前回に続いて、日本におけるシンギュラリティ・ユニバーシティの活動を担うエクスポネンシャル・ジャパン共同代表、ジョバン・レボレド氏と齋藤和紀氏にお話を伺った。

あなたは「シンギュラリティ」という言葉をご存じだろうか。未来学者、発明家で人工知能研究の世界的権威として知られるレイ・カーツワイル氏が「AIのみならずテクノロジーの進化スピードが無限大になり、人間の能力が根底から覆り変容するシンギュラリティが、2045年に到来する」と予言したことで、世界のテクノロジーをリードするシリコンバレーでいま最も注目され、日夜熱い議論が交わされている最注目のキーワードである。最近では人気ゲームや子供向けヒーロー番組でも取り上げられるなど、デジタルネイティブ世代にも浸透しつつある。たとえその言葉は知らなくても、日本においてもニュースや街中で見かけない日はない「人工知能」や「AI」、そしてわずか10年あまりでスマートフォンやSNSが爆発的に普及し、自動運転やドローン、ロボティクスの活用などが現実になりつつある変化は誰もが体感している。

シンギュラリティ=AIの急速な進化、と捉えるとわかりやすいが、それは表層的な理解にすぎない。“これまでとは違うスピードでテクノロジーが進化し、世界中のビジネス、人の生活までもが大きく変わる”-それがシンギュラリティの本質だ。その一方、ことさら囁かれるのが「AIが人間の仕事を奪う」などの脅威論。「何が起こるかわからない変化」を人々は脅威に感じる。そうではなく、日本はいま、これまで人類が経験したことのないこの劇的な変化をどう捉え、どうビジネスに活かしたらよいのか。その疑問を解くカギとも言える両者の言葉に、耳を傾けていただきたい。

ジョバン・レボレド 氏(Jovan Rebolledo)

エクスポネンシャル・ジャパン代表取締役(共同)
シンギュラリティ・ユニバーシティ ティーチングフェロー
東京大学大学院情報理工学系研究科特任研究員 ほか

メキシコ出身・米国籍。2002年にJICA研修員として日本に留学、その後2004年文科省奨学生として再来日し、2009年に金沢大学でPh.Dを取得。米国ルイスビル大学経営学修士。ロボティクスや人工知能に関する数々の起業経験あり。日本やシリコンバレー、メキシコの数多くのベンチャー企業のアドバイザーを務める。シンギュラリティ・ユニバーシティのGSP(Global Solutions Program)に第一期生として参加、以来、シンギュラリティ・ユニバーシティのアジアでの活動に深く関与している。東京大学先端人工知能教育学寄付講座の特任研究員として人工知能とエクスポネンシャル技術の研究を進める。

齋藤 和紀 氏

エクスポネンシャル・ジャパン代表取締役(共同)
シンギュラリティ・ユニバーシティ GICオーガナイザー
エン・ジャパン株式会社 社外取締役
株式会社Spectee 取締役CFO
株式会社アイ・ロボティクス 取締役CFOほか

早稲田大学人間科学部卒業、早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了、カリフォルニア大学バークレー校留学、シンギュラリティ・ユニバーシティ・エグゼクティブプログラム修了。日系・外資系のファイナンス要職、金融庁職員などを経てベンチャーの世界へ。成長期にあるベンチャー企業の成長戦略をハンズオンでサポート。成長期にあるベンチャーを財務経理のスペシャリストとして支えている。自らの事業も数多く立ち上げ、企業の新規事業創造支援なども行う。主な著書「シンギュラリティ・ビジネス」(幻冬舎)、「エクスポネンシャル思考」(大和書房)。

まず初めに「シンギュラリティ・ユニバーシティとは何か?」について、改めて教えてください。

ジョバン シンギュラリティ・ユニバーシティはシリコンバレーに拠点を置く研究および教育施設であり、世界でもトップクラスのインキュベーター機関です。2008年に著名な脳科学者、発明家、未来学者であるレイ・カーツワイルと、宇宙開発分野で有名なXプライズ財団のCEOであるピーター・ディアマンティスの2人がファウンダーとなり立ち上げました。ユニバーシティ(大学)と名付けられていますが学位取得を目的とした正規の大学とは異なり、組織はBコープと呼ばれる公益企業(ベネフィット・コーポレーション)です。

シリコンバレーで突き抜けた未来志向の教育・研究プログラムの提供に加え、プログラムから派生するベンチャー企業をインキュベートする機能も有します。教育、エネルギー、環境、貧困などの社会課題を人類にとって困難な課題(Global Grand Challenges)と定義し、指数関数的(エクスポネンシャル)に発展する技術の進歩を駆使し、積極的に取り組み、先回りしての改題解決をミッションとして、世界160か国、21万人を超えるコミュニティ運営を行っています。

齋藤 日本では、ジョバンと私が共同で設立したエクスポネンシャル・ジャパンが日本におけるシンギュラリティ・ユニバーシティの活動のいくつかの窓口を担っています。正規のライセンスを取得し、公認のイノベーター発掘コンテストを開催しています。ライセンスにはさまざまな形態がありますが、現在日本でコンテストを行う権利を保有するのはエクスポネンシャル・ジャパンだけです。

日本における活動のきっかけについて教えてください。

ジョバン 私は2009年にシンギュラリティ・ユニバーシティの第一期生として参加し、2014年から2017年までは夏季プログラムにフェローとして教える立場にありました。そこから世界中の数多くの起業家、イノベーターのメンターとしての活動を続けています。私は2002年から日本に留学したり、金沢大学で学位を取得したりと日本との関り合いが深いのですが、当時は沖縄科学技術大学院大学(OIST)で活動していたこともあり、日本国内での活動は限定的でした。

齋藤 私は2015年にシンギュラリティ・ユニバーシティに参加し、そのすごさを身をもって体感しました。この思考を日本国内で広める必要性を強く感じ、ジョバンと連絡を取り合い、その理想を共に進めることで意気投合したのが、エクスポネンシャル・ジャパンを立ち上げるに至った発端です。

シンギュラリティ・ユニバーシティは「何がすごい」のでしょうか?

ジョバン ポイントを3つ挙げるとすると、1つ目はテクノロジーの進化が加速しているという現実に向き合い、企業や組織、研究を飛躍的に成長させるための方法論が明確に言語化されている点です。

2つ目は、うわべで脅威論を語る傍観者であることを一切許さないという強い意志。指数関数的(エクスポネンシャル)に進化を遂げつつあるテクノロジーを利用し、いかに自らが理想の未来を作り出すイノベーターになれるか、求められるのはその一点だけです。

そして3つ目は、この強い意志を共有する起業家、実業家、学者、政治家、官僚、軍人にいたるまでスーパー・トップレベルの人材だけのコミュニティを、グローバルに構築している点です。この世界中に散らばるトップレベルのコミュニティに飛び込むことで、世界レベルのネットワークを築くことができるのです。

齋藤 シンギュラリティ・ユニバーシティは、シンギュラリティを研究する場ではありません。人類にとっての良い未来を自ら創ると決意した人達の集う場です。コミュニティではエクスポネンシャルに加速するテクノロジーの進化にどう向き合うか、いかに取り込んで課題を解決するか、という議論が昼夜を問わず行われています。そこでは『シンギュラリティがいつ来るのか』、『人間はAIに負けてどのような仕事が奪われるのか』といった議論は意味を為しません。

全員がシンギュラリティに対する正確な理解のためのインプットを共有して、それを活用していかに世界人類規模の良い未来を創造するかという点にのみ、議論が集中します。言葉が独り歩きして誤解している方が多いのですが、そもそもシンギュラリティとは人工知能だけの話ではありませんし、AIに人間が勝つ、負けるという議論は意味を為さないのです。

ジョバン テクノロジーの進化により、人類史上初めて80億人が光の速さでつながる時代が到来しました。これまでの課題は、貧困や食料不足など生きるために必要な欠乏をいかにして埋めるか、にありました。この要因は人、お金、時間といったリソースが世界中に遍在していたことにあります。これらの課題にテクノロジーが追い付くことで、それらのリソースを集積させて解決することが可能となります。

深刻化する温暖化やエネルギー問題、いまなお続く貧困などの解決手法を探るにはまずはいま、どのようなテクノロジーの進化が起きているかを知ることが重要です。世界規模でトップレベルの情報を集め、同じ志を持つ仲間たちと研鑽を重ね、さらに持続可能な事業として推進するための資金調達などの実践的な手法までをブラッシュアップする場がシンギュラリティ・ユニバーシティと言えるでしょう。もちろん、チャレンジには国籍や年齢、性別は関係なく、むしろ多様であればあるほどよい、とされています。

日本でシンギュラリティ・ユニバーシティの考え方を広めるには?

ジョバン トップレベルの人材はダイレクトにシンギュラリティ・ユニバーシティに参加すればよく、エクスポネンシャル・ジャパンではその支援も積極的に行っています。ただし、それでは裾野が広がりません。そもそもシリコンバレーと日本では、英語という言語の壁だけでなく、根底にある世界観、テクノロジーや起業など捉え方の多くが異なります。そのため、シンギュラリティ・ユニバーシティのコンテンツをそのまま持ってきても日本で受け入れられないだろう、というところから我々の活動はスタートしています。

齋藤 日本の産業を支える、次世代のリーダー層にはローカライズされたコンテンツが必要だと考えました。そのため、ジョバンは学術的アプローチから、私はビジネス的アプローチからそれぞれ日本がイノベーションにおいて世界を引っ張る存在になるための方法論をベースに、コンテンツを展開しています。これはエクスポネンシャル・ジャパン独自のプログラムであり、独自のコミュニティ醸成も行っています。先般開催したGIC(グローバル・インパクト・チャレンジ)ソリューション アイデア コンテストもシンギュラリティ・ユニバーシティと日本の起業家・日本企業との接点という意味合いから行っています。

企業はスポンサーシップを通じてシンギュラリティ・ユニバーシティや、その裏側にある世界最高レベルのイノベーターコミュニティとの関係を構築できますし、思いもよらない日本のイノベーターを発掘することができます。我々が独自に築いている国内のイノベーターへのアクセスや、ジョバンが過去10年間のシンギュラリティ・ユニバーシティとの関係の中で築いた人脈もフル活用してもらえます。

ジョバン 思えば4年前、シンギュラリティ・ユニバーシティの名前すら誰も知らない時期に、シンギュラリティとは何かを説明するところから手探りで活動を始めました。その重要さを最初に理解してくれたのがソニー株式会社であり、GICコンテストの3年連続のスポンサーでもあります。

齋藤 ソニー株式会社、エン・ジャパン株式会社、東京海上ホールディングスなどGICチャレンジのスポンサー企業では、内部の人材育成プログラムにシンギュラリティ・ユニバーシティのメソッドを取り入れたプログラムを我々の支援により構築し、社内のイノベーター人材育成が具体的に進んでいます。

今後の目標と展望について、教えてください

ジョバン 我々の目標は、日本をイノベーティブなリーダーと位置づけ、日本から世界人類規模のイノベーションを起こすことにあります。この形は10年単位での取り組みですし、とはいっても毎年同じことはしません。

齋藤 これから、日本にも前例の無い変化の波が容赦なく押し寄せます。しかし、それは『史上かつてないほど大きなチャンス』であるのです。シンギュラリティの本質を知らずしてこの変化に立ち向かうのは、目先のボールだけを追いかける“子供のサッカー“にすぎません。ぜひ、日本の皆さまにもシンギュラリティ・ユニバーシティの取り組みを知り、参画への機会を得ていただきたい。この時代に生きている意味を感じ、一緒に未来を創造する同志を増やしていきたいですね。

エクスポネンシャル・ジャパン

https://www.exj.co.jp/