高いデータ処理能力と低消費電力を同時に実現 IoTデバイスの設計を容易にする新マイコンとは

サイプレス セミコンダクタがIoTデバイスやゲートウェイなどの心臓部となるマイコン「PSoC(Programmable System on Chip)」の製品ポートフォリオを充実させている。マイコンは設計者自らの手で機能を作り込める半導体チップである。だからこそ、IoT機器を制御するためのソフトウエア開発環境「Modus Toolbox」も提供。この製品拡大、開発ツールの充実によって、IoT機器のためのマイコンをよりプログラムしやすくする。

 サイプレスが提供するPSoCは、これまでも様々な組み込みシステムに採用されている。携帯型音楽プレイヤーの音量を調整する円形のタッチセンサーやスマートフォンのタッチセンサーなど、多くの人の目に触れているだろうユーザーインターフェースを提供してきた。しかし、ウェアラブルデバイスに歩行トラック(追跡)機能を設けるなど、より高機能をワンチップで制御できるようにするにはその性能に課題があった。最新のPSoC 6シリーズはそこに改善を加えながら、IoTデバイスには必須のセキュリティへの課題にも取り組んだ。

IoT市場の進化に追従する高性能かつ低消費電力のマイコン

末武 清次氏 サイプレス セミコンダクタ ICW事業部 マーケティング部 プロジェクト課長
末武 清次氏
サイプレス セミコンダクタ
ICW事業部 マーケティング部
プロジェクト課長

 サイプレスは、IoT市場の進化に追従できる様にPSoCの開発を進めた。サイプレス セミコンダクタ ICW事業部 マーケティング部 プロジェクト課長の末武清次氏は「スマートウォッチを中心とするウェアラブルIoTデバイスに、PSoCは強力な演算機能や大容量メモリを集積するようになりました。当初の8ビットPSoCが、Arm Cortex-MシリーズのCPUコアを集積する32ビットマイコンにまで拡大しました」と話す。

 その先駆けとなった製品が2年前に発表したIoTデバイス向けの「PSoC 6シリーズ」だ。Arm社のCortex-M4およびCortex-M0+を集積したデュアルコアの32ビットマイコンで、モバイルの頭脳となるアプリケーションプロセッサと、制御を主体とするマイコンとの中間を埋める機能を持つ製品である。

 その特長は、高いデータ処理能力と低消費電力を同時に実現している点だ。例えば、Cortex-M4を150MHzで動作させる場合、その消費電流はわずか5.82mAしかない。制御命令を重視してCortex-M0+を100MHzで動作させると、消費電流は3.43mAに減少。クロック周波数を25MHzに落とすと、さらに0.75mAに減る。M4とM0+はモードを切り替えられる。

 また、電池寿命を長く維持するための仕組みも特筆すべきだろう。Cortex-M4では8MHzで動作させると、380µAしか流れない。加えて、超低消費電力で動かす場合には、M4では22µA/MHz、M0+では15µA/MHzとほとんど電流を流さなくていい。コードを実行しない非動作モード、例えばディープスリープモードでは7.0µAしか消費しない。

Wi-Fiをサポートするためメモリを増設

 シリーズの発表とともにリリースされた「PSoC 63」には、Bluetooth LE(Low Energy)を集積していたが、フラッシュメモリは最大1MB、SRAMは最大288KBであった。IoT機器への対応製品拡充として、製品ポートフォリオにPSoC 61/62/64と、上位と下位にシリーズを追加。先日発表された3つの新製品は、いずれもフラッシュ容量を最大2MB、SRAMは最大1MBに増設している(図1)。

図1 PSoC 6シリーズの製品ポートフォリオ
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 「メモリ容量を増設した理由は、Wi-Fiをサポートするためです。Wi-Fiのプロトコルスタックが多くのメモリを使用するため、1MBでは半分以上も費やして実質的に他のタスクに使用できなくなってしまいます。また、フラッシュの大容量化とバランスを取るためにSRAMも最大1MBとし、ユーザーのメモリ空間をサポートしています。40nmという微細化プロセスを用いているため、メモリ増強にも容易に対応できました」と末武氏は紹介する。

IoTハードウエア開発キットで設計容易に

 PSoC 62は63からBluetooth回路を、PSoC 61はさらにCortex-M0+をカットしたチップである。Wi-Fiチップは外付けとなるが、多くはBluetooth LE回路も持ったコンボチップになっているため、PSoC側でBluetoothを集積しなくても問題はない。その分、メモリを増強したという訳だ。IoTセンサーデバイスよりもゲートウェイでの使用を念頭に、センサーとのフロントエンドに必要なアナログ回路は含めていない。しかし、コンパレータと12ビットのADコンバータはそれぞれ2チャンネルずつ集積している。

 PSoC 62とWi-Fiチップを使用したIoTのプロトタイピングキット「CY8CPROTO-062-4343W」(図2)の提供も開始。このキットによって、Wi-Fi接続のIoTデバイスを容易に設計することができる。

図2 IoTハードウエア開発キット「CY8CPROTO-062-4343W」
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 サイプレスは、この機にソフト開発ツール「PSoC Creator」と無線ソリューション開発環境「WICED」を統合した「Modus Toolbox」をアップグレード。新しいModus Toolbox2.0では、Armの組み込みシステムOSであるMbed OSとAmazon FreeRTOSを標準搭載している。サンプルコードも多数用意され、例えばTFTモジュールなどの表示機能を手軽に組み込むことが可能になっている。

セキュリティを強化した製品も開発中

 現在開発中のPSoC 64は、セキュリティ機能を追加・強化した製品だ。IoTデバイスへのハッキングに対処するもので、ArmのPSA(Platform Security Architecture)に準拠したRoT(Root of Trust)を集積している。RoTは、パソコンにも搭載されている電源を投入した直後からのシーケンスを保証する機能で、IoTデバイスにも導入できるようになる。PSAは、Armが複数の第3者セキュリティ研究機関に依頼して認定するセキュリティのフレームワークだ。

 ただし、PSoC 61、62でも暗号化コプロセッサと乱数発生器、暗号化キーを保存するためのOTP(One Time Programmable)メモリなども集積されている。もちろん、サイプレスがこれまで特長としてきたタッチセンサー制御回路CapSenseや、周辺インターフェース回路(クワッドSPIやI2S、USB2.0)は充実している。

 まずはウェアラブルデバイスからスマートホーム、スマートスピーカーなど、生活に身近な製品に「PSoC 6シリーズ」を広げていく狙いだ。セキュリティ強化は、その先にある工業用IoTデバイスへの応用を見据えている。

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