シニアや女性の活用、働き方改革の実践など、働きやすい職場環境の実現と人手不足は企業にとって最大の課題だ。特に重労働作業の負荷軽減・安全性の確保は、企業にとって急務といえる。その一つの解決策として注目を集めるのが、作業負担軽減と安全確保に貢献する、ロボットを活用した“働く人にやさしい現場づくり”だ。空前の人材不足と言われる今でも、自動車業界・食品業界などの企業では、人に寄り添う現場づくりにいち早く着手し、結果を出し始めているという。本取材では、「人にやさしい現場づくり」をビジョンに掲げ、働く人や企業に寄り添う製品を提供するCKDの担当者に、先進事例から、最新の製品の動向について話を聞いた。

重たいモノの移動も自由自在
技術の力で重労働を軽作業に変える

厚生労働省の「業務上疾病発生状況等調査(平成29年)」によると、業務上疾病の6割以上が腰痛だという。特に、工場や建設現場などには、重たいモノを扱う作業が数多くある。こうした作業により腰痛を患うことも多いのではないか。過酷な労働環境を放置したままでは、離職者は後を絶たず、その補充もままならない。さらに、少子高齢化が進む日本では、女性やシニアの活用が継続的企業経営を考えるうえで必須になった。しかし、重労働が残された現場では、女性とシニアが活躍できない。

日本の産業界が抱える慢性的人材難を解消するために、産業用ロボットなどを活用した生産ラインの自動化を推し進める動きが進んでいる。ところが、生産工程の中には、どうしても自動化できない部分が必ず残る。そうした作業は、結局、人手に頼らざるを得ないのだが、そこには重たいモノを扱う重労働が数多く含まれ、ラインの生産性向上を阻むボトルネックとなる場合が多い。

出典:厚生労働省が実施した「業務上疾病発生状況等調査(平成29年)」の
「第1表 業務上疾病発生状況(業種別・疾病別)」を基にCKDが作成

こうした重労働の負担軽減は、ライン全体の生産性向上に向けて、さらには作業員の労働環境の改善に向けて欠かせない取り組み課題となっている。そして、こうした課題の解決策を探る企業の間で、にわかに注目が集まっているのが、作業員を機械の力でアシストし、重労働を軽作業に変える「ヒューマンアシスト製品」である。

産業用ロボットは、決められた仕事を自律的にこなす、自動化機械である。これに対して、ヒューマンアシスト製品は、あくまでも人の能力を拡張することを目指している点で異なる。人の動きや意思に寄り添って人の力を増強し、それまで扱えなかった重たいモノを自在に扱う、自転車のような身近に置いて活用すべき道具だといえる。

第5回[名古屋]機械要素技術展にて撮影したデモの様子

下からのアプローチで
多様な重労働の軽減を可能に

これまでにも、工場などでの利用を想定したヒューマンアシスト製品はベルト式、アーム式、パワードスーツなど何種類かあった。ただし、操作のしにくさ、広い設置スペースが必要であるために起こる活用シーンの制限など、一般に使われているものには欠点があった。

こうした従来の欠点を一気に解消したのが、CKDの「パワフルアーム PAWシリーズ」である。パワフルアームの最大の特長は、搬送物の重量を下から支えて軽減する構造を採用したことだ。重量を支える機構を組み込んだアームを最大3つまで継ぎ合わせることで、広範な可動域の確保を可能にし、しかも上下方向や水平方向への自在な取り回しができるようになった。

最適な制御方法により、搬送物を簡単に搬送することを可能にする。
治具、工具の重量をバランス状態に維持することや、重さの異なるワーク搬送にも対応可能だ。

重たいモノを扱う現場には、下から重量を支えないと対応できない作業が数多くある。その代表例が、自動車の生産ラインでの車体の下から重たいエンジンを組み込む作業である。パワフルアームならば、こうした作業にも難なく対応できる。もちろん、フックやバキューム、クランプといった冶具を使って搬送物を上から支えることも可能だ。また、アームを折りたたんで格納できることと、周囲のモノと干渉しにくい取り回しのよさから、狭いスペースでの設置・活用ができる。パワフルアームは、活用シーンが極めて広いパワーアシスト製品の決定版だといえる。

パワフルアームのルーツは、東京工業大学が開発した空気圧シリンダをアームの内部に組み込む技術を基にして、2008年に日産自動車が開発して社内で活用していたパワーアシスト装置にある。CKDは、摺動抵抗(部品が接する可動面の機械的抵抗)を最小限に抑えるシリンダを提供することで、その開発に貢献した。そして、2013年にCKDがそのパワーアシスト装置のライセンスを日産から取得。CKDが独自の改良を施して出来上がった製品がパワフルアームである。製品版パワフルアームの第1世代機は、2014年に市場投入した。いまでは、日産自動車も製品版パワフルアームを導入している。

パワフルアームでは、「操作圧力自動調圧制御」と呼ぶ仕組みで作業者をアシストしている。支えるべき搬送物の重量と作業者の動きによる加速度を荷重センサで検知し、CKDが誇る高精度の電空レギュレータを使って荷重の変化に応じて空気圧を比例制御。搬送物とその動きで生じる荷重とアーム内部の空気圧シリンダ出力が常に釣り合うように制御するため、重さの異なるワークの搬送にも柔軟に対応できる。CKDは、パワフルアームを構成する多くの部品を内製しており、それらを高度に最適に組み合わせることで、作業者が自分の手足のように扱うことができるヒューマンアシスト製品に仕上げることに成功した。

人が働く現場に自然に溶け込む
安全で威圧感を感じないデザイン

CKDは、第5回[名古屋]機械要素技術展(2019年4月17日~19日開催)において、2019年1月に発売したばかりの第3世代機を披露。実機が置かれたデモブースは多くの来場者の注目を集めた。

(左)第5回[名古屋]機械要素技術展のCKDブース
(右)パワフルアームPAWシリーズは見た目もコンパクトで丸みもある心地よさを感じるデザインだ

CKD株式会社
FAシステムBU HA事業開発部 技術グループ グループリーダー
若杉 諭氏

「第3世代機では、第1世代と第2世代のユーザーの声を生かして、人と共存して動く際に求められることを熟慮し、安全性と使い勝手を徹底的に向上させました」と同機を開発したCKD FAシステムBU HA事業開発部 技術グループ グループリーダーの若杉諭氏はいう。

人を支援する機械であるパワフルアームは、万が一にも人に危害を与えるものであってはならない。そこで、第3世代機では、アームをつなぐ関節部の指が入る隙間を無くし、さらに筐体全体の形状には人が触れても安全な曲面を多用した。

さらに、突発的な事態の発生を想定した、機能安全も盛り込まれている。たとえば、重たい運搬物を運んでいるとき、エア源が切れても落下しない機能を備えている。シリンダへの圧縮空気の出入りを制御するバルブを閉じて、荷重を支えるシリンダの動きを止めるブロックバルブと呼ぶ技術の効果である。電源が切れても同様の安全機能が働く。さらに、オプションでノーマルクローズタイプの回転ロックを取り付けることで、非常停止時の位置を保持することも可能だ。

指が入る隙間を無くした関節部

(左)ハンドルを握ると運転ランプがつく
(右)ハンドルから手を離すと停止ランプがつく

第3世代機を見て最初に驚くのは、見た目がとても洗練されていることだ。人の力を支援するパワフルな機械でありながら、柔らかい印象さえ感じる。「第3世代機では、開発当初から洗練されたデザインをイメージし、剛性や機能を解析しながら設計を進めていきました」と若杉氏はいう。

CKD株式会社
営業本部 HA営業部 部長
佐藤 弘一氏

機能と性能が最優先の産業機器では、見た目の良さなど不要と考える人もいることだろう。確かに機能・性能は重要だが、人が働く場所で一緒に働く機械にはそれだけでは足りない。近くにいるだけで違和感や威圧感を与える機械では、作業者の効率にも悪影響を及ぼす。これからの産業機械は、工場で女性やシニアと共存し、自然に寄り添い支える存在でなければならない。もはや見た目の良さは一つの機能であり、きっちり作り込んでいくことが重要になってくる。家電製品やスマートフォンなど民生機器の分野では、ユーザーが使いやすく心地よく感じるデザインに合わせて、後から内部構造を作り込んでいく方法で設計を進めるメーカーが増えてきている。ただし、それを実践するには、必要な機能を、性能を落とすことなくコンパクトに実装できる高い技術力が求められる。産業機器でも見た目を追求できるのは、CKDの高度な部品技術とパッケージ化技術があればこそだ。

さらに、第3世代から関節部のボルト4本を外すだけで、積み木を上から順に崩していく要領で簡単に分解できる構造となっているためお客様でもメンテナンスしやすくなった。また今後、有償メンテナンスサービスを行う予定。「パワフルアームは、お客様が行う作業に欠かせない機械です。安心して長く使える環境にしていきたいと考えております」とCKD 営業本部 HA営業部 部長の佐藤弘一氏はいう。

“人機一体”で作業者の能力を拡張
現場の生産性をとことん高める

パワフルアームの活用シーンは広く、その効果は絶大だ。

特に多く利用されているのは、自動車業界でのエンジン部品やEV用モータの組み立てラインだという。さらに、工作機の冶具や金型など狭いスペースで前のめりの姿勢で行われる交換作業、意外と重たい段ボールの搬送でも導入が進んできている。また、包装ロール材をパレットから乗せたり下ろしたりし、機械へ装填するといった作業で重労働が残っている食品業界での活用例も多い。

導入した企業の中には、パワフルアームを使わないと対応できない、狭いスペースでの重労働が可能になったところが数多くあり、「お客様から、これがないと作業ができないといううれしい声も聞こえてきています」(若杉氏)という。さらに、「これまで2人掛かりで行っていた作業が1人でできるようになった、男性しかできなかった作業が女性でもできるようになったといった、目覚ましい成果が上がっているところもあります」(佐藤氏)とのことだ。

CKDではパワフルアームを、人の支援だけでなく、機械の支援に活用する提案もしている。たとえば10kgまでのワークしか動かせないロボットアームでも、パワフルアームを合わせれば30kgものワークを動かせるようになる。重たいワークを扱えるロボットアームは、大仕掛けで、相応に高価格なものになる。パワフルアームを活用すれば、費用対効果に優れた搬送システムを構成できる。

また、現在は圧縮空気を供給する設備が整った工場での導入が進んでいるが、「エアサプライユニット」と呼ぶ小型圧縮空気供給ユニットを合わせて提供することで、建築現場などでも活用できるようになる。「将来は、電動式の製品の投入も検討していきます」(佐藤氏)と、将来はさらに活用シーンを広げる進化が期待できそうだ。

第3世代機のアームには、可搬重量(ワークとアタッチメントの重量の和)が30kgのチューブ内径80mmの機種、同50kgの内径100mmの機種、同80kgの125mmの機種の3タイプがある(0.5MPa 加圧時)。扱うワークに合わせて、自由に選択できる。複数軸を組み合わせて使う際には、チューブ内径が大きい機種から順に組み合わせていく。たとえば、3軸を活用する場合には、土台となる固定式アンカーや台車の上に、内径125mmの機種、100mmの機種、80mmの機種の順に積み重ねていく。これによって、上下1750mm、水平2100mmという広い稼働範囲を確保できる。

荷重に合わせて、3タイプのアームから選択可能だ。様々な現場のニーズに対応できる。

ワークを支える部分のアタッチメントは、扱うワークや活用シーンに応じて一品一様でカスタム開発する。「運んでいる途中では外れることがなく、それでいながらワークの取り付け取り外しがしやすい、最適な形状と機能のアタッチメントを徹底的に作り込みます」(佐藤氏)。たとえば、自動車用エンジンブロックを運ぶ際には、吊り下げ用のフックを、食品工場の材料袋やガラスなど板状のワークを扱う時にはバキュームを、ロール材を運ぶ時には芯の部分を支える内径クランプ、丸物やコンテナ箱などを運ぶ場合に外側クランプなどを用意することになる。CKDの小牧工場に用意した実機を活用し、実際に搬送したいワークを実際に使ってテストし導入イメージを固めながら進めていく。アームへのアタッチメントの取り付け取り外しは極めて簡単で、アームを台車で移動してアタッチメントを付け替えれば、複数の活用シーンで共用することも可能だ。

パワフルアームは用途や場所にあわせて組み合わせをすることも可能だ。

CKDはデモ機を全国の拠点に配備し、現場に持ち込んでデモすることも可能だという。また、重労働を軽減したいというニーズは、海外でも高まると思われる。既に中国でも導入実績があり、CKDは今後のグローバル展開に向けて営業やサービスを提供するための基盤を整えていく計画である。既にアーム部は欧州安全規格CEマーキングを取得しており、欧州市場で販売できる安全性を確保している。世界中の作業者を過酷な重労働から解放する将来が、すぐそこまできている。