デジタル社会の進展を支える重要な技術であるAI。多くのベンダー、ユーザー企業が大いに注目し、凄まじいスピードで様々なイノベーションが生まれている。そうした中、いち早く実用的なAIを開発し、数多くの企業に提供してきた実績を持つのがIBMだ。同社が「AI関連ソフト/サービス」部門の最初のNo.1を獲得した背景には、ユーザーからの期待に応え続けてきた技術革新、そして、企業のAI活用をバックアップするためのノウハウと支援体制がある。
対象分野が再編され、新たに設けられた「AI関連ソフト/サービス」部門の最初のNo.1は日本IBMが獲得した。「AIといえばIBM」という広い認知、同社のAI「IBM Watson」のビジネス価値を改めて証明したと言えよう。
「IBMがWatsonを公開したのは2011年。2015年には日本での展開を開始しました」と日本IBMの田中 孝氏が紹介するように、同社は早い段階からWatsonの提供を開始してAI市場の成長を牽引してきた。また、日本でも大企業を中心に高い成果を上げている事例を多数持つ。
この期間、Watsonは大きく変化している。
まず提供形態の変化が挙げられる。当初、Watsonは、IBMのクラウド上での稼働が前提となっていたが、現在は他社のパブリッククラウドサービスやオンプレミスでも利用できる環境を整備している。
これは、IBM自身がハイブリッドクラウド、マルチクラウド環境を重視していることの表れでもある。例えば、同社がRed Hatを買収した大きな目的の1つは、企業向けのKubernetes コンテナプラットフォームである「Red Hat OpenShift」を軸に、ハイブリッドクラウド、マルチクラウド運用の最適化を図ることにある。Watsonも、このような戦略の中で、対応プラットフォームを拡充しているのである。
「実際、日本のお客様の中には、学習に必要なデータを社外に出したくないと考えるケースや、既に利用しているクラウドサービス上でAIを利用したいというご要望を持つケースも少なくありません。現在のWatsonは、このようなニーズにも十分に対応できます」と田中氏は説明する。
また、当初は自然言語処理に特化していたが、徐々に音声や画像にも処理領域を拡大。最近ではカスタムAIモデルの開発・運用のためのプラットフォームも提供することで、より幅広い分野で活用できるようになった。
Watsonに関連する同社の組織も変化した。以前、Watsonを担当するチームは、大きくクラウド担当部門に組み込まれていたが、2019年1月からは「Data and AI」という新たに立ち上げられた部門に属している。
「この部門は、データ管理やアナリティクスを扱う部門でもあります。AIを活用するには学習のための膨大なデータが必要。AIの価値はデータがあってこそです。しかし、データの整備は決して簡単ではなく、AI活用の大きな障壁となっています。従来もAIとデータの担当部門が連携しながらお客様を支援してきましたが、より密接な連携を図るため改組に踏み切りました」(田中氏)
この新体制のもと、同社は「The AI Ladder」というコンセプトを提唱して、AIの全社展開を見据えた道筋を示している(図)。
そのプロセスは、大きく4つのステップで構成されている。具体的には、データを集めてシンプルにアクセスをできるようにする「COLLECT」、データのクレンジング・カタログ化とライフサイクル管理を実現する「ORGANIZE」、AIモデルの構築や洞察の発見、説明性の担保、バイアス排除を行う「ANALYZE」、そして、構築したAIモデルを活用・管理する「INFUSE」である。
これらを段階的かつ着実に前進させながら、データとAIを企業全体で活用・管理しつつ、多様な環境でAIソリューションを構築できる仕組みを目指すのだという。
もちろん、方法論だけでなく、それを支援するために様々なサポートも用意。例えば、顧客と日本IBMのメンバーによるチーム「Center of Competency(CoC)」を顧客企業内に立ち上げ、この組織を核に、AI推進組織を運営しながらスキルトランスファーを実施する。取り組みを進めながら、段階的に顧客側の人員を増やすことで、AI推進組織の定着と継続的な活動の土台づくりを支援している。
「技術の提供はI Tベンダーが行えますが、継続的にデータを学習させ、ビジネスに生かす取り組みは、お客様にしかできません。また、AIは導入して終わりで環境が変われば学習内容は陳腐化し、新たな学習を行う必要があります。まずは、私たちと一緒に取り組みを開始いただき、将来的にはお客様自身がAI活用を推進していけるように支援していきます」と田中氏は話す。
幅広い取り組みを通じて、同社は顧客満足度No.1という結果を達成したわけだが、「今後、ますますAIに関する競争は厳しいものになるでしょう。半年後、1年後も同じ状況だとは全く考えていません」と田中氏は言う。
だが、このような競争があってこそAIの価値はさらに高まり、利用も拡大していくのだとも続ける。
「競争の中で、常に一歩も二歩も先を歩み、この業界をリードしていきたいと考えています。そのためにスピードも強く意識しています。例えば、IBMには、ノーベル賞受賞者も多数輩出している『IBM Research(基礎研究所)』という優れた組織がありますが、基礎研究の成果を素早く市場に投入し、お客様のビジネスに生かせるよう、研究所と製品開発、コンサルタントの連携を意識的に強化しています」(田中氏)
これからの社会を支える技術として、さらに大きな期待が寄せられているAI。Watsonは、間違いなく、その一翼を担っている。同社が、どのような技術や機能を開発し、それを生かして社会にどのような新しい提案をするのか。同社の取り組みは、これからも多くの人々の関心を集めることになるはずだ。