2019年7月30日、東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで注目のイベントが開催された。シンギュラリティ・ユニバーシティが真のイノベーターを発掘すべく世界各国で開催しているソリューション アイデア コンテスト「グローバル・インパクト・チャレンジ」の、日本代表を決定する最終セレモニーだ。会場である東京・虎ノ門ヒルズフォーラムには満員の300名が詰めかけ、ファイナリスト6名による最終プレゼンテーションを、固唾を飲んで見守った。

今回は当日のイベントの模様を、そして後編では本イベントの主催であり当日の司会も務めたエクスポネンシャル・ジャパン共同代表、ジョバン・レボレド氏、齋藤和紀氏2名のインタビューをお届けする。

シンギュラリティ・ユニバーシティとは?

シンギュラリティ・ユニバーシティ(Singularity University)は、未来学者、天才発明家のレイ・カーツワイルと、Xプライズ財団CEOピーター・ディアマンティスが2008年に設立した、世界最高レベルの起業家教育を提供する教育機関。教育、エネルギー、環境、食糧、世界的な保健、貧困、セキュリティ、水資源を人類の最も困難な課題(Global Grand Challenges)と定義。「全世界10億人レベルに影響を与える大きな社会的課題に挑戦する」ビジョンを掲げるコミュニティには、世界160の国と地域から、21万人を超える人々が参画している。

https://www.singularityujapan.org/
グローバル・インパクト・チャレンジ(GIC)とは?

革新的なテクノロジーの活用により、3年以内に100~500万人の生活を改善する可能性を有するプロジェクト案を募るソリューション アイデア コンテスト。優勝者はシンギュラリティ・ユニバーシティのメインプログラムである『Global Startup Program(GSP)』への参加権と、参加費用のスポンサーシップが与えられる。

インパクト・トーク Impact Talk

皆さんの人生の中で、今日がいちばんスピードの遅い1日である シンギュラリティ・ユニバーシティ ディレクター ブレッド・シルケ氏 皆さんの人生の中で、今日がいちばんスピードの遅い1日である シンギュラリティ・ユニバーシティ ディレクター ブレッド・シルケ氏

ファイナリスト・ピッチに先立ち、シンギュラリティ・ユニバーシティのディレクター、未来志向のスピーカーであり著名なインフルエンサーとしても知られるブレッド・シルケ氏が登壇。『インパクト・トーク』と題して約1時間の講演を行った。シンギュラリティ・ユニバーシティの概要紹介に始まり、そのキーとなる概念『エクスポネンシャル』について、実例を交えて解説した。

『エクスポネンシャル』はいま、シリコンバレーで最も注目されるワードで、直訳すれば「指数関数的」という意味。指数関数のグラフが急上昇するカーブを描くように超躍的な発展を遂げるテクノロジーの進化を説明する際に用いられる概念である。シルケ氏はレイ・カーツワイル氏の2045年の未来予想を引用しながら、「人類が過去の2万年かけた進化に匹敵する発展が21世紀の100年で起こる」と説明。“皆さんの人生の中で、今日がいちばんスピードの遅い1日である” として、この技術進化のスピードを脅威と捉えずに、世界を前進させる機会と捉える必要性を説いた。

そして14時から、ファイナリスト達による最終プレゼンテーションが行われた。ピッチは1人5分間、すべて英語のみで行われた。奇しくも男女が各3名ずつ、アイデアの着想も具現性もさまざまで、本イベントの多様性を表す顔ぶれとなった。出場したファイナリストとテーマは以下の通り(登壇順)。

独自開発の通信認証技術を組み込んだスマホ制御型宅配ボックスの提案。原さんの描くビジネスアイデアの完成度は高く、ECの爆発的普及に伴う物流の増大と人手不足といった社会問題解決に加え、個人の生活利便性を飛躍的に向上させるアイデアに唸らされた。

1,500億pvのアクセス数を元に、最適なマーケティング改善提案を1分間という短時間で実現するというマーケティングプラットフォーム。「すでに15カ国、5,000社以上に導入されているマーケティングAIです」という窪田さんのアイデアは、先の未来ではなく今すぐに活用したくなる印象を受けた。

名古屋大学発ベンチャーのIcariaによる、日本が誇る素材力を用いて生体分子を捕捉し、AIを組み合わせてわずか一滴の尿から、10種類以上のがんを高精度かつ早期に発見可能な検査サービスのアイデア。自らが祖父をがんで亡くしたという塙さんの実体験を交えたプレゼンテーションだった。

施設内で目的地にたどり着けず迷う課題をAR画像マーカー技術(東京大学空間情報科学研究センターの研究)の応用サービスで解決する。カーナビなど屋外の地図の進化に比べ、屋内は立ち遅れている。能登さんの示した「商業施設では年間4,000万人、駅構内では外国人旅行者が週100万人迷っている」というデータは、ニーズとしての説得力があった。

衛星画像と土壌の相関分析により農家への評価品質とスピードを向上し、融資(マイクロファイナンス)を促進させるサービス。金融機関向けの信用データ提供と、土壌に応じた適切な肥料散布といった農家への営農指導も予定。日本のほか、坪井氏がかつて教育支援で訪れたインドでの展開も計画され、低所得農家支援の画期的なエコシステムが生まれる期待感があった。

社会に溢れる課題の解決を加速するため、最新技術を活用したプラットフォームを提供するアイデア。AIでニーズとシーズをつなぎユーザーとクリエイターの出会いを促進し、各リソースのブロックチェーンのトークン化による取引までを可能にする。加えて自らがビジュアルアーティストである浅田さんの技術を活かし、VRで課題をビジュアライズ。万人が世界の課題を俯瞰、理解できる点が画期的だった。

中山氏が所属する東京大学 松尾研究室はAI分野で世界的にも気鋭の研究者が集まることで知られ、中山氏はそのメンバーによって設立されたNABLAS社のCEOも務める。本セッションではAIとディープラーニングの進化の歴史および現状、そしてもたらす価値の本質について詳しく解説。NABLASが取り組むAI人材育成の重要性にも触れ、企業や日本全体でどう取り組むべきかを説いた。今やバズワードと化したAIの真実に触れることができる、貴重な1時間だった。

吉森氏は細胞生物学・オートファジー分野で数々の実績を残す、この分野では世界でも有数の影響力を持つ研究者。ご自身も数々の賞を受賞し、2016年に同分野でノーベル賞を受賞した大隅先生の共同研究者としても有名だ。細胞の中の宇宙や老化防止の仕組み、そしてそこから生命の本質を探る最新研究成果を交えた講演は、アカデミックな内容ながらもユーモアを交えながら行われ、氏の人柄が伺える楽しい学びのひと時だった。

そしていよいよ、選考結果の発表と受賞セレモニーへ。厳正な審査の結果、GIC JAPAN 2019の栄冠を手にしたのは『土壌をサイエンスし、低所得農家のマイクロファイナンスを促進する事業』を発表した坪井俊輔さん(SAgri株式会社 代表取締役社長)に決定した。ブレッド氏によれば評価のポイントはそのグローバルな視点のスケールと、農業支援という課題着想に対しテクノロジーで解決する革新性にあったとのことだ。坪井氏は「この機会に恵まれたことを感謝しています。10週間のプログラム参加を通じて、さらにアイデアをブラッシュアップします」と意気込みを語った。