基調講演

ESG投資は目先の利益のためではなく
関係性優先社会の創造を目指すもの

熊野 英介 氏
アミタホールディングス株式会社
代表取締役
公益財団法人 信頼資本財団
理事長
一般社団法人
ソーシャルビジネス・ネットワーク
副代表理事
熊野 英介 氏

 講演は、SDGsが採択されるまでの環境問題の歩みから始まった。アミタホールディングスの熊野英介氏は、第二次世界大戦後に顕在化した公害問題、環境問題に対して、いかに企業の取り組みが重要であるかを強調した。

 「典型的な例は、1972年にマスキー法に合格したホンダのCVCCエンジンです。資本主義に制約条件を課すことで、企業の力を借りてイノベーションが起きることが明らかになりました」(熊野氏)

 その後も気候変動リスクは増大し、地球的な視点で予防的な措置を講じる「予防原則」の導入が必要になり、1987年のモントリオール議定書、1992年のリオ宣言などにつながる。

 一方、2000年には国連サミットでMDGsが採択されたが、これは貧困、ジェンダー問題など、社会テーマに重心が置かれたものだった。SDGsはそれに加えて経済、環境要素が重要であるとした。そして、SDGs実現のために、企業は目先の利益を追求するのではなく、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)に配慮するESG投資が重視されるようになった。

 「特にガバナンスが重要です。これまで企業への評価は財務指標に頼っていましたが、ESG経営では、非財務指標である『環境制約への対応』『社会的課題への対応』『企業統治力』などを評価します。これに優れた企業こそが、イノベーションを可能にするのです」と熊野氏は話す。

 熊野氏は、2025年~30年に歴史上初めて地球の制約条件と人間の拡張性がぶつかる時代となるとして、「大量消費、大量所有の最大幸福を目指した経済性優先社会から、これからは大量共感、大量共有の最大幸福を目指す豊かな関係性優先社会を目指すべき」と強調した。

ユーザー講演

「環境ビジョン2050」を推進
創るエネルギーの拡大を目指す

米川 和雄 氏
パナソニック株式会社
品質・環境本部 環境経営推進部
環境渉外室
ユニットリーダー
米川 和雄 氏

 パナソニックは創業以来、環境への強い思いを持ち続け、環境課題へ取り組んできた。それを具体化した環境行動計画が「グリーンプラン2018」である。

 2016~18年度の数値目標として、製品・サービスによるCO2削減を重点項目に置き、2018年度に直接・間接の削減貢献量を合わせて5500万トンとした。この数値は1年前倒しで2017年度に達成している。

 次に、2017年に制定された「環境ビジョン2050」の説明があった。このビジョンの最大の目標は、2050年に「創るエネルギー>使うエネルギー」とすることにある。「現在は両者のエネルギー量の比率が1:10ですが、まずは3年かけてこれを1:8.5にすることを目指しています」とパナソニックの米川和雄氏は話す。

 では、ビジョン達成のためにどのような取り組みをしているのか。対外的なものとしては、太陽光発電システムや家庭用燃料電池の開発、水素実証実験、車載用リチウムイオン電池など。社内的には、家電リサイクル、工場におけるCO2ゼロへの取り組みが例として挙げられた。2018年度には日本とベルギーの2工場およびブラジルの工場でCO2ゼロが実現したという。

 2019年8月には、エネルギーを100%再エネで賄うことを目標とするRE100へ加盟した。「再エネ情報の収集、社内のモチベーションアップ、そして事業活動の強みとすることが加盟の狙いです」と米川氏。現在、パナソニックでは、さらなる再エネ利用拡大とCO2排出ゼロに向けて「グリーンプラン2021」を展開中である。

ユーザー講演

自己託送制度や再エネ直接購入などで
2050年の環境負荷ゼロを目指す

井上 哲 氏
ソニー株式会社
HQ総務部・EHSグループ
シニアマネージャー
井上 哲 氏

 ソニーは、現在Green Management(GM)2020の達成に向けて環境負荷低減施策を実施している。ソニーの井上哲氏は、「2040年度までに再エネ化100%を目指しています」と話す。

 ソニーの環境負荷ゼロに向けた手法は大きく3つ。1つは自社内での太陽光発電設備の導入であり、中でも注目されるのが「自己託送制度」の活用だ。

 「社内の各施設に発電設備を設置するだけでなく、その施設で余剰となった電力を、送電系統を経由して別のソニーグループの施設に送るというシステムです」と井上氏は説明する。電力需要の変動が大きい施設でも、無駄なく電気を活用できるのがメリットだ。

 2つ目の手法は、電力会社からの再エネの直接購入である。2017年、ソニーはCO2を排出しない水力発電のみを販売する東京電力エナジーパートナーのプラン「アクアプレミアム」を導入した初の企業となった。

 3つ目の手法は、グリーン電力証書の活用である。これにより、遠距離にある発電整備による再エネを支援できる。

 「ソニーではブロックチェーンを用いて、ピア・ツー・ピア(P2P)の再エネ調達を検討しています」と井上氏は今後の展開を話す。どのような電力が、どこでどれだけ使われるのかが明確になり、送り手と受け手の双方にとって再エネ活用の意識と理解が深まることが期待される。

特別講演

将来の利益につながるESGへの取り組みが
現在の企業価値として評価される時代に

清水 大吾 氏
ゴールドマン・サックス証券株式会社
証券部門 株式営業本部
業務推進部長
清水 大吾 氏

 現在の資本主義社会において、貧富の差の拡大や地球環境の悪化によって、世界が持続可能でなくなる危険が高まっている。ゴールドマン・サックス証券の清水大吾氏は、次のような例を挙げる。

 「A社の牛乳は100円、B社は150円で、まったく同じ品質だった場合、従来の社会ではA社の製品が求められました。利益の最大化が社会のKPIとされてきたためです。しかし、環境や人材への配慮によってコスト高になるのだと理解されるようになると、SDGsの目標への貢献を含めて150円のほうを選ぶようになります。つまり、経済的な利益と持続可能性の総和の最大化が社会のKPIとなるのです」

 企業価値についても、目先の利益だけで判定するのではなく、将来にわたって企業が稼ぎ出すであろう利益を、現在価値に割り戻したものの総和であるべきだという。重要なのは、企業や社会が持続可能であり続けるための投資である。投下した金額が将来の企業価値の向上額を上回れば「投資」になるものの、下回ればそれは「浪費」になってしまう。

 「企業価値を向上させるには、環境(E)や従業員・社会(S)に関してガバナンス(G)の効いた取り組みを行うことが必要であり、それこそがESGなのです。そして、その取り組みを投資家に理解してもらうことが不可欠です」(清水氏)

 企業価値を評価するスパンが長くなればなるほど、つまり長期投資家になればなるほど、評価の判断基準は目先の財務情報よりも非財務情報(ESG情報など)の比率が高くなる。その場合、現時点では環境や社会のように財務につながらない情報であっても、それが将来の財務情報に転換されるというシナリオを、企業は投資家に説明することが重要であると清水氏は指摘する。