NE先端テクノロジーフォーラム次世代パワー半導体のインパクト〜技術から標準化、応用、市場まで「SiCのいま」〜 レビュー

全体編EV向け市場が立ち上がるSiCデバイス
技術開発の争点は信頼性の向上

SiCデバイスの応用が急激に広がっている。鉄道のモーター駆動用インバーターを皮切りにして、太陽光発電、高速エレベーター、エアコンなど、様々な機器の低消費電力化に活用されるようになった。こうした応用の広がりは、さまざまな特性のSiCデバイスを作り出す技術と、SiCデバイスの長所を引き出す回路設計技術が着実に進歩していることを意味する。2019年7月18日、東京でNE先端テクノロジーフォーラム「次世代パワー半導体のインパクト 〜技術から標準化、応用、市場まで「SiCのいま」〜」が開催された。実用されるデバイスを供給するサプライヤー、応用創出を支援する技術の標準化団体、新たな可能性を秘めた新デバイスの開発者など、それぞれの視座から見える最前線の動きが紹介された。

SiCデバイス応用の本命であり、なおかつ最大市場を生み出すと目される自動車向けの市場がついに立ち上がってきた。米テスラが、同社の電気自動車「Model 3」のメインインバーターにSiC MOSFETを採用し、世界に衝撃が走った。IHSマークイット TMT調査部の杉山和弘氏は、「SiCとGaNを合わせたWBGデバイスの市場は、2018年から2028年に掛けて年率平均23.8%成長していく見込みです。特にSiCモジュールがEVとHEV向けに2025年から急拡大しそうです」という。

自動車業界、SiC採用の本気

トヨタ自動車 EHV電子設計部 第31電子設計室長の伊藤孝浩氏は、「私たちは2030年に市場で販売するクルマの50%を電動化するという目標を掲げていましたが、その実現は約5年早くなりそうです。SiCデバイスは、電動化車両の価値を高める重要な技術であり、パワー・コントロール・ユニットの大きさを将来的には3代目プリウスの1/5(4代目の1/3)まで小型化することを目指して、デバイス開発と活用技術の習得に取り組んでいます」という。

応用分野が拡大するSiCデバイスだが、さらなる応用拡大と市場の成長に向けて、いくつかの課題が残っている。そのひとつが、デバイスの特性や信頼性を評価する基準や方法が、各社統一されていないことだ。SiCなどWBGデバイスは、Siデバイスとは大きく異る特性を持つため、Siデバイス向けの評価手法をそのまま適用できない場合がある。各デバイスメーカーがそれぞれ独自の基準と手法で評価している項目もあるため、応用する企業が各社のデバイスを横並びで評価し、利用法を考えることが難しい状況だ。

そこで、半導体技術協会(JEDEC)は、WBGデバイス固有のメカニズムを考慮した、標準規格を策定する作業を進めている。2017年10月に標準化委員会である「JC-70」が発足し、GaNは「JC-70.1」、SiCは「JC-70.2」と呼ぶ分科会で策定作業が進行中だ。標準化の対象となるのは、信頼性の立証、応用適正の確認手順、試験方法と測定技術、データシートに記述すべき項目、さらには用語や技術の定義、記号など、多岐にわたる。この策定作業に携わるキーサイト・テクノロジー・インターナショナル ソリューションアーキテクト/プロジェクト・マネージャの武田亮氏は、「標準化によって、デバイスメーカー間での仕様の一貫性が高まり、さまざまな分野への応用を容易にし、市場成長を加速させることでしょう」と語っている。

Siより1ケタ高耐圧のIGBT

SiCデバイスの応用を、さらに広げるための基礎技術の開発も進んでいる。国立研究開発法人 産業技術総合研究所 上級主任研究員の米澤喜幸氏は、SiCをベースにした最新の技術開発動向を総覧し、「SiCベースの高耐圧のスーパージャンクション(SJ)MOSFETの実現によってさらなる小型化と高効率化が、IGBTの開発によってSiでは到達できない高耐圧素子が実現しつつあります」とした。そして、新構造のSJ MOSFETによって、オン抵抗を18mΩcm2と従来比の約半分にした結果、IGBT耐圧26.7kVを実現し、PWMインバータ(10kV、10A、100Hz)の損失をSi比で40%に低減した成果を紹介した。これらは、SIP(Strategic Innovation Program)次世代パワーエレクトロニクス「SiC次世代パワーエレクトロニクスの統合的研究開発」の成果である。

SiCの黎明期から指導的な立場にあった京都大学 名誉教授の松波弘之氏は、今後、さらに応用分野を広げていくための課題として、「さらなる信頼性の向上が重要になるでしょう。その実現に向けて、大学の協力の下でSiC-MOS界面で起きている現象の研究を進める必要があります」とした。さらに、SiCデバイスの大量消費に備えて、SiCウエハーの大口径化技術の確立の重要性も強調した。

文中に掲載の社名・部署名・役職はフォーラム開催時の内容です。

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