接続に対応するAWS IoTでデバイスデータを取得。SAP Leonardo IoTと連携することで、そのデータをビジネスのコアプロセスに取り込み、業務のインテリジェント化が可能になる

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両社の連携で顧客企業のDX戦略をサポート

最後にSAP on AWSの価値向上に向けて、両社の展望を教えてください。

岡嵜SAPはパッケージビジネスからクラウドビジネスへ変革を図り、躍進を続けています。AWSもアマゾン社内のビジネス課題を解決するために生まれたデジタルネイティブカンパニーとして、数々のチャレンジを続けています。互いの経験に基づくシナジーを発揮し、ソリューションを提供するだけでなく、企業文化の変革までサポートしていきたいと考えています。

首藤DXの実現には、経営トップの理解とコミットメントが不可欠です。そのためには、ビジネスの文脈でITの価値が分かるようなメッセージをIT部門から経営層に発信していくことが重要です。今後もAWSとの連携を深めてSAP on AWSの価値向上を図り、重要な経営資源である「時間」を最大化することで、お客様のDX戦略とグローバル競争力の強化に貢献していきます。

お問い合わせ
アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社
URL:https://aws.amazon.com/jp/contact-us/