基調講演

電力業界はデジタル化でこう変わる!
~デジタル化により、電力会社の付加価値は大きく変わる~

久保 欣也 氏
株式会社ビジネスデザイン研究所
代表取締役社長
久保 欣也 氏

 デジタル化の潮流を受けて、電力業界も変革を迫られている。電力業界向けのコンサルティングなどを手掛けるビジネスデザイン研究所代表取締役の久保欣也氏は「他産業に比べて、電力業界のデジタル化は非常に遅れている。デジタル活用による改善と成長の余地は大きいといえるでしょう」と語る。

 例えば、いち早く電力自由化が進行した欧米では、SDGsなどを考慮して直接電源を調達する需要家が増えつつある。今後は日本でも電源の質が重視されると共に、電力小売事業者にとっては存在意義を問われかねない時代になりそうだ。

 小売事業者の戦略は大きく2つの方向に分かれると久保氏は考えている。
「1つは高付加価値を追求するか、もう1つは徹底的なコスト削減でコストリーダーシップを目指すか。各社とも、自社のポジショニングを明確にする必要があるでしょう」

 高付加価値を追求する場合にも、コスト削減への取り組みは欠かせない。デジタル活用による業務効率化は急務だ。

 電力小売の業務プロセスを考えたとき、「すでにIT導入が進んでいる料金計算以外の分野が、デジタル化のターゲットになる」と久保氏は見る。特にWebマーケティングなどを活用した顧客獲得、顧客に対応するコンタクトセンターへのAI導入、Webサイト上での行動解析による離脱防止などがデジタル化の大きなテーマになりそうだ。

特別講演

投資家の意識変化、ESG投資の拡大
経営戦略に気候変動の影響を位置付ける

野村 祐吾 氏
ソコテック・サーティフィケーション・ジャパン株式会社
ESG Technical Expert 博士(工学)
野村 祐吾 氏

 気候変動リスクに対する危機意識の高まりなどを背景に、投資家と企業との関係も変わりつつある。注目される動きがESG投資の拡大である。

 温室効果ガスやESG、サステナビリティに関わる審査や検証などのサービスを提供するソコテック・サーティフィケーション・ジャパンで、ESG Technical Expertを務める野村祐吾氏は次のように説明する。

 「ESG投資が主流になる中で、投資家と企業との対話が重視されるようになりました。投資家は財務情報だけでなく、ビジョンや理念、成長ストーリー、環境や社会という観点でのリスクと機会などの説明を求めています」

 投資の潮流が長期リターンを求めていく中で、中長期的な視点に立って企業の将来の絵姿を映し出すビジョンや理念、成長ストーリー、環境や社会といった非財務情報に重きを置くESG投資が主流となっている。

 リスクと機会は開示情報の観点というより経営戦略や気候関連問題と密接に絡み合うファクターであるといった要素の方が重要となる。

 例えば、日本を代表する機関投資家であるGPIFが署名した国連責任投資原則はESGの重視を明確に打ち出している。ESG視点での情報を提供する企業が投資家を引き付け、そうでない企業からは投資家が離れていく。そんな時代、多くの企業が気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への関心を高めている。

 「TCFDは投資家向けの気候関連情報に特化した開示フレームワークです。世界の金融機関や企業、政府など800を超える団体は、すでにTCFDへの支持を表明。そこには、200前後の日本の企業・団体が含まれます」と野村氏。経営戦略の中に気候変動との関わりを位置付ける必要性は、今後さらに高まりそうだ。

 気候関連財務情報を開示するTCFDへの対応には、確立されたガバナンス体制に基づくリスクと機会の特定・評価がマストであり、これからの経営戦略において気候関連問題を組み入れることが切っても切れない状況になる。単にESG投資の波に乗って投資家からの評価を得ることが大事なのではなく、直近の台風被害を例にとっても分かるように、こうした一連の対応が企業経営、ひいては企業の存続そのものに直結してくるのである。

 単純にCO2削減に貢献できる再エネ調達をサポートするのではなく、企業に何が求められているかを理解した上で、企業にとって価値向上に寄与するソリューションを提供していくことがサプライヤーにとっても企業から選ばれる価値につながる。

特別講演

市場や制度などの環境変化を見ながら
5つのキーワードに留意して競争力を高める

宮脇 良二 氏
アークエルテクノロジーズ株式会社
代表取締役
宮脇 良二 氏

 「デジタルイノベーションで脱炭素化を実現する」とのビジョンを掲げるアークエルテクノロジーズは、先進技術を活用した様々な取り組みを続けている。電力自由化で先行する欧米諸国の知見も豊富で、新電力をはじめ業界各社に対してコンサルティングなども行っている。同社代表取締役の宮脇良二氏は注目すべき5つのキーワードを提示する。

 「第1にグリーン。100%グリーンは、今後のエネルギー企業の戦い方の基本になります。第2にデジタル。デジタルでユーザーとつながり、データを溜め、それをサイエンスして新しいサービスにつなげるという流れを作ることが必要となります。第3にフレキシビリティ。再エネを扱う際の調整力をどのように調達するのか。第4に売り方。市場価格連動型、定額という大きく2つのトレンドがあり、そこに透明性や分かりやすさが求められます。第5にエコキャンペーン。ソーシャルイノベーションに取り組む企業との協業など、エコの打ち出し方が問われます」

 自由化の進展度合い、市場や制度など環境の整備状況などを注視しながら、これらの取り組みを進めることが重要だ。ただ、宮脇氏は「時期は分かりませんが、再エネの導入がさらに進むと日本市場もいずれ自由化の進んだ欧米のような状況に変わるでしょう」と語る。新電力各社が戦略を立てる上では、そのタイミングの読み方がポイントになりそうだ。

特別講演

新電力とITベンダーのすれ違いを
需要家の視点で乗り越える

村谷 敬 氏
株式会社AnPrenergy
代表取締役
村谷 敬 氏

 すでに、国内には600社以上の新電力が事業を展開している。新電力のビジネスにはITが不可欠であり、多くのITベンダーが機会を見いだして提案活動を繰り広げている。ただ、新しく立ち上がった分野だけに、ノウハウや知識の蓄積は双方において十分とはいえない。エネルギービジネスのコンサルティングなどを手掛けるAnPrenergy代表取締役の村谷敬氏は「両者の間にはすれ違いが目立つ」と指摘する。

 「例えば、新電力側はベンダーに対して、制度変更や業界の動きなどの知識を求めています。しかし、これに対応できないベンダーが多い。一方、ベンダー側にもカスタマイズ要求が多すぎるといった不満があります」

 こうしたすれ違いを解消するのは容易ではない。村谷氏の提言は次のようなものだ。

 「ベンダーは相手の要求の裏側にある、『本当のニーズ』を知ることが重要。言われたままの機能を作っても、顧客は満足しないでしょう。新電力には自社モデルの適性評価が求められます。自分たちがベンダーに要求している機能はなぜ必要なのか、自社のビジネスにとって本当に重要なのかを見極める必要があります。そして、共に将来への危機感を共有することが大事です」

 新電力とベンダーはある意味で運命共同体だ。新電力の顧客のビジネスが好調なら、ベンダーのビジネスも伸びる。需要家の視点をベースに、共に議論を深める必要があるだろう。